第172話 色々な意味で濃い面子が揃った時の事
俺は、パーラーさんのキッチンで、マイスさんに魔法のイメージのコツを教えていると、炭酸水が作れるようになり、ソーダ割りは問題なくできるようになった。
炭酸水に酒入れるだけって言ったら、全国のバーテンダーさんにぶっ殺されそうだけどな。
後はジンジャービアを作らせて、炭酸水で割ってジンジャエールでも作らせようかな。
そんな事を思っていたら、マイスさんが集中しながら【炭酸水】を作っていたので、
「あ、モヒートお代わりお願いします。強めで」
途中で話しかけ、集中力を切らせてみたが。
「うっす!」
元気な挨拶と共に、砂糖とミントをカップに入れ、潰してからラムを入れて、作り溜めしてあったクラッシュアイスと、炭酸水を入れてモヒートを作ってくれた。
まぁ、言葉使いはそのうち直させよう。
「カーム、裁縫屋と錬金術師を乗せた船が着いたみたいよ?」
モヒートを飲んでいたら、パルマさんが報告してくれた。
「今行きますと伝えてください。片付けを済ませたら、余った材料はそちらで消費してください。急ですみません」
「別にいいっすよ、酒が飲めるんで!」
「ならその辺の人にも振る舞ってください。気を付けるのは、その人の好みの酒の濃さと氷の細かさですから!」
俺はそれだけを言い残し、湾の方に向かう。
テーラーさん姉妹と、アピスさんはちょうど船から下りてきたところだった。ちなみに同じ顔が三つ見える。
見た感じ姉妹って言うのはすぐわかる。すぐわかるけど、一卵性の三つ子? それとも、もの凄くそっくりな姉妹さん的な? 一瞬クローン羊を思い出したわ。
「なに? 人の顔を見て止まっちゃって」
「そっくりな姉妹ですね」
とりあえず笑顔でごまかしておいた。
「「よく言われます、これから姉妹共々よろしくお願いします」」
笑顔でハキハキと挨拶をされたが、妹が双子って説も出来てきたな。喋る内容と声質が同じ、タイミングも良すぎてびっくりしたわ。ってかテーラーさんと同じ声だわ。三人一遍に喋られたら誰だかわかんねー。
「おもしろいわよね、双子でも三つ子でもないらしいのよ」
アピスさんがそう呟くと、俺はもう一度三人をジロジロと見てしまった。んー、どこが違うのかがわからない。テーラーさんは口調でなんとなくわかるけど、服で見分けるしかないぞ? ってか仕立屋! 同じ服を着るな! 色くらい分けろ! 狙ってやってるのか?
胸の大きさはほぼ同じ、身長もほぼ同じ、髪型もそっくり! 駄目だ、わからない。ってか最初に胸に目が行くのは多分男性の性です!
「人の事ジロジロ見ていやらしいわね。そう言うのは、本人に気が付かれないようにするものよ? 次やったら、服の丈をヘソが見えるくらい短くするわよ?」
いや、見分ける為の基準が欲しいんだよ。必死で探してるんだよ!
「申し訳ありませんでした。では、自宅の方まで案内しますので付いてきて下さい」
もういいや、残りの二人はどうにかして見分けよう。
第一村の商業地区近くの空き家まで案内し、荷物を置いたら、工房まで案内した。
「打ち合わせ通り、ここが店舗になります。後で荷物を運ばせますので、今は物がなくても我慢して下さい」
「姉さん、この木の人形すごいよ! 首と腰と手足が外れる!」
妹Aさんは、マネキンを見て驚いている。ふふーふ。勇者の知識と、織田さんに鍛え上げられた職人の技術を堪能しまくってくれ。
流石に球体関節人形は無理だったけどな。
「布の収納に関しては申し分ないわね、この引き出しが高級品用の棚かしら? それに作業台も広いし、色々機能的ね」
テーラーさんも色々いじくっている。嬉しいんだろうか?
「姉さん。このハサミ、もの凄く切れ味が良くて凄く怖いよ? 刃に触っただけで指の薄皮が切れるの、研いだばかりの包丁みたい」
妹Bさんもはしゃいでいる。
「後は自分達で、作業しやすいように配置とか決めて下さいね。ではアピスさんの工房に向かいましょう」
俺は案内をしようと思ったが、
「あ、物によっては悪臭がするから、村外れが良いんだけれど」
「え? そんなの聞いてませんが?」
「一般常識だから言わなかったわ」
「え? テーラーさん知ってました?」
「もちろん知らないわよ?」
「「私も」」
よかった、俺だけ知らないのかと思ったわ。
「おかしいなぁ。一般常識だと思ってたのに……」
「錬金術師の一般常識ですかね?」
「だと思うわよ?」
テーラーさん姉妹は、真顔でうなずいている。やっぱり一般常識じゃないよな……。
「じゃ、じゃぁ村外れの工房まで行きますね」
「えぇ、そうしてちょうだい」
一般常識じゃなく助かった。
アピスさんを一番外れの工房に連れて行き、他と似たような作りの、何にでも出来るように、必要最低限の棚と机しかない工房に案内する。
「何? ここ私が使っていいの? 自宅に案内されたけど、私はここで良いわ。必要最低限ならあの隅にある机だけで足りるし、あとはベッドだけね。ベッドもここに運んでちょうだい」
「えぇっと。ここは工房として作ったので、キッチンや浴室がないんですけど……」
「食べ物は作らないし、体は拭ければ問題ないわ。棚もそこまで必要ないのよ、その辺に箱毎置いちゃうし」
「いや、薬剤関係なんでせめて丁寧に扱って下さいよ。あと、何の為の棚ですか……」
「日に当たらないと、弱る植物を置くんでしょ?」
そこだけ聞くとすごいお洒落な棚の活用術だけど、勧誘しに行った時は、着た洋服とか下着類が床に脱ぎ捨ててあったし、もしかしたら一週間でごちゃごちゃになるかもしれん。埃系もやばいんじゃないの? 材料も何となく不衛生になっちゃ不味いんじゃないの?
「あの、ここまで通ってくれませんかね?」
「気が付いたら朝で、ベッドに入ったけど明るくて眠れなかったからそのまま作業を続けて、気が付いたら夕方で、寝ようかな? っ思ったら机に突っ伏した状態で気が付いて、昼間だった事はあるわね」
寝落ちっすか。言葉が見つからないっす……。
「しっかり寝たはずなのに、なんかフラフラするなーって思ったら。多分三日くらいご飯食べてないのを思い出して、着の身着のまま食堂に行ったら、出禁食らったわ。何が原因だったのかしら? 良くわからないのよね」
こめかみに指を当てて、本気で考えている。冗談じゃないの!?
「なんか薬作ってる時の臭いが服に染み着いてたか、ただ単に臭いだけだったか、汚れまくってたんじゃないんですかね?」
「女性に向かってそれはひどいんじゃな――あー、精力剤用に毒虫を薬液に付けてた奴が、起きたらなくなってて、確か妙に袖とおなかの辺りが冷たいなって思ってたけど、多分それだったのかしら。アレけっこう臭うから」
「それじゃねぇっすか? ってかさっさと荷物置いて湯浴みしてきて下さい、それと洗濯して下さい」
「服って、脱いで日光に晒して置けば綺麗になるんじゃないの?」
開いた口が塞がらないってこの事か。確かに洗濯が出来ない状況で、風通しの良い場所に最低天日に三時間当ててれば、小さな虫とか雑菌関係は死ぬけど、臭いは別だ……。
「今すぐ風呂に入って洗濯して下さい」
「二回も言わないで欲しいわね」
「三回目も言って欲しいですか?」
「多分私がこの島にいる限り、何度も言われると思うわ。ねぇ? 家事全般とか、私の世話をしてくれる男性ってこの島にいないかしら? 報酬は私と結婚出来るって事を言っておいて欲しいの。もちろん夜の相手のお供に、毎回精力剤も付けるわよ? それに夜の経験は今までなし。男は初めてを好むって言うし、性的魅力としてこれくらいかしら? あー胸もあるわね。どうかしら?」
主夫をお望みですか、ってかそんな情報いらなかったわー、すごくいらないわー。ってかセックスアピールがそれだけなのも、ある意味女性として問題なような? ってかなんかこう、ムンムンと滲み出てくる仕草とか色気がずぼらすぎて無いし、フェロモン関係が確実に薬品で消えてる。
保護欲? なんか妙に沸かない。
「なら定期的に島を出歩いて、アピスさんの事を見て、好きになってくれる人がいる事を祈って下さい」
「向こうから来てくれないと無理ね、最悪籠もりっきりか、家との往復よ。ねぇ、貴方偉い人なんでしょう? 私の事もらってくれないかしら?」
「いえ、間に合ってます。むしろ勘弁してください」
主に、目と思考的な意味で。
「ちょっとだけ傷つくわね。まっ、そのうちどうにかなるか……」
アピスさんは、後頭部をボリボリと掻きながら、工房の隅の机に向かい、イスに座って突っ伏した。
そういうところがダメポイントなんだと思うけどなー。
「あら、意外に快適な座り心地。このまま眠れそうね。毛布だけ持ってきておこうかしら?」
もう何も言えねぇ……。俺は逃げるようにして、アピスさんの工房から逃げ出した。
「おら、交渉して格安で乗せてやったんだから、ハキハキ動け!」
湾に行くと、船から荷降ろし中になぜか人族が怒鳴られてる。近くにいた船員に訳を聞くと、雑用するから安く島まで送ってくれ。島からは別の船で、人族の大陸のどこかに行くから。という理由で乗せたらしい。
今までにもそう言うのは何件かあったし、この島に色々買い付けに来て、そのまま人族側の大陸のどこかに戻る船もあるからな。
ん? どこかで見た顔だな……
割れ物と書いてある木箱を、大切に抱えている人族に見覚えがある……。どこだったかな……。
そしてその人族がこちらに気が付いたのか、荷物を丁寧に下ろして近づいてきた。
『あー、あんたか、久しぶりだな』
『お久しぶりです。えぇっと……』
やべぇ、胃の辺りまで出掛かってるのに、思い出せない……
『あんた、俺の事忘れてるだろう? お茶は安物で不味かったけど、牢屋で飲むのには美味しかったよ。お礼を言い忘れてた。ありがとう』
あぁ! 最前線基地で人族語を教えてもらった!
『ジョンさん、生きてたんですね!』
「まぁね。戦場で殺されはしなかったけど、共通語が喋れるからそのまま魔族の大陸で強制労働。その後通訳として、停戦条約で解放されるまで軍事基地っぽい場所で書類作成、今はお金を稼ぎながら、人族の大陸目指して故郷に帰る途中。たぶんもうなくなってると思うけど。とりあえず帰ってみるって感じかな。あったらそこに住む。なかったら……ここに戻ってこようかなーって今思ってる最中」
すげぇ人生送ってるな。
「少し老けましたね」
「おいおい、久しぶりに会う教師に対して、それはないんじゃないか? ってか、魔族が特殊すぎるんだよ。季節が五巡以上はしてるんだぞ? 変わってない方が人族基準ではおかしいね」
左の口角を上げながら変に笑い、ヤレヤレといった風にあの時のようにしている。
「おいこら! 船で働くって契約で格安で乗せてやったんだから、荷下ろしが終わるまでさぼんじゃねぇ!」
「あーすまない。昔世話をした生徒に会ったからつい嬉しくてね」
変わらないなー。
「そう言う契約なら仕方ない、先生でも働いてきてください」
「カームさんの先生なんすか!?」
先ほどから怒鳴っていた船員も、興味深そうにしている。
「ちょっと昔に、人族語を教えてもらいましてね」
『ちょっと教えてあげたね』
「けど契約は契約なので、働いてきてください」
『こいつは手厳しいね。まあ、人族の大陸に行く船が来るまで、お世話になるよ』
「話す時は、どっちかに言語を会わせてくださいよ。両方理解出来ますけど、頭痛てぇっすよ」
「俺は共通語しかわからないから、何言ってるかさっぱりだ!」
『まぁ、仕事だから荷物下ろしてくるわ』
ジョンさんは、ふらっと船の方に戻って行った。本当に少しだけ老けたなー。ってか本当にあの頃から行動がよめねぇ。
「勝手に入ってこられては困ります!」
ルッシュさんが誰かに注意する声が聞こえ、ノックが聞こえたので返事をしたら、執務室にジョンさんが入ってきた。船の荷下ろしが終わったのか。
「やぁ、なんかそこに座ってると偉いみたいじゃない?」
「えぇ、何となくで偉い奴やらせてもらってます」
嫌味っていうより、確認っぽい言い方だったな。
「君を捜そうと、場所を聞いたらここだって言うもんだからさ、びっくりしちゃったよ」
「あの、お知り合いで?」
『あぁ、人族語をカームに教えた先生ってところかな』
ジョンさんは少しだけ振り向き、人族語で喋った。
『そうでしたか。積もる話もあると思いますので、係りの者にお茶を淹れさせますね』
ルッシュさんも人族語で返した。
「彼女魔族なのに、人族語出来るんだね」
「大きい商家の娘だそうです」
「へぇー、だからか。確かにこんな事してれば、話せた方がいいよね」
意外だったらしく少しだけ驚き、ジョンさんは机の上に腰掛けた。
ルッシュさんをなめないで欲しい、俺が喋れない魔族語も出来るんだぞ! なんか、魔族側の大陸の、奥の方に行かないと聞けないらしいけど。
「で、旅人用の安い宿はどこだい? 少しだけ世話になるよ」
「申し訳ないんですが、まだ観光用に島を作ってないので、宿がないんですよ。ですので、来客があった場合に使ってる家屋でよければ、宿泊可能ですよ」
「ならそれでいいや。お茶でももらったら案内してもらおうかな。多分今すぐ行くと、お茶が無駄になる」
「応接室に行きます?」
とりあえず無駄だと思うけど聞いてみた。
「この島に金を落とす客じゃないんだから、そこまでは良いかな。ここで飲むよ。問題ないだろう?」
「問題はないですね……」
本当に行動が読めないな。明後日の方向の答えが返ってきたぞ。
ジョンさんは、パーラーさんが淹れてくれたコーヒーに砂糖をドバドバ入れて飲み、一息付いている。
「この島で各地に降ろしてるって噂だね。で、ミルクはないのかい?」
「牛が少ないので、この島では希少品です。代用品はありますけどね」
「ふーん。色々がんばってんだなー」
そんな他愛のない、内容がない会話をして、一息入れた後に来客が泊まる家に案内することになった。もちろん俺の息抜きの為に!
第一村の中を歩いてると野草さんとすれ違い、軽く挨拶だけして、ジョンさんを送ろうとしたら、
「ジョンお兄ちゃん!?」
「オリヴィアじゃないか……。どうしたんだこんな島にいて、村はどうしたんだ?」
ぉぅ……、前にチラッて聞いたジョンお兄ちゃんは、同一人物でしたか……。
「あ、ちょっとおじゃまみたいなので、野草さん、あとはお願い――」
お願いしますと言い掛けたところで、野草さんがジョンさんに抱きついていた。
「もう会えないかと思ってた!」
あ、これ近くにいちゃいけない奴だ。そんな目と引きつった笑顔でジョンさんを見ると目が合い、軽く首を縦に振ったのでその場を離れることにした。
「いやー、感動的な再会だな」
少しだけいい気分で執務室に戻ろうとしたら、ルッシュさんが戸籍表の書類を持って、ゲッソリとしていた。
「どうかしました?」
「えぇ、戸籍管理の件で、三つ子でも双子でもないもの凄くそっくりな仕立屋姉妹と、錬金術師の方に簡単な質問とかをしたんですが……。何度見ても同じにしか見えず、判断材料は口調と性格のみ。本人達曰く姉妹の中で、胸が少しだけ大きい、お尻が少しだけ大きい、腰回りが少しだけ細いとかいわれましても、服の上からでは判別出来ません」
「少しだけって……」
ルッシュさんが愚痴を吐くなんて珍しい。
「それぞれの大きさを測った紐を見せてもらいましたが、指を横にした時の長さしか変わりませんでした」
ルッシュさんは、右手の指で左側を指すようにして俺に見せてきた。
それって、それぞれの誤差が二センチメートルくらいじゃない? 絶対クローン羊だわ。
「そして、錬金術師の方は、私が知ってる常識が通じませんでした。犯罪歴はないといってますが、危険指定されてる薬剤のレシピを十数種類知っていて、何回か頼まれて作ったらしいです。本人曰く『薬は使い方次第で毒にも薬にもなるから、使う人の良心次第。少量だけなら薬になる物が多いし、たくさん飲むから危ないのよ』と、罪の意識がありません」
「んー、本当に考え方次第ですね。俺も、武器は人を殺さない、人が人を殺す。って考えなので、多少は言いたい事は理解できます。作った人や物に罪はないですし、使い方を間違えなければ、確かに何かに効く薬なのかもしれません。まぁ、悪いと思ってないのが問題なだけで、とりあえず注意だけ促して、作らせた方の罪を重くしておきましょう、アピスさんも怒られれば、そのうち学ぶでしょう」
大量殺人や事件があったからって、物を規制するのは間違ってるからな。使い方を間違えたのは人だし。
個人的な意見だけどな。
まぁ、ダイナマイト開発した人も、逆に戦争に利用されちゃってるし。使い方次第って怖いよなー。
「……わかりました。この話は後で詰めていきましょう」
「ですね。んーけどなぁ。問題はテーラーさん姉妹かぁ。色違いの服とか固定で着てくれないかな、もしかしたら服を取り替えて入れ替わる可能性もありますけど」
俺がため息と共に呟いたら、ルッシュさんもため息を付いた。
もうあの姉妹は、変な意味でどうしようもねぇな! 俺の中で! とりあえず、ハサミジョキジョキがなければ俺の心の平穏は何となく守られる。
あ、ジョンさん……。もしかしたら島に住むかもしれない……。
副題:スミス 生きとったんかワレ
作者は、これはこれにしか使えないって使い方が嫌いですが、モラルのない使い方をする人が悪いと思う派です。
売る方は、正しく使ってくれる事を信じ売ってるだけで、用途以外の使い方をされただけで物を規制するとかは間違ってると思います。
※間接的な例え話は避けておきます
なんでフェロモンとホルモン間違えたし……




