第162話 羊の毛が蜘蛛の糸だった時の事 2
タイトルが思いつかなかったので2に……
注意:途中で菓子作りあり
「ってな訳で、製糸服飾関係が増えそうです」
あれから島に帰り、ルッシュさんに今までの事を報告した。
「ってな訳でと言われましても、どうせ委託するか増やすつもりだったんですよね? なら私からは何もありませんが……」
「今は酒蔵とか味噌醤油も作ってますし、少し軽率だったかなと思いまして」
「確かにそうですが、多少時期を延ばしてもらえばいい事です」
「ですよね……」
「――いつものカームさんらしくないですね。何かありました?」
「まぁ……」
そして、先ほどの事を説明し、何となく苦手なタイプなので、後日ルッシュさんも連れて話を詰めに行く事も説明した。
「別にカームさんも、ある程度島の財政事情を知ってるので、私を通さなくてもカームさんの裁量で動いてくれてもいいんですが」
「まぁ……そうですが、その……ルッシュさんお願いします。本当に苦手なんですよ」
「はぁ……わかりました。もう少し詳しくお願いします、建設予定地とかこれからの方針とか」
俺は言われた通り、どうしたいかをルッシュさんに説明し、特に問題がなさそうなので、その案でいくことになった。
なんかどっと疲れた。自分でクソ甘い紅茶でも淹れよう。
パーラーさんのキッチンに行くと、島の女の子達とプリンを作っていた。ほほえましいなぁ。
「あ、まおーさまだー」
「ちがうよ、カームさんってこのあいだ教わったでしょー」
「はいはい、間違いは誰にでもあるし、次から間違えないようにすればいいからねー」
俺は二人の女の子に近づき、頭を撫でてから棚の隅に勝手に置かせてもらってる、多少気密の高い瓶を一つ取り出した。
ポットにカモミールを入れてお湯を注いで蒸らし、砂糖を多めに入れて布で濾しながらカップに注いだ。
はぁー……この香り、落ち着くなぁー。
俺はそのままキッチンに居座り、お菓子作りに奮闘する二人をニコニコしながら見守り、微笑ましい光景を見て癒された。
しばらくお茶を飲みつつ眺めてたら、
「カームさんって、かなり料理もお菓子も得意と聞いてますが、どのくらい得意なんですか?」
いきなりパーラーさんにそんな事を言われ、
「それなりに」
そんな曖昧な答え方をしたら、女の子達が手を止めてパーラーさんに得意げに話してしまった。
「うーんとねークッキーでしょ、ケーキでしょ、プリンでしょ」
「チョコを使ったお菓子も作るよねー。私チョコクッキーがすきー」
「ははは、ありがとう」
「なら、余った材料でプリンを作って下さい」
「あっ、はい……。ジャープリンツクルヨー」
息抜きが……。出来ない……。
オーブンが女の子のプリンで塞がってるので、俺は鍋に布を敷いて少しだけお湯を張り、容器を五つ用意して蒸しプリンの準備を始める。
卵を片手で割り、砂糖を入れてフォークで手早くかき混ぜる、見られてるので少し調子に乗ってみた。そして島では超貴重品の牛乳を入れ、カップに入れようと思ったら濾し布がなかったので、さっきハーブティーに使った布をよく洗い、それで代用する。
「あれ? そのままゆっくり入れないんですか?」
「きめ細かい舌触りにしたいので、白身を切るように混ぜつつ、こういう布で漉せば舌触りもよくなるんですよ。もちろん泡も入れないようにね」
手を動かしながら口も動かし、布の上にカップを置く。
「最初は強火でここから海に行くくらい煮て、その後は弱火で強火二回分の時間煮る、鍋を火から下ろして同じ時間蒸らす」
時間の単位がないからなー、三分とか五分ってどう表現すればいいのかわかんねぇや……。
「なんでおなべでにるの~?」
「なんで布をしくの~?」
「熱いと沸騰して、鬆っていう穴が出来ちゃって、食べたときにザラザラしちゃうんだよー。お湯が熱いとポコポコ泡が出るよね? それでカップが動かないようにしてるんだよー」
「「へー」」
「で、プリンオーブンに入りっぱなしだけどいいの?」
「あー!」
女の子が叫ぶと、パーラーさんがあわてて鉄板をミトンをした手で掴んで引っ張り出した。一切躊躇しないってすげぇな……。
「あーちょっと焦げちゃってますね。余計な話してて失敗させちゃいましたね、ごめんなさい」
「私達も悪いんで平気ですよ。食べられなくないですし……」
「ごめんねー」
「へいきだよ、カームさんのプリンたべるから」
「わたしもー。だってごこつくってたよね?」
「まぁ、確かにルッシュさんを含めて五人分作ったけど……。それどうするの?」
「男の子たちとおとなの人にあげるー」
子供って残酷だ……。
その後はルッシュさんを呼んで、全員でプリンを食べるが、蒸しプリンを茶碗蒸し風に作ったけど、結構好評だった。
「本当ですね、滑らかで美味しいです」
「「おいしー」」
「むぅ……、確かに美味しいですね。何かしてたんですか?」
「これはカームさんが作ってくれたんですよ」
「ふむ、上手とは聞いてましたが、なぜ今作ったんですか?」
「昔から息抜きやストレス発散で作ってたんですよ、今回はお茶を飲んで紛らわそうと思ってたんですが、誘われてしまって……」
「そうでしたか……。このプリンなら誰でも笑顔になりますね、エノモトさん任せだった牛の件も、これを期に拡大しても良いかもしれませんね」
「そうですね、試しに二頭買ってきて榎本さんに任せてますが、大量にいないと繁殖も難しいですからね」
「それも後日詰めましょうか」
「そうで――」
「二人とも、プリン食べながら仕事の話しないでくださいよ! プリンに失礼ですよ!」
パーラーさんに叱られてしまった。だよな、プリンに失礼だよな。
後日俺は、ルッシュさんを連れてテーラー裁縫店に向かった。
「うっ……初めて転移魔法を体験しましたが、あまり乗りたくありませんね。この、なんかフワッとする感じが……」
そんな事を言いながら、口元を押さえている。
浮遊感が駄目なのか。まぁ、こっちの世界じゃジェットコースターなんかないだろうし、車で走ってて、変な段差で妙な浮遊感を感じるとか無いしな。馬車で出来るか?
頑張ればデロリアンも引っ張れるから、可能かもしれない。
門の入り口から覚えている道に入り、そのまま進みテーラー裁縫店に入ると、この間のようにテーラーさんはカウンターにはいなかった。
仕方がないので、奥の方に声をかけ呼び出す。
何かの作業中だったのか、またハサミを持ってジョキジョキしながら奥から現れた。
「はーい。あら、先日ぶりですねーそちらの女性は?」
「うちの事務と経理担当です」
「初めまして、ルッシュと言います。話はカームから聞いております。早速ですが、詳しいお話を……」
「そうですねー、どこまで聞いてます?」
「姉妹が製糸や服飾関係を営んでると聞いております。事前の話し合いで、必要経費や原価を下げるために、全てアクアマリン商会で引き取ろうと言う結果になりました」
「あらー、私も引き取られちゃうのかしら?」
相変わらずハサミをジョキジョキしている。癖なんだろうか?
「いえ。布になった物の販売はこちらでしていただくので、こちらはこのままです。姉妹の方の工房の一切をアクアマリンで引き取ります」
「あら。姉妹が離ればなれになっちゃうのね……」
声質が少しだけ変わり、黒い笑顔でハサミがジョキンと勢いよく閉じられた。正直凄く怖い。たぶんシザー○ンと、本当は怖い童話系が原因だな。
「えぇ、そうですね。ですが島に羊もいますし、鴨もいます。今のところ鴨は食用として飼われてて、羽毛は無造作に集められてるだけです。羊はいつか服飾関係も手を出したいと思って買っただけですので、正直毛だけ刈って手つかずです。何で買ったのかのも不明です」
耳が痛いなぁ……どこかに出かけようかなぁ……、やっぱ駄目だよなぁ。
「ですので、そちらの入荷ルートはそのままか見直しをして、定期的にこちらの港に入港した時に荷積みすれば、輸送費も押さえられます」
「もっともな話ね。続けてちょうだい」
おぉっと、ハサミをジョキジョキしていない。けど空気が変わったな。ピリピリしてるぜ……。
「店舗の買い取りは出来ませんが、機材の搬入と運搬はこちらで請け負います。そして島での工房作成は全てこちらで負担します。今までの店舗は売却すればよろしいかと……」
テーラーさんは、指を組んで顎を上に乗せてため息をついている。
「そこまでしてもらえるなら、悪い話ではないわね……」
「ですが、まだ工房も出来上がっていません。今は別な施設を作っているので、来て頂けるなら着工は年越祭が終わってからです」
「そう……。その頃にはある程度店も閉める準備も出来てるでしょうね。で、姉妹で店を営んでるのも同然で、私の店にその布が入って来る時はタダだったんだけど。そちらはどうするのかしら?」
「タダとはいきませんが、こちらも経費がかかっていますので、原価より安い金額で買い取ってもらう事になりますね」
「それは……。そちらの偉い人の考えかしら?」
おぉぅ。いきなり話を振ってくるなよ。
「正直な話俺は何も出来ないので、出来る人を雇って運営する方針にしてます。ですので、それでも利益が出るとプロが判断したなら、意見を汲み取ることが多いですね」
「そう。なら仕方ないわね」
「別に島に来ても良いですが、島内需要が満たされればしばらくは暇になりますよ?」
「こう考えるのはどうかしら? 島に来ないと買い付けができない特別な布や服を作って、それを餌に商人の購買意欲を刺激したり、冒険者が寄りつくようにしたら? その方が私も姉妹と一緒にいられるし」
んー、もっともな言い分だし、島の利益に繋がるな。
「ですが、島で買った商品を島の外で買うと割高になり、需要があるのに売れなくなるのでは? 需要があるなら、多くの人達に渡るようにするのが商人ではないでしょうか?」
「私、あまり商売気がないのよ。正直転売目的で買われても問題無いわ。ジャイアントモスの布が私の店に入ってきて私が儲かる。大いに結構。布を誰かに売って、その誰かが倍の値段で転売。大いに結構。だけど、姉妹と離ればなれになるのならその話はなかったことにさせてもらうわ。それと、貴方みたいに綺麗な商人ばかりだと思わない事ね。大量生産しても良いけど、値崩れが怖く大量に買い取って在庫を抱えつつ、小出しで売るのも多分いるわよ?」
「確かにそうですが……」
いい感じからの否定かよ……。ダイアモンドとかで、似たような話を聞いたな。あとルッシュさんも押されてる。どうしよう……。
「いいんじゃないんですか? 島で出荷に制限かけて値崩れさせないようにすれば。幸いにも魔族側と人族側に知り合いの商人がいますので、そこに卸せば。専属で契約したい人が現れれば契約内容を厳格にして、違反したら二度と売らない。この店には広告塔になって貰う積もりでしたが、有名な布なら時間が経てば噂も広がるでしょう。観光事業にも手を出したいと思ってたので、金持ち商人や貴族が布目当てで来ればなおよしって事で」
「カームがそう言うのであれば……」
「この町にあった小さな裁縫店と製糸所が一気に二件潰れてなくなった。だから宣伝してもらえる店がなく、仕方なく懇意にしてる商人に布を卸す。そう考えればいいんじゃないんですか? はい、決まりですね。この話を姉妹の方達にお話してください。それでも気に入らなければ、ご縁がなかったと言う事で我々は諦めます。返事は先日依頼した布と一緒に手紙を下さい。では失礼します」
俺は一気に話を進め、店を出た。
それを追う様にルッシュさんも出てきたが、俺の隣を歩き、不機嫌そうにしている。
「苦手だったからルッシュさんに話を纏めてもらおうと思ったけど、思いのほか手ごわかったですね。まぁ、テーラーさんの言う事もある意味正しいですよ。今まで家族経営状態で片方だけ別な遠くの場所、自分は今までの場所。理屈や損得じゃないんですよね……。自分達が全体の価格管理なんかできないんですから、できる範囲でやればいいんですよ。まぁ、その辺で軽く昼食でも食べて帰りましょうか」
俺は気を紛らわせる為に、ルッシュさんを昼食に誘ってみた。
「そうですね――。では、カームさんの奢りで」
「そこは必要経費でしょう」
冗談っぽく言って笑いを取ろうと思ったら、昼食にかかった金額メモしようとしてた。
本当に必要経費にしようとしてたので慌てて止め、冗談であることを言って納得させた。
もう少し頭が柔らかくてもいいんだけどなぁ。




