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第201話 楽が出来そうになってきた時の事

 喧嘩祭りが終わり、ニルスさんの倉庫が行程的には三分の二までできあがり、色々な事が順調に進み、平和な毎日が続きニコニコとしながら午後は第四村の手伝いをしている。

 桟橋も作り終わり、俺が急遽作った海底からせり上げた物は元に戻した。コレはすぐに壊せるので、壊した場合は大きな船は上陸できない事になっている。特攻されて乗り上げられたら、途中まで来るかも知れないが、大半は海の中を歩いて浜まで来る事になる。

 笑顔で麦を蒔きつつ、悪い笑顔で巨大トマトとカボチャ、スイカの種を植える。収穫前に皆違和感に気が付いて驚くがいい!

「カーム、大至急応接室に来てほしいってルッシュが言ってる!」

「わかりました。と伝えて下さい」

 ふむ、何だろうか?

「北川、悪い。俺は戻るぞ」

「おうよ」

 俺は【水球】で手や顔を洗い、タオルで拭いてから執務室に戻り、急いで応接室に向かった。

 ってか、タンクトップに頭にタオルとか似合いすぎだろ。農作業が似合いすぎててかっこいいわー。


「お待たせしてしまい申し訳ありません」

 ドアを開けると、ルッシュさんが対応していた相手は、アフガンハウンドのように凛々しい感じの犬耳の大商人と、凄くそっくりな人。

 名前なんだっけ、ルッシュさんに教えてもらったはずなんだけど。

 ソファーに行くまでに何とか思い出そうとするが、結局思い出せないので諦める。

 クラヴァッテが、鉄鉱石が出る山を持ってて、交渉が酒でスムーズに……ってのは覚えてるんだよなー。

「お久しぶりですカームさん。あの時は酒が手に入るという嬉しさで舞い上がっており、お恥ずかしながら名乗らず申し訳ありませんでした。改めて紹介させて下さい。ザウムです」

「これはご丁寧にどうもありがとうございます。自分もあのような場は初めてでしたので、ご確認もせず申し訳ありませんでした」

 とりあえず挨拶を済ませ、ニコニコとしておく。名乗ってくれて助かった。今日は何だろう? お酒の仕入れ?

「今日はどの様なご用件で?」

「いきなりですまないが、息子のウルレを雇っていただきたい」

「……ん?」

 本当にいきなりだったので、思わず変な声が出た。

「訳を話すとだな、息子に店を継がせる訳にもいかず、クラヴァッテ様に相談したのだ」

「はぁ……」

「兄と変わらず優秀なのだが、残念な事に次男でな……。店は長男が継ぐ事が決まっているのでどうしたものかと思い。ここなら常に人材不足とクラヴァッテ様が言っていたので、もしよろしければと思いうかがわせてもらった」

「確かに嬉しいのですが、本人の……ウルレさんの考えが聞きたいですね」

 一応聞いておかないとね。嫌なのにこんな離島に! とか思われたくないし。

「お一人で、しかも短い期間でここまで築き上げた、もの凄い方の元で働けるなら嬉しい限りです」

 これ、言わされてるの? え? なに? 俺の評価って実は凄いの? 普通にしてた事が、実はもの凄い事だったの?

「この島は歴代の魔王が住み着き、勇者に討伐されるという歴史が続いてますが、それを退けたのではなく話し合いで解決し、停戦にまで持ち込んだ話術や交渉術を見習いたいです」

 俺は無意味に微笑むことしかできなかった……。なんでこんなに評価されて尊敬されてんの? 崇拝って言われてもおかしくないよ?

 しかも上手く行ったのは相手が日本人だったからだよ!

「しかも停戦直後なのに人族を島に招き、争い事もなく過ごし、数々の名産品を生み出し、近くの港町のスラムに雇用を生み、看板を体にぶら下げる宣伝術。とても素晴らしい事だと思います」

 もう止めてくれ……。俺の心はボロボロだ……。ってか誇張されて伝わってない?

「それと、ウチでは取り扱っておりませんでしたが、服飾関係や商人界隈では、ジャイアントモスの織物を、この島を領地に持つ貴族に納めたと噂になっております。かなり貯蔵量があるのではないか? とも」

 それ以上は止めてくれ、確実に誇張されて伝わってるわ。ってかカルツァァ! あれから会ってないけど、確実に服を縫って出歩いてるだろ! ありがとうございます!

 俺は笑顔でお茶を飲むしかできなかった。そしてルッシュさんは、笑うのをこらえてるような顔になってる。

「そうですね。別に嫌ではないなら来るもの拒まずでやっていますので問題ありません。ただ給金の方ですが、島内に商店がありませんので、買い物をしたい場合は近くの港町に行ってもらうことになります。まぁ、ここから見えてる、建設中の倉庫は人族の商店の中継地になる場所ですので、倉庫番の判断で売り買いは可能との事でした。それでも良ければ、自分はウルレさんを歓迎しますよ」

 なんとか笑顔で返事をし、ウルレさんを迎え入れる事にした。

 真実を知って絶望されなければ良いけどな!

「ありがとうございます。カームさん!」

「そちらの話は終わったな? なら次はこっちの話だ。すまないが、ベリル酒を作る施設を建てたいと思っている。どうしても鉱山のある酒場では強い酒が好まれる。入荷に頼るより、作った方が結果的に労力も金もかからないと判断した。そちらで技術者を派遣してもらえる事は可能だろうか?」

 こっちはこっちで交渉か……。

「島に在籍している、金属加工や鍛冶をしているドワーフは現在一名。今は先ほど話に出たスラムに施設を作りに行っています。故郷にいる竜族の話ではドワーフとの交流も深いと言っていました。申し訳ございませんがこちらから派遣するより、そちらの方で直接交渉した方が早いかと思われます。ですので、自分が一度故郷に戻り紹介状を書いてもらいに行きますが、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

 行程的にまだ終わってないし、本当にどうにもならない。なら直接行ってもらうしかない。

 ってか終わったら島に戻ってきてもらって、俺のミスリルスコップをだな……。完璧に私情だけどね。

「なら私も同行させてもらおう。その方が早いだろうしな」

「わかりました。ではルッシュさん、自分達は出かけてきますので、ウルレさんを少しだけ見学させてあげて下さい。では執務室の方に行きましょう」

 俺はザウムさんをつれて故郷に戻った。


「ここが故郷です。村の竜族は残念ながら大陸中の酒を飲み歩いてるので不在ですが、村長に言えば紹介状を書いてもらえると思います」

「そうか、一度会っておきたかったが仕方がない。それに、これだけ見事に麦畑が広がっていると圧巻だな。さすがベリル酒発祥の地だ」

「そうですね。パンや飼料以外の余剰分の麦を、全て酒にしていますので麦の生産には力を入れています」

 少し前に、樽の製造工場やら貯蔵施設が増えてたからな。正直ここまで大きくなるとは思わなかったし、蒸留施設もさらに建造中だし。最近は、子供達が産まれる前に技術指導に行った村と、提携を結んでたりするらしい。

 見た事も聞いたこともない、ベリル村を治めてる貴族はウハウハなんだろうな。もしかしたらエジリンの上級区に住んでるのかもしれないな。


「そんちょー。いますかー」

 俺はとりあえず村の中央で叫ぶが、一向に旧も新村長も現れることはなかったので、村長宅に向かった。

「何で今叫んだのだ?」

「いやぁ、自分が子供の頃から村長は神出鬼没でして、いきなり現れる事もあったので、こちらから用事がある時はあそこでよく叫んでたんですよ。今曲がる家の角から急に現れたりで、びっくりさせられっぱなしでしたよ」

 笑いながら村長の家に行き、ノックをして返事があったので中に入る。魔王になる前は書類作りとかでよく来てたけど、本当に久し振りだ。

「あぁカームさん。どうしました? それと後ろの方は?」

 現れたのは新村長だった。

「ザウムさんです。鉄鉱石がでる山を保有してまして、鉄関係の商いをされている方です。今回はとあるお付き合いで、自分で蒸留所を保有したいと相談を受けたのですが、島から派遣できる技術者が多忙でして、いっその事交流のあるベリル村で紹介状を書いてもらい、直接交渉した方が早いのでは? と思ったので提案させていただいたのです」

「そうですか。鉄が出るのならドワーフが喜んで行くと思いますよ。少々お待ち下さい。今書きますので」

 村長は右下に校長の名前が書いてある紙を取り出し、文字を書き始めた。

「ベリル周辺の地理には明るいでしょうか?」

「あぁ、ベリル酒が好きすぎて色々調べた。問題はない」

「なら説明が簡単です。この村から見えるあちらの山の麓に竜族の村があり、技術交流という名目でドワーフがかなり在住しております。一度行きましたが、飲み会が目的みたいですね。仕事が終わったら、村全体が毎日酒盛りですよ。ですので、鉱物関係を扱っている事を言えば、簡単に付いてきてくれると思いますので、気のあう方、信頼できそうなドワーフをお探し下さい」

 そう言って紹介状に赤い蝋を垂らし、スタンプを押していた。

「カームさん、スタンプがあれば出して下さい。アクアマリンとカームさんの名前は竜族の村でも有名です。そうすれば最優先でしょうね」

 おいおい、ハードルを上げないでくれ。

「正式な物ではないですが、書簡用なら」

 俺はポケットから無造作に指輪風スタンプを出し、名前を書いて俺もスタンプを押した。

「私にはこのくらいしかできませんが、問題はないと思います。コレを門番に見せて、村長に会わせてくれと言えば簡単に会えると思います」

 そう言ってザウムさんに紹介状を渡していた。

「感謝する」

 ザウムさんは感激しているのか、プルプルと震えながら紹介状を見ている。

「ありがとうございます、なんとお礼をもうしたらいいのか……」

「そうですね……。おいしいお酒を造る事が最大のお礼と思って下さい。そうすれば、そちらの商会のお酒の名前も直に竜族の村にも届くでしょう」

 村長がかっこいい事言ってる。旧村長だったらどうなってただろうか?

「せっかく産地に来たのですから、一杯くらい飲んでいって下さい」

 村長は棚からベリル酒の入った瓶を取り出し、ガラス製のグラスに濃い琥珀色の液体を注いだ。何年物だろうか?

「美味い……。どれだけの月日を貯蔵すればこのように……」

「コレは最低でも季節は五巡しています。村用の物は別に保管し、新しい物は奥に置きます。どんどん古い物を前に出してくるという感じですので、常に一定の品質を保っています。ですが出荷分は生産が追いついていない状態ですので、蒸留施設が色々な場所に増えるのは嬉しい事です。お互いに美味しい物を作り上げていきましょう!」

「わかりました! 竜族の村で勉強し、美味い酒を作り上げて見せます! いえね、息子に商会を任せたので、趣味で酒作りを始めようと思っていたのですよ。絶対に成功させてみせます!」

 お互いが握手をしているが、ザウムさんの方は確実に道楽だよな。ってかザウムさんの住んでる場所は麦やジャガイモは輸入に頼っているんだろうか? 鉱山があるなら山とかだよな? どうなんだろう?

 コレを機に、商会で麦とかジャガイモの生産とかしねぇよな? 商会潰すなよな……。それこそ酒で身を潰したとか言われるぞ?

 その後は、気を良くした村長が肩に担げるくらい小さい樽を、おみやげとしてザウムさんに渡していた。

 島にいる、乗ってきた船の船員とかがいるから早くして欲しいとか言っても、中々動かないのはどうかと思う……。俺が相手の船の船員を気遣うのもなんだけどな。

 島に戻って、息子のウルレさんに別れの挨拶をしてから、島から酒を大量に買って帰って行った。本当に酒で身を滅ぼさないよな?


「さてウルレさん、貴方には俺の補佐をしてもらいます」

 主に俺が楽をするために!

「わかりました!」

「何というか……、肩書きは島の代表やら魔王と付いてますが、雑用もやってます。今日も昼間では書類作成や、ルッシュさんが作ってくれた書類の確認。その後に第四村の開墾の手伝い。こんな感じでしたね。商家に産まれ、知識が沢山あると思いますのでしばらくは補佐と言うことで。慣れてきたら、少しずつ仕事を回しますね」

「わかりました」

 そんなキラキラした目で俺を見るのを止めてくれ……。俺は楽がしたいだけなんだ。

 明日から、お世話になってる人達に挨拶に行くか……。ってか。早めに丸投げしたい。相談役として過ごす為の第一歩だ!

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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