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第163話 なんかすごい物を見た時の事

 あれから数日後の、二回目の昼過ぎに島に着いた定期便で必要物資と一緒に頼んでいた袋が届いたらしい。

 とりあえず、物資を一時保管しておく倉庫の入り口から執務室に運び、丁寧に梱包された紐を解き、封を開けると一枚の紙が入っていた。

 それは手紙で、文章はもの凄く丁寧だった。要約すると、姉妹共々よろしくお願いしますという内容だ。

「んー、あそこでさっさと切り上げたのがよかったんだろうか?」

 一人で呟き、手紙を書類ラックの手紙類の項目に入れ、港町によく行くので顔を出す可能性の方が高と返事を書き、ルッシュさんに文面の確認を頼み、封蝋をしてから魔族の大陸行きの手紙置き場に置いた。これで届くだろう。

 その足で俺は布を持って榎本さんのところの家の前に、転移魔法で移動した。

 家の中に榎本さんがいなかったので、建設予定地に向かう。確かオリーブオイル生成所の隣だったな。

 建設予定地に近づくと、木材を叩くような音がどんどん大きくなり、大声も聞こえてきた。

「もっと気張れ! 今日中に屋根が張り終わらねぇぞ!」

「「「うっす!」」」

 んー、屋根用の木材を上げてたみたいだ。一番上で受け取ってる人、頼むから落ちないでくれよー。

 そんな心配をしていたら榎本さんを見かけたので、近寄って荷物を渡す。

「こんにちはーす。今日頼んでおいた袋が届いたので、届けにきました。いやー、みんな元気ですね」

「おうよ、クレーンなんかない時代はああやって上げてたんだ、現場は騒がしい方がらしくて好きだぜ」

「そうですか。申し訳ないですがちょっとわからないですね。その辺の住宅とかも、工場で作ってきた木材を組み立ててる感じのが多かったですし、釘もネイルガンで、木ねじも電動でしたから」

「この釘を打つ音や、木材をはめ込むのに叩く音がいいんじゃねぇか」

「まぁ、言いたい事はなんとなくわかります」

 ノミとかカンナを研げる職人が減ってるとか聞いたことあるし、道具もどんどん電動になってたからな。

「まぁ、建前もなくなってるしな。色々つまらねぇよ。こっちでも、多分意味がわからねぇから出来ねぇだろうな」

「文化の違いですよ。諦めましょう」

「――だな。まぁ、袋が出来たから試しに少し作って濾してみるわ。わざわざ届けてくれて助かった。ありがとな」

「いえいえ」

 んじゃ村に帰るか。


 転移魔法陣を起動して家の前に飛んだら、スズランが左手でリリーの腹をアッパーカットしてる光景が真っ先に目に入った。

 俺は目が点になり、そのまま見てる事しかできなかったが、リリーの足が両方地面から浮いており、そのまま右足で思い切り足元を蹴り貫いていた。

 リリーはそのまま地面に頭から落ちるようにその場で回転し、地面に叩き付けられてから間髪入れずに右手で首を掴まれ、ネックハンギングツリーを決められていた。

「片手かよ……」

 親子喧嘩? と思ったが、冷静にミエルが見ていたので、違うと判断した。

 リリーは苦悶の表情で足をジタバタさせながら、左手でスズランの手を引き剥がそうとしていたが、右手の槍を手放さないのはすげぇな。ってか親指めりこみすぎだから……。

「あ、父さんおかえり」

「……ただいま」

 そんな声に気がついたのか、スズランがそのままこちらを振り向き、リリーが右手で槍を振ろうとしたのを感じ取ったのか、地面に叩きつけてからこちらに笑顔で近寄ってきて、

「おかえり」

 何事もなかったかの様に言われた。

 裏ではリリーが地面に這い(つく)ばりながら、思い切り咳込んでいて、吐きそうになっていた。

 常に持ち歩いてるメリケンサック装備してなくて良かったよ。

「一つ聞いていい?」

「なに?」

「稽古だよね?」

「そうよ? なんだと思ったの?」

「殺し合いの親子喧嘩」

「カームじゃないんだからそれはない。しかも言い出したのはリリー」

「そうだね。父さんや、お爺ちゃん達とは別な戦い方をする人と戦いたいって言って、スズラン母さんが名乗り出た。ずっと見てたけど、僕は絶対戦いたくないけどね」

 スズランの戦いを初めて見のか、そんな事を言っていた。ってか俺も始めて見たな。

 前にリリーと槍を持って現れたときは、確実に手を抜いていたに違いない。

「手加減はしたよ?」

「いや、手加減以前の問題だと思うけど……」

 どう考えても壊し屋スタイルだし、最悪鎖骨とか膝とか簡単に折りそうで怖いわ。本当に内臓系大丈夫かよ。

「お父さん達は、リリーとミエルに甘いから」

 家族会議するべきなんだろうか……。

「お父さんお帰りなさい」

 そんな事を考えてたら、血の混じった唾を吐き出し、手の平に【水】を作って、それで口を(すす)ぎながら近づいてきた。もう少し女の子らしくしてくれないかなー。

「なぁ、大丈夫か? どこか痛いところはないか?」

 リリーは、漱いでいた水をその辺に吐き出し、手の甲で口を拭い俺の質問に答えた。

「気絶してないし、お腹のところの痛みはもう引いてきてるし平気。心配しないでいいよ」

 そう言われてもなぁ……。頸椎とかすごく心配なんだけど……。

「それよりさお父さん、夕飯はちょっと多めに作ってよ。私お腹減っちゃった」

 種族的なのが働いてるんだろうか? 打撃に強いとか。常にアーマーモードとか。スズランが、殴られてるのに笑顔でつかみかかって来たら、死ぬしか選択肢がない気がする。

「はいはい、育ち盛りだからね。一品増やすのと、メインの量を増やすのどっちがいい?」

「メインはなにー?」

「ごちゃごちゃいじらない肉がいい」

「たった今肉になったよ……」

 スズランが口を挟んできたので、少し凝った料理じゃなくてただの肉になりました。

「ならメインを増やして」

「はいはい。あとちょっとくらいは料理も覚えようね。父さんが少し悲しいから」

「料理は強くなってから覚えるよ!」

「リリーの好みの男性が、料理できる女性が好きだったら?」

「気合いで覚える……」

 なんでそこで目を反らすんだよ……。父さん悲しいよ。

 さてさて、島から持ち帰ったこの小さい壷には醤がある。そしてスズランが捌いてくれた鳥肉もある。てりやきしかねぇよな。

 ボウルに醤と蜂蜜と水を入れ、適度な粘度にしてから一口大に切った鶏肉を入れていく。鶏肉を切っている時点で唐揚げだと思ったのか、スズランがそわそわしていた。

 残念、てりやきです。味噌焼きにするのに、味噌も持ってくるべきだったな。

 蜂蜜と水入れないで、ニンニクか生姜入れて唐揚げでも良かったか? まぁ、次で良いか。おー、醤油を煮詰めるような香りが食欲がそそるなー。ネギもぶつ切りで半生。


「あーい、ご希望により肉多めー」

 大皿に盛った一口てりやきの鳥肉のネギ添えをおいて、スズラン以外の前にサラダも置いていく。

「んー香りはいいんだけどー。見た目悪くない? 茶色い様な感じっていうかどす黒いし」

 ラッテが少しむくれた感じで言い、ミエルもうなずいている。

「まぁ仕方ない、そう言う色の調味料なんだから。あ、砕いた唐辛子とかゴマとか振りかけても美味しいよ」

 まぁ本当は串に刺して、強めの遠火でじっくり焼いて、焼き鳥とビールにしたかったな。酔えないけど。

「いい匂い。いただきます」

 スズランがフライングし、フォークで一つ刺してから口に運んだら少しだけ目が開き、モグモグと勢いよく咀嚼し飲み込んだ。

「これは麦酒」

 そう言って、食事中には珍しく樽から麦酒を注いで持ってきた。わかってるじゃないか……。

「へー、スズランちゃんが食事中に麦酒飲むなんて珍しいねー。私も食べてから何飲むか決めよー。いただきまーす」

「「いただきまーす」」

 その後全員がてりやきを口に運び、

「んー、なんかいつもよりプリプリしてておいしいよーこれー」

「色が焦げてる感じだったけど美味しいよ」

「今まで味わったことのない調味料だ……」

 三者三様の答えが返ってくるが、

「これは確かに麦酒だねぇー」

「うん、甘じょっぱいし」

「僕も飲もう」

 全員麦酒様に決まりました。

「でさーお父さん。明日はお父さんと稽古がしたい」

「えー、そろそろ魔法使っても、手加減するのがもの凄く難しいんだけど」

「なら普通に戦ってよー」

「殺し合いになっちゃうよ……」

「僕は、この間武器を破壊された時の魔法の秘密を暴きたい」

「それだけは断る」

 家族で酒を飲みながら、楽しい会話が始まると思ったけど、そんな事はなかった。

「っていうかさ、魔法なしだと絶対リリーの方が強いんだから、そろそろ諦めてくれよ」

「えー、奇抜な動きで色々先が読めないお父さんの稽古って、結構神経使って面白いのに」

「止めてくれ、聞いてるだけで胃が痛い」

「リリー。お父さんは昔からそういうのが苦手だから諦めなさい」

「でもー」

「なら本気で怒らせなさい。多分戦ってくれるわ」

「おいおい奥さんや。いったい何を教え込んでるんだ。そんなこと言われたら絶対に挑発に乗らないよ!?」

「カーム君ってさー、挑発に乗ったことあまりないよねー」

「あたりまえだろう、避けられる戦いは避けるべきだよ」

「けど、怒ったときの威圧感は少し怖かった」

 王都に殴り込みに行く時の話だろうなぁ。

「……あーアレね」

 とりあえずばつの悪そうな顔しておけば、どうにかなるか?

「え? お父さんって怒ったことあるの?」

「見たことがないなぁ」

 子供達が食いついちゃったよ……。

「まぁ、ちょーっと危ないところに行くのに、説得が必要だったんだ。それでどうしても引けない事情があってね、本気だって意志を見せるのに、ちょっとだけ怒った」

「何かあっても飄々としてることが多いけど、あの時だけは本気だと思えた」

「そーそー。あんな顔もできるんだーって感じ?」

「で、危ない事って何?」

「「魔王として人族の王都に殴り込み」」

「何で言っちゃうかなー」

 ため息をもらし、少しだけジト目になってみるが、ラッテが笑顔でウインクしてきた。ここまでは平気だよね? ってアイコンタクトだと思うけど、それも黙っててほしかった。

「えー。どうしても引けない事情が、人族の王都に?」

「なら戦闘もあったよね?」

 リリーとミエルが食いついちゃったよ……。

「残念だけど、予備兵力とサポートだった。期待しないでほしい」

「けど若い頃に魔王と手合わせして勝って、戦場で大暴れしたあげく無傷で帰ってきたくせに」

「ちょっとー、その事子供達には内緒にしててって言ったじゃん!」

「ヴルストさんとシュペックさんから聞かされて知ってた」

 リリーは当たり前の様に言い、

「シンケンさんに聞いた」

 ミエルはボソッとつぶやいた。

「あいつ等……」

 俺は眉間の辺りを押さえ、渋い顔で麦酒を飲みため息を付く。子供達同士の仲がいいと、三馬鹿から俺の情報が漏洩する。

「村では有名。多分知らないのはカームだけ。稽古が嫌なら実践形式にすればいい。カームは昔から不意打ちが得意だし」

「あーはいはい、そうでしたか……。で、実践って何するんだよ」

 適当な時に襲いかかるから、対応しろってか?

「森に行けばいい。平地での正々堂々で手加減が難しいなら、得意な場所に行って手を抜けばいい」

 確かにそうだけど……。

「それでお父さんが強くなるなら、私は賛成」

「僕も」

「お前達まで……。はいはい、んじゃ明日学校が終わってから森な」

「やった!」

「ちなみにだけど、カーム君は不意打ちが得意だからこうやって話してる時に、いきなりテーブルひっくり返して、乗ってるお皿とかフォークとかで攻撃とか普通にするらしいよー。ふふふー怖いよねー」

「それこそどこで聞いたんだよー。もー、マジで信じられねぇんだけど。俺へこむよ? なんでそんな事子供達の前でするの?」

 絶対、第三村が情報源だろうな。

「フルールさんが暇つぶしで話してくれた」

 やっぱりな……。俺は、窓際にある赤い花を持ってきて話しかけた。

「あ、あはは。ほら、私動けないからさ、聞き耳立ててる事多いんだよね」

「ねぇ? 花びらと葉っぱを三枚くらい(むし)っていいかな?」

「ご、ごめん。もう言わないから許して?」

 もの凄い笑顔で、指を顎の下辺りで組んで首をかしげていってきた。

「そんな可愛くお願いしても駄目です。この個体はしばらく普通の水で過ごして下さい」

「そんなー」

「いいですね?」

「す、少しくらいなら」

「いいですね?」

「……はい」

 フルールさんに対して少しだけ怒っていると、

「怒ってる時って、カーム君ちょっと笑うけど目だけ笑ってないよね」

「そうね……、その時は少しだけ威圧感があるのは確か」

「ふーん、覚えておこう」

「僕も覚えておく」

 もう好きにしてくれよ……。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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