第171話 やばい商品を薦められた時の事
先週は腰痛がひどく執筆できる環境ではありませんでした。
体調管理ができずに申し訳ありませんでした。
故郷の収穫祭も終わり、特に変わらない毎日が続き、そろそろ年越祭の準備もぼちぼちはじめるかなーという頃。テーラーさんの作業場ができあがり、どうするかの打ち合わせをしにセレナイトまで向かった。
数回ほど通った道を通り店に入るが、やっぱりカウンターにいない。
大声でテーラーさんを呼ぶと、やっぱり布用の大きなハサミをジョキジョキさせながら出てきた。本当に勘弁してほしい。
「あら、どうしたのかしら? もう話は付いてたと思ったけど?」
ジョキンと大きな音でハサミを閉じ、イスに座った。
「店舗と作業場が出来たので、引っ越しはどうしましょうか? って相談です。年越祭が近いので、終わってからにしますか?」
「引っ越しましょう。そういうのは早い方がいいわ、妹達にも話をしてくるから、詳細をお願い」
決断が早いな。
「わかりました」
俺はこれから島に戻り、アクアマリンで所有してる船をセレナイトに向けて出航させ、船長に話を付けておくので、荷物をまとめて置いてほしい事を伝え、荷物を運び出す日雇いの雑用を雇う賃金を渡した。
「雑用専門でやってる業者とかいますかね?」
「冒険者ギルドで、ランク1の新人を使うのが一般的ね。一日銀貨一枚で、荷物整理。港に船が着いたら船に乗せるのに一日。妹の工房も合わせてこの規模なら、三人いれば十分ね。妹が荷物の搬入でたまに一人雇うから、ギルドに依頼し慣れてるわ。だから任せてもらっていいわ」
依頼し慣れてるなぁ。
「では、島から五日でセレナイトに着きますが、六日後に港に入港するように言っておきますので、その流れでお願いします」
「わかったわ。なら五日後に頼んで、翌日搬入で合計二日分って事で頼む事にさせるわ。残ったお金は島で返す事にするわ。そのかわり、何か私達の身分を証明できる物をお願いできるかしら?」
「わかりました。メモに一筆でいいですかね? 一応船長にも話は通しておきますけどね」
俺は紙を一枚もらい、
『この方達は、アクアマリンに移住してくださるお客様ですので、荷物や当人を丁重におもてなしをお願いします。カーム』
そこに簡易版の判子をインクで押し、一応証明書っぽくした。コレで平気だよな?
「あら、お客様で丁重……。好待遇なのね」
「えぇ、なんか例の布がものすごい物だと、とある商人から聞きまして……。あの時に具体的な値段聞いてませんでしたし」
「聞かれませんでしたし。言ったら何か変わりました?」
笑顔で言われた。
「えぇ、ものすごく変わりました」
笑顔で答え、とりあえず靴ペロ抜きで今までの事を話した。
「あらー、もったいない。まぁ、安全を買うなら妥当な値段かしら? そっちの物事に対する姿勢ならね。後腐れなさそうだし、いいんじゃない? お代わりしてきたら、家ぐらい燃やしてやりなさい。たぶん露出してる部分だけ炭化するわよ? まぁ、その前に息が出来なくて死ぬと思うけど」
テーラーさんは偉い人とか何となく嫌いそう。ってか耐熱っていうけど、どの程度なんだ? 火竜退治に使われる? 奴らの吐く炎がどの程度かわからねぇけどな。姐さん? 砂浜が全部ガラスになりそうだから勘弁。
「まぁ、その流れでお願いします」
「わかったわ。その流れでいいのね」
その後は軽く挨拶周りをする為に、スラムにあった酒場に向かう。道も小綺麗だし、倒れてるのか死んでるのかわからない奴もいない。
酒場に入ると少しだけ驚いた。昼なのに何でこんなに人が多いんですかねぇ?
「おう、久しいな」
猿っぽいマスターと目が合い、カウンター席を勧められたので、そこに腰掛ける。
「大盛況ですね、ウエイトレスも増えてますし、厨房も少し広くなって、料理人も雇ったんですね」
「お前の言ったとおりだよ。スラムからある程度無法者が減って、下級区の連中が流れてきたし自警団も戻ってきた。こいつらは朝一の船への積み込みの仕事が終わって、一杯ひっかけてるだけだ。そのうち捌ける。そしたら荷下ろしの為にまた港へ行って、遅めの昼飯を食って家に帰る……。そんな流れが出来てる。忙しいが嬉しい悲鳴だね、まぁコレはサービスだ、飲んでくれ」
目の前に麦酒が出てきた。度数が低いから、水の代わりに飲めって事か?
「いただきます」
「で……、トローから聞いたが、お前いろいろやろうとしてるみたいじゃねぇか。人手を持ってくなら、スラムの悪い奴らから持って行ってくれ。そんな事を、酔った勢いでベラベラ喋っていったぞ?」
ブフッと麦酒を少し吹き出してしまった。
「色々って……別に島の事業拡大ですよ」
「俺としてはお前が何しようが、誰かを殺そうが人攫いしようが、お前はお前だ。この店の救世主。違うか?」
「いや、まぁ……。否定できませんが……」
「この間の張り紙残ってるぞ? 貼ってやるか? むしろ貼るぜ? この間島に行かなかった奴が後悔して愚痴ってんだよ」
「確かに人手が欲しいですが、今は家の建築が追いついてないので、また今度の機会に……」
「もったいねぇなぁ……」
「まぁ、本当に家を作ってないので仕方ないです。春が始まった頃か、夏前には受け入れの準備を整えたいですね」
本当に仕方がない、家屋が足りてないんじゃどうにもならない。
そして俺はオルソさんの店に行き、錬金術師がどうのこうのと前に言ってたから、医療用に購入出来るようにお願いしようと思っていた。
「ちゃーっす、オルソさんいます?」
「おう、なんだ! また面倒くせぇ仕事か?」
いきなりそんな事言わないでくれ。悲しくなる。
「テーラーさんの引き抜きの件で、話が通ってるのかどうかと、錬金術師の紹介、それとポーション類の購入の件で」
「裁縫店は閉店するから脱退の話は本人からされた。あとポーション五百個とか言うなよ? 価格が変動するからよ」
「テーラーさんの件は知ってるなら良いです。それとポーションは一日の最高使用量で二十個くらいですよ。医者が一人しかいないですし、病人や怪我人も少ないですし。人族側の、弱い回復魔法が使えるシスターもいますので、予備ですよ予備」
「そうか。まぁ、残念だったな。この間まで取り引きしてた錬金術師は廃業したぞ。もう個人向けに受注販売してるだけだ」
「うへぁ……、世知辛いなぁ……」
「材料費を安くして、それなりの物を大量に作ってる寄り合いがあってな。それに押されて個人のは廃業か、雇われてそこに入るかだ」
「聞けば聞くほど世知辛い……」
「俺もそういう零細になるべく仕事回してたんだけどな。大手にはかなわねぇんだよなぁ……」
「ふむ……。なら島で引き取るか。材料知らんけど……」
「薬草系を煮て、飲みやすくするだけじゃねぇの?」
いや、取引相手の仕事くらい覗く機会くらいあると思うんだよな……。あと薬草採取の仕事とかしておけばよかったな……。
「まぁ、一人くらい養う感じで、いずれ芽が出ればいいなー程度で雇えば、良いんじゃないんですか? 変に圧力与えないで伸び伸びと新薬開発とかさせれば。競争するから駄目なんですよ、その人オリジナルを作れば売れますよ」
島内需要だけ満たせばこっちとしては問題ないし、最悪薬草の栽培も手がければいいし。暑いから、スポーツドリンク系の清涼飲料水でも島内で売ればいいし。しばらくアントニオさんと組ませて、万能より専用系の物を開発させても良いな。目指すは、前にラッテから聞いた二日酔いの薬とか。だってないらしいし、作れば売れそうだし。
「早速案内してもらって良いですかね?」
「おう」
後を着いて行くと、人気のない入り組んだ裏通りを歩かされ、古い家に案内された。ってかドアが全部閉まってねぇぞ? 家自体が歪んでんのか?
「おう、オルソだ。入るぞー」
オルソさんは返事も待たずに入ってった。平気なのかよ?
「ちょっと平気なんですか? 返事を待たないで……」
「あぁ、前に集中してることが多いから、返事を待たずに入ってきてくれてかまわないと言われてる。盗まれても平気な物ばかりで、仕事道具は全部目の届く机の上だとよ」
「なんというか。色々とひどいっすね――」
部屋の中を歩き奥まで行くと、机に向かって作業してる、黒と黄色のなんとなく嫌な配色が、腕や首筋に張り付いていた。
「おいアピス、客だ」
アピスと呼ばれた人物は、ぼさぼさの伸びきった髪の毛の隙間から、隈のある目でこちらをギョロリと一度だけ見ると、また机に向かってしまった。振り向き美人っていうより、悪霊の類だな。
ってか瞳の部分が複眼だったよ……。ものすごい嫌悪感が個人的に……。どうせなら白目部分のところも複眼の方がマシだった。
蜂系の昆虫かぁ……。毒のカクテルっすか? ハニービーの方がまだマシだわー。
「やばい薬かな? 大銀貨二枚からよ」
意外! 女性だった! ってか俺とオルソさんを見ただけで、第一声がやばい薬ってなによ? 既に芽が出てるしオリジナルブレンドできてるじゃないかよ! 足りないのは商売気だけだった!
「おい、やばい商品は扱ってないって初めて会った時に俺に言ったよな!? なんだよこの第一声は!」
「お前が寄り合い所作れって言った時に見つけただけだよ! 扱ってねぇよ! アピスも言ってやってくれよ!」
「なんだ、珍しく見た目がやばそうな人を連れてきたから、そっち系かと思ったわ。オルソからは、食い繋ぐ為に依頼をちょこちょこ受けてただけよ? で、何の用かしら? 媚薬? いけない子ね……。催淫剤系は、私には効かないわよ? 今なら全部入って、コレ一本で三日三晩寝なくても疲れず勃ちっぱなしの、不味くて副作用の強いのがネックなものあるけど?」
アピスさんは、警戒色を数種類混ぜて出来た蛍光色の液体の入った瓶を持って、イスごとこちらを向くと胸が大きかった。
不養生っぽいのにモデル体型、先入観的な意味合いでマッドサイエンティストっぽいから、不健康でボンキュッボンはありっちゃありだけど、やっぱり俺は胸は小さい方が……。いやいや、今はそんな事考えてる時じゃねぇな。突っ込むところは、俺の見た目がやばいってところだ。
「あ、そういうのは俺はいりませんので。それと、単刀直入に言うなら、アクアマリンに来て専属の錬金術師になって、ポーション作りやりませんか? ってかんじです。ちなみに回りくどく言うなら、ポーション類の作成が誰も出来ないから、誰かいないかなーと思っていた時に、偶然廃業した錬金術師がいると聞いて、スカウトにきました。うちで働きませんか? 卸値より多少高く買いますよ?」
「あぁ、貴方が最近噂のアクアマリン商会の……。折角だけど、そう言うところはやりづらいからお断りよ。変な注文が多そうで、自由な時間がなくなるわ」
ならプランBだ!
「一定日でのノルマ制、備蓄がある場合は別に作らなくて良いです。買い取りではなく給与制で、残りは自由時間。もしかしたら、新人を育ててもらう事もあるかもしれないけど、その新人が色々なポーション類を作れるようになったら、新薬開発に従事してもらい、ノルマ制も破棄。ただし、ある程度の成果は上げてもらう事になり、レシピも信頼の置ける人にのみ伝承してもらいます。もちろんそっちの場合は解雇もありますが、昇級もあります……。今手に持ってる物も作りたい放題ですよ? と言ったら?」
つまり出たとこ勝負だけどな。
「その新人が色々なポーションを作れるようになり、さらにソイツが新人を育成できるようになれば、お金だけもらって好きに研究していいって意味で捉えていいのかしら?」
「大体は……、その場合は色々話を詰める必要がありますがね。あと材料はしばらくは輸入に頼ることになります。望むなら知識系勇者への紹介状も書いて、定期的な講習も付けましょう」
うん、なんか勢いで無茶言った気がする。けど剣崎さんならたぶん平気だろう。あの人も似たような性格だし。
アピスさんはしばらく無言でいたが、いきなり立ち上がり俺の手を握ってきた。
「よろしくお願いします」
通っちゃったよ……。あと目が怖いよ。
「こちらこそ」
後は話を詰めるだけだな。
「六日後にアクアマリンの旗を上げた船が港に入るので、それで島に来るか、そちらの指定した時に伺わせてもらいますが?」
「この机の上の物を梱包して、服くらいしか持つ物がないから、その指定された六日後の船で島に向かうわ」
「では一筆書きますので、船長に見せてください。もちろん話は通しておきますがね。それと梱包材用に、多少の金銭での援助を。これは個人的な投資だと思ってますので、気にしないでください。それと必要な物があるなら、買い揃えてください、そちらの代金も出しますので」
「道具はここにあるもので足りるわ、けど当面のポーションの材料費くらいは欲しいわね。オルソに頼んで取り寄せてもらって付けておくから、払っておいてちょうだい」
「あ、はい。良識の範囲内でお願いします」
ってかオルソさんの商会っって、ポーションの材料扱ってるところと取引あったんすね……。
ってかガラスの棒やら、試験管やらフラスコが多いし、酒みたいに熱して成分を分けるクルクルしてる管みたいなのも多い。さすがにこれはガラスではまだ作れないのか。
「では失礼しますね。その一筆書いた物なくさないでくださいよ?」
「わかってるわよ」
テーラーさんみたいに一筆書いて紙を渡したが、雑にその辺に置いて、薬草になる葉っぱぽい物をいじりだしたから、何となく不安で仕方ない。
ってか荷造り平気っすか? 前日にあわててやらないでくださいよ?




