表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王になったら領地が無人島だった  作者: 昼寝する亡霊
無人島開拓三年目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

215/324

第207話 泥まみれになった時の事

 今日は故郷に帰ることにしている日だが、ものすごく億劫だ。この間、ミスリル製の道具を渡してから、成長度合いが以前と比べものにならない。

 あれから数回故郷に帰ってるが、稽古をするのが本当に嫌になる。


 今日のベリルは雨か……。

「ただいま」

「おかえりー」

 朝食の洗い物をしていたラッテが、ニコニコと笑顔で迎えてくれた。

「今日は仕事お休みなんだね」

「うん。牛さんなんか勝手に外に出て、雨に濡れて帰ってきたら妙に綺麗になってるからね、雨の日はお休みくれることが多いんだよ。だから、おばさん達だけで平気みたいなの」

「ほー。なんか雨の日の方が忙しいイメージがあるけど、そうでもないのか」

 ビニールハウスとかで、他の作物とかやってなければ、雨の日でもそうなのかもしれない。

「今お茶入れるから待っててねー」

「ありがとー」

 十日ぶりの軽い会話を終わらせ、スズランにも挨拶をしてからイスに座る。問題はこの後だ。スズランの顔が、いつもよりキリッとしている気がするからだ。

「おかえり、ミエルがヘイルお義父に勝ったわ。まぐれじゃなくて、普通に戦ってよ」

「今、悩みの種が一個増えた……」

 おれは頭に手を置いて、テーブルに肘を付く。

「なんでもカームとの一件で、少し魔法に対して苦手意識ができてるみたいなの。だからじゃないかって、スリートお義母さんが言ってたわ。ミエルとの相性は悪いみたいなの」

「そうか……俺が父さんにトラウマを作ってたか……。悪い事しちゃったな」

 ため息を大きく一回吐き、子供達が強くなっていくのが嬉しい反面、今後の稽古をどうするかが本当に困る。なんか殺るか殺られるかになりそうだ。

「なーにそんなに考えてるの? 悩みがあるなら、ベッドで聞くよー? 今日は雨でやる事がないから、お昼ご飯の用意だけしてベッドにいく?」

 お茶を俺の前に置いて、どうしたの? おっぱい揉む? みたいに言わないで欲しい。

 そしてもう一度ため息を吐いたら、スズランが立ち上がり、俺の後ろに立って脇の下に手を突っ込み、無理矢理立たされ羽交い締めをされた。

「ラッテ、寝室のドア開けて」

「はーい」

「ちょっと!? 朝だよ?」

 別に抵抗する気はあまりないが、こう……スズランにはもう少し手段を増やして欲しい。熱っぽい目でこっちを見ながら、指を絡めて来るとかさ。まぁ、性格的に無理そうだけど。


 ズルズルと引きずられながら寝室に連れて行かれ、俺は悩みを吐き出し、色々ベッドで話し合った結果、覚悟を決めるしかないって諭された。稽古中は親子と思わず敵と思えって。

 ベッド必要ないよね? 慰めるつもりだったのかどうかわからないが、こんな気持ちでも戦闘準備になっちゃう俺も俺だけど……。

 そして俺は包丁を握り、昼の仕込みすらできずにベッドに連れ込まれたので、急いで昼食の用意を済ませる。

「時間がないから適当に作ったよー」

 大皿二つに娼婦風パスタと、ペペロンチーノを置き、サラダになってしまった。肉枠は、トンカツに使うような厚切り肉を塩コショウで焼いて、ある程度の大きさに切って終わりだ。

「各自とって食べてねー」

 手抜きになったが、美味しいので問題ない。問題はこれからだ。

「さて、今日は雨だけどどうする? 一応稽古するかい?」

 個人的にもの凄く嫌だけど、一応聞いてみる。

「お父さんと雨の日の稽古はやったことがないから、一回は経験してみたいわね」

「そうだね、僕も姉さんの意見に賛成かな」

「わかった、準備をするからここでゆっくりしててくれ」

 そう言って、厚手の黒い服に着替えて居間に戻る。

「森に行く前に、風呂にお湯張ってくる。入る順番はリリー、ミエル、俺な」

 俺は風呂桶に少し熱めのお湯を張り、外に出る。

「お父さん、いつもの武器は?」

「ん? 雨だからな。雨の日の森の戦い方って奴をやってやろうと思ってる。だから重い物は持ってきてない」

 正確には目立つ物だけどな。

「重い物って……。父さんは普段からあまり持ってないよね? いったい何をする気?」

「まぁ……色々だ。ミエルもヘイルおじいちゃんに勝ってるからな、こっちも手を抜いてられない状態だ。悪いが覚悟は決めさせてもらったから、それなりの覚悟はしておいてくれ。森に行くぞ」


 森に移動し、いつものようにクイーンビーさんの木に集まり、俺が森の中に先に入る。

 そして全速力で走り、自分の足音が葉に当たった雨音でかき消えるのを確認しつつ、いい感じの水たまりを見つけたらとりあえずそこで寝転がり、手で泥や落ち葉をある程度集めて【泥玉】を作って頭から突っ込み、頭だけ出して目の部分だけどうにか開けられるようにして、全身泥まみれになり、どこかのベトナム帰りのアメリカ人のようになる。

「カーム、怒りの泥まみれ」

 とりあえず、言っておかないとダメな気がした独り言を済ませ、子供達を探す事にする。

 木の陰から陰に素早く移動し、来た道を戻りながら子供達を探す事にする。

 子供達はいつものように二人一組で移動し、警戒をしながら進んでいる。

 時々リリーが振り返り、ミエルの事も気にかけ、俺の足跡をどうにか追っているという感じだ。その時ミエルは前方の警戒を強めている。

 俺はリリーの歩数を数え、大まかに振り返るタイミングを計る。

 その間に、落ちている蔓と小枝を拾ってポケットにしまい、仕掛けるタイミングを根気強く待つが、それは直ぐにやってきた。

「今日も待ち伏せかな?」

「どうかしら。珍しく何も持ってない事を考えれば、それの可能性の方が高いわね。けど、雨の日の戦い方とか言ってたから、何とも言えないわね」

「そうだね。あの父さんだから何してくるかわからないよ。気をつけるに越したことはないね」

「そうね、足跡も珍しく大幅だし、何ともいえないわ」

 振り返った直後を狙わなくても良かった。会話をしてくれてるから、終わったタイミングを待てばいい。

 そして会話が終わったタイミングで、ミエルにゆっくりと近づき、物音を立てずに、【肉体強化】を瞬間的に上げて首を絞め、一切暴れさせる事なくミエルを気絶させ、足跡が残るように引きずって近くの木の近くで座らせた。

 そして手首を後ろで縛り、ずり落ちないように残った蔓で首と木を結ぶ。

 少しぬかるんでいる場所に飛び込み、体をうねらせて泥にもぐり、首を横に向け、片目と片方の鼻の穴だけ出してミエルを見張る。

 

 そして、慌てて戻ってきたリリーがミエルを見つけ、首の蔓を切ることなく辺りを警戒している。

「ミエル、ミエル起きなさい!」

 そういいながら、槍の石突きで頭をコツコツしている。ひでぇな――

 起きる様子もないので、リリーは辺りを警戒しながら太股のナイフを抜いて、一瞬だけミエルの方を見てから、木にナイフを叩きつけるようにして首の蔓を切り、ミエルがドサリと倒れた。

「手首まで縛られてるの!?」

 リリーがしゃがみ、手首の蔓を切ろうとした瞬間、俺は片手で掬った泥をそのままリリーの顔に投げつけ、怯んだ瞬間全力で駆け寄り、闇雲に槍を振っていたので、そのままの勢いでタックルをして押し倒し、小枝を首に押しつける。

「パートナーがこんな状態になってたら、とりあえず罠だと思うから、もう少し落ち着いて周りを観察する事。片目だけ出してたんだぞ? まぁ、俺に背中を見せなかっただけマシだな」

 そう言ってリリーの顔に【水球】を当て、応急処置を済ませ、ミエルの腕の蔓を切って、両足を持ち上げて頭に血を送る。

「んー。どうなったの?」

「私達の負けよ。お父さんの姿を見て」

 ミエルが辺りを見回し、目が合ったので手を軽く上げて自己主張をする。

「泥と小枝で負けたわ。ミエルは首を絞められて気絶。魔法の使用はなし、あそこのぬかるみに寝転がって隠れてたわ」

「悪いな、綺麗な髪の毛を泥だらけにしちゃって」

「……そこまでする!? これ普通の稽古だよね!? 父さん泥だらけじゃん」

 ミエルは俺の姿を見て、あり得ないって感じで声を出した。

「そこまでするんだよ。おまえ達はお爺ちゃん達に一回でも勝ってるんだ、手を抜いたらこっちの身が危ない。できる事は何でもやるぞ? 怪我させられなかっただけありがたく思え。さて、濡れた服が張り付いて重いからな、今日はもうお終いだ。それに手口を知られた。二度目は警戒される、多分今日はもう通用しない」

 そういってぬるま湯の【水球】を出して、頭から飛び込む。

「あ゛~。服の中まで入り込んでるよ。あんまりやりたくないんだよなーこれ」

 愚痴を漏らしつつ、ある程度の泥を落とし、別な場所にもう一個ぬるま湯の【水球】を用意してそっちにも入り、水が少しだけ濁るが、まぁ帰るまでは不快にならないだろう。

「ほらミエル、お前も髪の毛の泥をある程度落としておけ、まぁ俺が汚しちゃったんだけどな」

 そういってぬるま湯の【水球】を浮遊させると、髪を持って水球に入れ、ある程度の泥を落とし、体の前に髪を垂らし、握って水を切っている。

 仕草が、もう髪の長い女性にしか見えない。こんなに長いと本当に手入れが大変そうだ。ってかリリーも似たような目でミエルを見ていた。

 やっぱり長い髪に憧れはあるんだろうか?

「よし。帰るぞ」

 それだけを言い、俺達は家に帰ることにした。


 家に戻り、びしょ濡れのまま男二人は玄関前で待機だ。汚れてるし、風呂に入る前に体を拭いて、新しい服に着替えるのもなんか嫌だし。

「ねえ父さん。もしさ、父さんが本気で僕達と稽古をやったら、僕達はどうなる? 何かできる事はある?」

 横目で見ると、こちらを見ずに屋根から落ちてくる水滴を見ながら言ってきた。何か思うところはあるのだろう。

「そうだな。殺さない事前提なら、面と向かって対峙してる場合だと、例の見えない魔法で二人の肩か腕に穴をあけて終わり。森の中だった場合、さっきみたいに隠れ、一切見られる事もなく二人を同時に気絶させる。もちろん近づかないでな」

「つまり、結局僕達は何もできないんだね――」

「……そうだな、正攻法ならな。奇策だったらわかんないなー。たとえば、ミエルが父さんと同じ見えない魔法が使えるとする。それでも防ぐ手段を知っているこっちの方が有利だ。そうだな……。今度教えてやるが、父さんが及第点だと思ったら少しだけ早く教えてやる」

「先は長そう……」

 珍しく弱気になっちゃったな。ここは親としてフォローしないと駄目だな。

「筋肉ってのは、鍛えれば鍛えるほど強くなるよな? 魔法も同じらしくてな、使えば使うほど気怠くなりにくい。毎日気怠くなるぐらい魔法をその辺に空撃ちするのもいいかもな。父さんは畑耕しだったけど」

 俺は無意味に落ちてくる雨粒を集めるイメージをして、時間が立つごとに大きくなっていく【水球】を作り、ずっと浮かせてみる。

「雨の日でもできる事は沢山あるぞ」

 そして別な場所では、雨が地面に付く前に雹になって落ちるようにする。熱量を奪うようにして、自然に凍らせればいい。

「いいか? 物には全て熱がある。その熱を奪えば何でも凍らせる事も可能だ。お湯だって時間がたてば普通の水になって、冬だったらそのうち氷る」

 そう言って浮かせてある水球の熱を奪い、どんどん氷にしていき、ミエルの濡れている服の袖も摘まんで軽く氷らせる。

「お前は前衛じゃなく後衛だ。リリーにはお爺ちゃん達がいるが、ミエルには師事してくれる人はこの村には少ない。少し遅くなったが、冒険に出る前までに色々教えてやる。今日の事はそれで許してくれ」

「……そうだね」

「父さんは、ずっと村の手伝いで魔法を使ってたから、多分こうなってる。戦い方は自前だけどな」

「あんな事、いつもやってるの?」

「ん? あーそうだなぁ。勇者が島に来て殺されそうになった時は、やっぱり一切見られる事なく、殺さずに四人を無力化した。海賊が来た時は、襲ってくる前に全員一時的に病気にして、簡単に無力化させた。殺さないって事は、実力差がないとできない事だから結構大変なんだよ。最近はお前達に、どうやって怪我させないように勝つか難しくなってるから、本当に苦労してる。なんだかんだで親だからな、お爺ちゃん達みたいに怪我はさせたくはないなー」

 玄関前で男同士の会話をしつつ、リリーが風呂から出るのを待ち、作っちゃった大きな氷の固まりを、どうやって壊すかの話をとりあえずしてみる。

「威力を出すには、重さと早さが必要だ。単純に重くしたければ大きくすればいい。そして、ぶつかる部分を小さくすればいい。平らな石を落とした時と、尖った石を落としたときの差だな」

 そういって、円錐状の石を空中に作り出し、氷の固まりに落とし半分にする。

「物には必ず目って物がある。壊れやすかったり、割れやすかったりするものだ、まぁ物の弱点だな。あの氷は無理矢理割ったから、形が悪いが――」

 俺はもう一度円錐状の小さめの石を作り、割れた片方の氷の方に落とすと、綺麗に半分に割れた。

「こういう風に綺麗に割れる。力で攻めても良いし、弱点を攻めても良い。魔物だったらそのまま無理矢理倒すか、綺麗に心臓や急所を狙うかの違いだな。どうしたいかはミエル次第だ。父さんは弱点を攻めるから、ミエルを狙う事が多い」

 少しだけ口角を上げ、ミエルの方を見る。

「一列で歩いてると、どうしても後ろから狙った方が分離させやすいからな。リリーやミエルは最近後ろにも注意を払うようになったが、今日は会話が終わった直後を狙った。雨が降ってたから走る足音も今日は消せた、ぬかるんでたから体中を泥まみれにして、人の形を認識させないようにした。だからミエルを縛っていた木の近くの泥に潜んでいても、気が付かれなかった。ミエルを助けるって隙を作り出す事にした。今日は俺に有利すぎる状況だったな」

「父さんがどうにかして、僕達との差を広げて怪我をさせないようにしてるかはわかったよ。で、聞きたいんだけど、姉さんが後ろだったら、姉さんを狙うの?」

「もちろん。人の目は後ろに付いてないからな」

 笑顔で、毎回ミエルを狙うのは後ろだからって事を強調し、けしてミエルが弱くないって事を、さりげなく口に出さないが教えておく。

「ミエルー、お風呂出たわよー」

 適当に話し込んでいたら、リリーが風呂から出たらしく、ミエルが軽く返事をして家の中に入っていった。


 そしてついに俺の番になったので、さっさと服を脱いで桶で掛け湯をした。

「うふぇひゃ!」

 冷たすぎて変な声が出たわ……。

 ちくしょーミエルの奴め、風呂場で熱を奪う練習するなよ。ってか地味な嫌がらせだなー……。ささやかな抵抗か?

 俺は風呂の水を全て抜き、もう一度栓をしてから、ちょうど良い湯で湯船を満たし、ゆっくりと暖まった。

 そして風呂から出て、変な声は何だったのかをラッテに聞かれたので、笑顔のミエルを見つつ、こっちも笑顔でごまかしておいた。

 あー、俺は隙を作られたんだな――


 そして、洗濯物がもの凄く泥だらけだったから、めちゃくちゃラッテに怒られた。

 風呂場ですすぎ洗いしておけばよかったな……

愛用の腕時計の電池が切れて半年以上経つので、新しい腕時計を買った勢いで書いた。

時計の名前? マッドマスター です。前の時計?ルミノックスです。電池交換には本国に送り返さないとダメみたいなんですよね。

ソーラー充電システムなので、長持ちします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ