第180話 ある意味いつも通りだった時の事
突っ込み満載回
十日後の朝食と昼食の間に伺います、お互い普通に接する努力をしましょう。
注意、見られると不味いので、読んだら燃やす事。
俺は手紙を書き終え、一応貴族宛だから丸めて難しい方の印を封蝋も付けた、中身クソ簡単だけど。第三者の確認はいらねぇよな?
普通に貴族に出したら、貴公の首は柱に吊されるのが……ってなりそうだけど。けどあんな事があったから、脅迫にも見えるか? まぁ仕方ない、こんな内容をルッシュさんに確認してもらっても、なんか睨まれそうだし。うん行こうか……。
俺は見覚えのある門の前に転移した。
「これをカルツァ様に渡して欲しい、会う約束を取る為の書簡だ」
「かしこまりました。ちなみにですが、いつ頃をご予定で?」
「十日後の昼前だ」
「かしこまりました。確かにお渡ししておきます」
見覚えのある若い門番に手紙を渡し、ちらりと自宅前の方を見ると馬車が付けてある。帰ってきたばかりか、今から出かけるところなのだろう。やっぱりアポって大切だよなー。
「では失礼する」
貴族ってクソめんどくせぇ! ってかアポって十日前でも平気? クラヴァッテにアポ取ったことないけど。
島に戻り、気が乗らないがテーラーさんの工房に向かう事にした。
「あら、今日はどんな用かしら?」
「例の貴族様に渡す為の、ジャイアントモスの布で服が一着作れるくらい、もしもの為に少し多めに。汚したくないので、なんか良い布でそれらしく包装お願いします」
「あぁ、あの時の話ね。ご機嫌取りも大変ね。同情するわ」
「いえ、約束してしまった手前、どんな希少品で高価なものでも守らないと、信用をなくしますので」
「どうせ必要経費でしょう? 後でルッシュに請求するし、怒られない事を祈りなさい。それと、噂ではその貴族には、信用なんかないらしいじゃない、一悶着あったのに」
「そうっすね……、まぁお願いしますよ」
作業台裏の、日の当たらない場所に作った高級品用の棚の中から、まだ染色されていない、ジャイアントモスの布を出し、長さも測らずにハサミで切り落とした。
「よっぽど不器用じゃなければ、これで確実に普通の服は一着は作れるわ。まぁ、お抱えがいるでしょうけどね。後は、貴族様が端切れで、ぬいぐるみでも縫う趣味があれば、無駄にはならないでしょうね。それか、見習いメイドに与えて、ハンカチでも縫わせれば、気遣いが出来る雇い主よね」
そんな事を言いながら布を折り、地味な布で包装してくれた。測らないなんて地味に凄いな。職人の勘なのか、ある程度の基準があるのかはわからないけれど。
「包装は貴方が持っていても、おかしく見えない無難な色にしておいたわ。これも良い布ではあるのだけれど、貴方が持つと高級そうに見えないのが難点ね。まぁ外見で判断するようじゃ、その貴族の教育は色々と終わってると思うけど、捨てられない事を祈りなさい」
さらっと酷い事を言われた気がするが、まぁ聞き流そう。
「ありがとうございます、一応中身を言いますので……」
「どうせ入り口で渡して、メイドかフットマンとかが検閲でしょ? 忘れないように言う事ね。じゃないと普通の布にしか見えないし、捨てられて燃やされたら、最悪メイドかフットマンの首が物理的に飛ぶわよ?」
物理的に首が飛ぶのだけは勘弁だなぁ……。
「燃やされたら、布だけ残りますよ?」
「そう言う問題じゃないでしょ……まったく。まぁ。事と次第ではバトラーも出てくるでしょ」
「……ですね」
俺はお礼を言ってから工房を後にした。
そう言えばカルツァ旦那の位置付けってか役職って何? 前に補佐とか言ってたから、執事ではないだろうなぁ……。主人の補佐や給仕するって意味では、ある意味当てはまるけど……。まぁ、手土産的な物だと伝えれば問題ないか。
さて、印やら書類用の綺麗な紙や資料とかもも用意したし、今日は特に問題はないか? 明日から多少下調べも必要だけどな。
◇
十日後の朝食後、服が汚れない雑務をして、相手に失礼のないようにちょっとだけ早めに出る事にした。十五分前だけど。
もしかして遅れて行った方がいいのか? 貴族連中の常識なんか知らないしな。多少遅れて行った方が、優雅に旅路を過ごして来たとかあった気がするし、パーラーさんに聞いておくべきだったな。もう遅いけど。ってか俺貴族じゃないから、別に平気か。
俺は転移し、一応形式通り門番に用件を伝え、テンプレな答えが返ってきて、ドアの前まで案内され、門番は挨拶をして戻っていった。
「これは献上品だ。確実にカルツァ様にお渡ししてくれ」
入り口のメイドに荷物を渡し、応接室に案内され、出されたお茶を飲んで待機する。
しばらくして、カルツァが旦那と共に入ってきた。
「この度は貴重なお時間を――」
「挨拶はいいわ、さっさと本題に入りなさい」
うむ、いつもと通りっぽい?
俺はカルツァの目を見てから、隣に座っている旦那の方をチラチラ見る。旦那は知ってるのか? って個人的なアイコンタクトのつもりだけど……。
カルツァは俺の目を見ながら、かなり小さな動きで首を横に振った。通じたっぽい? 多分知らない、言ってないって意味だろう。それならいい。
「では簡潔に。島の発展と共に、懇意にしてる人族の商人が、倉庫を建てさせろと言ってきました。勝手にやらせてもらってる身としても、魔族領の土地を売るのは不味いと思いまして、こうして相談に来させていただきました。自分としては、貸す方向で考えておりますが、いかがでしょうか?」
「貴様、あの時の無礼を――」
「続けなさい」
旦那の言葉をかなり早めに遮り、続けろと言ってきた。いいねぇ、ソレっぽいよ。
「人族に貸すというのは不本意かと思いますが、定期的な金銭の収入に繋がるので、自分としては許可をいただきたいなと思いまして」
「お前! 税金を払わないと言っておきながら何を言う。結局自分の懐に入るだけではないか!」
こいつは……。いちいち面倒だな。
「いえいえ、あの時は法外だから突っぱねただけで、普通だったら、当たり前の義務として納めるつもりではいましたよ? けど、どう考えても多かったですので……。まぁ過ぎた話ですので一旦止めましょう。今は土地を貸す貸さないの話しです。こちらが、相手が提案してきた倉庫の大きさです。そしてこれが、セレナイトの倉庫の大きさと、賃貸料の表です。だいたい大きさと料金の平均を出し、地価っぽいものを出しました。やっぱり港に面した倉庫はそれなりに高いですね」
多少オルソさんに手伝ってもらったけどね。
「ちか? 聞いたことのない単語ね」
あぁ、単語を知らないのか。
「その場所が便利か不便かで多少土地の価格が変わることですね」
「そう言ってもらえればわかるわ、お父様が管理に苦労していたのを見ているから。で、それがどう関わってくるの?」
「あの島は色々と不便ですので、安くならないかな? と」
「まだ貸す貸さないすら言ってないんだけれど? なに貸す事を前提に話しているの? 貴方、頭沸いてるのかしら?」
「ははは、そうでしたそうでした。こいつは手厳しい。なら説得しましょう。今のうちに島を発展させておけば、ある程度の税収は見込めると思いますが、どうですかね? 折角倉庫を建てたいとか言ってますし。これを気に、一気に増えるかもしれませんよ?」
カルツァは軽く口に手を当て、目を細めているので、何かを考えているみたいだ。
「もし、貴方が言う、季節が数巡した後に税を取る……と言ったら、今後どうするのかしら?」
「そうですね……、特に変わりません。島の発展や維持費にかかるお金を多少商品に上乗せして、島に住んでる者達への負担軽減、施設の増設や建設。より住み良い環境を作り、さらに人口増加を促し、生産力を上げる努力はしますね」
俺はお茶で口を一旦湿らせ、続ける。
「そうすれば、今回の件みたいに、倉庫を建てたい。島で商売がしたい。って人族や魔族が多分増えますよ。その人族はとりあえず倉庫だけですがね。税金が近隣の町や村みたいに、そこ全体の売り上げや収穫量の割合ならですけど。まぁ島全体を町や村と見てみてくれれば、こちらとしてもやりやすいですね。商売を始めるとか言う人には、島に何かを買い入れした時点で、税金をかけます。そうすればリンゴ一個からでも税金は取れます。その辺も問題ないかと」
住民税みたいに、人でとらねぇだろうな……。俺も取りたくないしな。
それに個人で商売を始めるなら、仕入れの時点でその分の税金取るようにすれば、多分問題もないだろう。そうすれば最低限の税金と、維持、発展費用も多少だけいれればどうにかなる。レシートとかバーコードないし、これが妥当だろう。
ってか、生きてるだけで罰金みたいな生活はさせたくないし、ここは細心の注意を払いつつ、商人連中との話し合いもしないとな。将来的に島にも商工会議所が必要か?
「……いいわ、そこまでしっかりしてるなら信じてあげるわ。本題に戻りましょう」
これは良い感じで誘導されたんだろうか? それとも将来的に税金払えよと遠回しに釘刺されたんだろうか? あの時は色々酷くてアレだったけど、実はノせられたか? 別に払う意志はあるからいいけどな。
「えぇ、ありがとうございます」
旦那の方を見ると、なぜか睨むような目つきから、特に興味もなさそうな目になっており、書く物を準備していた。敵認定されたけど、気がついたら外れてた? そういや途中から口出ししてこなかったな。
「便利か不便に戻りましょう」
「あ、はい。まぁ船で近隣の港町まで五日や六日ですので、かなり不便です。なのであの島は地価的に低いと思います。ですので、セレナイトの一般的な倉庫の賃貸価格の、三分の一程度が妥当だと自分は思うのですが? どうでしょうか」
「それには異論はないわ。けど、もし島が発展した場合は、かなり便利になり、他と差が付くと思うのよ。だから区切りが良いところで……、季節が一巡するごとに一回は視察をして、価格を上げるか下げるかの話し合いもしたいわね。その辺の書類作りはそっちに任せたいのだけれど、かまわないかしら?」
「問題はないと思います、内陸には倉庫をあまり作らないと思いますし、湾内から見て左手側を一番として番号を付け、倉庫の規模と賃貸価格、便の良さや利用のしやすさの書類もあった方が良いですね。そんな感じで作りましょう」
「そうね、人族が内陸に店舗を構えた場合の対応も、そちらに一任するわ。さっきの話なら、便利か不便の土地の代金、税収関係も問題なさそうだし」
話し合いをしていて、お茶がなくなる頃。旦那が呼び鈴を鳴らし、メイドがお茶をサービスワゴンみたいなもので運んできて、注いでくれた。一応客扱いになってる?
そして、クロスがかかってて見えなかった下段に、俺の持ってきた袋が入っていた。
それをカルツァの前に置き、
「カーム様からの贈り物でございます」
そう言って部屋から出ていった。
今持ってくるか!? 普通帰ってから見るんじゃないの?
そして布を袋から出し、指を擦り付けているので、多分本人の前での確認なんだろう。あとでどうのこうの言われるよりは、お互い確認した方が確かに問題はないな。水掛け論は嫌いだし。
「確かにジャイアントモスの布ね、ありがたく受け取っておくわ。ありがとう」
うお、まさかお礼を言われるとか思ってなかったぞ。
「いえ、約束ですので。では、失礼します」
旦那がドアを開けてくれたので、ドアの方に向かったら、
「これからも、良き友好関係を続けられる事を祈るわ」
そう言われ、一度だけカルツァの方を見ると、一回だけウインクされた。あの時の俺の台詞か。オーケーオーケー。多少俺の中で印象が良くなったわ。相手が喧嘩腰じゃなければ、こっちはどうにでもなる。
「こちらこそ、これからもよろしくお願いします」
笑顔で言い、門を出てから転移しようと思ったが、大通りのテラス席で軽食をとりつつ、一息入れてから帰った。
全てが適当です。
おかしいところや違和感が多いと思いますが、流していただければ幸いです。
なんだかんだで、作者的にはこれがカルツァの性格だと思っています。
無能すぎても困りますからね。




