第177話 温泉で日本酒を飲んだ時の事
翌日、俺は昨日の夕方に書いた紙を持って、アントニオさんの病院とアピスさんの工房に向かう。
書いたのは主に薬関係の服用方法だ、キースが精力増強剤を二人分だか二回分を盛られ、胃腸を壊したのが原因だ。
俺は早速アントニオさんの所に向かい、紙を張らせてもらう。
効き目の弱いポーション系でも量を守る事。量が少ないのには訳があります。効き目が強く、効果のある薬草類が煮詰められて濃いままかもしれません。
食事を取る前か、食後かもしっかり聞きましょう。食後の場合は、胃に悪いから、何か食べてから飲む事になっているかもしれません。空腹時に酒を飲むと、酔いが早かったり、痛くなる時と同じです。
薬も大量に飲めば何かしらの毒になります。本当に量は守りましょう。
粉や粒の場合は、かならず水で飲みましょう。もしかしたら、体の中で毒になるかもしれません。
大体こんな内容だ。じゃないと、キースみたいに盛られる可能性もあるし、効き目が悪いから二回分飲むかもしれない。
「ほー、わかってるじゃねぇか。けどよ、体の中で毒になるってなんだ?」
「禁忌と呼ばれる配合もあって、お茶とかお酒で飲むと効き目がものすごく強くなったり、別な効果が出る場合があるんですよ」
配合禁忌って言われてる物もあるからな。早い話が血圧の薬を飲みながらグレープフルーツ食べたりする事だ。薬剤同士じゃないけどこんな感じだった気がするな。
「ほー。まぁこっちは今まで軽い風邪と外傷だけだったし。市販のポーションと、注意喚起だけだったから助かる案内だ。本格的にアピスの薬が増え始める頃だからな。良く聞いておかないと不味いな」
何も考えず医者を連れてきたけど、何となく外科っぽいんだよなぁ。この人。スラムっぽい所にいたし。ゴロツキの治療とかしてそうだったし。
「えぇ。ですので、来た方にも良く読むように言っておいて下さい」
「おう」
アントニオさんは、軽く返事をしただけだった。本当に大丈夫だろうか?
さて、今度はアピスさんの所だが、ノックしたら返事があったので、普通に入る。
「毎日ご苦労だねぇ。私に気があるの?」
「いえ、これを張りにきただけです」
「ふーん、多少はこっち側の知識もあるのね。びっくりしたわ」
アピスさんは、全然驚いてない感じで言っている。マジで興味なさそう。
「で、なんでこれをここに?」
「とある男の胃腸が犠牲になったからですよ」
「あぁ、精力増強剤の二人分の件か。たしかにお互い使うものだと思ってたからな。確かにあった方がいいわね。まぁ、ちゃんとした物なら三回分くらいまでなら問題ないわね。翌日まで勃ちっぱなしでしょうけど」
「いや、そういう問題じゃないですよ? ってかそういう異常な状態なら既に毒ですよ? ってかここで書き足しましょう」
最重要:もらった薬を他人に飲ませない事。
「一回分なら、普段満足できない女性を満足させる程度で済むけど、流石に翌日まではなしなのね。経験がないからわからなかったわ」
なんか理由にされてる気がする。
「経験の有無じゃないと思いますが?」
「なら経験させてくれるの?」
「あ、おじゃましました。んじゃ、薬もらいにきた人によく言っておいて下さいね」
変化球じゃなくて、ビーンボールで来たわ。
「軽い冗談よ? なんで本気にしちゃうのかな?」
「十分重いですよ? ってか下品ですよ? 男娼でも買って下さいよ」
反則球なら、牽制で返そう。
「変な病気が怖い。ってかそれこそ下品な気がするんだけど」
牽制してたら、バット延ばして無理矢理当てて、一塁に行けた上に、三塁走者がホームインされた気分だ。
「ならお互い様って事で」
駄目だ。目も苦手だけど性格も苦手だ、帰ろう。
「あ、これ持っていって。昨日のお礼」
俺は小瓶に入った液体を渡された。これは何だろうか? 向こう側が見えないくらい、濃い深緑だ。雑草をすりつぶした液体の方がまだ澄んでいる。
「これは?」
「ポーションの原液、それを薄めれば、ポーション五十本は作れるわ。本当は、大手のお抱え錬金術師がいる商人に卸すんだけど、金欠の時に売ろうと思ってたけど、もう必要ないからあげるわ」
「ならこれでポーション作ればいいんじゃないんですか?」
「古いのよね。それ。大手だったら色々なところで集めて、一気に作るっぽいから、一本くらい古くても気にならないけど、島だけで使うとなんかやな感じだし」
「これ飲んだらどうなります?」
「スプーン半分に対して、ポーション瓶に水入れて飲めば、おなかの中でポーションね。そのままだと、胃に穴あくんじゃない? わからないけど」
「そうっすか、個人的に面白そうなので、ありがたくいただきます」
テレレレ~ン、カームは緑の薬を手に入れた。
無意味に瓶を片手で掲げたい衝動に駆られる。主人公じゃなくて、姫の名前が付いてる有名ゲーム風に。
前世の死ぬ前だったら、テッテテテテ~ンだったけどな。
なんだかんだ言って、こういうのって好きなんだよね。市場に出回ってないってなだけでレアっぽくて。応接室に飾っておこう。
「ご機嫌ね」
「変な蒐集癖があるので、こういう変なの物は好きなんですよ」
賞味期限が十年以上すぎて、ベコベコにヘコんだペットボトルの期間限定ジュースとか。部屋に飾ってあったし。まさかキュウリ味とか小豆味が出るとは思わなかったけどな。
俺は上機嫌で戻ろうとしたら、その辺のフルールさんが変化して喋りかけてきた。
「カーム、エノモトが呼んでるよー。手が空いたら来いってさー」
「わかりました。って伝えて下さい」
ふむ、何だろうか? 酒と味噌でも仕込んだか? とりあえず、俺は榎本さんの家の前に転移した。
「ちゃーっす。どうしまし……」
ちゃぶ台の上には、瓶に入ったほぼ透明の液体。そして疲れ切った雰囲気の榎本さんと織田さん。そしてにこにこしてるピンク髪。
「やっほー遅かったわねー、先もらってるわよー」
なんで姐さんがいるんだろうか? 考えなくてもわかるけど。
「よう、とりあえず日本酒仕込んだのはいいんだけどよ、あったけぇだろ? 速攻で菌が糖分をアルコールにしちまってよ。ここ数日てんやわんやで、挙げ句に生酒じゃ不味いからって事で、火入れまでしてたんだよ」
「え、えぇ……」
「できあがった生酒用意して、お前を呼んだら姐御が来てな。まぁそれはどうでもいいんだ。さっさと飲んで寝たいから、山の方の温泉に連れてってくれ」
織田さんは何もいわずに、頭を縦に振っていただけだった。
「その健康状態で、入浴中の酒はおすすめできませんが、理屈じゃないんでしょうね。んじゃ外に出て下さい」
「なら私は、先に向かってるわねー」
姐さんは、瓶を指に八本挟んで、持って飛んでいってしまった。
「っかー、日本酒、温泉、肴。最高だなぁ!」
「あぁ、こんな心の贅沢久しぶりだ」
「少し弱いけど、水みたいに飲めるのが良いわねー」
「最高ですね。こういうの憧れてたんですよ」
小さ目の瓶とぐい飲み、肴がそれぞれ乗ってる桶を浮かべ、三人でチビチビと始める。一人はゴクゴク飲んでるけどな。
「ってか、完成はもう少し先だと思ってたんですが、夏のっぽい気候で日本酒は、やっぱり時間的に厳しい物がありますか」
「そうだなぁ、キノコの嬢ちゃんに雑菌の抑制してもらってたから良いけど、それがなかったら腐ってただろうな」
「酒蔵にあるような、大きい樽を作らせないで良かった。今回は試しにワイン樽で作ったんだが、米を蒸かしすぎた。だから出来上がりであわてた。次は量を減らして、二日に一回くらい交換で絞るようにすれば、慌ただしくしないで済む。今度は酒蔵を四つに区切って、順番に仕込むか。あと、大きいのは必要ないって今日わかった」
二人は愚痴りながらチビチビと飲んでいる。知識はあっても、まだ手探り状態なんだろう。それにしてもこの間のよりスッキリしている。布の目に酒粕がいい感じに詰まって、濾されてるからか? これならスルスルと素直に入っていく。
前回の酒粕で漬けたきゅうりとカブもいい感じだ。ここまで周りが贅沢な環境なら、逆にこういう簡素な物が合う気がする。ってか温泉の桶の上に刺身は似合わない。偏見だけど。
「ねぇねぇカームちゃん。これも売るの?」
「えぇ、島内需要分が確保できたら、まずは勇者関係に卸し、故郷にも持って行きます。それから交易品として売り出しですかね? 新しい調味料の確保もできたら。まずは露店で売ってみようかと。それか買い付けに来た商人に振る舞って、噂を広げてもらうかですね。焦げた醤油の香りって、ものすごく食欲をそそるので、露店でイカでも焼いて売れば、直ぐに食いつきますよ。俺がそうでしたし」
「単純なのがいいな、一夜干しをショウガ醤油で食いてぇ」
「豆腐が食べたい。天然塩作りしてるからにがりもある」
二人は、チビチビとやりながら、醤油で食べたら美味しそうな物の話をしている。
「俺は豆腐作り失敗しましたけどね」
「それってお酒に合うの? 出来たら食べにくるわねー」
姐さんは飲めれば良さそうだな。ってか肴必要ないだろ。水みたいに飲むくせに。
「洋酒に合うか?」
「その二つだと、ビールか日本酒でしょうね」
「基本的に、ベリル酒でそういうの食ってません」
「美味しいなら何でも良いわー」
ってか姐さん普段何食ってんの? ってか姐さん馴染みすぎ。まぁいいか、姐さんだし。
二人は女性の裸でどうこう言う感じでもないし、俺もスズランとラッテのを見慣れてるから何とも思わないし。ってか姐さんは女性っぽい形のナニカとして見てるし。
まぁ、前世基準だと浮気に部類される行動だからな。これからは色々と控えたいけど、向こうから絡んでくるんだよなー。
そして三人で一瓶ほど空けた頃、榎本さんと織田さんはすでにグデングデンに酔っていた。日本酒の絞り出しとか火入れで疲れてるところに、温泉で飲みながら……。死なれなれないうちに帰るか……。
ってか一升瓶じゃないけど、三人で一瓶空ければ十分だろう。
「んじゃ二人とも限界っぽいので、俺達は帰りますね」
「おうカーム、折角良い感じになってきてんのに、なーに言ってんだ!」
「いや……、どう見ても危険ですから。もう家に帰って寝ましょう。ね?」
「俺は賛成だ。榎本さん、若いもんの言う事聞いておきましょう。温泉でこれ以上は危険だ」
「あーん? 織田が言うんじゃしゃーねぇな、よっこらしょっと。姐、俺達は先に帰るから、残りは適当に飲んでおいてくれ。火入れしてねぇのは貴重だぜ? んじゃぁな」
「お先失礼します」
俺は、下着姿の酔っぱらいじーさん二人を連れて転移し、家の前に付くとそのままフラフラと中に入って行った。
榎本さんはそのまま寝転がり、織田さんは薄手の部屋着に着替え、寝転がった。
織田さんは、ギリギリ理性が勝ったらしい。俺も帰って昼寝したいけど、書類に目を通しておかないと……。
俺は帰って執務室に、ポーションの原液と、日本酒の瓶を置いてから仕事に戻った。
感想で薬に関する事の物が多かったので、前半は薬に関してを入れさせていだだきました。
ペ〇シの、期間限定の変な味の復刻を強く望みます……。近年のはネタに走らず個人的にツマラナイものだらけでした。
アズキは10本以上飲んだ……
スパークリングコーヒーやお茶とかでもいいのよ?(チラチラ




