第221話 人員を募集した時の事
ボードゲームやカードゲームが出てきますが、今まで出さなかっただけで、存在はしていました。
前話でのミエルのセリフを一部変更しました。
あれから十日。昨日は休みだったので、午後は学校から帰ってきてから勉強を教える。
多分学校では教えない戦術関係や、思考力を鍛える為にボードゲームをするようにした。そして夕方に島に転移し子供達を北川に任せ、俺は座って見学をするが、相手になっていない。
リリーは簡単に転がされ、ミエルの魔法はかすりもしない。平地じゃ、まだまだどうにもならないみたいだった。
そんな事を思い出しつつ書類と戦い、区切りが良くなったので一口お茶を飲んで一息入れたら、ドアがノックされた。
「ニルスさんの紹介状を持ってきた商人が、面会を希望しています」
俺はウルレさんから紹介状を預かり、ペーパーナイフで封筒のスタンプの付いている封蝋を剥がし、手紙を読む。一言で言うなら、この手紙を持ってきた商人にも倉庫を建てさせてくれって内容だった。
俺はニルスさんの倉庫を建てた時の書類を持ち、ウルレさんと一緒に応接室に行き話をする。
「紹介状は読ませて頂きました。こちらがニルスさんの倉庫と同じ図面と、費用となっております。倉庫なんですがコレを基準にして、色々と管理しやすい形を取りたいと思っていますので、事前にご了承下さい」
「少し大きい物を建てたい場合はどうすれば?」
商人さんは、既にある程度規模を決めていたのか、大きい物を作りたそうな感じだ。
「そうですね……。横に延ばせば、こちらとしては管理がしやすいですね。奥に延ばすと、裏道がグネグネしてしまいますのでご遠慮下さい。一度村をご覧になりますか? 建物が綺麗に整備され、道が真っ直ぐです。倉庫もそういう風にしたいんですよね」
軽い説明を全てして、ニルスさんの倉庫の横幅を一として、一コンマ五倍と言うことになり、必要木材や、敷地面積の税金も増えた分を上乗せし、扱う物も記入し、着工はなるべく早くと言う事になった。
「こちら、先ほど来た商人さんの倉庫建設の書類です。ニルスさんの時と同じで、ウルレさんに勉強の為にやらせてみて下さい」
「わかりました。では、隣に座って下さい」
ルッシュさんがウルレさんを隣に座らせ、色々と教えようとしていたので、俺も執務室に戻り、書類と格闘することにした。
□
午後になり、第四村の開拓の手伝いに行くが、北川に紙を渡された。
「ラブレターか?」
「ぶっ飛ばすぞ?」
「冗談だよ」
折られた紙を開くと、クロスボウを渡した人からで、使い心地や改良点が書かれた物だった。
「渡す時に一言頼むよ……。じゃなければ、冗談なんか言わなかったのに」
一言だけ愚痴を言い、とりあえず胸ポケットに紙をしまい、開拓する事にした。
「お前の子供達だけどよ、いったいどこまで強くさせるつもりだ?」
チェーンソーで木を切っている時に、根っ子を抜いている北川にそんな事を聞かれた。
「知らん。死なない程度だ。俺は冒険もしたことなければ、強い魔物と戦った事なんか数える程度だ。基準を知らないんだよ」
「ギルドランクで言うなら、簡単に6か7くらいにはなれるぞ?」
「本気で言ってるのか?」
「あぁ。ランク9とか10なんか、滅多に仕事がないから上がらねぇ。どっか放浪してて、すげぇモンスターを狩って、討伐部位を持ち帰ったり、ダンジョンみたいな所の制覇。知名度で上がるかどうかの会議だ。俺だって高ランクの仕事がなかったから6だぞ? 最悪山岳地帯の街の近くに、ドラゴンとか出ないとランクアップなんかしねぇぞ」
北川は抜こうとしていた切り株に座り、一息入れるような雰囲気になった。
「ほー、勇者でも6か。本腰入れないと高ランクにはなれないのか」
俺もいったん手を取め、切り株に座って一息入れる事にした。
「カームはどうなんだよ」
「日雇いの仕事してて3になった。そして、魔物の大量発生で強制的に徴収されて、ハイゴブリンの頭を散弾で吹き飛ばして4になった」
「面白い人生歩んでるな」
「大量発生のハイゴブリンがなければ、3だったんだぜ?」
そう言いながら【散弾】を浮遊させ、木の枝を払うようにして射出し枝を数本落とした。
「現代知識のある、魔族の魔法は本当に便利だな。あんな戦法にもなるわ……」
「召喚は、なにか恩恵が付与されるんだろ? 俺はリンゴを握りつぶせないのに、会田さんだって潰せるんだぜ? 榎本さんだって、歳の割にはやけに元気だし、スキルっぽい物を持ってる。織田さんなんか、元々ヤンキーだか不良やってたっぽいから、度胸だけはあるから、平気でスラムのごろつき? 無法者? をパイプレンチでぶん殴ってたぞ」
「織田さんすげぇな……」
一息入れ終わったので、とりあえず作業を再開した。
夕方になってから故郷に帰り、子供達と地球であった戦争で使われた戦術や、陣形の説明を参考にして、簡単な思考力を使うゲームをする。
「この場合はどうすればいい?」
「ここで部隊を素早く再編成して、右翼側に来る敵を押さえる?」
「部隊の再編成に時間がかかるよ。ここにいる騎兵をぶつけて、後から歩兵が追いつくようにした方が良いよ」
「後方にいる予備兵力の事忘れるなよ。森に伏兵がいるかもしれない事も考慮しろ」
「なら一回下がらせた方が良いのかしら?」
「それなら時間稼ぎしつつ後方部隊と合流かな?」
「後方部隊は小さな投石機を持ってる?」
「持たせても良いぞ。コレは思考力を鍛えるゲームだ」
しばらく遊んだら、今度はボードゲームの相手をする。
「リリーは短絡的だ、リバーシなんだから少し先を読め。さっきの戦術の思考ゲームみたいに少しは考えろ。まださっきの方がマシだったぞ?」
リリーは脊髄反射的な感じで、多く取れる場所に置くことが多い。
「ミエルは相変わらず長考だな。敵は待ってくれないぞ? 今度は穴の開いたボウルを水に浮かべるか?」
ミエルとは少し難しいチェスをするが、先を読みすぎて遅い。勝率は俺より高いけど。
そして最後に、家族全員でカードゲームをするが、ラッテポーカー強すぎ! いつもニコニコしてるから、ポーカーフェイスと変わらないし。
そしてスズランは七並べで、六と八を止めないでくれ……。全員パス三で終わりだよ……。これはただ単に引きが強いのか?
ブラックジャックなんか、性格がモロに出るしな。
リリーは二十一を簡単にオーバーするし、ミエルは十六前後で引くのを止める。けどあり得ないのは、スズランが一と絵札を引き二十一で止め、ラッテが細かい数字を引きまくり、二十前後で止める事だ。
この世界に、運ってステータスがあるかもしれないって事を思い知らされる。
「ふっふっふー。さてカーム君。負けの代償は体で払ってもらおうかなー?」
ゲームを切り上げ寝室に入ると、いきなりラッテが少しいやらしい笑顔で、指をうねうねさせてそんな事を言いだした。
「何も賭けてないよね? 賭事嫌いなんだけど?」
「暗黙の了解って奴ですよー、約束してないけど。ほらほらー、さっさと脱ぎ脱ぎしましょうねー」
ここで大声を出すと子供部屋まで聞こえるので、大声を出すことはしないが、ダメ元でスズランに助けを求める為に目で訴えようと顔を向けるが、スズランが既に甚平の紐を解いていた。
あ、ダメな奴だコレ。かといってこれから先カードゲームやらないって事はできない。俺が強くなるしかないのかッッ!
「カード配るのは上手いんだけどねー」
前世では結構トランプやってたからな。質の悪い紙の奴になれるのは、結構時間かかったけど。
◇
翌日、少し気怠い中目を覚まし、風呂で汗を軽く流してから朝食の用意をする。
「俺はカードゲームでは引きが弱いのか、運が低いのか……」
朝食を作りながら呟き、起きて抱きついてきたラッテの頭を撫で、スズランを起こし、リリーを起こしてもらうのはいつもの事だ。
朝食を済ませ、子供達を見送ってから俺も島に転移をする。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
既に事務所にいた二人に挨拶をして執務室に入るが、書類がトレーに乗っているいつもの物と、机に目立つように二枚置いてあった。
「人員不足による作業の遅れと、倉庫に材料が山積み? さっき言ってくれれば良かったのに。まぁ、言いたい事まとめた文章の方が早いか……」
ふむー。倉庫建設で大工の人手不足。そして倉庫に鴨と鶏の羽毛が山積み。出荷を想定した、羽毛布団用とベスト用に分けてたんだっけ……。テーラーさんが言ってた革職人も欲しいな……。確か空いてる家もある……よな? とりあえず確認だ。
「ウルレさん、島の家屋の書類の綴りから、空き家の情報教えて下さい」
お腹が目立ち始めたルッシュさんに頼むのもなんか気が引けるので、ウルレさんに頼み、応募用の書類を書くことにする。各職人募集、面接あり。大工と革職人大歓迎。面接は、三十日後のギルドにておこないます。一日置きに棒が足されていくので、三十本目の昼前にお集まりください。
「空き家は各村に、最低五軒はあります」
調べ終わったのか、ウルレさんが報告に来てくれ、募集人数がわかった。
「ありがとうございます。空き家の事情で、十人か、十組。十家族……っと」
コレを、各大陸のギルドに張り付ければ、とりあえずいいか。方法は、前回募集した時と同じで……。よし、行くか! 午後一で――
工房はその人に合わせて、色々いじればいいんだし。後だ後!
午後になり、とりあえず各大陸のギルドに行き、職人大募集の紙を張り付け、魔族大陸のセレナイトだけ、オルソさんと酒場にも声をかける。人族の大陸は、コーヒー店にも張っておく。これでとりあえずは、最低二十人は集められる、多ければ面接すればいいんだ。
一通り募集の紙を張ってから第四村に行き、いつも通り開墾作業をする。
「おい、俺が言った戦術とかボードゲームはやらせてるか?」
「あぁ、昨日は先行部隊が、敵本隊に待ち伏せされた場合をやったが、最初は先行部隊だけでどうにかしようってのが凄かったな。後方部隊に連絡取るとか、遅延戦とか後退、味方本隊に投石機があるかもしれない事も言ったさ」
「小隊単位ってか、子供達のパーティーでの戦闘での想定は?」
「まず大隊からやらないと、基礎が身につかないだろう? 基礎が付いてから前衛二人に後衛、遊撃の四人での魔物との遭遇戦だ」
「あー、そうか……」
北川は、気の抜ける声で切り株を抜いており、こちらとしては事故が起きそうで怖いが、切り倒した木の下敷きで死ぬとは思えない。けど俺は安全管理だけはしっかりとしている。
「後は、ボードゲームとカードゲームは性格が出るな」
「そんなもんだろ、お前はどういう手が得意なんだ?」
「引き際を心得て、ローリスクローリターン。俺に似てる息子が、超が付くほどのローリスクの長考型。今度敵も動いてる事を学ばせるつもりだ。持ち時間ありのチェスとかかな」
「だな。リリーは俺の動きに順応してるのか、どんどん動きがよくなってるぞ」
「実戦後に言ってやってくれ。誉めて延びる子だ」
「驕りに繋がるから絶対に言わねぇ。最後に言ってやる」
「教育方針の違いだな。もし俺がお前の子供に稽古付ける時は誉めるぞ?」
「好きにしろ。まずは作らないと話が進まないけどな」
「だなー」
俺は切り倒した木を見て、腰を伸ばしながら緩く返事をしておいた。




