第222話 高カロリー食品を作った時の事
結膜炎にかかり先週はお休みさせていただきました。
申し訳りませんでした。
翌日、俺はクロスボウのメモを書き写し、ヴァンさんの所に行き本人のメモを渡す。
「ヴァンさん、現場の意見です」
メモを渡すとヴァンさんは目を通し、壁にピンで留めた。
「まっすぐ構えた状態での飛距離が欲しいって書いてあったが、森の中での使用を想定してんだろ? 弓の部分を硬くするしかねぇぞ? どうするよ、機械式になってる所と弦に負荷がかかるぞ?」
「ですね……。少し強い奴を別に作って、望むならそっちを使う感じにしましょう。もう部品はある程度出来上がってるみたいですし」
俺は工房の奥の方を覗き、すべての部品が分けて積んであるのを見てから言う。
「だな。まぁ、弓の部分の部品を作るだけだから直ぐだろ」
「よろしくお願いします。けど、部隊で一人か二人は飛距離が違う奴がいても、相手の不意を付けますので」
俺が悪い笑顔で言うと、ヴァンさんもニヤニヤとし始めた。
「相変わらずひでぇ考え方だ。本来なら統一させるもんだぞ」
「まぁ、本来ならそうなんですけどね。やっぱり部隊で数人は飛距離が違うのはあった方がいいですよ。じゃ、お願いします」
スナイパーライフル的なのが。けど、戦術とか色々大勢で動かすならその方がいいんだろうけど、森林でゲリラ戦やらせるなら小隊単位で動かしたい。理想は……だけど。
さて……。いい感じで屋根の有毒の方の麻も育ってきてるし、収穫した方がいいんだろうか?
俺は事務所の屋根に上り、下の方の葉を見るが特徴的な葉の奥にゴショっと纏まった葉が見える。んーコレが種の部分? 花咲いた? 見逃した?
これは自然に落ちる程度にまで待った方がいいんだろうか? 種っぽい物が見えるけど、収穫した方がいいんだろうか? とりあえずもう少し放置で!
午後に第四村に行き、麻を植えた方に行くが、少し歩いただけでなんか緑色の壁が見える。成長してんなぁ。俺が手を伸ばした時より先端が高い。
「カームさん、どうしたんすか?」
「第一村の方も、麻がいい感じで伸びてきたからちょっと確認です。繊維を取るならこのくらいでもいいんですけどね」
その辺にいた人族に話しかけられ、立ち話をしていると後ろから北川とフォルマさんがやってきた。
「立派になっただろう」
「あぁ、忍者が植えて飛び越えるのに使っていたって話を信じたくなるな。確か春の大会の頃に植えたんだよな」
「あぁ。で、コレどうするんだ?」
「雑に言うと、抜いて根っ子と葉っぱの部分を切り落として、灰を入れたお湯で軽く消毒して一ヶ月乾燥。その後に外側の皮をむいて、よけいな物をそぎ落とすと繊維、そして紡ぐ。残った方は茅葺屋根の材料になる」
「だから屋根変える為に、あの場所の家は金を貯めてたのか。あっちであまり麻を育ててないなら単価は上がるな」
「人件費もな。あと盆に焚いたりするだろう。それに炭にしたり、火力が強いから焚き付けに使える」
「でー。コレってもう収穫できるんですか?」
フォルマさんのつっこみで少しだけ考えて一本だけ引っこ抜いてみる。
なんか根っ子があまり張ってないから簡単に抜けた。
とりあえず腰のナイフを抜いて葉と根の部分を切り落とし、表面の皮をはぐようにむいてみるが、割ける棒状の乳製品みたいにスーっとむけた。縦に軽く切り込みを入れてむけば繊維が取れるだろう。
「収穫できますね……。これ以上放置しても表面の皮が硬くなりますし。種を取るのに残しておいても良いですが、今回は半々にしますか。種も増やしたいですし」
「確か七味のカリカリにもなるんだよな? 榎本さんの所にも持って行くか?」
「そうだな。けど絞れば油も取れるから、ここでも油が作れる。揚げた種をナッツ感覚で何かに使うか? 地味に栄養価が高いぞ。それとも砕いて混ぜて栄養食にしちまうか……。どのみち調味料にするなら、唐辛子とかゴマや海苔が必要だから、加工するのには手間がかかるな。榎本さんも個人消費分じゃねぇか? 勇者連中に麻の実って事で渡して、好きに使わせるのが一番だな。主に七味用になると思うけど」
「どうしてお前は難しく考えてんだよ。気楽に行こうぜ?」
気楽になぁなぁでずっと行ったら、島が破産するわ。
「たまには気楽も良いけど、方針を決める場合は真面目の方がいいだろ。俺だけだったら別に良いんだけどな。ここまで増やしたらなぁなぁはダメだ」
「……だな。申し訳ない。まぁ営業みたいな事もしてるし、通る船数も増えたのは、多少お前の人柄もあるだろうな」
「だと良いんだけどな……」
俺はため息を吐き、切り落とした葉っぱを拾い指で転がす。黄金の国ジパング。麻の栽培が当時は盛んだったし、種を取る為に少し残して、葉っぱは捨てていた。
当時は繊維と、漢方薬として種が少量だけ使われてたし、海外から来た人は捨てられていた葉っぱを見て、黄金に見立ててた可能性があるって何かで見たな。
けど小判とかもあったし、そこら中に金が通貨として使われてたのも事実。まぁ、どっちでも良いか。物の価値は人それぞれだし。ゴミを利用して燃料作ったり、マヨネーズ工場の卵の殻が色々な物に使われてるのも事実。
何か島の産廃を利用した産業も作りてぇなぁ。産廃じゃないけど、化粧品事業はいけそうだよな。カカオバターとかあるし。ポーションじゃないけど、薬用の軟膏も作れる。
ナッツや栄養のある物を油で固めた高カロリーの、登山用の食料ペミカンもいけるか? けど高温多湿で密閉容器がないからなー、当時は皮の袋で数年行けたらしいけど……。
蜂蜜とかチョコレートを使ったカロリーバーやシリアルバーなら行けそうだな。
「おい、なに葉っぱ持ってぼーっとしてんだよ。吸いてぇのか?」
「いや、産廃利用について考えてたが結局カロリーバーに行き着いた。メモに箇条書きするから、少し午後の業務開始は待っててくれ」
俺は北川を見ずに、手を前に出して待っててくれとジェスチャーをして辺りを見回す。
「別にかまわねぇけどよ……」
「本当に変わった人ね。カームさんって」
俺はそんな言葉を無視して、その辺のテーブルを使って、今後の事をメモした。
「で、なんでカロリーバーなんだ?」
「んー? 最初はあまり気味のカカオバターでペミカンを考えたけど、この辺は高温多湿で、元々極地探索や登山用だし、保存容器がないからやばそうだから止めた、船乗りの小腹が空いた用のお菓子感覚で、って感じ。ほら、最寄りの港に行く船だけじゃないし。手荒れや傷用に軟膏もだな。化粧品も考えたが良く知らないから先延ばし」
「変にバカだよな、お前って」
「褒め言葉として受け取っておく。まぁ船乗り用の保存食事業じゃないが、保存用に取ってある乾燥トウモロコシを挽いて粉にして、水で練って焼いた奴。あれがコーンフレークだ、それを雑に砕いて、チョコを絡めて固めれば、もう出来上がり。そこに押し麦とかドライフルーツをつっこめば、コンビニとかでも売ってたアレだ。小腹が空いた時用に島内にも普及させれば問題ない。堅パンや干し肉だけよりはマシになる」
「いや、それ、もうお菓子じゃん」
「……だよな」
俺はため息を吐きつつ、メモをポケットにつっこみ【チェーンソー】を出して、木を切る準備を始めた。
□
ふむ、とりあえず北川にああ言ったけど、今日の仕事が終わってからパーラーさんのキッチンを借りて、作業を開始する。
まずは乾燥したトウモロコシ、これを挽いて粉にして石臼を綺麗に掃除して戻す。使ったら綺麗にしないとマジでやばいことになるからな。コーヒー用のは一回使ったら、それ専用ってなくらいに茶色くなる。
粉に水を入れて練る、それを伸ばして適当にオーブンにどーん。そしてボウルに千切りしたチョコレートを入れ、湯煎して溶かしてから、オーブンからコーンフレーク予定の物を取り出し、あら熱を取って砕く、ついでに見つけたナッツ類を軽くローストしてから布袋に入れて砕く。
それもチョコレートに和えて、適当に伸ばして放置、固まったら包丁で好みの大きさに切って終了。手間らしい手間はトウモロコシを挽くくらいか? 技術的には湯煎する温度だな、テンパリングは神経を使う。
んー。薪がもったいない――
俺は戸棚から蜂蜜を出し、ローストしたナッツ類をもう一度砕き、ゴマや精麦したものを炒ってボウルにぶち込んで、蜂蜜と和えて適当に伸ばして様子を見ながらオーブンで焼く。
「お、もう固まってるな」
オーブンから取り出し、あら熱を取ってこれも好みの大きさに切る。うん、行程的には比較的楽だな。
俺は一つ手に取って食べてみるが、やっぱり作りたては湿気ってなくて美味いな。音もバリバリガリガリ鳴る。あとちょっと焦がし気味でも美味いかもしれない。香ばしさ的に。
あとクッキングシートが欲しい。ものすごく欲しい。本当にあれ便利すぎ!
んー、名前はどうするかな……。トウモロコシのチョコレート和え? 穀物類の蜂蜜和え? 購買意欲が沸かないなぁー。
栄養食1と2。一気にディストピア感が増したな。個人的には好きだけど。
僕満足! ってな量でもないし。商品名考えるのって凄く面倒くさいな。某製菓会社みたいに、カルシウムとビタミンから付けたやつとか。……保留で良いか。
とりあえず茶菓子として、木製のボウルに入れて事務室に置いておこう。
◇
翌日、事務所に行くとキースとルッシュさんが仲良く出社? しており、キースが昨日のチョコバーとシリアルバーをモリモリと食べていた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「おう、おはよう。うめぇなこれ!」
俺は頭を軽く押さえため息を漏らした。お前朝飯しっかり食う派だったよな?
「おい。それ、何でできてるか知ってるか?」
「あ? チョコレートと麦? ザクザクしててうめぇぞ? こっちは何で固めてんだ?」
そう言いながら、また一個口に放り込んでいる。
「トウモロコシの粉と、炒った麦とナッツ類。透明な方は蜂蜜だ。時間がない時に素早く食えて、腹にはあまり溜まらないけど、それで朝食食った時と同じくらいの栄養分。今お前は、朝食を二回食った事になるから、少し多めに動かないと太るぞ」
「本気で言ってんのか?」
キースの表情が硬くなり、今まさに飲み込もうとしていた物をどうしようか悩んでいるようだった。いいから飲み込め。
「船乗り用、島内用に試作品として作った。適当な大きさの物を二個くらい口に放り込めば、とりあえず一日は生きてられる。かさばらないしな」
そう説明すると、キースは口の中の物を無理矢理飲み込んだ。
「仕事行ってくるわ」
そして逃げ出すようにして、事務所から去っていった。
「それ、本当ですか?」
ルッシュさんは、首を傾げてボウルを指している。
「えぇ、油と砂糖の固まりのチョコレート。蜂蜜で固めた麦とナッツ。疲れてるって時に食べれば元気も出ますよ? まぁ少ない量でご飯一回分ですからね、嫌でも元気にもなりますよ。あぁ、俺の子供達にも作り方教えておくか」
蜂蜜だったら町でも売ってるだろうし、麦もナッツも手に入る。あとは宿屋でキッチンを借りれば作れるな。
「おはようございまーす。あ、これカームさんが作ったお菓子ですか? いただきまーす」
少し遅れて来たウルレさんとパーラーさんが、一口で食べられる欠片を摘んで口に放り込んだ。
「んー。カームさんのお菓子はおいしいですねー」
「ですね。大きな街でもこんなの滅多に食べられませんよ」
俺はもう一度同じ説明をする事になるのか……。
「おはようございます」
とりあえず笑顔で挨拶をしておいた。
感想でいただきましたが、第四村の麻は繊維用としてほぼ無毒化されています。




