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第210話 ニルスさんの船が着いた時の事

注意:腰痛が酷く執筆にあまり時間を割けなかったのですが、無理矢理仕上げました。いつも以上に誤字脱字打ち間違いが多いかもしれません。

 翌朝、朝食を作ろうと思ったらミエルが起きてきて、今日の朝食の当番らしいので任せてみることにした。

 料理ができてテーブルに持ってきた時に、前腕にうっすらと筋肉が付いていた。

「もう少し魔力を押さえろ。最初は全開が百だとしたら、二か三くらいが丁度良いぞ。それ以上だと違和感と筋肉痛が残る。使うときだけ十とか二十にあげろ」

 お茶を飲みつつ、キッチンに戻るミエルの背中にそう言うと、短い感謝の言葉が帰ってきた。

 テーブルに朝食が揃う頃。ラッテしか起きてこないので俺はスズランを起こし、ミエルはリリーを起こしに行った。

 リリーは母親の血が濃すぎるな……。


 全員がそろい、朝食を食べ終わらせた後は、俺が洗い物をして、全員を見送ってから島に転移する。

 そしていつも通りに午前中は書類整備をしていたら、パルマさんが珍しく変化し、ニルスさんの倉庫前の桟橋に船が停泊したと言ってきた。

 大量の船とかじゃない限り、報告は遅いみたいだ。まぁ、一隻の商船なら見慣れてるだろうしな。

「思っていたより早いな、あと五日くらい先だと思っていたが……」

「何かあったんですかね?」

「倉庫内の在庫の処理か、移動って所でしょうね。早めに自分の所の倉庫を空けたいみたいですね。大口の取引でも予定してるんですかね?」

 俺は立ち上がり、ルッシュさんにも声をかけてから、一番倉庫まで走り船員達を出迎えた。一応最初だからね。後は勝手にやっててくれって感じだな。

 あー、ビゾンから禁輸品の葉っぱを買ってこよう。ヴォルフ達に臭いを覚えてもらって少し働いてもらおう。

「お疲れ様です、早速搬入のほうに入りますか?」

 俺は桟橋を渡り、船に向かって大声をあげる。

「えぇ、よろしくお願いします」

 船からはニルスさんが現れ、船の側面を開けて板をかけて渡ってきた。あぁ、まだサインしてなかったっけ? 面倒でもあの時に契約しておいた方がよかったか?

「どうしましょう、荷物の移動は職員達でできます? 島の労働力をお貸しします?」

「いや、結構です。島に常駐させる人員を含めて、少し多めに乗っていますからね。まずは契約してしまいましょう」

 そう言われてしまったので、倉庫の中で契約しようと思ったら、島の物も欲しいと言われたので、執務室に向かうことになった。

「それが終わったら、いつも通り湾の方に来てくれ」

「「「うっす!」」」

 統率のとれた返事が聞こえ、ニルスさんがニコニコとしながら俺の隣を歩いている。俺も荷下ろし専用に、島民を当てた方がいいのだろうか? 毎回荷物運んでる人違うしな。船の出入りが増えてきたら、最悪専用に雇おう。

 ってか、フォークリフトとかホイストが欲しい。パレットに荷物を積んでウイーンって感じで。


 執務室に付き、早速サインとスタンプを押してもらい、こんどは商談になる。もちろんコーヒー豆とベリル酒が多めだ。

「噂を聞きましたよ。セレナイトに酒蔵を作って売り出したり、スラムの人達にも雇用を生み出したって。治安も回復傾向にあるらしいじゃないですか」

「えぇ、最初は酒作りだけだったんですが、現地の人を雇用したり、素行の悪い奴を追い払ってるうちにそうなっちゃいまして」

 俺は苦笑いをしながら、頭を掻いて恥ずかしがる。

「空荷よりかはマシですので、ここでお買い物をして魔族大陸の港町に行き買い付けです。そしてここで半分下ろし、コーヒーを買ってコランダムに帰る。何か必要な物はあります? 代行で買ってきますよ?」

「んー……。大丈夫です。丁度買い出しに出ていますので。消耗品も余裕があるうちに買いに行ってますから」

 俺はパーラーさんが持ってきてくれたコーヒーを飲み、やんわりと断った。

「あぁ! 私情なんですが、ガラス製のカップとソーサー、ティーポットがあれば、一セットお願いします。執務室で個人的に使うので」

「はいはい、ガラス製ですね」

 前に欲しがっていた物を思いだし、セレナイトやコランダムにはなかったので、頼んでみる。

「けど、これも結構有名な工房の物ですよ? 五組一式で大銀貨二枚くらいの。透き通るような白磁の……ほら」

 ニルスさんがソーサーの裏側を見て、工房名が入っているのを見ている。

「お客様を目の前に言うのもなんですが、ぶっちゃけコレは来客用ですので。本当に個人的な私物で欲しいんですよ。執務室や故郷の実家のカップなんか、その辺の市で買った大銅貨一枚の無名の物です。まぁ、それもお気に入りなんですけどね。落として割ったらヘコみます」

「あーわかりますわかります、安い高い関係なしのお気に入り。私もこの間、銀の指輪が気がついたらなくなってて……。銀の重さに作った職人の手数料込みで適正価格。けど妙にデザインが気に入って、目を引いて衝動買い、そしてその商人を見かける事は二度となかった。ってオチです。無名の銀貨一枚の装飾品でも、十日ほどヘコみましたね……」

「あーそれわかります――」


 ある程度商談が終わり、雑談をし始め、湾に船が入ってきたので今度はこっちの職員の出番になる。

「んじゃ、積み込みですね」

 ルッシュさんに書いてもらった書類を職員に渡し、船に荷物を運んでいるのを見たので、島に常駐してくれるニルスさんの職員を共同住宅に案内し、ある程度の使い方を教える。

「うっへー、風呂もあるんすか!」

「すげぇや」

 衛生的にしてもらわないと個人的に困るからな。それだけはきっちりと教えておく、そしてニルスさんは、職員を置いて出港していった。

 さて、こっちも動かないとな……。俺はフルールさんに第四村の村長への伝言を頼み、必要経費と言う事で銀貨十枚をルッシュさんから貰い、セレナイトの酒蔵に転移した。

「お疲れ様です。ちょっと通りま――」

 なんでビゾンが働いてんだよ……。一応警備員的な日雇いじゃねぇのかよ……、前に自分でも言ってただろうが……。

「ちょっとビゾン借りますねー」

「おい、ちょっと待て! 何しやがる!」

 俺はビゾンの手を引っ張って出入り口から出る事にした。

「その新人早めに返して下さいよ」

「わかりました」

 俺は倉庫の裏手に来たらビゾンの手を放し、早速本題に入る。

「禁輸品一式を仕事の関係で手に入れたい。少し都合してくれるかどこで手に入るか教えてくれ」

「はぁ? お前がヤんのか?」

「俺に毒関係は効かないから、煙いだけの葉っぱ吸ってもうれしくねぇよ。ちょっと島に入ってる荷物に禁輸品が紛れ込んでないか調べるのに、鼻の良い狼に匂いを覚えさせて検品だよ。いちいち木箱で梱包された物をバールで全部こじ開けるのも面倒だからな」

「……わかった。そっちの都合はまだ良くわからねぇが、俺の名前は出すなよ」

 ビゾンはそれだけを言うと、酒蔵からの詳しい道順を教えてくれ、売ってる奴の特徴も教えてくれた。

「助かる。情報料だ。好きにしてくれ」

 俺は私用の財布から銀貨を一枚取り出して握らせ、仕事に戻らせた。そして、教えてもらった場所まで行き、特徴的な人物を見つけた。

「商品を全て見せてくれ」

「お、新顔だね。これなんかお勧めだよ」

「商品を全部見せてくれ、と言ったはずだが? お勧めなんか聞いていない」

 俺がそう言うと、売人は舌打ちしながら商品を出してきた。

「この中で一番売れてる奴から一つずつ、この予算内で包んでくれ」

 そう言って、全ての商品を一定の重さで包み、金額を提示してきた。結構安いのか?

「変わった買い方で悪かったな。心配しないでくれ、別に誰かに言う訳でもない。これはチップだ」

 そう言って、銀貨で買った時にでた端数を渡しておく。ルッシュさんには足元を見られたといっておこう。

「お疲れ様でーす。ちょっと通りますよー。ついでに報告書ももらっていきますねー」

 酒蔵に戻り、そう言って今までの報告書をもらってからロフトで転移をする。俺がいても邪魔になるだけだからね。


 俺は島に戻り、ルッシュさんに余ったおつりを渡して、冗談で領収書はなかった事を言い、採用教育費名目で書いておいてくださいと言った。

「教育費……ですか」

「えぇ、狼にこいつの匂いを覚えさせ、倉庫内や船の荷物に紛れ込んでないかの訓練ですからね」

「物は言いようですね。紙やインク、道具類にしておきますね」

「ははは、そうですね。大っぴらに禁輸品購入とか書けませんし。まぁ、見せるとしたらカルツァの関係者ですかね? それとも正直に禁輸品各種って書いておきます?」

「まぁ、備考に書いておけば問題ないですし、実際に訓練結果を見せれば問題はないでしょうね」

 森の方に向かってヴォルフを呼び、盛大に撫でてから紙袋に入れた禁輸品各種の匂いをまずは自分が嗅ぐ。刺激臭とかしたらかわいそうだしな。けどそんな事はなく、枯草の匂いやら、少し甘い匂いやら、なにに例えていいのかわからない匂いしかしなかった。

「いいかい、この匂いを覚えてね」

「わふん!」

 そう言うと紙袋に鼻先を突っ込み、匂いを嗅いでいる。

「よーしいい子だ。この匂いだけど、あの倉庫にあるかちょっと確かめてこようか」

「ウォン!」

 そう鳴くと、ヴォルフは俺を置いて走って行ってしまった。

「速いよ!」

 俺は全力で追いかけ、ニルスさんが契約した倉庫に向かった。


「はぁ、はぁ。お疲れ様です……」

 俺は膝に手を置き、肩で息をしながら辛うじてそれだけを言うと、ヴォルフが積んである一番下の木箱をカリカリとやっている。

 すげぇな。俺達の言う事を本当に理解していないとできないわ。これが終わったら、ウサギか鶏でもあげよう。

「あの。カームさんどうしたんですか?」

「いえ、ちょっと野暮用で。申し訳ないんですが、この一番下の木箱を開けさせてもらってもいいですか? ちゃんと元に戻しますので」

「えぇ、それは構いませんが……」

 俺は上の木箱を下し、バールで木箱を無理矢理開けると、雑貨用品が詰まっていた。

「あのどうしたんです?」

「えぇちょっと……」

 心配する職員を無視し、雑貨の間にある、クローバーやもみ殻の緩衝剤の中から、油紙に包まれた袋が出てきた。そしてヴォルフが、その袋に向かって吠えている。

「それ、何ですか?」

 職員が心配そうに聞いてきたので、俺は袋を丁寧に開け、中の葉っぱを取り出す。

「禁輸品の葉っぱです――」

 それだけを言うと、職員は固まってしまった。ってかろくな訓練してないのに、一発で当てちゃったよ。言葉が理解できるってやっぱりすごいな。

「この木箱の入手経路がわかる書類ってあります?」

「少しお待ちください!」

 職員が慌てて、木箱に書いてある番号の書類を持って来た。

「んー結構な経緯を経てニルスさんの所に来てますね。これは回収し忘れか、数打ったかんじですかね? んー投げ売りされてた物を買ったからそんな感じでしょうね。コレ、預かってもいいですか?」

「どうぞ。うちの職員ではないのだけは確かです。信じて下さい」

「えぇ、もちろん。釘のさび具合からして、綺麗に抜いても、同じように打てないでしょうね」

 俺は釘を持って、簡単に半分に折れたのを見せた。

「ここまで腐食してたら……ほら、蓋の釘の方も途中で折れてるのもあります。ですので綺麗な釘を打ち込んだら、他の場所も綺麗じゃないと違和感しかないでしょうね……。まぁ偶然って事で処理してください。ちょっと大工から余った木材と釘をもらってきますね」

 その後は木材をもらってきて、釘で蓋をして、同じ場所の上段に積んでおいた。

「お騒がせしてすみませんでした。職務に戻って下さい。あ、こちらでも報告はしますが、そちらの方でも報告お願いします」

「う、うっす」

 俺は笑顔で倉庫を出て、ヴォルフを撫でながら、ウサギや鶏の小屋の前まで行き、ヴォルフにどっちが食べたい? と聞くと、ウサギの木枠を前足でカリカリとやっているので、ウサギを一羽抱き上げると、ヴォルフが心なしかうずうずしている気がする。

 生きてた方がいいんだろうか? ここで絞めるか?

 とりあえず地面に優しく置いたら、速攻でウサギに襲い掛かり、首に噛みついてブンブンとウサギを振って殺してから、こっちを一回だけ見て森に帰って行った。

「ヴォルフー。今度は仲間も呼んできてくれー。同じ事できる仲間が欲しいんだー」

 特に返事は聞こえなかったが、まぁ聞こえてるだろう。森の奥の方からもやってくるし。


 そして事務所に行き、早速袋をルッシュさんに見せようとしたら、キースが一緒にお茶を飲んでいた。

「よう、村に行かずに何してたんだ?」

「あ? コレだよ」

 そう言って袋を投げて渡し、キースが袋の中を確認したら一気に表情が険しくなった。

「お前。これをどこで手に入れた」

 戦場で聞いた時のある、怒ってる時のキースの声だ。まぁ、別に俺が悪い事をしている訳じゃないからいいんだけどね。

「今日搬入された、人族の倉庫の荷物の中に紛れ込んでいた。入手経路を追えるだけ追ったが、買った時には捨て値で売られていたものを箱で買っただけで、売人が回収し忘れって事になった。蓋を開けた時の釘の腐り具合からして、アレは季節が三回は巡ってるな」

 そう言って、キースが持っていた袋を返してもらい、早速ヴォルフが見つけた事をルッシュさんに報告した。

「確かに私達は多少鼻はいいですが、動物や魔物にはやっぱり勝てませんね。私達も、子供が産まれたら一匹家で飼う?」

「あ? あー俺も子供の頃じーさんの犬と仲が良かったからな。飼ってもいいな」

 夫婦で良い感じになっているが、少しだけ気になった事を聞いてみる。

「故郷のコボルト族が、狼と会話による意思疎通ができてたけど、二人共できます?」

「少しだけ理解できるぜ?」

「私はできますね」

 キースは犬っぽいけど、ルッシュさんは狼っぽいからな、できるんだろうか?

「なんか訛りが酷い共通語風って言ったらいいのか? 頭の良い個体は通じるけど、少し馬鹿だと通じねぇな」

「種族でも感じ方が違うんですかね? 私の場合は魔族語で聞こえますけど?」

 世界なふしぎ発見……。誰かひ〇し君人形作ってくれ……。

「犬とかって、頭いいけどアホの子っていますよね。うれしすぎてとびかかってきたりするけど、言う事はちゃんと聞いたり、猟での追い込みとか上手いのに……」

「あー。じーさんの犬が多分それだ。狩りは物凄く上手いのに、上手くいくと、かまって欲しくてその辺で転がったり、とびかかってきたり……」

「私は興味本位で、裏路地事情を野良犬に聴いてましたね。妙に詳しすぎて怖いくらいでした」

 ルッシュさん……。あんた良い所の商家の三女だろ? なにやってんすか……。

「飼うか」

「飼いましょう。ヴォルフの子供をいただけたらいいんですが」

 そう言いながら、お腹をさすっている姿は、表情がかなり柔らかくなっている。たまに睨んだだけで聞いてない事まで言っちゃいそうな目になるけどな。

 俺の子供じゃないが、二人の子供を見るのが楽しみだ。さて、どっちに似るかな?

なるべく故郷に戻って子供達と一緒にいる時間を増やしているという体ですが、描写されてなかったら、裏でやってると思って下さい。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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