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第166話 意外に悪い奴じゃなかった時の事

主人公のイメージが著しく損なわれる可能性があります。言い訳は後書きで。

 俺は大きさが違うお盆を二つ重ねた様な四角い木の箱に書類を入れ、布で包んでから手さげ袋に入れる。別にそこまで重要な書類じゃないから良いけど、ハードケースが懐かしい……。鉄で作らせるかな。

「では、少しの間留守にします」

「わかりました、道中お気をつけ下さい」

「盗賊とかもの凄く怖いですからね」

 少しだけ悪い笑顔で笑ってみた。

「出ないとは思いますよ? 開拓も整備もされてますし、距離も一日ですし」

「お前が盗賊なんか怖がるかよ。半殺しにして、近くの詰め所まで引きずって行くなよって言いたいね」

「怖いだけで、別に殺されるとは思ってないよ。ギリギリまで無力な一般人のふりするだけで」

「質悪いわ……。あと、あの貴族ぶっ殺してくるなよ。色々とやばそうだからな」

「あの時はいきなりだったから、結果あんな感じになったけど、まぁ殺しはしないだろうね。今から夏まで寝ててもらう事になるかもしれないけどな」

 キースの言葉に軽めのジョークで返すと、ルッシュさんは少しだけ渋い笑顔で業務を始めた。

 ってか最近二人が一緒にいるところを最近よく見るけど、仲がよくていいね。来年の年越祭まで返事はお預けらしいけど。


 俺はセレナイトに転移し、イルバイトに向かう馬車を探す事にした。

 いつも出入りしてる門の内側に馬車が溜まってた場所があったはずだ。

 馬車は直ぐに見つかったが乗り合いで、俺が入っても後二人増えないと出してくれないみたいだ。

 仕方がないので、目の前にあった喫茶店らしき場所のテラスで時間を過ごす人達をみたので、一緒に時間をつぶさせてもらう。

 聞いた話では一日だったが、夕方には着くみたいだ。まぁある意味一日か。

 お茶を一杯だけゆっくりと飲んでいたら、経営者らしき男がイルバイト行きの馬車がでると叫んでいたので乗り込み、半日ほど尻の痛みに耐えた。

 とりあえずイルバイトに着き、門の目の前にある酒場兼宿屋に泊まり、明日に備えた。



 翌日、真っ先にその辺に立っていた兵士に話しかけ、カルツァの屋敷を聞く。

「なんだ、カルツァ様に用事か?」

 その兵士は、俺の事を頭から足先まで見てる。そしてこんなナリの男が? みたいな顔をしている。

「どの様な用事だ?」

「いえ、大した事ないので、場所だけ教えてくれれば結構ですので……」

「怪しすぎるな。詰め所に連行するぞ?」

 ですよねー。一応貴族ですもんねー。

「カルツァ様の領地である島を、勝手にアクアマリンと名付けた魔王だ。色々噂は聞いているかもしれないから、ある意味特徴は一致すると思う。もし必要なら魔王の刻印も見せるが? それでも証拠が足りないのなら、諦めて詰め所まで大人しく従うが」

 一気に態度を変えてみたが、平気かな?

「いえ、平気です! 噂で聞いている特徴と一致しますし、この辺りで魔王様と同じような肌をした方はおりませんので! 申し訳ありませんでした!」

 平気だったけど、一気に変わっちゃったよ……。どうしようコレ。続けるしかないよね?

「今回は島を発展させるに当たり人手不足が予想されるので、人員を島に大量に引き入れたら後々問題になると予想される。だから事前に話し合いに来た。出来れば案内してくれれば嬉しいのだが」

 普段こんな口調でこんな事言わないし、あまりしたくないんだけどなー。仕方ないよね?

「も、申し訳ありません! ただいま案内いたします!」

「別に普段通りでいいし、特に気にしていない。職務に勤勉なのは良い事だ。いきなり魔王とばれない様に普通に接したこちらにも問題がある、だから気にしないでくれ」

「わかりました!」

 そう言いながら敬礼された。街中だぞ? 勘弁してくれ。

「別に敬礼は必要ない。こっちはそちらと違う階級とは無縁で偉くもない。それにここは少々目立つ街中だ、出来ればあまり目立ちたくないのだが」

「申し訳ありませんでした! 直ぐに案内いたします」

 すげぇ疲れるんだけど……。頭抱えたくなるわ……。


 しばらく街中を歩くが、上級区の一角のかなり広い家まで案内された。

「こちらでございます!」

「あぁご苦労。助かった。少ないがこれで仲間と勤務後に酒場にでも繰り出てくれ。街中の見張りをサボらせた迷惑料だと思ってくれてかまわない」

 俺は布袋(サイフ)から銀貨一枚を取り出し握らせた。

「道案内だけでこんなに受け取る事は出来ませんよ」

「言っただろう、迷惑料だ」

 軽く背中を叩き、無理矢理来た道を戻らせる。

 はぁ、見栄を張るのも疲れる。ってかさっきのって多分賄賂になっちゃうのかな? やっちまったなぁ。しかもチップの相場もわからねぇよ。

 まぁやっちゃった物は仕方がない。反省しよう。さて、敵地か……。これからどうしようかな。さっきから門番二人がめちゃくちゃこっち見てるけどな!

「ん、うん! 会う予定はなくいきなりの訪問だが、主人に会うことは可能だろうか?」

 口元を押さえ、軽く咳払いをしてから話しかける。これで合ってるよな?

「お名前と、用件を伺ってもよろしいでしょうか?」

「カームという者だが、カルツァ様に島の人員の補充の件で早急にお伺いを立てたいと思い、参りました」

「少々お待ちください」

 若い方の門番が、門の脇の小さなドアから中に入っていき、小走りで屋敷の方に行くのが見えた。門番も大変だな。

「あの、少しよろしいでしょうか?」

 残ってた、少し老けている門番に話しかけられた。

「えぇ。どうぞ」

「もしかして、カルツァ様を散々怒らせた無人島の魔王様で?」

「――はい」

 そんなこと言われたら、こう返事するしかないじゃないか。

「あの……大変失礼ですが、もしかしたらお会いにならないかもしれませんよ? あの時かなり荒れてましたし」

「ですよね……」

「これは独り言ですが……、あの時はどっちもどっちと思います。主人は重税を、魔王様は挑発を。自分は主人に仕えてますのでこれはあまり言いたくはありませんが、生活を考えるなら魔王様に付きたくなります。ですが双方少しだけ幼かったと……。もう少し双方が大人なら、何か別な道が見えたかもしれません」

「何もいえませんね。おっしゃる通りです。ですが、いきなり現れて過去十五回分の税金、しかも収入がなかった時も含めて七割ですよ。しかも滞納してたとか言って、追加で更に莫大なお金を請求されましたし」

「この様な男の独り言に聞いていただきありがとうございます。その件については主人が悪いとは思いますが、わざと高額の税金を提示し、払えないなら条件として島に部下を置いて、適切に管理しようとしてたみたいですよ。まぁ、自分が言う事ではありませんが、悪者になろうとしてたみたいですね。貴方が管理して発展させた島は、手放すのには惜しいくらいにはなっていた――」

「ならあの様な高慢で挑発的な態度にも納得できますね」

「多分ですが、色々と管理が杜撰(ずさん)でまともに運営出来てないと思っていたんだと思います。歴代のあの島の魔王達は粗暴な輩でしたし。しかもあのような不器用な性格です、地位を利用した、そういう方法が楽だからあのような態度に出たのだと愚考します。まぁ、話は給仕達の憶測と又聞きみたいな感じですがね。貴男が優しいと聞いていたから一種の賭だったと思いますが、失敗しましたね。前任の魔王ならそういう態度は取らなかったと思いますよ。まぁ、あまりいじめないであげて下さい。まぁ、あくまでこれは独り言ですがね」

 少しだけ口元をゆるめて笑い、また無愛想な顔に戻った。

 そして、走っていった門番が戻ってきて、

「お会いになるそうです。こちらへどうぞ」

 そう言って、二人で正面の大きな門を開け、中で待機していた使用人に案内された。

 最初から素直になれよなぁ……。お互いに印象悪くしちまったじゃねぇかよ。

 そんな事を思っていたら、応接室に着いたのか、ドアをノックしていた。

「入りなさい」

 そんな言葉と共にドアが開けられ、ソファーの前まで案内されるが、ソファーに近づくまで睨まれっぱなしだ。

「貴男と会う予定は今後一切なかったはずだけど? まぁ、いつまでも突っ立ってられると見下ろされてるようで頭に来るから、さっさと座りなさい」

 その言葉が合図だったかの様に、メイドがお茶を運んできた。

「で、軽く聞いたけど……。島で人員が欲しいって話じゃない。言い分によっては、考えてあげても良いわよ?」

 なんだろう、あの門番さんの話を聞いたら、憎たらしいとか頭に来るって事がないな。全部虚勢みたいに感じる。

「そうですね、繊維関係に手を出そうと思いまして、生産が見込めるかどうかわかりませんが、羊、麻、綿を育てたりするのに人手が足りません、布を織るのにも人が必用です。セレナイトで募集してかき集めても良かったんですが、一応同じ領土内で移すのにも話をするのが道理だと思いまして。あの様な事がありましたが、伺わせていただきました」

「ふーん。一応立場や道理を弁えてるのね。で、私への利点は?」

「そうですね、こちらもあれだけの啖呵(たんか)を切ってますので、引っ込めるのは癪に障るのでこちらはどうでしょうか?」

 書類の入った木箱を開け、ジャイアントモスの繭が確認され、布として生産し、輸出制限をかける事が案として出てる書類を取り出して見せる。

「へ、へぇ……あの有名なジャイアントモスの、ま、繭がねぇ」

 そう言いながら、カップをプルプルと振るわせてお茶を飲んでいる。

 明らかに動揺してんじゃねーかよ。どんだけ希少価値が高いんだよ。耐火性でちょっと手に入りにくいとしか聞いてねぇぞ。

「これを島である程度確保したら、物価価値を下げない為に出荷に制限をかけますが、カルツァ様が望むのなら領土内だったら多少融通を利かせますよ? とりあえず趣味嗜好もあるので、染めてない物で服が一着仕立てられるくらいは、出来上がったら届けますが?」

 交渉材料はまずこれでいいや。駄目ならどんどん上乗せだな。

「そう……、貴男がそういうならそれで良いわ。この街でも、セレナイトでも好きに募集をかけなさい。必用なら正式な紙に一筆書いて印も押すわ」

 あれ? もしかして俺やっちゃった? 布って高い奴は高いからな。スーツ作るのに布だけで、ン百万とかのもあるし。

「この間の事もあるし一つ条件があるわ」

「まぁ、聞くだけは聞きましょう。言うだけならタダです。決裂するかもしれませんが……」

「犬のように這い蹲って靴を舐めなさい。これでこの間味わった屈辱はなしにしてあげるわ」

 カルツァはニヤニヤしながら、組んでいた足をわざとらしく伸ばし、ヒールの高いパンプスを見せつけてきた。

 うわぁ……。本当にこんな事言う奴いるのかよ。

 けどこれだけで、この間の事をなしにしてくれるって言ってるし、交渉はほぼ済んでる。譲れない事は多少あるけどプライドとかはほとんどないし、魔王がどこまで偉いかは知らないが、俺には島民がいる。

 最悪な事態を想定して動くならやるしかないな。

「さっさとしなさい、それともなかったことにしてもいいのよ?」

 門番のおっさんの事もあるし、冷静に見てみれば虚勢っぽいところも多少確認できる。

 けど夢魔族だしな。靴を舐めろって言うのは、趣味の範囲だろうか? なんかクソ面倒くさい性格と地位だなおい!

「ソレ、この間一緒にいた旦那さんも舐めてませんよね? 旦那の舐めた靴なんか舐めたくないですよ?」

「メイドが毎日色々な靴を磨いてるわ。今日はまだ外に出てないから綺麗よ? それに旦那は靴じゃなくて素足で指よ」

「良い趣味してますね」

「よく言われるわ……」

「いえ、旦那さんが……」

「……舐めるの舐めないの?」

 ひどく冷たい目で言われたので、これ以上夫婦間の事は言わないでおこう。

 俺に降臨してくれ! 争いを避けるならなんでもやる人間台風の赤いコート着てるラブ&ピースの人と、歯をクラゲに変えたギャングになりたい機転を利かせた人!

 俺は立ち上がり、カルツァの足下に四つん這いになり、舐めようとした時、ふと思った。

「蹴って前歯折らないで下さいよ? そんな事になったら取りあえず、俺と嫁と嫁が凄い事しますので……」

「しないわよ!」

 黒か……。いやいや、スズランだって黒とか履くし! ってか見えちゃっただけだし!

 俺は舌に大量の、かなり粘度の高い水飴みたいな【粘液】をまとい直接従靴に舌が触れないようにして、レロンと舐めて甲の部分をテカテカにしてやった。まぁ、ささやかな抵抗だな。

 舐め終わらせ立ち上がると、カルツァはひきつらせた笑顔のまま、瞼をヒクヒクさせていた。

「では、一筆の方をお願いしますね。カルツァ()。それとももう片方もでしょうか?」

 俺は特に感情のない声で言い、プライドなんか端からないと言わんばかりに、もう片方はどうすると聞いた。

「え、えぇ。わかってるわ。それと片方だけでいいわ」

 カルツァは目元を引きつらせながら靴を脱ぎ捨て机に向かい、簡単に何かを書いて印を押した物を渡してきた。

『この者は我が領土から領土に、人を移動させる許可を得ている。カルツァ=スリップ』

 本当に一筆だな、まぁ印も押してあるしいいか。

 税金を数年納めないのは、最初に顔合わせの喧嘩でやっちゃったからいいけど、高額な品物を直接交渉材料に使って贈与。限りなく黒に近い臭いがする。ばれたらやばいか? 俺は島の許可貰ってるけど……。

 贈与税? この世界にあるの? わかんねぇからいいか。 

「不服かしら?」

「いえ、十分です。では布が出来次第届けに参りますので、今日のところは失礼させていただきます」

 いいや、上手く纏まりそうだし。

「待ちなさい。とりあえずもう一度座りなさい」

 睨みながらソファーを指さしていたので、とりあえず言われたと通りにする。

 机にあった呼び鈴を鳴らしメイドを呼んで、新しい靴とお茶のお代わりを頼み、もう一度俺の前に座り直した。

「噂じゃ、スラムの荒くれ者を島に呼んで、更生に成功してるらしいじゃない。そこで頼みがあるの」

「島はゴミ捨て場じゃないですよ?」

「その件については悪いと思ってるわ。続けるわよ? この街にも小さいながらもスラムがあってね、他所から来たのが溜まるらしくて多少治安が悪いの。そこで、更生させた方法の情報が欲しいのよ。無理矢理治安維持の為に兵士を投入しても反感を買うだけだから、実績のある貴男に聞きたいの」

 無理矢理撤去とかすると確かに色々やばいからな、そういうノウハウもってないのか?

「……命令ですか?」

「お願いよ」

「はぁ……。セレナイトですが、たむろしてる酒場に単独で乗り込んで暴れて、仕切ってる奴を呼んで力でねじ伏せ、いう事聞かせただけですよ。ここのスラムがどうなってるかわかりませんが、ボロ布を張っただけの場所じゃなければその方法でいいんじゃないんですか?」

「あら、そんな方法も取れるのね。臆病って噂を良く耳にするけど」

「腹くくれば何でもやれますよ。何があったかは言いませんけどね……。強い奴に従う傾向が強いなら、だれかに任命して仕切らせればいいんですよ。スラムのボスとして一生を過ごす覚悟があり、ある程度動向を管理できる程度の能力がある奴を。まぁ、それはそちらの人選ですので言えるのはここまでですね。そういうのを必要悪って言いますけど、それをこちらで用意すれば問題無いです。今度こそ失礼します」

 メイドさんが注いでくれたお茶を飲んでから立ち上がり、今度こそ帰る事にする。必要悪になってくれとか言われたくないからな。

「あーそうだ、選んだ奴がヘマして裏路地で見つからない事を祈る事ですね。そうするとカルツァ様の身も危なくなる可能性があるので、行動を徹底させて、足のつかない連絡方法の確立も十二分に話し合った方がいいですよ」

 なんだかんだで、あんな話を聞いた後だとイライラしなかったな。作り話か本当かわからないけど、あの門番のおじさんに感謝だな。

言い訳にしかなりませんが「韓信の股くぐり」的な事をさせてみました。


175話で意趣返し的な物がありますので、そこまで読んでいただければ嬉しく思いますが、どうしても主人公であるカームがこのような事をしたのか。

この行為にどうしても我慢ができない方は、このような事を書いてしまい本当に申し訳りませんでした。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

― 新着の感想 ―
[一言] 俺だったら足ひっつかんで引き倒した後に脹脛辺り舐めまわして終わりにするかな 「ん?どうしたんです?足は舐めましたよ?w」みたいな
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