第160話 爺さん二人が本気出してきた時の事
物凄く遅れました。
後半飯テロ注意
故郷で祭りの後片付けをすませてから、島に戻り数日後。
榎本さんと織田さんが、執務室にやってきた。
「おっす、久しぶりだな」
「お久しぶりです」
「お久しぶりです、いきなりどうしたんですか?」
立ち上がろうとしたら、手を前に出し、そこに座ってろと制止されてしまった。
「カウンターで座ってる嬢ちゃんには、軽く挨拶してきたけどよ、やっぱ直接上に言わねぇとな」
榎本さんは、ニヤニヤしながら、一綴りの書類を出してきた。
そこには、日本酒の蔵本製造と、味噌醤油製造蔵の建設願いと、書かれていた。
「あの、これ……もう少し先になると思ってたんですけど……」
「おうよ。けどよ、最近菌を操れる嬢ちゃんと、仲良くなったって聞いたからよ、少し前倒しだ。さっさと作らねぇと、俺が日本酒飲む前に死んじまう」
「いや、榎本さん……どう見てもあと二十年くらい生きますよ?」
冗談ではなく本気でそう思う。ってか、百二十歳くらいまで生きそうだから。
「まあ、中を見てくれよ」
榎本さんに言われ、ページを見ると、目次が書いてあった。
「俺が口を出して、織田に書いてもらった」
「はぁ……。まぁ、この丁寧さは織田さんの物だと思いましたけど。やけに本格的すぎて」
「昔を思い出してな。少し丁寧にやってみた」
丁寧って、建設予定地から、必要材木数。それに、細かい図面まであるぞ。
「木材や、釘の単価がわからなかったので、建設費用は空欄だが、そこだけ埋めれば問題なく建てられる。第二村の大工の腕も上がってるからな」
「まぁ、この机を見ればわかりますけど……」
本当に職人気質すぎて困る。ってか書類まで作成出来るのかよ。しかも工期まで細かく出てて、びっくりしたわ。
「ってなわけで、嬢ちゃんを交えて会議だ」
「多分俺と、カーム君とルッシュちゃんの話し合いになるけどな」
ってな訳で、応接室に四人で移動して、パーラーさんにお茶を頼むと、織田さんがコーヒーを頼んだので、織田さんだけコーヒーになった。
「さて。酒蔵や、調味料の製造施設と言うことですが……これ、妙に細かいんですが、誰が書いたのでしょうか?」
ルッシュさんが、一応確認とばかりに聞き、俺と榎本さんが織田さんを見ただけで、ルッシュさんが何かを言うのを止めた。
いや、俺も書こうと思えば書けるよ?けど、図面とか、必要物資の詳細とかまでは無理だから。
「この空白の部分は、なんでしょうか?」
「単価がわからないから、空白にしてただけだ。後はそちらで数字を入れてもらえば、必要な金額も出る。まぁ、島内の木材で補えるなら、四ページほど戻れば、木材を加工する場合の工期も出てる。その場合は、加工しながらの作業になるから、三十日以上工期が伸びるがな。最後の項目にも、この施設が、この島にどの様な利益が出るかも書いてあるから、ぜひ検討してくれ」
いや、これ検討する必要無いだろ。まだ島に必要な施設も多いが、収入に繋がるなら、やるべきだよな。
「検討するまでもありません。木材も、家六件分くらいの木材と書いてありますので、備蓄的にも足りますね」
「工期が延びても良いなら、それでいい。カーム君はどう思う?」
「そうですね……。別に三十日以上延びても問題ないと思いますよ? 両方発酵しないと、どのみち無理ですし。人件費と買って来る木材を比べても、余り差がないので、木材加工の腕も上がるでしょうし。むしろそこまで急ぐ必要ないんじゃないですか? 味噌醤油が、どれくらいで出来上がるか、詳しく覚えてませんが」
最悪、ピルツさんにがんばってもらえれば、一気に醸すぞーとか言いそうだし。
「早くないと駄目だ。俺がサザエのつぼ焼きを醤油で食いたいんだ。港町で出回ってる醤油、量が少ないうえに高いしいまいちだ」
「あ、はい。そうですか……断る理由がないですね。俺も食いたいですし」
片方は酒、片方は醤油。こいつは絶対に断れない。ってか俺も、アジの開きに醤油かけて、白いご飯と味噌汁で食いたい。
「決まりだな。今のところ需要はわからないが、最悪島内で流行らせてから、輸出してもいいだろう。そのうち、コランダムで露店でも開いて、何か売ればいい、コーヒーのようにな」
なんだろう。島の事全部、織田さんに任せたくなってきた。
「この最後のページにある、生産見込みと、職人の教育方針というのはなんでしょうか? 空白なんですが……」
「生産見込みは、実際に作ってみないとわからないからな、知識はあるが、経験がない。職人の教育方針については、この島の一番偉い奴の裁量しだいだ。我々に合わせるか、そちらに合わせるかだ」
「え? そこで俺に振ります? そうだな……食品――というより調味料ですので、厳格に行きましょう。品質は良いに越したことはありません。逃げださないように、ある程度そちらの裁量に任せます」
「わかった。ある程度手は抜いておく」
職人気質の織田さんが本気になったら、きっちりやらせそうで怖い。
「さて、茸の嬢ちゃんだが。今、会えるか?」
「はい、直ぐに持ってこられますけど?」
「なら頼む、少し話があるからな」
俺は、床を剥がすのが面倒なので、パーラーさんのキッチンから、借りてきた。
「さて、茸の嬢ちゃん。わし達は、これを大量に作りたいんじゃが……、作れるかのう?」
榎本さんは、俺が少しだけ作った味噌と、自分で作ったであろう米麹を出した。
「こっちの白いのにいるのを増やして、豆と合わせて茶色の奴にするんだ。こんなやつがみえねぇか?」
榎本さんは、タンポポの綿毛の出来損ないみたいな絵を取り出した。オリゼー? ちょっと前のマンガでデフォルメされてるの見たな。
「ひひっ、いるいる。良い子達が沢山いるよ」
「おし。んじゃこいつを増やせるようにして欲しいんだけどよ、出来るか? 嬢ちゃん」
「出来るよ……今?」
「今じゃなくてもいいんだ。こいつを作る場所が出来たら手伝ってもらうからよ」
「い、いいよ。私は問題ない」
「なら決まりだ。おい、カーム。昼飯作るから台所貸せや。そこの犬耳と兎耳の嬢ちゃんに、俺達の故郷の飯を食わせてやらねぇと、実感わかねぇだろうからな」
「なら、パーラーさんに言ってください、裏手の台所を仕切ってるのは、彼女ですので」
「よっしゃ嬢ちゃん。ちょいとばかり場所借りるぜ?」
返事も待たずに、爺さん二人は出て行ってしまった。うん。ある意味老人は色々強いな。
書類をある程度片付け、一息入れていたら、なんか炊き立てご飯の良い香りがしてきた。くそ懐かしすぎて、耐えきれずに裏口から出て、パーラーさんのキッチンに足を運んでしまった。
「嬢ちゃん、藁一掴みだけもって来てくれ」
そんな言葉が聞こえ、中を覗くと、土鍋が火にかかっており、持ち手のところにスプーンが置いてあり。蒸気がそこに貯まって、水滴として落ちて、吹き零れないようにしてあった。
ずいぶん本格的だし、土鍋も作ってたのかよ。向こうは向こうで、なんにでも手を出してるな。もう第二村の一角が、日本になるぞ。
そして織田さんが、なんかの開きになってる魚を遠火で焼きながら、サザエの壺焼きを焼いてる。
ジュクジュクと泡が出てきたら、醤を垂らし、焦げた醤油の香りがただよいはじめる。
奥では榎本さんが味噌汁を作りながら、なんか脂の乗ってそうな魚を捌いていた。刺身だろうか?
やべぇ、確実にここだけ日本だ。
さらに、持参した小さなぬか床から、カブを取り出して切っていた。
「わー、美味しそうですね」
「お、嬢ちゃん。わかるか? ぬか床が育ってるからな、うめぇぞ。一枚食ってみろ」
榎本さんがそういうと、パーラーさんが手を伸ばし、ポリポリと食べ、幸せそうな顔をしていた。
俺は我慢するぞ! 土鍋で炊いた白いご飯と一緒に食べるんだ!
「んー、漬かりが浅いのに、香りが良いですね。私のは、なんか違うんですよね。卵は美味しいですけど……」
「年期が違うんだよ。株分けしてやってもいいぜ?」
うわ、俺も欲しい。
そんなやりとりを見ていたら、和食が出来上がっていた。
「さて、犬耳の嬢ちゃん。こういうのは、食えば考えが変わるもんだ。まぁ、もう許可もらってるけど、食ってみろ」
「はい。あの、この二本の棒はなんでしょうか?」
やっぱり、箸はわからないよな。
「まぁ気にすんな。一緒に置いてある、ナイフとフォークか、スプーンで食ってくれ」
「はい……」
ろくな説明も無しに、五人で食事を始める。
「この焼いてある魚には、先ほど説明した、この醤油……まだ作ってないから、似たような物だが、それをかけてくれ。生魚には、少しだけ浸すようにして食べてくれ」
「これは、第二村で作ってるコメって奴ですよね?」
「おう。酒も、味噌醤油も米が必要だ。だから、すべての基礎だな。おいカーム。お前が、俺の家に置いてった箸だ。どうせお前は箸だろ?」
「はい!」
「ったくよ、うれしそうに返事しやがって」
実際に嬉しいんだから仕方ない。白いご飯に焼き魚、味噌汁、しかも刺身に、サザエのつぼ焼き。
海沿いの定食屋で焼き魚定食頼んで、単品でサザエのつぼ焼き頼んだ感じになってるからな。
「「「頂きます」」」
俺は醤を焼き魚に垂らし、それを白いご飯でかき込み、味噌汁で流し込む。
みそ汁の具がワカメだけだったが、十分に美味しい。もう豆腐生産所も作って、油揚げとかも作った方が絶対にいいな。
こんなん考えるの後でいいや、次は刺身だ。わさびが無いのが惜しいが、うん、十分に美味しい。油が口の中で溶けて甘く感じる。これはこれで、わさびが無くても美味しいな。
わさびってどこにあるんだろうか? まぁ、こんな島じゃ育てられない気がするけど、西洋わさびなら可能か? アブラナ科だった気がするから、パルマさんか、フルールさんと相談だな。クソ強いらしいから、育てるの楽だろうけど、苗だよな……。
あとはこのサザエのつぼ焼きだな、うん、今まで塩だけだったけど、醤がいいね。やっぱりうまみ成分のアミノ酸の違いだよな。
なんだかんだ弄り回さないで、塩だけでも十分美味いけど、醤油の焦げる香りや、焦げが良い感じだ。醤だけど。
多分熱処理してないのが良いんだろうな。
そして、秋植えしたカブをぬか漬けにした物を、ポリポリと食べてさっぱりとさせる。うん、美味い。けど俺はバナナと、パンと麦酒で作ると決めたんだ。ってか、家庭で個性が出てもいいじゃないか。
うーん、食事を終わらせるのが惜しいな。まぁ足りないって思うくらいが丁度良い。次の楽しみが増えるからな。
「ご馳走様でした」
「おう、おそまつ様でした」
「皆さん、よくそんな棒二本で食べられますね……」
「「「慣れてるから」」」
「そ、そうですか。ま、まぁ。十分に美味しい事を証明して頂きましたので、商品としては問題無さそうですね」
ルッシュさんは、漬物だけを残して、綺麗に食べていた。俺からしてみれば、焼き魚をフォークとナイフで綺麗に食べる方が難しいと思うけど、子供の頃からの教育なんだろうか? すごく様になっていた。和食なのに。
「このミソとショーユって、物凄く美味しいですね。同じしょっぱいでも、何が違うんでしょうか?」
「さっきの、白い奴のカビだよ。豆の中にある栄養を、さっきのカビが溶かして、美味しい物に変えてるんだ。まあ、もう少し難しいけど、大体こんな感じだ」
「カビって、物を駄目にするだけじゃななかったんですねー」
パーラーさんが疑問に思った事を、織田さんが答えてくれた。
うん、俺の立ち位置と変わってくれ。あの執務室の席譲るからさ。けど一生現場主義とか言われそうだしな。ってかこの爺さん二人いれば、何でも解決できそう。
まぁ、日本酒と、味噌醤油の調味料が出来れば、真っ先に勇者行きだろうけど、島の定食屋のメニューも考えておかないとな。
サンドイッチみたいな軽食屋もいいけど、ザ・食堂って感じのもいいな。港町っぽくて。
最近飯物が多い気がする。
ちなみに作者は生肉生魚が食べられないので、刺身に関しては、某漫画の受け売りみたいな物です。




