第191話 今後の問題を先にやった時の事
スミスでちょっとはおかしいので、今度「スミス」さんは「ジョン」さんになります。
申し訳りません。
翌日島に戻ると、執務室手前で張っていたキースが、もの凄い勢いでこっちに走ってきた。何だろうか?
「やったぞカーム! ルッシュが妊娠した! 子供だぞ子供!」
「おぉ! おめでとう! これから親として頑張れよ!」
「おうよ!」
すまんキース……。年越祭から知ってた。ってかこの間から遅れてるって聞いてた。
けど二の腕を叩き、自分の事のように喜んでやった。
「今日は早めに寝ようと思ってたけど、そんなのどうでもいい! 今日は飲むぞ!」
「あ、すまん。これからの事で色々話し合いがあるらしいから、また今度で」
「お、おう。わかった。これからの事だ、しっかり話し合ってこい」
俺はキースの肩をバシバシと叩き、笑顔のまま執務室に入った。ふぅ……。労働基準法で妊婦って、何させたら駄目なんだっけ……。とりあえず無茶だけはさせないようにしないと。なんかあったら、俺がキースに半殺されるし、色々な人から怒られる。
今まで島内での妊娠や出産の例はあるが、口頭で決して無茶だけはしないように注意しつつ、経産婦さんの経験談とかを聞かせつつ軽い運動とか、食事についての注意しかさせてなかったからなー。
ってか漁班の班長とシーラさんの件は、気がついたら子供いたしなー。やっぱり卵なんだろうか? それとも母胎にいる期間が極端に短いか……。今更聞けないしな~。
もしかしたら魚として生まれて、だんだん人型になっていく? それもそれで怖いな。
まぁ、島での妊婦に関する事もそろそろまとめておかないとな。勇者側で詳しい人いるかなぁ~。女性勇者の存在は全員が隠してるし……。ってか聞くなって雰囲気がバンバンだったからなぁ。何があったかはある程度は想像できるけど……。
妊娠中の女性労働者への対応と支援・出産後の保証と支援について。
タイトルはこれで良いか……。
俺は思い出せる範囲での規則と、島で出来る支援を書き。今後島内で普及する通貨での保証を草案としてまとめる。今はまだなぁなぁで配給みたいな感じでやってるけど、ニルスさんの倉庫が出来たら、多少は通貨も必要になってくる。
あー、学校や保育施設も必要になってくるか。最悪村に一棟ずつ欲しいよな。
考えを箇条書きしていたら、今度はジョンさんがやってきた。時間は十時くらいか、どうしたんだろう?
「ちょっと子供達の事で話があってね」
「えぇ、どうしました?」
「一番年上の女の子がいるだろ? どうも初めてあの日が来たらしく、島の女性達が心配してて、本人もかなり驚いている。シスターや医者も話し合ってどこまで教えていいのか困っているらしい。で、オリヴィアを含め、昨日の昼食の時に話し合った結果がココさ」
相変わらず気だるそうに喋ってくるジョンさん。なんかどうでも良さそうな感じだが、なんだかんだで勉強は熱心に教えてくれてるし、これでも気を使っているのかもしれない。
「んー。絵を書いて、子供が出来る仕組みを紙芝居風ですかね? もちろん女性に頼んでやってもらいますが」
前世での初潮は平均でも十歳から十五歳くらいまでの間だから、いつ来てもおかしくはなかったな。
「魔族はどうだったんだい? そういうのは」
「あー、俺の故郷の村は学校があったので、同年代の女の子全員男に内緒で集まって詳しく教えていたみたいです。なので内容はわかりません」
「そうか。男は本能でどうにかなるけど、女は当たる日とか一定周期でのあの日があるからな」
「島に来てくれてる孤児院の子供達にも、似たような感じで教えてるみたいですね」
「それは子供が安定して一定数いるからだろ? ここじゃまだバラバラだ」
そうだよな。全員が一斉に作るわけでもないし、一定の数がそろわないと学校も成立しない。保育所も機能しないか。
実際に島に来た初期の頃は、その初めてが来ちゃった一番年上の女の子に面倒を見てもらってたからな……。学校と保育施設は(案)だな
「とりあえず事務所の方にルッシュさんがいますので、どうだったのかを聞くのに呼んでみます。男同士で話し合っても、こういうのは駄目ですから」
「あぁ、本能で動く男基準で考えちゃ駄目だな。こっちはオリヴィアとシスターを呼んでくるよ」
なんでそこで医者のアントニオさんを呼ばない。ってか野草さん以外名前覚えてない? 人の事いえないけど。
俺は執務室から事務所に出て、ルッシュさんを呼ぶ。
「ルッシュさんちょっと良いですか? 重要な事ですので、執務室まで来てください」
「……わかりました」
少し緊張した顔で返事をし、執務室に来てくれた。
「なんでしょうか?」
「人族の子供組の一番年上の女の子、いや少女と言った方が良いでしょうか。初めてアノ日が来たみたいで、色々な教育や勉強を任せていたジョンさんから相談を受けました。今オリヴィアさんとアドレアさんを連れてきます。こういう対応は女性同士で案を出してもらわないと、男では配慮に欠ける事がありますので、お願いしたいんですがよろしいでしょうか?」
「えぇ、それはかまいませんが……。いつになくまじめな顔でしたので、仕事を辞めさせられると思っていました」
そういう風に取っちゃったか。悪い事をしたな。
「あー、その辺はご安心を。これは草案です。皆が来るまでに少し目を通しておいてください」
今まで書いていた箇条書きの紙を渡し、応接室に足りない分のイスを運んでおく。重いものとか持たせるのも駄目だった気がするからな。
「パーラーも呼んでおきましょう。元メイドですので、女性の多い職場の経験談も聞けるでしょう」
「ありがとうございます」
「こちらの草案ですが、書いてあるコレは島内で実行させるのでしょうか?」
かなり目つきが怖くなったな。止めてくれ、そんな何人か殺した事のあるような殺し屋みたいな目つきは本当に怖いから。
「えぇ。出産率が下がるのもなんですし、ルッシュさんのように働きたい女性もいるかもしれませんので、子供の面倒をまとめて見る施設や教養の為に学校も必要ですからね」
その一言で元の目つきに戻ってくれた。よかった、あのままだったら土下座して謝りたくなる眼力だからな。
「女性の事も考えているのですね。安心しました。出産が近いと休まないといけませんし、出産後も子供の育児で長期の休みを取られると、穴埋めが大変だと言うことで、妊娠発覚後は辞めさせられる職場が多かったんですよ。ここはそういう事はないんですね」
「ないですよ、安心してください」
ふむ、男尊女卑的なものはまだまだ多いか。ますます勇者連中への相談も必要だな。
昼近くにある程度の話し合いが終わり、シスターのアドレアさんが全面的に女の子に図説で教え、もし辛いようならアピスさんにかなり弱い鎮痛剤の処方を頼む、と言う形に落ち着いた。
男の子には、ジョンさんが男と女の違いを教え、男はより男らしく、女はより女らしくなる事を十歳くらいになったら教える事になった。
「では、教会に来てる女の子で、十歳くらいになったら声をかけて教えるって事でいいですね」
「そうですね、第二村の方もお願いしていいですかね?」
「わかりました。そちらの方も、第二村の神父様と話し合っておきます」
「なら僕はガキ共には軽く教え、はやし立てたらぶっ飛ばして叱ればいいんだな?」
「いや……、ぶっ飛ばすのはやりすぎですから……。かなり弱く、ペシって叩く程度でいいんですよ」
やる気のない熱血教師って新しいな。仮にでも徴兵された男って事か?
「まったく、お兄ちゃんはいつも極端なんだから!」
野草さんも少し怒ってるみたいだ。子供の頃にデリカシーに欠ける言動でもしたのかな?
「では、話も纏まりましたし、この件はそのようにお願いします」
昼食が近いので、俺は無理矢理話を閉めた。
俺は俺で、少し気になることがあったので、あまり行きたくないがアピスさんの所に足を運ぶ。
換気のためか、ドアが開いていたので中の様子を見て、声をかけてから中に入る。
「珍しいわね。何かよう?」
用があるから来てるんですよ……。
「えぇ、ポーション系の効果について、少し疑問がありまして。妊娠中に服用する際の、胎内の子供への影響についてです」
妊娠中は、色々飲める薬が制限されるらしいし、漢方系なら平気とか聞いた事もある。ポーションとかも草っぽいのから生成してるから、漢方系に入るのかが気になっただけだ。
前世で嫁と子供でもいれば違ったんだろうけどな。
「あー……。文献に乗ってたかな。ちょっとまってて」
そう言って、本棚から目的の本を一発で取り出して、ページをある程度の所からバラバラとやり始め、すぐに止まった。
なに? どこに何があるかとか全部頭に入ってるの? 頭の中どうなってんだよ……。
「ふむ、そういうのを気にしてやってた人はあまり多くはいないわね。ただ、判断するのには圧倒的に少なすぎ。正規的に作られた物なら兎も角、この間みたいな、毒から作った物とかは避けるべきね。ってか母体の中の赤ちゃんの事まで考えるなんて、どこからその発想が出てきたのか……」
アピスさんは本棚に本を戻した。
「風邪や病気でどうしようもない場合は、比較的弱いものか、食べ物とかで改善かしら? ショウガとか風邪に効くし」
「不明瞭って事ですね?」
「そうね。ただ本当にどうしようもない時は母体優先ね。産まれる直前で、母体が危ないって場合の極論だったら、胸くそ悪い話だけどどっちを生かしても差し引きゼロね」
なんかドライなコメントをありがとうございます。俺も俺で、極限状態だった場合は、見捨てる勇気と、自分の命優先で割り切る事は可能だけど……。悲しんでる暇がないくらい、淡々としてる医者みたいだな。
「その時は選ばせる方向で……。そして、民間療法的な物でも信憑性の薄い物は避ける方向でいいですかね?」
「無難な答えね。それと、怒るかと思ってたけど以外に冷静なのね」
「えぇ、まぁ。感情でどうしようもない状況って多いですからね。そのまま二人とも死なせる方が愚かですからね。助けられるなら両方助けるのが最善ですがね」
よくドラマとかで見る展開だし。まぁ、俺だって選ぶような状況下じゃないと、その時まで答えは出せないな。
「最善……ねぇ。選べる選択肢をなるべく増やしたいわねぇ……」
あ、この辺りは地雷かもしれねぇ……。
「相談に乗ってくれてありがとうございました。妊娠中、妊娠の疑いがある場合は、強い薬は避けるようにアントニオさんに言っておきます」
「そうね、傷を治すポーションみたいに水で薄めると性質が変わる物もあるから、直接医者に来るように言ってちょうだい」
そういって、ジョウロをもって畑の方に何故か増えていたドアから出て行った。
勝手に改装頼みやがったな……。
キースがルッシュさんの妊娠を知らせに来るまでは良かったけど、気が付いたらこうなってました……。
不快にさせた場合は申し訳りませんでした。
20170417の活動報告にも書かせていただきましたが
GCノベルズ様の公式HPの、刊行予定に三巻が乗りました。
アマゾン様で三巻の予約が始まりました。
三巻は出ます。詳しい情報は追ってお知らせします。




