第203話 スコップを造ってもらった時の事
翌日に、ウルレさんを連れて島内の挨拶をすませるが、カームさんみたいに、仕事が嫌になって逃げ出したりしないようにがんばって下さい、とか。
誠実そうな男性だ、カームさんは働き過ぎなので、適度に手を抜きつつがんばりなさい、とか。
おー、なんか堅そうだな。カームみたいに適度に手を抜けよ、とか。
こいつは、全部行き当たりばったりで、なぁなぁでやってるから参考にならねぇと思うが、基礎がある程度しっかりしてればできるからであって、必要な時にしッかりやるくらいでいいんだよ、だの。
色々と俺を引き合いに出したコメントを、どうもありがとうございます!
ってな訳で、苦笑いをしてるウルレさんの教育をしつつ、簡単な書類を少しルッシュさんに回してもらうようにして、アクアマリン式に慣れさせる、扱ってる物が鉱物類じゃないから、最初は苦労してたが最近は慣れてきたみたいだ。
そして二十日後、セレナイトの蒸留施設が完成しそうなので、現地のスラムで作業員を雇用し、早速倉庫に納品された麦を使って、麦をアルコール化させる為に、アクアマリンからも指導員として一人連れて行き、樽の製造は面倒なので外注生産にした。
少しくらいセレナイトにもお金を落とさないとね。
そして蒸留施設が完成したので、また宴会を開くことになった。もちろん姐さんにも声をかけたさ……。じゃないと姐さんの殺気を諸に受けるし、逆に高くつく。
そして、セレナイト側の関係者を呼び、酒場のマスターや厨房の人員を借り、近所の定食屋にも声をかけて、盛大に完成披露宴をした。
蒸留器に酒を入れ、暖めて蒸留酒が出てきたところで喚声があがり、島から持ってきた酒樽を解放する。もちろん俺の挨拶は却下されたというか、すっ飛ばされた。
物好きは出来たてを掬って飲んでいたが、レモンとか果汁系を入れて飲まないと不味いと思う。
まぁ、ヴァンさんと姐さんなんだけど。
ってか倉庫に入りきらないで、道にもカップを持参した人があふれている。タダ酒は美味いもんな。しかも昼間からだし。
「カームさん、いいんですか? こんなに関係ない人にも振る舞っちゃって」
「まぁ、多少の損はするけど、こう言うのは近隣住民や町全体の理解度と知名度も考えればやっておいた方がいいね。これも一応宣伝だから、長い目で見ればじきに儲けが出るから……多分」
「多分って……」
「いやね……、あそこにいる、前に話したピンク色の髪の女性がね……。見ての通り浴びるように飲んでるからね」
姐さんは、わんこそばみたいに、ちょろちょろ出てきている、蒸留したての酒をカップに貯めては飲んでを繰り返している。
「あの女性はいったい……」
「アレは……竜族だから……」
「あー……ドワーフよりのんべぇの種族でしたね。島にいたんですね」
「うん……いたんだ。かなりま――」
「あれれー、女性にアレ扱いはちょっと酷いんじゃない? カームちゃん」
姐さんはいきなり後ろから現れ、肩を組むようにして俺の首に腕を回し、グググと力を入れてきた。頬が柔らかい胸に当たるが、そんな事一切気にしてられない。
「ひゅっみまふぇんれしら!」
俺は腕を叩きながら、謝罪した。タップの意味を知ってるかわからないが……。あ、気持ちよくなってきた――
「はっ!? 俺はどのくらい気絶してた?」
「少しだけよー。抵抗がなくなって、腕がだらんとしたから急いで止めたわ。まさかこのくらいで気絶とか、カームちゃん弱すぎ」
「いや、あの。すみませんでした」
俺はもう一度ちゃんと謝罪をした。
「女性をアレ扱いは駄目よ? 気を付けてね?」
「はい、次からは気を付けます」
俺が謝罪を済ませると、また蒸留したての酒を飲みに戻っていった。
「意味がわかっただろ……。姐さんは強い。拳を突き出すと海が割れる。これ以上聞くなよ」
「わかりました」
俺は首を押さえ、さり気なく回復魔法を使い、寝違えた感じになってる筋と筋肉を回復させた。痛かった……。
大規模な披露宴を終わらせたが、どこからか噂を聞きつけた町長と名乗る人物や、オルソさんの所に所属していない商人が挨拶しに来たりで、色々と大変だった。
「俺……ココの町長初めて見たわ」
「えぇ! この町で色々やってたのにですか?」
「だって、町長必要なかったし。治安回復も、たまたまだし」
町長は、スラムの治安回復や、雇用問題で色々笑顔で挨拶してきたが、本来はお前の仕事だぞ?
「目の付け所が違うから、治安が回復しちゃったんじゃないんですか? スラムのゴロツキを島に呼んだり、現地で雇用したりって、普通しませんよ?」
「まぁ、更生に丁度いいんじゃない? スラムの環境も良くなってる気がするし」
「あ、カームさん。この度はおめでとうございます。これを気に、スラム化した下級区も改善に向かうように、こちらでも努力します」
「よろしくお願いします。そうすれば、この蒸留所も安全です」
誰だっけ……。あー、ちーちゃんだ。あれから会ってないから忘れてた。
◇
翌日、朝一でセレナイトの蒸留所に行くが、アクアマリンの職人が、朝の挨拶をして、業務を始めていたので大丈夫だと思う。後でフルールさんの鉢植えでも持ってくるか。
島に戻った俺は、ミスリル製の剣を三本とスコップを持って、ヴァンさんに会いに鍛冶工房に向かった。
「戻ってきて早々で悪いんですが、この剣をこのスコップと同じに作って下さい」
「はぁ!? 何言ってんだお前」
ヴァンさんに呆れられた顔になり、娘に大切にしてたスコップを折られ、実は似たようなスコップを買ってきた事を伝えた。
「なんだ……お前の娘は噂には聞いてたが、馬鹿力なんだな」
「母親の血が強いですからね。攻撃が重すぎて、稽古をする度に泣きそうになります。もし防御できなかったらって考えると、吹き飛んで骨が折れますからね……。見て下さい。もう三本目も少し柄の部分がへこんでたり、歪んでたりしてるんですよ」
三本目が、愛着が沸く前に折れそう。ってか旅立つ来年の春まで持たない。
「ふむ。こいつはカームにとって死活問題だな。……ミスリルは軽いから、柄の部分は空洞じゃなく、ただの棒状にして、後は普通に作ればいいか? もちろん見た目は鉄に偽装して」
ヴァンさんは俺のスコップを受け取り、軽く振ったり触ったりして、そんな提案をしてきた。
「そうですね、鉄のスコップより重くなければ問題ないです。あとは重心の位置とかも似せてくれれば、多少は無視して、体に覚え込ませます」
そう言って、剣を三本渡して執務室に戻った。
そしてウルレさんは、資料を見ながら、ルッシュさんの持ってきた書類と戦っていた。さて、俺もやるか……。
「カーム、今すぐ工房にきやがれ!」
そして書類と戦う事数時間。ヴァンさんが俺の背後の窓から、死にそうな顔で俺を呼びつけた。
「わかりました。ちょっと席を外します」
そういって、大急ぎでヴァンさんの所まで走った。
「どうしました?」
「こいつを見ろ」
そう言って、なんか鈍く金色に輝く、一メートルくらいある細い棒を突き出してきた。太さは人差し指くらいか
「なんですそれ? 真鍮ですか?」
「オリハルコンだよバカ野郎! 一本の剣に芯として入ってやがった! これのおかげで、ミスリルがどうにかなっても、剣が折れたり切られたりする事はないようになってやがる。どこで手に入れた!」
俺は無言で山を指さした。
「あぁすまねぇ。そうだったな――」
「それ、どうしましょうか。スコップの刃の部分に埋め込めます?」
「どうにもならねぇな。しかもここの設備じゃ加工も出来ねぇ。作っても、この長さの柄のスコップになるな。周りにミスリルを巻くしかねぇ」
「んじゃ返してきます。これが原因で戦争になったら、笑えないですし」
そう言ってヴァンさんからオリハルコンを預かったが、もの凄く軽い。表現方法は悪いが、なんかアルミっぽい。けど凄く堅い。
振って、まだ加工していないミスリルソードに叩きつけるが、刃の部分が少しへこんだ。
「おー、軽いのに堅い。何これおもしろい。加工するのにはどうすればいいんですか?」
「魔力炉が必要だ。簡単に言うと、高温の炎をずっと出し続けるんだよ。無理だろ?」
「ほへー」
俺はガスバーナーをイメージして、指先から薄い黄色の火を出し先端を炙ってみるが、特に変化はない。
「マグマや、その炉より熱い火でも駄目ですね。ちょっと山に行って返してきます」
「待て待て待て、色も変わらねぇし、溶けねぇだけで叩けばどうにかなるから!」
「そうだぞ! ちょっと貸せ、そして炙ってろ!」
「いやいや、どうにかなっても俺には必要ないですから」
ピエトロさんとヴァンさんが、なんか必死になってるけど、本当に必要ないんだけどな……。
「この柄の長さにぶった切るから、この辺を炙れ」
ヴァンさんが金床にオリハルコンを乗せ、砕いた木炭を乗せた。
「んー……わかりました。とりあえずオリハルコンの事は秘密で」
そう言って、俺は指先から薄い黄色の火を出して、同じ場所を炙り続け、金床の一部が熱で真っ白になった頃に、ピエトロさんが鈍角なノミっぽい物を当てて、ヴァンさんがスレッジハンマーのような大きなハンマーで思い切り叩くと、オリハルコンが潰れた。
そして九十度回転させて、もう一度叩き、ハサミみたいなものでつかんで、グニグニと金属疲労で折るようにして力業で折っていた。
色が変わらないだけで、柔らかくなるんだな……。まぁ溶けないけど。確か金は千度でプラチナとかは千八百度で溶けるんだっけ? 柔らかくするなら、この程度でも平気って奴か。
「んじゃ芯棒ができたので、残りはどうしましょうか……」
二十センチメートルくらい残ってるし……。
「先をどうにかして羽ペンに付けるペン先がいいかな? けど硬いと書きつらいしなぁ……。何かに使えます?」
「「俺にくれ!」」
俺は二人の剣幕に負けて、残りのオリハルコンを譲ってしまった。まぁ職人気質だし、二人とも喋らないだろう。
「おい、良いから真ん中をさっきみたいに炙れ!」
「さっさとしろ!」
えぇ……。そんなに欲しいの? 考えてる間の三十秒くらい待ってくれよ……。
俺はオリハルコンを炙って、さらに半分に折ったところを見てから、執務室に戻った。
けど無骨な顔をした二人が破顔してたし、名工の鎧より、あんな小さなオリハルコンの方が良いんだろうな。俺は、人を殺すのに武器の性能は関係ない、要はその武器をどう使うか。って考えだから、あんまり良い武器はいらないんだけどね……。
まぁ、筋肉魔王とか見てると多少は良い物を使いたくなるけどね。あの筋肉は、ナマクラじゃ多分切れないわ……。
「ヴァンさんはどうしたんですか? もの凄い顔でしたけど」
「んー、鍛冶に関わるものとして、持ってる事自体がステータスって感じの物がその辺に落ちてたって感じですかねぇ」
「もしかしてミスリルですか!?」
あー、そうだった。鉱石関係の商家だったわ……。
「そうですね、ミスリルです」
俺は適当に誤魔化しておいた。
「鉱脈でも見つかったんですか!?」
ウルレさんはイスを倒すような勢いで立ち上がった。
あぁ……食いつかれた……。
「いやいや、俺が金属をとあるツテで手に入れて、これをスコップにしてくれって言って渡して、その袋を開けたらミスリルだったって感じです」
「え……スコップ?」
そんな事を言ったら、ウルレさんは質の悪い冗談を聞いたような顔になり、かなり引いていた。
「ははは、酷いなぁ。たまに持ってるスコップって、俺の道具兼武器だよ? この間折れちゃってね、ミスリルにする事に決めたんだ」
「うわぁ……」
今度は、汚物を見るような目で見られてしまった。
「酷いなぁ。結構便利なんだよ?」
その一言だけを言って、業務に戻った。
夕方になり、第四村から戻った俺は、ウルレさんにスコップを渡された。
「ヴァンさんが渡してくれって言ってましたよ」
「どうもありがとうございます」
俺はスコップを受け取り、軽く振ってみた。
「やっぱ軽いなぁ、ちょっと外に行こう」
「あの、ちょっと……。そのミスリルって鉄っぽいんですけど、なんでです?」
「ミスリルを持ってたら襲われるかもしれないから?」
「いや、なんでそうなってるんです?」
俺は、なんでミスリルをこういう風にしたかの経緯を話した。
「魔王なのに小心者なんですか?」
「えぇ! 敵はすくない方が素晴らしい!」
俺はもの凄い笑顔で返事をし、外に出た。
そして手頃な倒木の所まで歩き、三十メートルくらいの所から思い切りスコップを投げて、土に刺した時のように根本まで刺さった。
そしてスコップをグリグリとやって、無理矢理抜いて、今度は思い切り切りかかったら、三分の二くらいまで突き刺さった。
「うん、いいね。さすがヴァンさんだ。これなら楽に丸太が切れるな」
「なんで執務室にスコップを持ってきてるのかわかりました、立派な武器ですね」
「だろ!」
俺はいい笑顔で返事をした。
「けど、普通の鉄に偽装したスコップを持った人を、襲う人なんているんですかね?」
「いないで欲しいね。この為に鉄に偽装したんだから」
柄の部分にオリハルコン入ってるけどね。
んー名前はどうするかな……この威力だとミンチメーカーでもいいけど、女の子の名前の方が愛着が湧くよね……。
よし、今日から君はアンナだ。よろしくな! けど表向きはミンチメーカーで通そう。恥ずかしいし。嫁とか娘にばれたら冷めた目で見られる……。
わかる人ならわかる、ミンチメーカーとアンナ、一本目と二本目もわかる人ならわかる。




