第215話 牛を買った時の事
あれから数日、俺はちょっと雑に牛の購入用の書類案を作る、一応オス一頭にメス十二頭を各村で飼育、それで前の購入予定の五十くらいになる。
それと榎本さんや、牛を飼っていた島民やラッテにも話を聞き、飼料やら柵の準備。雨が降った時の待避小屋みたいな物も作る事にし、各村での準備をしてもらう事にする事にした。
サイロを作っても良いけど、酸欠とか色々怖いし。地下型なんか防水性の高い分厚いコンクリートじゃないと、水溜まるだろうしなぁ。そのままでいいのかな?
長細い奴とか大きなビニール的な物がないし、ロールなんちゃらサイロなんか、丸めるトラクターのジョイントと大きなラップで包む奴が必要だしな。やっぱそのままだな。島だったら冬にだって何かしら、農作物も取れるし牧草になる植物もあるし。
「ルッシュさん、ちょっとコレに目を通してもらってもいいですか?」
ルッシュさんに書類を渡し、見直した牛の購入案を見てもらう。
「問題はありませんが、最近少し散財気味ですので、メスを半分に減らしていただいても良いですか? 一応島民の給与とラクダ用の資金は別に用意してありますが、お金はあって困るものではありませんので」
散財……。確かに外に蒸留施設とか作っちゃったしな。俺の魔法でできる事は多少がんばればできるが、牛やお金はどうにもならない。
「そうですね。できることが多くなりすぎて、少し手を出しすぎましたね。ではメスの数字を六にして、ウルレさんに清書を頼んで、ちょっと榎本さんの所の牛で新しい方の転移魔法陣を試してきます」
「新しいおもちゃを買ってもらった子供みたいですね」
「男はいつまでも子供なんですよ」
とりあえず笑顔で誤魔化しつつ、一応俺自身どの程度運用できるかのテストもする。
第二村に小さい方で転移して、榎本さんを探して訳を話す。
「つまり、事前に試験させろって事か」
「はい、運べないんじゃどうしようもありませんので」
「まずは飛ばなくても良いから、陣を展開させて大きさを見せてみろ。牛が入るか心配だ」
俺は榎本さんの前で、大きい方の転移魔法を発動し大きさを見せる。
「この直径なら問題はねぇな。高さも円柱なんだろ?」
「多分……。でも数人で温泉に飛んでますし、円柱だと」
「多分か……。球状でもほぼ真ん中なら問題ねぇべ。試しにやってみっか」
「ですね」
俺は榎本さんに案内され、名前は忘れたが番の牛の所に行き、一頭だけ陣に入るように転移魔法を発動させ、柵の外に転移した。
「……成功ですかね?」
こんな短い距離の転移は初めてだけど、成功は成功だ。
「だな。んじゃそのまま第一村に転移して戻ってこい」
俺は返事をし、往復も成功させるがクソだるい。どんだけ魔力効率悪いんだよ。かなり増えるって言ってたけど……倍って言うより乗じゃねぇの?
「とりあえず成功って事でいいですかね? ちょっとだるいんで、戻って休みます」
「おう、いつにも増して顔色悪いけど平気かよ」
こんな肌の色なのに、顔色か。よっぽどひどい顔をしてるんだろうな。
「えぇ、そのうち良くなりますよ。戦場でも似たような事ありましたし、座ってればどうにかなります。では、後日予定が取れしだい牧場に一緒に行ってもらって、牛選びお願いします」
「良いから帰って休んでろ、見てられねぇよ!」
「はい、すみません。失礼します」
榎本さんに挨拶し、執務室に戻ってイスに座り机に突っ伏した。
「ちょっと、カームさん大丈夫ですか!」
「平気です、魔力の使いすぎでクソだるいだけなので、そのうち回復します。ちょっと行儀悪いですが、このまま作業しますね」
机に突っ伏したまま報告書を書く。牛の転移に成功、但し普通の転移二回、大きくなった転移三回で魔力の限界、一日に四頭は運べると思うので、柵作りを早めに済ませつつ牧場の下見に行き、早めの繁殖を目的とする。
「カームさん、先ほどの書類の清書です」
「ありがとうございます」
俺は書類を預かり、目を通して問題ない事を確認し、サインを書いて次の仕事に取りかかる。けど、午後の第四村の開拓は休ませてもらおう。クソだるい。
◇
翌日早朝からセレナイトの蒸留所に転移をして、オルソさんの所に顔を出す。
「おはようございます」
「あ、おはようございます。今日はどのようなご用件で」
ふむ。なんか心なしか調度品とか、職員が増えている。蒸留所のおかげだろうか?
「町の近くの牧場を紹介して欲しいんですが、付き合いとか出入りしてる業者って知ってます?」
入り口を入って直ぐの受付の弟さんに聞いてみる。だってオルソさんいないし。
「動物や生物はうちではやっていませんね。ですが、オルソの個人的な知り合いの肉屋だったら、牧場と付き合いがあるかもしれません」
「そうですか、オルソさんは今日はどちらに」
「申し訳ありません。今出ておりまして、近所ですので直に戻ると思うのですが。よければ奥でお待ち下さい」
「ありがとうございます」
奥に通されお茶を飲んで待つが、前に来た時より結構商人の出入りが激しい。ベリル酒が客引きになっているのだろうか?
「なんでお前がいるんだよ」
オルソさんはいやそうな顔になった。俺イコール面倒事が大半って認識なんだろうか?
「牧場を紹介して下さい。弟さんに聞きました、ここに加入はしてないけど、知り合いに肉屋がいると。その人に話を通してくれれば嬉しいんですが」
「……随分唐突だな」
「えぇ、俺の苦労と労力で牛を運ぶ輸送費が必要なくなったので、数日往復すれば、三十頭くらい運べるようになったんですよ。これで島に家畜が増やせます」
「そうか。お前町の外に出た事ねぇのか?」
「必要ないのでほぼ出てませんね。故郷で買ってもいいんですが、多く買うと故郷も困りますし。そもそも故郷の牧場は小規模なんですよ。バターとか乳とか、ほぼ村での必要数取れれば増やしませんし」
「そうか……。なら紹介してやる」
「ありがとうございます」
それからは肉屋に行き、仕入れに行く時に牧場を紹介してもらえることになり、四日後に来いとの事だった。
「紹介していただきありがとうございました」
「あぁ、問題ねぇ。お前の注文にしては面倒じゃないからな。毎回こんなのなら助かるんだけどな」
「ははは、申し訳ありません」
「まぁ、こっちはベリル酒のおかげでいい感じだ。これくらいはしてやらねぇとな」
やっぱり客は増えていたか。後で革職人とか医者とか色々増やす準備を整えてから、また相談しに来よう。
俺は島に戻り、真っ直ぐ榎本さんの所に向かい、四日後に肉屋から来てくれって事を伝えた。
「そうか、んじゃ柵とか作っておかねぇとな。このまま他の村にも言いに行くのか?」
「そうですね、口頭で説明できるくらいには柵とかは指示はできそうですし」
俺はそのまま、時計周りで第四、第三村と周り、柵の作成を頼んで執務に戻った。
◇
四日後、言われた通りに蒸留所に飛び、榎本さんには悪いがロフトから降りてもらい、肉屋に向かった。
「今日はお世話になります」
「おう、オルソの紹介だから気にすんな。後ろに乗ってくれ」
肉屋は、馬車の荷台を親指で指し、俺と榎本さんはそれに従って乗ることにする。
門を出てゆっくりと道を進むが、メインの通りから少しだけ草がはげている小道に入り、小さな丘を越えたら牧場が見えた。
カルツァの屋敷に行く時に見えないはずだわ。
「着いたぜ。ちょっと訳を話してくるから待っててくれ」
「何から何まで申し訳ありません」
「気にするな」
にしても……。トローさんみたいな牛の獣人族が肉屋とは……。結構多いのかな?
「牛が肉買うんか」
「榎本さん、それ、今思いましたけど、口に出さなかった奴です」
「あぁ、すまん。けどよ、種族的にどうなんだ? 同族的な感情とか」
「なんか割り切ってるのが多いみたいですよ、出稼ぎしてた頃の近所の肉屋も、牛の獣人族でしたし」
傷が多くて見た目が怖い人だったけど。
「話付けてきたぞ。向こうに牧場主がいるから直接話してきてくれ。俺はもう帰るぞ」
「ありがとうございました」
肉屋は荷台に必要な牛乳とか卵を積み終えたのか、そういって帰って行った。豚を一頭つないで。
俺は牧場主に訳を話し、前金で牛を買いたい事を告げると笑顔で了承してくれ、榎本さんが牛選びをしてくれた。
「んじゃこいつらを別に分けておいてくれ。こいつが魔法で運ぶ」
「魔法?」
牧場主が不思議そうに聞き返えしてきた。
「転移魔法陣で運びます。船代の経費削減ですね。ですので数往復しなければいけませんし、一日に三回くらいが限度です」
「お、おう。そんな魔法使えるって事は、すげぇ魔法使いなんだなあんちゃん」
「いやいや、器用貧乏なだけですよ。とりあえず今二頭だけ持ち帰り、普段は夕方に来ますね」
「何で夕方なんだ?」
「魔法って使いすぎると気だるくなるので、夕方に無茶するんで。んじゃまた夕方に声かけますね」
「おう、理由はわかった。んじゃ首に藁が巻いてある奴を向こうの柵に寄せておくから」
「おう、んじゃ頼んだぜ」「失礼します」
俺はとりあえず、牛を二頭両脇に来るようにして島に転移した。
「これで各村に牛が七頭増えますね」
「だな。オスも一頭いれば十分だし、子供を産めば牛乳が飲める」
「ミルクとバターが手に入る。お菓子が作れる!」
「まずは種付けして、子供が産まれねぇとな」
「まぁ、楽しみはもう少し先ですね」
俺は夕方になったので牧場に転移し、牧場主に声をかけてから牛を運ぼうとしたが、視界の隅に元気な羊を見かけた。俺はそっちの方を見ると角が生えていた。
「メリノ種? あのちょっといいですか?」
「ん? どうした魔法使いのあんちゃん」
農業用のフォークを持っていた牧場主に声をかけた。
「こいつって、比較的暑くても平気な羊ですか?」
「あぁ、この辺の羊だから暑さにも強いし毛も取れるぜ」
「二頭ほど番で売ってくれませんかね?」
「牛を大量に買ってくれたんだ、おまけだよ。もってけ」
「あざーっす! もしかしたら、この羊も買いに来ますね」
俺は超笑顔でお礼を言い、牛と一緒に第一村に転移した。
「暑さに強い品種かもしれない羊です」
俺は牛と一緒の柵にとりあえず羊を入れ、見学に来たルッシュさんに言った。
「暑い所でも平気な羊ですか、環境に適応って言った方がいいんですかね? ならあの羊は?」
ルッシュさんが指を指している羊は、暑さで相変わらずダレている。
「特に指定しなかったので、普通の羊ですかね?」
岩本君達と一緒に来た羊だし、当時は羊ってなだけで指定し忘れてたからな。やっぱり暑さに弱い品種だったのかもしれない。あのころは必死過ぎてよく考えてなかったなぁ……。
「まぁ、可哀想ですが。毛を短く切って島に住んでてもらいましょうか」
「絞めて食べるとか言わないんですね」
「こっちの都合で買っちゃいましたからね。それに……。子羊じゃないと硬いし癖が強いですよ?」
ラム? マトン? どっちがどっちだか忘れたけど、せっかく情がわいちゃったダレ羊だし、マスコットになってもらうしかないな。




