第168話 頼み事をしたら頼まれた時の事
ほぼ会話です。
書類整備をし終わり、机の上を片づけている頃にフルールさんが変化をした。
「アイダから連絡があったよ、遅れてごめんだって。三日後の昼食過ぎで良いですか? だって」
「……それでお願いします。って伝えておいて下さい」
「わかったわ」
俺は少し考え、それで良い事を伝えると、フルールさんは普通の花に戻った。
三日後か……、予定が詰まってるんだなぁ。
□
そして三日後、俺が王都の地下に転移すると、いつもの勇者と、もう一人べつな黒髪の男性が立っていて、テーブルの上には砂漠の民の衣装が用意されていた。
「あのコレは?」
「会田さんが、執務室まで来て欲しいと言ってるので案内します」
「ふむ……。つまりここじゃ話せないって事か」
「そうっすね、この間の事を伝えたら、コランダム周辺の地図とか戸籍とか準備し始めてましたよ」
少し早く済みそうかな?
俺はもう一人の勇者に連れられ、会田さんの執務室まで案内された。
ノックをして返事を待ち、中に入ると丸まった紙に封蝋をして、色別の箱に入れているところだった。
「あぁ、いらっしゃい。今お茶持ってこさせるから」
会田さんは机の上に乗っていたベルを鳴らすと、小柄なメイドさんが入ってきたのでお茶を頼んでいた。アレがかなり前にグチで聞いたメイドさんだろうか? 確かに大人しそうで、小動物的な可愛さがあるな。
会田さんに作業机の正面にあるソファーに座る様に促され、こちらが座ると紙を数枚持ってきて、それをテーブルの上に広げた。
「王都襲撃時に見たと思いますが、城壁の周りにいた難民達をコランダム周辺に移動させた戸籍表です。今は国が発注した公共工事をやらせて給料を払い、中の下程度の水準で生活させています。その中から条件に合った者を、アクアマリンに入島させようと思っています」
「助かります」
出された紙を見ると、名前と大体の年齢、家族構成と前職が書かれていた。細かいな。
「ある程度聞いてると思いますので詳しく言いませんが、農業と畜産関係者を多めに、それと村長だった方を一人が好ましいですね。機織りと糸の紬もあるので女性も。今後の事を考えると独り身がいいですね」
「結婚目的ですか?」
「えぇ、独り身同士が恋仲になれば子供も望めます。若いものばかりだと統率力不足や知識に差が出ますので、この成人してる十五歳から三十五歳の間で、四十台も十名くらい。村長経験者が家族持ちなら一家ごとでお願いします。男女比率はもちろん一対一で……。あー孤児もいるんですか……、この子達はどういう扱いになってますか?」
出された書類を見てたら、孤児がいる事もわかった。
「たしか大きな空き家を買い取り、未婚女性一人に対して十人ほど子供を付けて、二十人ほどコランダムにいます。自立できるプログラムを組みつつ、簡単な仕事を回して運営できるようにはしてあります。どこでもそうさせた気がしますね」
施すよりは、仕事を与えた方が確かに良いな。俺もセレナイトのコーンフラワー孤児院用に何か仕事作るか。
「なら、その方達も引き取ります。その代わりと言ってはなんですが、スラム街の小さな教会でも孤児院をやっていた気がしますので、かわりにそこへ仕事を回してください、前にお世話になっていますので」
「わかりました」
俺と会田さんは黙々とメモを取り、運ばれて来たお茶で一息入れる。
「なんかいい茶葉使ってますね」
口に含むとほろ苦く、少しだけ甘みがあるような香りが口から鼻に抜ける。
「一応城内では五段階に別れてて、これは上から二番目です。もちろん一番上は王族用ですし役職持ちはこれです」
「羨ましい」
「それ相応の働きをしましたので」
「けど口に合うのが一番ですよ? これは美味しいですけど」
出されたスコーンに苺ジャムを塗り、美味しく頂く。
「まぁ同感です。物凄く高くても口に合わないならどうしようもないですからね。で、島の噂はある程度入って来てますけど、何か目新しい事はしてないんですか?」
うん、それにしてもこのスコーン美味いな。シンプルな物ほど難しいからな。しかも暖かい、さっきのメイドさんが作ったんだろうか?
「榎本さんと織田さんがピルツさんの能力を使って、日本酒と味噌醤油を作ろうと今蔵を建設中です」
そう言ったら会田さんが真顔になった。
「少し勇者用に、多めに工面してもらえませんかね?」
うお、目が本気だ。
「に、日本酒なら発酵させれば直ぐだと思いますよ、気候的に暖かいですし。それに、目の細かい布も用意したので、多少濁るけど、それっぽいものが出来ると思います」
「はは、それは楽しみだ。王都にも極々少数の味噌醤油が出回ってますが、過去の勇者が残した知識の応用ですし、流通が安定してません。ですので本当に希少品なんですよ」
「わかりました。ではこちらに回すようにします」
「ありがとうございます」
「それと、気になってた事が一件だけあります。ジャスティス君の子供ですが……去年の夏の終わりに島に乗り込まれ、その一ヶ月後くらいに妊娠してた報告貰ってますよね?」
「あぁそうでした、報告してませんでしたね。母子共に健康で問題ありませんし、母親の精神も安定していますし女の子です」
この子が俺を殺しに来ない事を祈ろう。
「ならよかった。あとで出産祝いでも送るかな」
「その時はジャスティス君を呼びますよ。まぁ子供は黒髪ですが、忌み子ではなく、勇者との子ですからね。コレを期に人族側の忌み子も救われて欲しいですね」
「たしかそんな話もありましたね。まぁ、島に魔族と人族の子供がいますけど、周りと分け隔てなく育ってますよ」
「もしかして今回の件って、魔族側からも人手集めてたりします?」
「えぇ、最初に作った村が魔族と人族の村で、二番目が人族の村を一つ引き取って、三番目の村が魔族側のスラムから連れて来た、なら四番目は? また混ぜれば魔族と人族の比率が同じになる。もしかしたら、ハーフが産まれるかもしれない」
「カームさん。なんかやる事デカくなってませんか?」
「そんなことないですよ。まぁ問題は人族側の先入観ですね。魔族はそこまで宗教が根強くなかったので、人族に対しては暴力を受けなければ……って感じです。まぁ、適当に混ぜて、共同作業でもさせながら監視ですかねー。最初の村は俺が人族の奴隷を使ってたからまだマシでしたけど」
「祭りとかはどうなってるんです?」
「秋と冬しかないんじゃ寂しいので、大食い大会と、年末の総合格闘技みたいな奴を考えてます。ちなみにマグロ投げと、嫁運びレースは却下されました」
「またクソマイナーな祭りを持ってきますね……」
「意見出すだけならタダですよ」
「そりゃそうですね」
二人で笑い、今度は俺が会田さんの近状を聞いてみる。
「宇賀神さんや、北川さん達はどうなってます?」
会田さんはお茶を一口啜り、一息付いてから続ける
「宇賀神は諜報部の育成。北川は魔族側の大陸に渡り、日銭を稼ぎながら娼館巡りすると言って連絡なし。櫛野は、奴隷商人から情報を買って、肌が褐色系の多い地方に渡り最近戻ってきました。二人で」
俺は櫛野さんの報告を聞き終わったら、吹き出してむせた。
「二人でって、どう考えてもアレじゃねぇっすか!」
「いやー、あの漫画にあこがれてただけはありますね。けど、少し大人しそうな町娘って感じでしたよ?」
「そうっすか……。北川さんは、魔王とかに目を付けられなければいいんですけどね」
「女性の魔王だったらむしろウェルカム? 肌の色がカームさんみたいだったら、絶対に殴られながらでも口説き落としそうですけどね。まぁあ一年くらいで二人とも戻ってくるように伝えてるので、そろそろ戻ってきてもいいんですけどね」
俺になんで女に生まれてこなかったんだよとか言ってたから、多分妥協はしないだろうな。
「勇者怖いわー。なんか知らないところで壮大な戦いしてて、打ち負かして連れてきそうだわー」
「花束もって笑顔で殴られながらプロポーズ?」
「そして折れて嫌々付き合うも、相手もまんざらでもない様子?」
「浪漫ですねー」
「女に生まれてなくてよかったわ……」
二人同時に呟き、俺だけはため息を出す。
話が一区切りつき、別なスプーンでジャムを掬って口に入れてから紅茶を口に含み、ロシアンティーにして楽しむ。
「そう言えば、ちょっと頼まれて欲しい物があるんですけど、いいですかね?」
会田さんが唐突に切り出してきた。
「なんです?」
「煙草の種を手に入れたんですけど、そちらで育てられませんかね? 剣崎が安く仕入れたいとか言ってるんですよ」
「別に構いませんけど……、乾燥させて、何年か熟成させるとか聞きましたけど?」
「年単位でしたか。一応渡しておきますので、収穫して乾燥させたらちょっと試しに持って来て下さいよ。一応そちらは寒くなりませんし」
「雨は降りますが、スコール的な大雨があまりないので多分育つと思いますけど……。まぁ、やってみます。とりあえず全滅させたくないので半分だけお願いしますよ」
「わかりました」
会田さんは立ち上がり、机の引き出しから瓶に入った土みたいな物を出した。それを、別の小瓶に別けて俺の前まで持って来た。
「ではお願いします」
「小さっ! 土かと思いましたよ。花と葉は見た事ありますけど、まさかコレが種だとは思わなかったわ……」
「たしかナス科ですよね? ナスを切った時のつぶつぶを考えれば納得じゃないですか?」
「確かに……。けどナスの種より小さすぎません? 本当に芽がでるんですかコレ。ジャガイモの種の方が近いですよ?」
「種イモしか植えてるの知らないですよ……」
「花が咲くんだから、実もなりますよ」
そう言いながら小瓶を振ってみるが、本当に土にしか見えない。
「まぁお願いしますよ。フルールさんが知ってるっぽいので、聞いて下さい。需要はあるので、最悪そのまま育てても良いので」
知ってるっぽいねぇ。会田さんも剣崎さんに頼まれたんだろうか?
「はぁ……。まぁやれるだけはやってみますよ。育てた後の知識はほとんどないですけど」
確かに人族には需要はありそうだよな……、けど魔族には結構不評なんだよね。前に吸った時はキースが物凄く離れてたし、ラッテも嫌がってたし。
たしか蚕とかの餌の桑にニコチン入り肥料が駄目とかもあったな。やっぱり虫にもニコチンは毒なんだろうか?
しかも獣人系が煙草苦手だから、もし島内で喫うなら分煙? それとも島で全面禁煙? んー今から悩みの種が……。
そんな事を思いながら、ゆっくりとお茶を飲み干し帰ろうとしたところで思い出した。目の前にも聞いてないのがいるじゃない……。
かなり顔に出ていたのか、会田さんが作り笑いをしている。
俺は立ちかけたが、そのまま座り聞いてみた。
「そう言えば会田さんって、ちょっと小柄で大人しい感じのメイドさんが云々っていってましたよね? さっきお茶を運んできたメイドさん?」
「え、えぇ。まぁ……。専属で付いていただいてますよ」
思いっきり目が泳いでいる、さっきの人で決まりだな。
「俺に出来る事があったら言って下さいねー。島の名産のチョコとか、蜂蜜なら直ぐに持ってきますよ? 机の中から取り出して、一緒にお茶に誘ってみては? 知り合いからもらったんだけど一緒にどうだい? って」
「馬に蹴られない程度にお願いします。とりあえず、カームさんがいない時のお茶の時間とか、現状でも満足できる雰囲気ですので」
「はは、そうでしたか。なんかそういうのいいなぁー。俺なんか相手が強気すぎで襲われたのに」
「ははは、運命を呪って下さい」
「ならこっちは呪いのように祝ってあげますよ」
今度こそ立ち上がり、会田さんに地下まで送ってもらった。
「良い報告が聞ける事を祈ってますよ」
「これ以上望んだら、今の関係が崩れそうで怖いんですよね」
「大丈夫ですよ、襲われても壊れなかったのがここにいますので」
「そんなレアケースの話なんかいりませんよ」
俺は大声で笑い島に戻った。
会田さんのメイドの愚痴はおまけSSの男だらけの温泉回で出てます。
書き忘れていました。
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