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第202話 比較対象に使われた時の事

 翌日には昨日言った通り、ウルレさんを挨拶に連れて行くことにした。まずはオルソさんの所かな……。

「んじゃ、適当に懇意にしている人達の所を回るから、緊張しないで普通にしてて良いですよ」

「わかりました!」

 元気がいいなぁ。俺へのイメージのギャップが酷すぎて、落胆しなければいいんだけど……。

 取り合えず最初はセレナイトの蒸留施設に飛び、ロフトから階段を下りた。

「お疲れさまです、ちょっと通らせてもらいますよ」

「おうどうした。こんな中途半端な時間に珍しいじゃないか」

「ちょっと島に新人が増えましてね。ルッシュさんのような商家の生まれで、色々と詳しいのである程度俺の仕事を覚えてもらうのに、挨拶回り中ってところです」

「よろしくお願いします!」

 ウルレさんは元気に挨拶をしている。初々しいなぁ。

「元気じゃねぇか。こいつみたいに適度に手を抜く事を見て覚えろよ? じゃないと体をぶっ壊すぞ? それとそろそろ完成するから、完成式典を楽しみにしてるぜ?」

 ヴァンさんは、ニヤニヤしながらウルレさんに速攻で手の抜き方を教えている。最初くらいは真面目にさせたいんだけどな……。

「なら小麦の入荷もしておかないと不味いですね。オルソさんの所に行くので、注文しておきます」

「おうよ、頼んだぜ」

 軽く挨拶をし、オルソさんの商店に向かうが、ウルレさんは細かくメモを取っている。入社したての新人みたいだ。懐かしいなぁ。

「こんにちはーっす、オルソさんいますか?」

「げ。お前かよ。また面倒な仕事か?」

 開口一番で、オルソさんはそんな事を言ってきた。まぁ、結構面倒な仕事を頼んでるから仕方ないけど、そろそろ馴れて欲しい。

「いやいや、ちょっと新人が増えましてね。挨拶回りのつもりだったんですが、やっぱり注文も必要になりました。そしてこの方は、この町の零細商店をまとめてくれている、オルソさんです」

「ウルレです。よろしくお願いします」

「おう。オルソだ、よろしくな。この馬鹿みたいにならねぇように普通になってくれよ。で、注文は何だ」

「露骨に態度を変えないで下さいよ。それでですね、今作ってる蒸留施設の完成が近いので小麦を買いたいんですが、数軒扱ってる店があれば、そちらで指名して下さい」

「あいよ」

 オルソさんは名簿を取り出し、小麦を扱っている店を数軒選び、スラムに一番近く、搬入が楽そうな場所に決めてくれた。

 次に蒸留施設の図面を出し、一日の生産見込み量の欄を見て、一日に必要な麦の量を計算し、とりあえず三十日分を注文して麦の減り具合を見つつ、十日ごとに減った分を購入する事を決めた。

「多分わかると思うけど、コレが一日のお酒の生産見込みと使用する職人達の一日の給与予定。使用する麦の量と値段はコレだね。そしてこれが卸値を予定してる。とりあえず三十日で計算をして損にはなってない事はわかるけど、島に仕入れに来る船の人達の話で、麦の価格を聞きつつ、急に高騰した場合とかは一時的に取引を中止して、様子を見ないと損をするから、そう言うのには気を配ってね」

 俺は一応書類を指を指しながら、わかってるとは思うけど説明をした。

「わかりました」

「んじゃ麦は、準備が出来次第に倉庫脇の改築した家に入れるように言って下さい。酒ができあがったら、もう一度話し合いに来ますね」

 俺は料金を前払いで支払い、軽く挨拶をしてからコランダムへ飛ぶ準備をする。

「人族に偏見はあるかい? 今から人族側の港町に行くんだけれど」

 一応聞いておかないとな。嫌いだったら困るし。

「もちろん平気です。何回か父の商会でお話ししたことがあります」

 商人はたくましいなぁ。商人は商人って種族だと思えてくるな。

「なら、ここから飛ばせてもらおうか。んじゃコレで失礼しますね」

 俺達は、店の隅で転移をさせてもらった。


「こんにちは、とりあえずコーヒーセット二つお願いします」

 コーヒー屋の奥の部屋から出て、カウンターにいるマスターに言ってから、何気ない顔でテーブル席に座った。

「軽く休憩を入れようか。別にさぼりじゃないよ? 朝食と昼食、それと仕事が終わる間に、島では休憩を挟む決まりになってるんだ。ほらさっそく来たよ。コーヒーは飲んだ事あるかい?」

「いえ。噂には聞いてましたが、まだ飲んだことはありません」

「そうか。なら最初は戸惑うかもしれないけど、何も入れずに飲んでみて」

 ウルレさんは、運ばれてきたコーヒーを口に運び一口啜った。

「苦い……」

「ははは、そのために砂糖とこの牛の乳や白いの(とうにゅう)がある。俺は甘党だから多めに砂糖を入れるし、この白いのも全部入れる」

 俺は砂糖をスプーンで三杯、豆乳を全部入れた。

「で、ここがコーヒーを広めた店ね。まずは物を宣伝しないと売れないから、こうして店を出したんだよ。だからここは、ある意味重要な拠点だと思って良い。お茶請けとしてチョコレートもここから広めた。ココアもね。だからなにか新しい物ができたら、それを宣伝するお金を惜しんじゃ駄目だね」

 笑顔でコーヒーを啜りつつ、島にいる勇者の一人がコーヒーが大好きすぎて、豆を煎ってくれてる事を教え、一息付けた。

「鉱山を持ってて、鉄関係が強いってクラヴァッテ……様が言ってたけど、何かこういう販売戦略や人目を引くような事を何かやってたの?」

「そうですね……、純度が高くドワーフに誉められたって事を大々的に謳ってましたね」

「何か実演とかは?」

 鉄って、どうやって実演するんだろうか? 包丁だったら、トマトを持たないで、まな板に置いたまま横に薄くスライスできるとか、テレビで見た事があるけど。

「剣とかを飾ってましたね、それくらいでしょうか?」

「そうか……、この町の商人さんの所に行く時に、おもしろい物がみれると思うから、楽しみにしておいて」

 俺は笑顔で言い、少しだけ残っていたコーヒーを飲み干し外に出た。

「あそこに、板を首から下げて何か売り文句と、店の名前を言ってるでしょ? アレを最初に始めたのは俺なんだ。売れないと厳しいから、必死だったねー。板をぶら下げながら、町の外で剣とか振ってれば宣伝になるかな……。それとも鉄で作って盾に使う……まぁ俺が考えるもんじゃないな。島でまだ鉱脈とか見つかってないし」

 複雑な顔で、サンドイッチマンを見てるウルレさんを横目で見ながら、ニルスさんのお店に向かった。


「お疲れさまです。約束通りニルスさんに会いに来ました」

 とりあえず昨日の夕方に、マスターに連絡は付けてもらったからな。

「カームさんじゃねぇっすか。倉庫でも完成しましたか?」

「いやいや、今日は挨拶に回ってるだけですよ。うちに入った新人ですよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「おー。カームさんと違って真面目そうだ。見かける事は少ないと思うけどよろしくな」

 なんで皆は俺基準で言うんだ? そんなに商才がなさそうに見えるの? まぁ、にじみ出てるオーラが違うか……。

 俺はノックし、返事を待ってからニルスさんの執務室に入った。

「お久しぶりです。おや、そちらの方は?」

 入室して、挨拶する間もなくつっこまれた。そして島に来た経緯を話し、船で買い付けにいく場合や、島での対応が増えるかもしれない事を伝えた。

「どおりで……。カームさんにはない雰囲気があるはずだ。これからよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします!」

 もう何も言えねぇ……。商人のオーラ的な物とか出てんの? 商人にはオーラが数字で見えてんの? あーもう。どうせ今までなあなあで誤魔化してましたよ!

「で、倉庫の件ですが、どのくらいでき上がっているんでしょうか?」

「そうですね……工程表通りと言っていたので、今は屋根を張るのに足場を組んでいるところですね」

 倉庫の建設予定表を出し、トントンと指で叩き、ちょうど三分の二くらいまで進んでいる事を教えた。

「うわ、細かい。倉庫なのに、こんなに細かい絵図面や、きっちり予定を組んでるのを見たのは初めてです」

「はは、そうだね。私も始めてみた時は驚いたよ」

「優秀な技術者が島にいますからね、建築や図面はそっちに任せっきりです」

 実際に織田さんがいなかったら、何となくでドビャーってな感じだったと思う。本当に感謝だ。

「では、そろそろ帰らせていただきますね。何も買わずに申し訳ありませんでした」

「いえいえ、とんでもありません。ではウルレさん、今後もよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします!」

 そうして二人は握手をしている。んーなんか雰囲気がそれっぽいなぁ。所詮俺は商人っぽい事してただけだからな。

 俺も一言ニルスさんに挨拶をし、執務室の角を使わせてもらって、自分の執務室に転移した。


「さて、ある程度挨拶も済んだし、島内の挨拶は追々やっていこうか」

「わかりました!」

「本当は個人的に取引してる所もあるけど、酒場だったり、ここを領地として持ってる貴族だったりするから、それはまた今度で。あー忘れてた。髪がピンク色で、胸の大きな女性を見かける事がたまに島内であるけど、よほどの事がない限り、必要以上に近づかないほうが良いから」

「あの、どういう理由でですか?」

「会えばわかるよ」

 俺は超笑顔でそれ以上聞くなって雰囲気で、ウルレさんの肩を叩いた。

「おいカーム、畑作ってる所でちょっと大きな石が出たんだけどよ、どうにかしてくれ。作業がはかどらねぇんだ。昼飯前までにどけてくれ」

「あいよー。今行くから待っててくれ」

 キースが、代表で俺に雑務を言いつけに来た。

「そんな事もするんですか!?」

「んー? 基本なんでもやるよ? 何でもやりすぎて、ちょっとおかしいとか言われてるけど、毎回どうにかしちゃってるから仕方がないんだな。昨日は君が来るまでは、お昼前は書類の作成と確認。お昼過ぎは、最近作った第四村の開拓。今日は挨拶周りだったから、この書類は夜寝る前までに終わらせる。もちろんお昼過ぎは第四村の開拓だね。この書類作成は、ある程度慣れたらウルレさんに()任せるつもりだから、そのつもりでがんばってね」

 真顔で口だけ笑い、ウルレさんの二の腕をポンポンと叩いて、書類用のトレイに乗ってる紙をペラペラとめくって見せる。今日は少ないな。

「戻ってくるまでに、ちょっとどんな内容かは目を通しておいて。別に大した内容でもないから」

「いや、一番上の紙に、第四村の今後の開拓方針予定とか、予算と収益見込みとか書いてあるんですけど……」

「最初は、各村の収穫とかと照らし合わせてやるかもしれないけど、それは数字とか覚えてれば(・・・・・)簡単にできるから。んーこれは畑を増やして、採れる麦の量とか、今は共同住宅に住んでる人が殆どだから、計画的に家を建てようって感じの書類だね。これは後で第四村の大工とすり合わせかな」

 そう言って俺は、各村の畑で収穫された物と、収穫量の書かれてる書類の綴りと、家を建てるのに必要な木材や消耗品が書いてある書類を持って机に置く。

「作物関係は簡単だね、過去の畑一枚から収穫できた量が出てるし。あとは、一般家庭として量産している家屋だけど、これがその図面、使用されてる木材、材木にする加工日数、行程表、使用する釘の数と値段は雑費かな? 森を切り開く手間とかも考えるならもう少し時間が必要だね」

「あの、これは大した内容なのですが……」

「あれ……、そう……なの? ごめん、なんか他にそれっぽい物をチラッっと目を通しておいて」

 普段からそれっぽくやっていたからな。大した物じゃないと思ってたわ……。

 そして俺は逃げ出すように執務室の裏口から抜け出して、キースに頼まれた石をどけに行く。


 巨大な石をどかし……、まぁ、あれは岩だな。直径十メートルあったし。そして執務室に戻ると、ウルレさんは頭をガリガリと掻きながら、セレナイトに作った蒸留施設関係の書類を持っていた。

「あの、こんなのもやってるんですか!?」

「んー? あーこれね。さっき挨拶したオルソさんに頼まれて、季節が一巡するまでのベリル酒の生産量の見込みだね。とりあえず出しちゃったから、ついでに倉庫の改築費用やらでかかった料金とか、麦の値段の変動予測とか人件費色々込みで、儲けがでるまでどのくらいかかるかも一応出してみたんだ」

 ウルレさんはそれを聞いて、口が半分開いている。

「これが当時の計画書だね。照らし合わせても、あまり差がないから良かったよ。問題は、嵐とか日照り続きでおこる麦とか食料の高騰かな。次の夏の天気までは、どうなるかさすがにわからないし」

 俺は当時書いた計画書案を本棚から出して開いて見せた。

「えっと、これって国とか街単位での、専門家を雇ってやる事業だと思うんですけど……」

「そうなの? 企業単位でやる仕事だと思ってた。だからルッシュさんも当時変な顔をしてたんだな……。納得だ……。ごめんなさい、これがこのアクアマリン商会での普通なんです」

「はぁ……、そうですか。カームさんって商人から魔王になったんですか?」

「小さな寒村出身だね」

 そして、前にも誰かに話したことがあるような身の上話をして、普通の両親の間に産まれた子供と言った。

「……その、凄いんですね魔王って」

「商会立ち上げるのに魔王は関係ないからね? 筋肉モリモリで、筋肉があれば全て解決って感じの魔王もいるし、俺の前任の魔王って、かなり人族の奴隷を酷使して勇者に討伐されてるからね!?」

「そ、そうでしたね。父もクラヴァッテ様も言ってました。アレは例外だと」

 アレ扱いか……。まぁ、確かにこの世界からすれば異常だよなぁ……。

「も、申し訳ありません。アレだなんて」

「いやいや、自覚があるから問題はないよ、とりあえずコレが普通になってくるからがんばってね」

 俺はにっこりと笑い、昼食までの短い間だけ、ウルレさんを隣に座らせ、業務内容を少しだけ見せた。

「あの、この部屋に算盤(そろばん)はないんですか?」

「ん? 書き損じの紙の裏とか粘土の板で簡単な計算はするけど、ある程度簡単なのは頭の中での計算かな~」

 手を動かしながら雑談レベルの会話をしつつ、コランダムに作った蒸留所の防犯対策とかも色々聞かれた。

「現地のゴロツキを雇用して、余所者を近寄らせないって発想は中々できませんよ?」

「魔王って肩書きである程度解決できるよ。それと書いてあると思うけど、必要悪って奴も使い方次第では良い方向に働くけど、一応悪い事だけは忘れないように。その辺も魔王って肩書きで押さえつける感じで、ちょーっと暴力で押さえつける。方向性さえ間違わなければ上手くいく。島が大きくなって、スラムとかができちゃったり、悪い奴が現れたら覚えておいた方がいいね。自分の縄張りを守ってる奴も利用できるって事も」

 俺は書類に蝋を垂らし、スタンプを押して完成書類のトレイに入れる。

「第三村の島民の殆どは、コランダムのスラム出身だから、覚えておいた方が良いよ。俺は(・・)上手くやってるけど、対応を間違えれば多分怪我するよ。この島は、村によって雰囲気とか色が全然違うから。あー、後でって言ってたけど、明日は島内の見学でもしようか」

 そう言ったところで、昼食の知らせが入ったので、区切りの良いところで手を止める。

「昼食を食べたら俺は第四村に行くから、後はルッシュさんに色々教えてもらってね」

 俺はポケットから、書簡用の簡単なスタンプを取り出し、ウルレさんにわたす。

「慣れてきたら、そっちの裁量で押して良いよ。ここに来る書類は重要なものだから俺が読んだり書いたりして、正式なスタンプを押すけどね」

 苦笑いをしているウルレさんを、笑顔で裏口から連れ出して昼食を食べに入った。

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おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
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