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第176話 キースの事を聞かされた時の事

 あんな事があり、昼飯をお湯で戻したパンに塩を少しだけ入れ、テーブルの隅でモソモソと食べていたら、キースが深皿をもって目の前に座った。

 キースもパン粥だった。

「おう、戻ってきてたみたいだな……。なんだ、お前も調子悪いのか?」

 キースの声には覇気がない。どうしたんだろうか?

「あぁ、ついさっき胃に穴が開きそうな事があったばかりだ」

 あれは、個人的にかなり胃に来る。

「俺もだ、年越祭で飲み過ぎた訳じゃないんだけどな。なんかここ数日胃腸の調子が悪い」

 だから覇気がないのか。

「そうか――。で、ルッシュさんとはどうだったんだよ?」

「あぁ、大勝利だ……。前々からの小細工が良かったのか、その日のうちに色々事が進んだ」

 深皿のパンをスプーンでつつき、崩していた。

「良かったじゃないか、おめでとう……」

 結果は知ってたが、ハメをはずして風邪でも引いたか?

「ありがとう、だけど少し問題が発生した……」

「なんだよ……」

「気が付いたのは三回目が終わった後だ……、全然勢いが衰えなかったんだよ――」

「はぁ?」

 精力増強剤が、予定通り盛られたんだろう。どのくらいの量かはわからないけど、取り合えず異常だろ? 的な感じで接しよう。

「普通なら、多くても三、四回程度で満足できるが、朝日が昇るまでそのままだったんだよ。季節が一巡めぐるまで女を抱いてないけど、これはおかしいと思った。けど疑念よりも嬉しさが勝って、その時は過ごした。凄く興奮してたのも覚えてる」

「そうか……」

 確実ですわ……、ほぼ薬盛られてますわ。

「お前、何か知らないか? ルッシュと結構一緒に行動してる事が多いだろ?」

「すまない……本当に知らないんだ」

「本当か?」

 調子が悪くても、眼力は凄いな。

「知ってるだろ? 俺が嘘付くのが苦手だって」

「そうだったな――。すまなかった」

 こちらこそすまないキース、現在進行形で嘘を付いてる。ルッシュさんが暴露するまで共犯者だな。

「で、ルッシュさんはどうだったんだ? なにかおかしなところはなかったのか?」

 自分にも何かブーストしたのか気になったので、とりあえず聞いてみた。

「なんて言うんだろうな。普段とは雰囲気が変わってたな。やけに顔が溶けてたというか……性欲が強かったというか。けど書き物専門で仕事してるのに、不思議と体力はあったな。最後の方は俺が下だったし」

「ふーん、獣人系はすげぇなー」

 決定だ、絶対自分でも何か服用してるわ。そう思い、ルッシュさんの座っている方を見ると皆と同じ物を食べてるので、胃腸系は平気みたいだ。

「まぁよかったな。これからは同棲か?」

「パーラーと一緒に住んでるだろ? 俺は俺で共同住宅だからなぁ。夫婦用の家に移り住まないと無理だな」

「余ってるんだからどんどん入れよ」

「そうなんだけどな、料理を覚えるまで待ってろって言われたんだよ」

「なんだ、ルッシュさん料理出来なかったのか」

 完璧超人に見えたけど意外だな。なんでもそつなくこなすと思ってたが。

「出来るには出来るが、もう少し作れる種類を増やすって言ってたぞ? 俺としては、別にかまわないんだけどな」

 逆だった、完璧にしたい人だ。しかも手段を選ばない方向で。キース、もしかしたらもう一回盛られるぞ? 子供が出来なかったらだけど……。

 危険日でも受精率が八割で、着床率が二割。そう考えると、低いよなー。前世の人間基準だけど。

「楽しみが増えて良かったな、待たされれば期待もデカいだろ?」

「だな。まぁ、お前も何があったか言えよ。俺ばかりじゃ不公平だろ?」

「あぁ、そうだな……。俺を魔王にした張本人、便宜上大魔王様としておこう。その方に呼び出し食らって、部下が執務室にいきなり転移してきた。そして拉致られた」

「お、おう……」

「そして、なんやかんやあって、胃が痛くなった」

「何だよ、なんやかんやってよ」

「言えると思うか? まぁ言える部分もあるけど、全部言わない方が俺の為でも、キースの為でもある。これ以上は聞くな……。殺されるぞ? 真っ先に俺が」

「お前がかよ!」

「もちろんお前も、最悪この島の皆も」

「本気で言ってるのかよ……、怖い世界だな」

 嘘は言ってない、後半なら言えるけど言いたくない。けど言っといた方がいいかな?

「まぁ、後で執務室に来いよ……。言える部分だけ言うから」

「お、おう」

 食器を持って立ち上がり、おばちゃんのところに返し、俺はアピスさんの所に向かった。


「んー、多少は胃痛が収まったか? ストレスでの一過性っぽいな」

 アピスさんの工房に向かう頃には、胃の調子もよくなり安心して過ごせそうだ。ただ、今度は頭が痛くなる可能性の方が高いが。

 俺は一応ノックをするが返事がない、仕方がないので入る事にするが、ドアを開けて、速攻で頭痛の種が増えた。

 床には衣類、機材を入れてきた空箱の縁にも衣類、壁と壁との間に結構な数の紐が通ってて、自分で採ってきたのか、野草さんに頼んだのかわからないが、キッチンや食事中に見た事のない葉っぱが干されていてた。この紐に床に転がってる洗濯物を洗濯してから干してくれ。

 そして机の方を見ると、アピスさんが突っ伏していた。

 寝落ちかよ……。

「ちょっとアピスさん、聞きたいことがあるんですけど!」

 俺はアピスさんの体を揺らすが、寝息はするが反応がない。仕方がないので、突っ伏しているアピスさんの両脇の下に腕を入れて、無理矢理上半身を起こして、イスにもたれかけさせる。が、まだ寝ている。だらしなく大口を開けて半目で白目むいて……。

 ガチのガッカリ系ナイスバディーな女性。複眼なのが個人的に本当にガッカリだけどな。

 とりあえず、この無防備なガッカリな女性をどうやって起こすかだよな。元海賊だったら水ぶっかけて起こすけど……、女性だしな……。

 とりあえず鼻でも摘んでみるか……。

「んがっ!」

 口呼吸に切り替えたか……。いくら何でも口を塞げば起きるだろう……。

 ふむ、一分経過か。これ以上は怖いな。

「はーーーっ」

 手を離したら、ものすごい勢いで息を吸い、睡眠を続けている。睡眠時無呼吸症候群? やべぇ、睡眠の神秘だ。

 俺は面白くなり周りに何かないか探すが、ペットボトルの蓋くらいの太さの試験管に、食べかけのバナナ、汚れた衣類に何かの薬関係。

 薬関係は素人が扱ったら、ダメ。ゼッタイ。鼻に洗濯ばさみ付けたいけど、洗濯バサミはないし……。この太さの試験管は絶対鼻の穴に入らないしな……。バナナしかないな。

 俺は食べかけのバナナを、一口くらいの大きさに千切り、口の中に入れた。

「おがっ?」

 アピスさんは口をもモゴモゴと動かし、また口を開けた。バナナはなかった。

 え? なんなの? 寝落ちしたら、ものすごく眠りが深い人なの? 俺の知り合いにも、昼過ぎまで起きない人いたけどさ。ちょっと引くわー、ここまでしても起きないとか、どうすればいいんだよ?

 汚れた衣類を濡らして鼻と口? 最悪死ぬな。

 俺はものすごく小さな【水球】を出して、鼻の中に垂らした。

「ごふ!」

 ものすごく咳込み、目を開けてイスから跳ね起きた。ここまでしないと起きないのかよ……。頼むから夜中は家に帰ってベッドで寝てくれ。

「おはようございます、もう昼ですが」

「あぁ、カームか。おはよう」

 口元の涎を袖で拭き、半目で頭を掻きながら俺の方を見ているので、起きてはいるようだ。

「なにか用かしら? それと寝ている女性の部屋に侵入しないで欲しいわね」

 腰に片手を当て、見た目は決まってるが、首から上が決まってない。あと服にも皺や汚れが目立つ。

 寝起きは良いみたいだ。起こされると不機嫌な人とかいるけど、アピスさんはそんなことなくてよかった。

「面白い冗談ですね。ちょっと聞きたい事があるんですが、平気ですか? 頭回ってます?」

「平気よ」

 けど半目でまだ眠そうだが、机にあった食べかけのバナナをかじっている。

「ルッシュさんに渡した薬なんですが、盛られた方の胃腸系が弱ってるんですが、放っておいて平気ですかね?」

「えぇ、多分。きっと精力増強剤と興奮剤、それと眠気が飛ぶ薬でも一緒に飲まされたんでしょうね。しかも酒が入ってる。多少弱っててもおかしくないわ」

「ルッシュさんは平気そうでしたが? それに盛られた方は、昼飯はパンをお湯で戻した物を、年越祭の翌日でもないのに食べてましたよ?」

「んー……ルッシュは、多分興奮剤と眠気が飛ぶ奴だけだったんじゃないかしら? やっぱり精力増強剤が多分決め手かしらね? 元は禁輸品の出涸らしだから、正規品で生成すれば、かなりマシになると思うんだけれど……。全部二人分用意したから、二人分でも飲ませたのかしら? なら食欲が落ちても納得できるわね。きちんと量を守れって言ったんだけどなぁ」

 ちょっとー、ルッシュさーん!? あんた何やってんだよ! 精力増強剤だけ二回分飲ませるなよ。用法容量は守ろうぜ?

「聞きたい事はそれだけかしら? なら裏手に畑だけでも作ってくれない? 植えたい種があるのよ」

「まだありますよ。ちゃんと一人一個づつとか言いました? あとどのくらいで治りますかね? 一応戦友に部類されるので、弱られると困るんですよ」

「そのうち治るわ、とりあえず畑お願い」

 さっさと薬草系を育てたいんだろうか?

「あ、はい……。今度胃腸系に悪い奴を作る時は、とりあえず胃薬も作っといて下さい」

 薬の飲み過ぎで、胃腸系が荒れただけか。オーバードーズ怖えぇ……。

 まぁ、畑作るか……。俺は裏手に回り、窓からアピスさんに声をかける。

「大きさはどのくらいですか?」

「適当で良いわよ。広ければ使わないし」

 ってかこっち見て喋ってくれ、会話より薬っすか。まぁ、ポーションの在庫余り気味だから好きにしてていいけどさ。

「労力とかの問題があるんですが?」

「根起こしとか、畑とか簡単に作るんでしょう? なら問題ないわよね?」

「魔力だって無尽蔵に湧き出る訳じゃないんですが?」

 俺は便利な何でも屋さんですか。確かに何にでも手を出してるけどさ。

「なら、この工房と同じ大きさで良いわ。足りないならまた言うわ」

「なら他の男手頼んで下さいよ。結婚相手捜してるんでしょう? 俺だって問題があったり、キースの事がなかったらここに来ませんよ?」

「なら仕方ないわね。さっさと出来るって話だから急造するなら便利だと思ったんだけれど……」

「あの、俺……。一応形だけでも偉いんですけど? 納品やら出荷の書類とか、今後の開発計画の書類読んだりとかあるんですけど?」

「さぼれる口実作ってあげてるんだから、感謝して欲しいわね」

「そうっすね……」

 確かに事務関係はさぼれるけど、肉体労働も立派な仕事です。

 俺はモリモリと土を耕し始めるが、

「普通の畑で良いです? 水はけとか気にします?」

 一応繊細な植物だったら困るからな。土壌がアルカリだったり酸性だったりで違うだろうし。

「強いから問題ないわ。それと、その辺にアルラウネ植えといて」

「……うーす」

 これがマッドサイエンティスト。人付き合いとかまったく関係なしで、自分の事しか考えてない。ある意味やっかいだなー。それに付き合う俺も俺だけど。

 俺は目に付いた赤い花を、三本を土ごと魔法で回りを掘り、工房側の両端と真ん中に植えて、たっぷり【水】を与えておいた。

「んじゃ終わったんで帰りますねー」

「お疲れさま。後はこっちで、わかりやすいように植えておくわ」

「俺にはやらせないんですね」

「お互い近くに植えると、変なのが育つ品種とかあるのよ。だから面倒でも私がやらないと」

「そうっすか、急に日光に当たって倒れないで下さいね」

「倒れたら多分誰かが見つけてくれるわ。後でお礼に何か(・・)差し入れするわ」

「ありがとうございます」

 立場逆じゃね?


 夕食前、執務室にキースが裏口からやってきた。

「おい、教えろよ」

 開口一番でそれかよ。本当に気になるんだな。

「んじゃ、ルッシュさんも呼んできて下さい。関係あるので」

 理由も聞かずに、キースは執務室のドアを開けてルッシュさんを呼んでくれた。

「今日の昼前、俺を魔王に任命した大魔王様に呼ばれました。理由は、カルツァが俺に靴を舐めさせた事による折檻でした」

「おいぃ! 本気で言ってるのかよ!」

 キースが、珍しく取り乱している。面白いな。

「急に呼ばれ、軽く事実確認を取られ、簡単な説明をしたら納得してくれたんですが、俺が特にやり返すつもりも怒ってない事も言ったら、いきなりテーブルを蹴られましてね。壁にぶつかってテーブル粉砕、そして大魔王様の下にはあの女貴族、カルツァが四つん這いでイスになってました……」

 二人を見ると、眉間に皺を寄せていた。だよね……。

「それで、人族との一部停戦に一役買ってた俺の功績を座ったまま話して、足の甲への口づけは隷属の証だったな、とか言いながら靴を脱ぐように剣を突きつけられ、足の甲にある魔王の刻印を出せと命令されたんですよ。そして少し脅されたカルツァが、四つん這いのまま寄ってきて、全面的に自分が悪い事を謝罪しながら、俺の足の刻印に口付け……。本当胃がキリキリ痛かったですね。困ったことがあったら申しつけ下さい、最大限の支援を無償でいたしますとか言っちゃうんですから、更に胃が痛くなりました」

 たしかこんな感じだった気がする。

「良く生きてたな」

「カルツァ様の方もです」

「本当ですよ。で、俺が怒ってないって言ったから、多分意志をくみ取ってくれたと思うんですよね。まぁ、返事はこれからも仲良くして下さいって感じで終わらせました。本当は無条件での金銭の無償提供で許して下さいって言ってきたんですが、それだと俺が嫌なので、利子云々は兎も角、もしかしたら借りに行くかもしれませんし、書類も残します。って感じでお開きです」

「相変わらず馬鹿見たく優しいな」

「普通なら、そんな醜態を見せた貴族にはつけ込むところですけど……」

 二人とも酷いな。

「いやいや、大魔王様の前で下手な事できないですよ。気が付いたら喉元に剣ですよ? さっきまで手ぶらで円卓の向かいで座ってたのに、どこから出して、どうやって一瞬で喉元に突きつけたんだって話になりますし」

「どんだけ早いんだよ。腰に剣がぶら下がってても、抜くところは普通に見えるから、避けようと思えばそれなりに動けるぜ? 気が付いたら喉元に剣って。どんだけ早いんだよ」

「その話を聞く限り、賢明な判断ですね。先ほどの発言は撤回します」

 大魔王様イコール国王様って言ってないし、余計な事も言ってないから平気だよね?

「あと、考える限りでは情報筒抜けです。大魔王様の部下が、この執務室に転移してきましたし。とりあえず話せる事はここまでです。これ以上喋ると、確実に殺されますので」

「まぁ、話を聞く限り、俺はスカッとしたな」

「意趣返しとしてはまぁまぁですね、最悪お金を借りに行き、事業の拡大を狙いましょう」

 君達、現場にいなかったからそんな事言えるけど、本当はもっと酷かったんだぞ? 望んでもいない、知りたくもない情報も与えられるし。殺気も威圧感も凄かったんだからな。

「けど、カームが反応できない早さかー。一回会って見てぇなぁー」

「私もです、興味がわきますね。一度会ってみたいですね」

「止めておいた方がいいですよ? 言ってませんでしたが、殺気で動けなくなりますし、返事は肯定の類しか言えませんでしたよ」

 わきあいあいと会ってみたいとか言ったのに、二人ともひきつった笑顔をしていた。

 だよなぁ、魔王部下だって魔力垂れ流しで、近寄りたくないもん。

「青雲を駆ける」を書いている、肥前文俊様の「書籍化作家に聞いてみた。面白いものを書くための15の質問+1」という物に答えさせていただきました。

もしよろしければ、見ていただければ二人とも喜びます。


http://ncode.syosetu.com/n3654cm/

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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