第174話 子供の事を話した時の事
このままだと2017年の1月1日の投稿になるので、二話連続更新の一話目です。1月1日は更新しません。
年越祭、俺はいつも通り故郷で過ごすが、帰る前にアルカイックスマイルで、キースの肩をぽんぽんと叩いた。
何を勘違いしたのか、
「ルッシュとの約束も守ってるし、ちょこちょこ会いに来て実績も積んでるから多分平気だ。安心して故郷に帰って、帰ってきたら俺の報告を楽しみにしてろ」
そんな事を笑顔で言ってきた。どう聞いても死亡フラグにしか聞こえない。
違う、違うんだキース。俺はこの後の展開はある程度読めるし、どうなるかも知ってる。問題はお前が薬でどう豹変するかで、今後どうなるかが変わるんだよ。
酔った勢いで媚薬も入ってるかもしれない精力増強剤とか、どうなるかわからねぇ。その状況でどうルッシュさんと接する事が出来るかで、本当に今後の人生に関わるからな……。こんな笑みにもなる。
口止めはされてないが、あの日の事を言えるはずがない。言ったら大変な事になりそうだからな。
「まぁ、大切な日だ。酒は程々にしとけよ」
「あぁ。けどな、俺の告白を受けてくれたら嬉しくて、少し多く飲んじまうかもしれねぇ」
「そうか、程々にな……」
なんもいえねぇ……。
俺は、お前とルッシュさんとの子供を楽しみにしてるぞ。きっと目つき悪い、三白眼のかわいい男の子か女の子だ……。
結末を知ってるレースは、見てて面白い事もあるかもしれない。だからどう動くか、行動を注視してる事が楽しみになる。
とりあえず俺は観客で、お前はピエロだ。すまないな。
そしてなにより、それをリアルタイムで見れないのが残念だ……。
「んじゃ、故郷に戻るわ。色々楽しんでくれ」
「おうよ!」
キースは、もの凄い爽やかな笑顔で俺を送り出してくれた。本当にすまない。
ベリル村に戻ると、数回前の帰宅から雪がちらついていたが、転移したら膝くらいまで積もっていた。今年は雪が多いな。
「ただいまー、外クソ寒い」
「おかえりなさい」
ミエルは、暖炉の前で鍋の世話をしていた。最近はかなり腕が上がって、ミエルの作る料理はラッテより上手くなっている。
「うおー、あったけぇー」
俺はミエルの横に座り、鍋を開けてみた。内臓とすじ肉だった。牛肉はあまり出回ってないから豚だろうな。
スープは濁っておらず、丸々のタマネギやショウガ、色々な香草も入っていて、この時点で臭くはない。浮いてる油で黄金色に見えるくらいだ。
「お、美味そうだな。ってか絶対美味い」
「これから小麦粉をバターで炒めて、トマトとか香辛料を入れて、それを入れてみようと思ってるんだけど、どう思う?」
トマトは、野草さんが品種改良した巨大トマトの果肉を、オリーブオイルで漬けてた物をちょこちょこ持ってきてるから、備蓄は半年分はある。もちろん村にも卸してるから、冬でも村全体でトマトが楽しめる。
「そうだな……、水っぽさがなくなるまでドロドロにしても美味いかもしれないな。その場合は匂い消しの香草は取った方がいいかもな。それかトマトだけでサラサラにして、ジャガイモと人参とかも入れて香辛料で味を調えてスープにするか……。肉は下処理が丁寧にされてるから、どっちにも合うと思うな」
ハッシュドビーフ的な物か、ポトフ的な物だ。
「んー。今日は本当に寒いからスープかなー」
「そう思ったならそうした方が良い、献立を決めたのはミエルだ」
「父さんに言われると、少しだけプレッシャーが」
「この時点で美味そうなんだから自信をもて。これは美味くなるぞ。で、三人は?」
「母さんは買い物、スズラン母さんとリリーは会場設営」
「そうか、ある意味適材適所だな」
村人の人口が年々増えてるので、全員で設営って事はなくなった。だって絶対多すぎるし。
さて、俺は何をするかな。昼食はミエルが作ってる……。暖かい飲み物でも作るか……。
果実酒に胡椒とシナモンを入れて超弱火でコトコト。そして、好みで蜂蜜を入れる為にテーブルに置いて……。
終わっちゃったよ……。
「ただいまー。さすがに外は寒いねー」
コートとマフラーを着用していたが、ラッテの頬や鼻は寒さで真っ赤だった。
「おかえりー。はい、暖かい果実酒。テーブルの上に蜂蜜が出てるから、お好みで」
「ありがとー、すごく寒いから暖かい物はうれしー。ミエル君、暖炉の前を明け渡すのだ!」
そんな感じで、暖炉の中央をミエルから奪っていた。すげぇいい雰囲気の親子だよなー。自然と笑みがこぼれる。
「ただいまー。人数が多かったから直ぐに終わったよ。あ、お父さんおかえりー」
「おかえり」
「はい、ただいまー」
二人に飲み物を渡し、二人分をカップに注ぎ、暖炉の前に陣取っているミエルにも渡した。
そして俺は、多めに蜂蜜を入れ、ホットワイン的な物を飲む。んー幸せってこんな感じだよなー。
「お父さん、ちょっと相談があるの」
「んー? なんだい?」
テーブルで、ボーっとしていたら、リリーが真剣な顔で相談があると言ってきたので、少しだけいやな予感がする。
「雪の中でも稽古をして欲しいの」
やっぱりなぁ……
「ふむ……。こっちの準備はあまりいらないけど、今日は年越祭だから駄目ね」
「じゃあ、いいんだね?」
「気は乗らないけどね」
雪上戦かぁ……。あれは待機時間や足跡がなぁ……。
それに、前世での雪上戦で良い思い出がないんだよなぁ。厚着して腹にクシャクシャにした新聞紙詰めて、ペンキ塗りに使う不織布のツナギ着て、三十分以上雪の降る中雪の上で寝転がって敵が来るまで待機してたけど、三日くらい腹痛で便も緩くなったし……。まぁ良い思い出だ。
エアガンにも包帯巻いて、真っ白にしたんだからな!
そんな事を思い出してたら、ミエルが昼食の準備を終わらせ、内臓とすじ肉のトマト煮込みスープとパンが出てきた。んー良い香りだ。
「「「いただきます」」」
スープを口に入れると、臭みのない内臓がプルプルしてて簡単に崩れ、すじ肉も良い具合に柔らかくなっている。これは別々に処理をしたな。
野菜類も良い感じで味が染み込んでるし、文句はない。
「んーおいしいー」
「本当、堅くてグニグニしてない」
「おかわり」
俺だけコメントをしないで、口の中で色々と楽しんでいたらミエルが心配そうにこちらを見ていた。あぁ、俺のコメントが欲しかったんだな。後スズラン食べるの早すぎ。
「安心しろ、すごく美味い。これなら村や町でも食堂が開けるぞ。そしてお代わりだ」
木製の深皿を笑顔で差し出した。
笑顔で言ってやったら自信も付くだろう。実際美味いし!
夕方になり、家族全員で数ヶ所存在する会場に行くが、大人組と子供組でわかれてるので、途中で別れる。
「おー、こっちだぜー」
酒場に入ると、ヴルストが席を取っていてくれたらしく、そこに向かう。なんだかんだでいつものメンバーになる。
ちなみにスズランとラッテは嫁組に呼ばれ、そっちに行った。
「おーおー、プリムラやシュペックから聞いてるぞ。リリーちゃんと一悶着あったんだってな」
「んーまぁね。あんな戦い方は二度としたくないけど、納得はしてくれただろ……」
シュペックが注いでくれた麦酒を飲みつつ、特に気にしてないそぶりで答える。
「優しいカームが、娘の顔を思い切りぶん殴って気絶させたって噂が流れてるけど?」
シンケンがそんな事を言い、少しだけ咽せた。
「噂って怖いなぁ……」
「で、本当は?」
シュペックも興味があるのか俺に聞いてきた。夕方に送ってきてもらったところまでしか知らないんだっけ。
「あんまりやらない近接戦で、首締めて気絶させた。武器使ったり殴ったりしたくないからね。ってかタフすぎて殴る気にもなれない。そして首を絞めた時に抵抗された傷がこれね」
腕をまくり、少しだけ肌の色が変わっている部分を見せた。
「ん? 首しめたって言うけど、何でそこだけ傷ついてるの?」
シュペックが不思議そうにしていた。
「いやいや、正面から両手で首つかんで気絶させてたら、前蹴り食らってアバラが折れるか、俺が女として生きる事になるぞ? こうだよこう」
俺は隣に座っていたシュペックに、ガッチリとスリーパーホールドを決めた。
「こう、上手く行けば簡単に首が締まって、直ぐに気絶させられる。息が出来なくて気絶って言うより、血が止まってなにも考えられなくなって気絶する。だから暴れられて、腕のところに傷跡が付いてる。軽く気持ちよくなってみる?」
「いや、いいよ。離してよ」
脳に酸素がとか言っても通じないだろうから、これで済ます。
「へー、僕には絶対出来ないなー。遠距離専門だから」
シンケンは笑いながら麦酒を飲んでいるが、シュペックが良い感じに技が決まっててグッタリし始めたので、あわてて技を解く。
「本当だ、なんか頭がぼーっとして、目の前が真っ白になってく感じだった」
「まぁ、そこまで持ってくのに何回も良いのもらって、こっちが気絶しかけたけどね。まぁ、力一杯締め付ければ本当に直ぐだよ」
笑いながら麦酒を煽り、シュペックに謝った。
「で、今どんな感じなんだい? 村に夏野菜の油漬けとか色々卸してるのは知ってるけど」
「そうだなぁ。順調に人が増えてるよ」
酒を飲みながら今年一年の事を大体で話し、大きな事としては、日本酒の製造、味噌醤油の製造、繊維や裁縫関係が本格的に稼働する事を伝えた。
「本当、大きくなってるねー」
「だなー」
「この後は自警団とか、島民の教育とか色々必要だけど、島の内陸も利用したい。まだまだ土地が余ってる。湖で鴨や魚の養殖、収穫物の効率化、人手の確保、商品や島の宣伝広告、共同住宅の建築や管理人の育成、倫理向上に――」
「飲め! とりあえず飲め!」
「七回くらい季節が巡ったベリル酒だよ!」
「僕はつまみ持ってくる」
少しだけ愚痴っぽく、来年の目標を言うと毎回止められる。まぁ、しかたないな。
俺はグラスでもらったベリル酒に、魔法で作った綺麗な球体の【氷】を落とし、チビチビいただくことにする。
うん、香りが良いし煙たさをあまり感じない。これは手土産で持ってきたチョコレートで飲んでも良いけど、そのままいただこう。
「でさ、子供を二人目を作ろうかって話になってるんだよ。一人目がもう自立出来るし手もかからないし、蓄えもできてきた。どう思う?」
「どう思うって言われてもなー。明るい家族計画? それしか言えないなー。もういい大人だし、蓄えがあってもう一人欲しいな? って思えばいいんじゃないのか? まぁ、時期を間違えると、プリムラちゃんの子供と同じ時期に生まれちゃうかもしれないから、早めにするか、遅らせるかじゃないの? あと一回年越祭来れば卒業だし、そろそろ子供とかも作れるんじゃない?」
「うっ……確かにそうだな」
ヴルストはなんか真剣に悩み始めてしまった。
「カームのところはどうなんだい?」
「ん? うちかー。子供達が短い期間に二人産まれて、ちょーっと大変だったし、そのおかげで兄弟姉妹が欲しいとかもなかったからね、それぞれの二人目は子供達が旅立ってから決めようってなってる。その場合は、島で作って島で産んでーって感じかなー」
「ふーん。じゃあさ、二人が旅立ったらベリルに戻ってこないの?」
シュペックが肉を食べながらそんな事を聞いてきた。
「故郷だからね、たまには戻ってきたいなぁ。戻ってくる頻度は少し下がると思うけど、店のおばちゃんが俺に商品を卸してくれってうるさいんだよね。多分あんまり変わらないと思うし、ベリル酒も買いに来るかもしれない。正直わからないなー」
子供達二人が旅立つのを見届けたら、スズランとラッテを島に連れて行く事は言ってあるし、了承ももらってる。本当どうなるんだろうな。
「冬にトマトが食べられるのはすばらしい事だからね。僕としては是非ちょこちょこ戻ってきて欲しいね」
「だよなぁ。俺は村じゃ夏野菜を持ってくる商人だもんなぁ」
「そうそう、塩と砂糖と香辛料もね。トリャープカとレーィカも料理するから調味料が安くなって助かってるよ」
「ふむ……。やっぱり定期的に戻ってくる必要ありだな。で、シンケンとシュペックは二人目は考えてないのか?」
「子供が独り立ちしたら、夫婦でイチャイチャしたいっていってるからなぁ。出来たら考える」
早く作りすぎて、夫婦の時間がなかったんだろうか?
「もの凄く先の事が想像できないから、色々怖い」
シュペックが可哀想です……。
「そうか。まぁ、二人目は各家庭でって事だな。一人目はほら……。クチナシが出来ちゃって。周りのみんなも欲しいってなっちゃったのが原因っぽいし」
ヴルストが恥ずかしそうに麦酒を飲み、二人が首を縦に振っている。そんな事より孫が先になりそうな感じもするけど、孫の顔を見ることが出来るのは、俺が確実に最後だろうな。最悪見られないかも?
冒険者家業を切り上げて、ベリルに戻るか、島に来てくれれば見れるかもしれない。
流石に現役で子供を作るような事はしないだろう。うちの父さんと母さんがそうだったし、スズランの両親もそうだったからな。
んー孫かぁ。俺もイチイさんみたいな、干し柿のように、甘い声であやすんだろうか?
ふむ……、悪くはない。
ただ、俺に弟か妹が出来ることだけは勘弁だな。
サバゲでの雪上戦経験談は、作者の経験談です。




