第229話 カルツァに布を届けに行った時の事
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
会話多めです。
午後になり、カルツァの屋敷前に布と小さなバッグを持って転移する。うん、門番さんお疲れさまです。
「カルツァ様に会いたいんですが……います?」
「ん゛んー。魔王様……口調が」
「あ、やっべ……。聞かなかった事にして下さい。……会いたいんだが、ご在宅か?」
言葉使い合ってる? 問題ない? やっぱりこういう時にボロが出るなぁ。
「訪問理由は?」
「封書が届いた。カルツァ様が領地で生産しているこの布を所望していてな。私自ら届けに来た。急ぎの方がいいだろうからな」
「わかりました。お時間があるか確認してきます」
まぁ、いたらいたでこんな大金はないだろうし、請求書でも書くか。
「お会いになるそうです。どうぞ」
そう言われ門番に案内され、屋敷に入ったら入ったで今度はメイドが対応してくれ、少し遅れてカルツァだけが部屋に入ってきた。旦那はどうした?
「遅れて悪かったわ、少し昼食を食べるのが遅かったのよ」
そう言いソファーに深く腰をかけ、脚をわざとらしく組んだ。男の目線を常に気にしてる動きが染み着いてるなー。
「かまわん。急ぎの方が良いと思ったので、手紙を読んで直ぐに来た」
「口調、いつもの通りで良いわよ。旦那もいないしね」
あぁ、そう言う事……。助かるわー。
「いやー助かります。門でもやらかしましてね」
「けど、使用人がいる前では気をつけるように」
そう言って呼び鈴を鳴らすと、メイドが入ってきてお茶を淹れてくれ、部屋から出ていった。
「で、この服。どうかしら?」
そう言い露出の低いパンツスタイルの服をニコニコとしながら、軽く摘んで評価を聞いてきた。
「珍しく露出の低い服ですね。ですが髪の色に合ってますし、服装に合った髪型。似合ってますよ」
「鈍いわね。ジャイアントモスの布なんだけれど……」
「あー、だから露出が低いんですね。火に巻かれたら大変ですからね。肌が出てるところが火傷になっちゃいますし」
そう言うと、カルツァはジト目で口を横一文字にしてつまらなそうな顔になった。そんな顔もできるんだな。
「貴方、色々と誉め慣れてないでしょう。まだ最初の方がマシだったわ」
「いや、本来マントみたいにして運用すべきだと思ってましたし。服となると厚手の長袖長ズボンみたいな作業着風が無難だと思うんですが、実用性と自分に合うデザインに作れましたね。もしかしてその手袋も?」
「……基本的に見えてる物が違うみたいね。この話題は止めましょう」
「ですね。ってか実用性しか求めてこなかったので、いつもこんな感じなんですけどね。あ、ご注文の品です」
そう言って、隣に置いて置いた物を持って、カルツァの目の前に出してやる。
「あら? 思ってたより安いわね。大金貨が入っても良いかしら?」
カルツァは値札を見てそう呟き、中身を指で擦って確認している。
「偽物ではないと思うんだけれど……。んー」
「職人が領主様直々にお求めになられるのなら、原価でも良いと言ってくれまして」
「ついでに恩も売ってこい。と?」
「えぇ」
俺はものすごい良い笑顔で即答した。
「たぶん売値は把握してると思いますので、儲けは好きに取って下さい。それかそっちでも原価に近い値段で売り、恩を売るか……」
「……考えておくわ。ありがとう」
「いえいえ。あ、そう言えばスラムの治安とかどうなりました? 前に相談してくれましたよね?」
前にちょっとあった時に相談された事だ。気になったのでちょっと聞いてみる。
「問題ないわ。上手くいっている。ただ、そっちみたいに雇用を生み出して、現地のゴロツキも雇用するとは思わなかったわ。とりあえず色々参照して勉強させてもらったわ。税も払ってるみたいだし、私としては問題ないわ」
「なら良かったです。魔王に降臨してもらいたいとか言われるかと思いましたよ」
「手下が上手く溶け込んでるのに、そんな事したら真っ先に貴方と戦って殺される事になるわ。少しは考えなさい」
「用済みだから処理しろ……とか?」
「笑えない冗談ね」
カルツァは睨みながらお茶を飲んでいるが、俺は涼しい顔でお茶を飲む。この女ならやりそうと思ったが、そんな事はなかったみたいだ。
「そうそう。そっちの島の税の事だけれど、きっちりやってはいるんでしょうね? まだ取らないけれど、年越祭後に数字に詳しいのと一緒に視察するから」
涼しい顔でそんなこと言わないでくれ。ってか偉い人用に泊まるところ追加しねぇとやべぇか? 税務署っぽい雰囲気プンプンだから断ろう。
「お偉いさん用の宿泊施設がないのでご遠慮下さい」
「私は別に気にしないわ」
そう言ってカルツァは、ニヤニヤしながらお茶を飲み干した。
「そうっすか……。事前に手紙下さいね。掃除とか色々ありますので」
「そうね。用途不明の書類や、裏帳簿とか隠す時間も必要だものね」
「そんな器用な事できねぇっすよ。できてたらとっくにやってますし、その布の値段だって少し変えてポケットにしまいますよ?」
税務署とかマルサって感じのあれだろうか?
「あら、言うわね。けど前に見た筆跡と全然違うから、貴方が書いた物じゃないとわかるから安心しなさい」
「そうっすか……。ご馳走様でした。後ほど請求書を郵送いたします」
ため息を吐きならお茶を飲み干し席を立つ。お偉いさんと話すのはあんまり好きじゃないな。自分で謀とかできないからな。馬鹿正直に言っちゃうし。
「待ちなさい。そして座りなさい」
カルツァに睨まれ、ソファーを指さしたので仕方なくもう一度腰を下ろす。
「少し待ってなさい」
それだけを言うとカルツァは部屋から出て行き、戻ってきたと思ったら、小さな革袋を俺の前に出してきた。
「これは?」
不思議に思い、間の抜けた声で聞いてしまった。ふむ。何かをもらう様な事はしてないし、一体なんだこれは?
「お金よ。即金で払うわ」
「そうですか。よくありましたね……」
家に大金貨とか置いてあるの? すげぇな貴族様。
俺は革袋を開け中身を確認すると、テーラーさんが書いてくれた金額がピッタリ入っていた。
「ふむ、丁度ですね」
俺はそう言い、バッグから上質な紙とスタンプを出し、領収書を二枚書く。書いたのがそのまま下に写らないからな。
そして蝋を垂らし、ネタで作らせた株式会社アクアマリンのスタンプを押し、一枚は自分に、もう一枚はカルツァに差し出す。
「どうぞ」
「確かに……。これが噂のサインとスタン――」
領収書を渡すとカルツァが驚いた顔になり、俺のサインとスタンプを凝視していたがとりあえず見なかった事にしておく。
「では失礼します」
そして何か言われる前に退散だ。面倒は少ない方がいい。
はぁ、精神的に疲れた……。とりあえずさっさとこの金を銀行に……。いや、とりあえず島に持ち帰って、何かあった時の為に事務所に保管だな。
急な買い物とかあるかもしれん。いや、第四村に教会の誘致が先か? アドレアさんの同僚でも呼んでおいた方がいいのだろうか?
アドレアさんも第二村の神父兼村長の所にたまに行ってるし、問題はないな。今後そういう感じで動こう。最近良い感じで混ざって種族の垣根が低くなっているからな。問題はないだろう。
俺は一回だけ大きくため息を吐き、少しだけ門から離れた場所で転移した。
「戻りました。なんか即金でした。貴族って家に大金貨置いてるんですねー」
俺はお金が入った小さな革袋と領収書を出して、ため息を吐きながら空いていたイスに座る。
「いやー。あの人と話すと疲れますわー。多少は気を使ってきましたけどね。言葉使いはいつも通りでいいとか」
「で、何かお話になったんですか?」
「そうですねー。町のスラムでの治安回復の成功例として、セレナイトを参照にはするみたいですが、どうにかしてくれってならなくて済みました」
ウルレさんがお茶を出してくれたので、とりあえず飲ませてもらう。精神的に疲れてるから砂糖入れちゃえ。
「あ、そうそう。年越祭後に数字に強い人と視察の為に来島するみたいです。別にやましい事はしていないので許可はしましたけど」
「え。平気なんですか?」
「問題はないでしょう。クリーンにやってますし、裏帳簿もないです。堂々としてればいいんですよ。言われた事ははいはい答えて帳簿を出す。問題はないです。あとは島内で嗅ぎまわられたらやばい場所も……ないですし」
「いえ、性格的な物で言ったんですが」
あー。そういう意味で……。
「なんでそこは即答できないんですか?」
ルッシュさんが不思議そうに聞いてきた。だって……。ねぇ?
「火口……姐さん……」
「「あー」」
二人の姐さんに対する認識は大体同じようだ。まぁ、噴火口に行く事はないと思うけどね。視察中に現れたらマジでヤベェな。いきなり頭を吹き飛ばすって事はないだろうと思うけど、カルツァの性格的に何かあったら突っかかりそうだし、姐さんも嬉しそうに喧嘩買いそうだし。
ってか姐さんを無害な女性と見て、貴族として高圧的に接したら酒蔵に逃げよう。全力で!
そして少し遅れたが第四村に転移し、開墾の手伝いをし、夕方に村長に教会の誘致の件を話す事にする。
「おぉ、よろしいのですか?」
「えぇ。ただ、教会を建てる為の予定やデザインはお任せいたします。大工と話し合うか、修道士か修道女を誘致した時にでも、そちらの方とお話しください」
「そうですな」
あ、職人乗せる船って今日が予定日じゃねぇか! 多分もう職人乗せた船出てるよな? コーヒー店に入って転移してもらうか? いやなんかヤバイ噂が流れそう。お金渡して、定期便とかに乗ってもらおう。
「ソウデスネ」
とりあえず硬い笑顔で答えておいた。思い立ったが吉日にはならなかったよ……。
20180107の投稿は気分が乗ったら……




