第193話 北川が妥協しなかった時の事
GWだったので二話ほど書きました、次話あります。
翌日に俺は、セレナイトの酒場に張り紙をし、気が乗らないが午後にはアドレアさんを呼びだして、根本的な間違いを教えた。
用意した物は結局三種類。人によって色々な物が色々違い、そしてこのくらいが大体平均じゃないですかね? と色々教えていたら、顔を真っ赤にしながら口を手で隠しながら目を泳がせていた。
「では、知識の根本的な間違えも正せましたし、女の子達に教育の方をお願いしますね」
「は、はひ!」
本当に大丈夫だろうか? 本当なら経験させるか、見せるのが早いかもしれないが、こっちの世界の宗教関係者は、ゲス紳士の神に誓いを立てるのに、男女共に未婚で性経験なしで過ごすのだろうか? まぁ、どうでもいい事だけど、産めよ増やせよ地に満ちよって教えだか言葉もあったから、教会関係者でも俺は結婚とか子作りしてても問題なさそうな気がするんだよなー。
けど麻袋の件を知った時は、理解するのに脳が十秒くらい止まってた気がするけど、快楽が駄目だからさっさと終わらせろ。って感じと勝手に解釈した。
あとでよく調べたらチクチク痛いらしくて、お互い行為する気すら失せそうな気もするんだよなぁ。
ってか見せるのが一番早い気がするが、俺は見せたくないし、そんな趣味もない。
◇
「どうも、お久しぶりです」
何回か来たことのある真っ白な空間。とある一角には、喫茶店風のカウンターがあり、テーブルがクソ増えていた。
「神様から、喫茶店のマスターに転職しました?」
「コレは趣味です」
いつもなら会話が弾むのに、ラテアートの練習をしていたから、集中してるのかそこで会話が途切れた。そして後ろには、また写真が増えているし、バリスタの資格の認定書っぽいのが飾ってある。
「ラテアート、なんか可愛いので」
オーダーをしたら、カップから猫が顔を出して、縁に手をかけてるような、飲むのを戸惑うようなクソ可愛いのを本当に出してきた。その決め顔を止めてくれ……。
「教会関係者ですが、別にそういうの厳しくしてないので、あの可愛い系シスターには、個人的にどんどん子供を産んでほしいくらいですけどね」
そして俺はコーヒーを噴いた。
いつもみたいにお喋りが少ないと思ったら、いきなりコレだ。小馬鹿にされてる気しかしない。
「それと、魔族側の国王と大魔王の件は大変でしたね」
「あんた。神様だから知ってたんでしょう? なんで最初に教えてくれないんすか」
「凪君には必要のない情報でしたからねぇ。本当にのんびりやってて欲しかったんですよ」
神様は、俺の前に頼んでないアップルパイを置いて、ラテアートの練習で使った物を飲んでいた。
「そうっすか。まぁ今のところテコ入れがなさそうで安心してます。最悪巻き込まれてたんですかねー」
「もしやるなら裏でテコ入れしつつ、凪君を関係させないようにする方が楽ですよ」
サクサクのアップルパイを食べつつ、聞くと怖いことになりそうな事とかを聞かずにのんびりと過ごす。そう、大魔王の送り込んだスパイか監視役とか!
「で、なんで今になって出てきたんですか?」
「そうですねー。神とか子作りとかの話題だったので……。いやー面白かったですよ? 無垢な女性に男性のなんたるかを教えてる凪君。あそこで、これが俺のK2ですよ。とかやって欲しかったですね」
澄ました顔で下ネタを言ったので、むせて鼻からコーヒーが出てきた。クソ痛い。
「すんません、意識戻してもらえませんか? 出てきて欲しかった時に出てきてくれなかったのに、こんな時だけ呼ぶとかひでぇっすよ?」
「申し訳ありませんでした。まぁ、別に禁止とかしてませんし、それとなく新宗教とか立ち上げてくれません? 私そっくりの像とか作って」
「いや……、マジで勘弁してください」
宗教戦争とかシャレにならないくらい怖いし。
「なら仕方ないです。今回も面白い物を見せてくれてありがとうございました」
そんな台詞と共に、俺は覚醒した。
「頭いてぇ。マジで呼ばれた後の、寝覚めの頭痛とかどうにかならねぇかな」
そして数日後に、見覚えのある船が湾内に入ってきた。コランダムから人族の入島者だ。ってか多いな……平底船で引っ張るのが面倒だろうし、荷物も多いんだろうな……。
「おっす、久しぶりだなカーム」
「どうも、久しぶりです北川さん」
お互いに挨拶を済ませると、北川さんが隣にいた女性を紹介してくれた。
「フォルマだ、俺の嫁だ」
「フォルマです、よろしくお願いします」
フォルマさんはにっこりと笑い、挨拶をしてくれた。
うん。紹介されなくても、嫁って何となくわかってた……。
俺より薄い藍色の肌に、白目部分が黒く金色の瞳で蛇みたいな瞳孔。髪は薄い藤色の腰までのロングヘアで、頭には羊のような角にラッテやセレッソさんのような羽が生えているので、多分夢魔族だろう。
そして、ホルスターネックの水着みたいな物とスキャンティ。ボン、キュッ、ボンなのに、圧倒的に肌の露出が多すぎる。
ってか、本人の趣味なのか、北川さんが着せてるのか……。
「ちょっとあそこの家の陰まで来てもらえませんかねぇ……北川さん」
俺はひきつった笑顔で親指で家を指さし、北川さんを連れ出した。
「おい北川ぁ! なんだアレ! どう考えてもお前の萌要素の数え役満じゃねぇか! それかストレートかフォーカードだぞ!? ぶっ飛ばすぞ? どうやって見つけたんだよ!」
一応日本語でわめき散らした。
「羨ましいなら、羨ましいって言えよ」
北川は、超笑顔で親指を立てている。
「羨ましくねぇよ! 俺は露出が少なくて貧乳が好きなんだよ! 会田さんに言われて少しだけお前達に同情した俺がバカだったわ! けど黒白目はほんの少しだけ羨ましいですコンチクショウ! で、どうやってみつけたん?」
「魔族大陸回りまくって娼館巡り。金がすっからかんだ」
「わかってたけどバカじゃねぇの! もう一度言うけど馬鹿じゃねぇの!」
「けど、俺好みの嫁だぞ? 少しだけ妥協したけど大体ベストだ! けど会田が言ってた事は本当だぞ? 一時期かなり精神的に参ってたからなぁ。まぁ今じゃ普段通りに戻ってるけど」
「そうっすか……。戸籍登録の為に、簡単な質問に答えてて下さい。俺は島の西側に船を接岸できるような案を船長に伝えてきます」
「船の上に金田さんもいるから、そっちに話した方がスムーズだと思うぞ」
「了解……」
久しぶりに日本語話したし怒鳴ったわ……。
家の陰から出て、フォルマさんに軽く会釈をしつつ船に上り、金田さんを探すがどこかで見た顔を見つけた……。あぁ、第二村の人達を運んでた時に絡んで来た船員と船長か……。
勇者連中に雇われてるって事は、あの件で辞めさせられてなかったって事か。
そして、なんとなくしか顔を覚えてないけど、黒髪のアジア系の顔付きの人を見つけたので呼んでみた。
「お久しぶりです金田さん」
頼む。合っててくれ。
「お久しぶりですカームさん。どうしたんですか?」
良かった……。合ってたわ。
「少し人数が多いので、戸籍登録が終わったら、この船で島の西側に向かって欲しいんですよ。全員分の荷物をこちらで運ぶのは時間がかかりますし、歩かせるのは酷ですので。人族は、水上バス的な平底船で向かってもらいますから」
「わかりました。船長とも話しをしましょう。あの時みたいにはならないので安心してください」
「はは、なったらなったで柱に首を括るんでしょう? 島民じゃないんで、その辺の処罰はまかせますよ」
お互いに軽く笑いながら甲板を歩き、船長の所まで行って軽く説明をしてから本題に入る。
「島全体が遠浅ですので、今まで防衛面の理由で作ってませんでしたが、船が横付けできる桟橋を即座に作りますので、そこに停泊をお願いします」
「わかりました。では、必要物資の積み込みが終わったら、島の反対側に向かえばいいんですね?」
「えぇ、よろしくお願いいします」
人族の船長は、最初だけ表情と言葉使いが硬かったが、最後の方は普通に喋ってくれた。別に俺は根に持つタイプじゃないよ? 実害がなければだけど。
全員の登録が終わり、船員の水浴びや、帰りの物資調達を済ませた船は湾内から出て西側に向かったので、人族はガウリさんが指揮をとり、数人の水生魔族が平底船で移動を始めた。
俺は北川とフォルマさんを連れて第四村に転移をして、船が接岸できる簡単な道みたいな桟橋を作る事にした。
「んじゃ俺は桟橋作っちゃうんで、少しだけ待っててください」
まずは真っ直ぐな幅十メートルくらいで海底の岩盤をせり上げ、ある程度喫水が深くなったら、四十五度くらい道を曲げて更に隆起させる。
「港ってこんな感じだったっけ?」
「なんか見た事はあるな」
今回は急造したけど、やっぱり防衛面で不安があるから、後で壊しやすい木製で桟橋を作った方が良いかな?
ってか巨大タンカーみたいなものが停泊する事は絶対にないんだし、バースって規模でもないしな。
俺は桟橋を作り終わったら、集合住宅の窓を換気の為に開けて回り、歓迎用に大鍋で料理を作りながら皆を待つ事にした。魔族の受け入れの時もしないとなぁ。流石に同時に受け入れは無理だったなぁ。
「お? お前って料理できるん?」
「得意ですよ? 家庭料理全般、そして簡単なお菓子程度なら作れます」
俺は魚を三枚におろしながら答える。
「お前はどうなんだよ」
一応北川にも聞いてみた。
「できねぇ。旅してる時は干し肉とパンだったな」
「そうっすか」
「そうっす」
あの叫んだ時かな、なんか一気に親しくなった気がするけど、北川の性格だと思おう。
「フォルマさんはどうなんですか?」
後ろで魚をおろしてるところを、見ていたみたいなので聞いてみた。
「私は全然できませんね。キタガワと一緒にパンとか干し肉でした。町とかがあれば食堂でしたね」
フォルマさんは、何かを思い出すように頬に指をあて上の方を見ている。
「そうですか」
娼館で見つけたとか言っていたが、もしかしてずっと働いてて、料理とかもしてなかったとかか? ラッテでも料理できるのに……。性格の違いだろうか?
仕方がないので、全ての下処理を俺一人で済ませ、料理を始める。
大人数だから、本当に雑多な物で攻めるしかないなぁ。
骨の周りについていた物をスプーンでそぎ落とし、それだけじゃ足りないので切り身を包丁で叩き、ショウガやゴマを混ぜてつみれにして、鍋にぶち込む。
「配膳くらいできるだろ? 俺の経験では、そろそろ人を乗せた船が到着する。外のテーブルに運んでくれ。あ、そうそう。ピンク色の髪の女性が現れたら、先に酒飲ませておいてくれ。決して逆らったり、胸を触ろうとするなよ? 責任とれないし、助けられない」
「あいよ……。ってかずいぶんそのピンク色の髪の女に警戒してるな。どうしたんだよ」
「あとで話す。フォルマさんと一緒にできてる物から運んでくれ」
俺は料理を続け、皆が来る頃にはどうにか間に合った。
「では皆さん。聞いてるかと思いますが、この村には後で魔族の方と共に住んでいただきます。その時に本格的な歓迎会とかしますし、仕事とか詳しい話は後日またしますので今日はそれとなく楽しんでください。それと、俺の横にいる女性にはおさわり厳禁ですので、守らない方はどうなっても知りません、注意はしましたからね! では乾杯!」
俺は乾杯の音頭を取り、姐さんとカップをぶつけ、近くにいた北川とフォルマさんのカップにもぶつけてから一気飲みした。
「俺は北川って言います、よろしくお願いします。こちらは嫁のフォルマです」
「クラーテルよ、よろしくね」
二人はカップを持っていない方の手で握手をしたが、北川の表情が一気に変わったのを、俺は見逃さなかった。
「姐さん、カップが空ですよ、ほらほら、もっと飲んでくださいよ」
「あらー。カームちゃんありがとう」
俺は姐さんを北川から引き離し、常に視界内に収め、モヒートを濃い目に作ってやり、歓迎会が終わるまで俺はなるべく人族達を近づけさせないようにした。
「なんだあのクラーテルって女性は。手を握りつぶされるかと思ったぞ!」
歓迎会が終わったら、北川は俺に詰め寄りそんな事を言って来た。
「この島の中央の火山の中に住んでる……お酒大好きなドラゴンです――」
俺は目を反らしボソリと答える。
「そして、歴戦の冒険者達を屠って、ミスリルやオリハルコンを貯めこんでる、ステキナステキナオネエサンデスヨ」
今度は口だけ笑い、真っすぐ北川を見てこれ以上何も聞くなと表情で訴えた。そしたら何も言わずに頷き、無表情で親指を立てていた。
こいつのこういうところは嫌いじゃないんだけど、フォルマさんはどこに惚れたんだろうか? 後で聞いてみよう。
フォルマさんの髪の色を、薄いパステルグリーンか、薄い赤紫にするかを最後まで迷った。




