第157話 キースが勝負を仕掛けた時の事
あれから数日が経ち、麦や米の収穫も終わり、収穫祭の準備に取りかかる。
第三村に行ってもらった孤児院から来た人達も、とりあえず何をするかわからなかったみたいなので、第三村で作っている麦の収穫を手伝ってもらうことにして、近日中にコーヒーの収穫でもしてもらうか。とりあえず収穫祭を楽しんでもらって、姐さんに対する注意事項を先輩達に念入りに教えてもらえば良いと思う。俺は第一村で収穫祭するけどな!
まぁ姐さんは、すべての村を回って、いい雰囲気で酒でも飲むだろうから、多分教えてもらえるだろう。拳圧だけで海を割った伝説を……。
あれから、姐さんにセクハラや、いきなり胸を揉んだり抱きついたり、胸に顔を埋める輩は出ていないと思いたい。祭りだけじゃなくて、たまに用事が無くても村に降りてくるし。
まぁ、最悪死亡報告が来ると思うし、それがまだ無いって事は、死亡者は出てないと思いたい。
◇
俺は、ピルツさんが来てから、やりたいと思っていたジンジャービア作りを始めた。
まずは野草さんに確認してから、生姜を収穫して、鍛冶職人のピエトロさんに簡単な絵図面を見せて、下ろし金を作ってもらい、大量に生姜を摺り下ろし、砂糖と水とレモン汁で煮込む。
その後はあら熱を取って、布で越したジンジャービアの元を煮沸消毒した瓶に入れ、軽く布で蓋をしてピルツさんに「パンを膨らませたり、お酒を造る子達を元気にしてあげて、コレをお酒にしてほしいんだ」と言って、パーラーさんのキッチンで大量に酒造した。
ピエトロさんに「コレは拷問器具か?」とか言われたり、ピルツさんに「放っておいてもお酒になるよ? うひひ」とかにやけながら言われた。
拷問器具じゃない事を力説し、酒は今まで運が悪かっただけだと思うようにして、なんとか収穫祭にはジンジャービア作りは成功した。ってか前日に作らないと発酵しすぎて腐る。前々から大量に作って、ピルツさんに頼んで発酵を止めてもらってもいいけど、なんか違う気がしたので、前日にがんばって生姜を摺り下ろした。
俺がキッチンに立つと、島の子供達がお菓子目当てに寄ってくるが、残念な事に酒作りなんだ……。明日何か作っといてやろう。
収穫祭当日、俺が子供達にせがまれて作ったサンドイッチや、どんどん増えてる家畜や家禽の肉を使った料理が出て、俺も前日に作ったジンジャークッキーとジンジャービアを出してみた。ジンジャークッキーは、クッキーを造る行程に摺り下ろした生姜を入れるだけだし。
ジンジャービアは微炭酸で、ホワホワとした感じのアルコール度数だ。もう少し砂糖を減らせば、アルコール度数もかなり低くなって、ジンジャエールもどきができたかもしれない。炭酸水島に湧いてねぇかな……それで割れば簡単なんだけど。
会田さんか、この間話に聞いたマッドな理系教師に聞いても良いかもしれない。
「甘辛くて弱いな、しかも生姜だから妙に痛いし、麦酒より泡が弱い」
「噂で聞いたことがあるけど、こんな感じの水があるって行商人が言ってたな」
とか聞こえ、一応こっちの世界でも炭酸水は自然に湧いているみたいだ。
けどこの微炭酸じゃモヒート作れないし、盛大に生姜だから、別物になる。このままミントをぶち込んでも、多分生姜に負ける。しばらくは諦めよう。もう少し科学に興味持てば良かったな。クエン酸と重曹ってのはわかってるけど、クエン酸ってレモンとかにかに入ってるし、重曹ってそもそも何?石灰的な物?
後は炭酸ガスだったか何かが、加圧されて水に溶けこんんでるんだよな。多分こっちは知識が有っても技術的に無理だしな。まぁ、わからないから聞いた方が早い。まぁ、祭りでも楽しむかな。
炭酸水がどうのこうの考える事を止め、皆の輪の中に入っていくが、キースがルッシュさんの正面に座り、酔った勢いで言い寄っている。
「ルッシュさん! 俺は一目見た時から好きになってしまいました! どうか俺の子供を生んでくだしゃい!」
キースは、チビチビとストレートのラムを飲んでいたルッシュさんの両手を握り、目を見て真剣にプロポーズをしていた。しかも盛大に噛んでるし……。
「「おおぉ!」」
「いいぞキース! その調子だー」
ふむ、キースの好みは凛とした感じが好みだったか。で、ルッシュさんの反応も気になるな。
「……お酒が入ってない時に出直して来なさい、話はそれからです!」
少しだけ目の据わったルッシュさんが、キースに強めに言い返し、後日出直して来いと強めに言い返している。
「「おおぉ!?」」
「うっす! 明日にでも会いに行きます!」
「なら、仕事が終わったらにしなさい! こっちは数字を扱ってるんです、間違えたら大事です」
「うっす!」
何だろう、いつもの口調じゃないな、尻尾も振ってないし。最前線砦とかにいた頃はブンブン振ってたのに……。本命すぎて緊張でもしてるんだろうか?
しかもルッシュさんは俺と同じタイプなのか、お酒が入ってる時は真面目な話は受け付けないらしい。ってか釣り目で少し目つきが悪いのに、酒が入って目が据わるとマジこえぇ。絶対に殺しの経験が有ります的な、やばい系の目つきだ。もしかしたら、この島に来る前に何人か殺ってるのかもしれない。多分そんな事はないだろうけど。
「よう、門前払いされないでよかったな」
「おうよ! 一目惚れだから無理かと思ったけど、玉砕覚悟で言ってみるもんだな!」
「すげぇよキースは。俺にはそんな勇気ねぇよ」
「お前は戦を避ける傾向が強いからな、恋も奥手だったんだろ?」
「前に話しただろ、蒸し返すな!」
周りに笑いが起こるが、俺は気にしないでジンジャービアに【氷】を足して。大き目の桶にも大量に【氷】を足しておいた。
んー本格的に魔法使いが欲しくなってきた。その辺に落ちてねぇかなぁ。裏路地に腹ペコか血まみれで。
そんな事を思いつつ、微炭酸の冷たいジンジャービアにラムとライムを入れて、モスコミュールモドキを飲む。うん、ミントだったら負けるけど、ライムだったら負けねぇな。モヒートは諦めっかなー。
チビチビと酒を味わっていたら、姐さんが俺の目の前に座った。相変わらず、いつ祭りに紛れ込んだのかわからなかったわ。あんなに髪が目立つのに。
「カームちゃん、相変わらず美味しそうなの飲んでるわねー。お姉さんにもちょーだい」
ニヤニヤとしながら、獲物を見つめるような目つきでこちらを見ているが、気にせずカップにラム多めで、濃い目のを作ってやった。
「あらー、生姜にライムも合うのねー。それにお酒強すぎー。私を酔わせて何をするつもりなのかしらー?」
「いや、姐さん酔わないでしょうに……何言ってんすか……。知ってて濃くしてあげたのに、そんな事言われたら、自分で作れって言っちゃいますけど?」
「ふふふ、冗談よ。最後にこの村に来たけど、やっぱりお酒と料理はこの村が一番美味しいわねー。第二村は人族の神父が村長だから、なんか盛り上がりに欠けるのよねー。豊穣の女神に感謝って感じで変に粛々と? 私にはわからないわねー。第三村は、あの角が片方ない若くてヤンチャなのが村長で、勢いに任せてやってるから混沌としてるし。けど楽しいわね。からかいがいのある若い子も増えたしねー。けど、注意して拳を突き出して海を割った事が伝わってるらしくて、遠くから胸を見てるだけなのよねー」
「……そうっすか」
よかった、死人は出なかった……。
「まあ、種族の違いが出てていいんじゃないかしらー? なんだかんだでいがみ合って無いし、魔族と人族で恋仲になってるのも少なからずいるし、カームちゃんのおかげよねー。カームちゃんが来る前は、殺伐としてたしねー。本当今回は当たりだわぁ」
少し愚痴る様に、濃い目のを酒を目を細めて水みたいに飲んでいる。
「今回は……ねぇ」
「そっ、今回は……ね。なんか湿っぽくしちゃったわね、ごめんなさいね」
「いえ、たまにはこんな事もありますよ」
「あらー、優しくしても何もないわよー?」
「何も期待してねぇっすよ。嫁も子供もいるんだからそういう冗談だけは勘弁して下さい」
「あらー、どんな事を期待してたのかしらー?」
ニヤニヤとしてたので、溜息を出しながら「頭なでなでっすかね?」と投げやりに答えた。
そんなやり取りをしていたら、パーラーさんが、犬耳のおっさんになんかテーブルに乗ってない料理を渡して、おっさんが照れてるし。
猫耳ウエイトレスさんが、猫耳のおっさんにじゃれついて、なんか少し迷惑そうにしてるし、あしらうのを諦めたか?
狐耳のおっさんは、スラムから入島して来た狐耳の女性に声をかけている。
うん、狐耳のおっさんは少し軽い感じがしてたから、なんとなく声かけまくってるのには納得がいくが、パーラーさんも渋い系のおっさんが好きなのか?
おっさんて言っても、会った時から見た目三十代後半なんだけどな。
父さんも見た目があまり変わってないし、俺もあまり見た目に変化がない、本当どっかの戦闘民族みたいに若い時代が長いのかもしれない。まぁ、その内俺も父さんみたいになるだろう。
◇
翌日、片付けが済んで、昼過ぎに軽い業務をして、夕方に執務室でグデグデしていたら、オフィスの方でキースの声が聞こえたので、昨日の件だと思いドアに耳をくっ付けて取りあえず聞いてみた。
「昨日の返事を聞きに来ました!」
ふむ、最初の方は聞こえなかったが、今からでも十分だな。
「……まぁ、日が沈みそうなので仕事は終わりなので返事はしましょう。そうですね……クラヴァッテ様に頂いた書類にありましたが、最前線基地に行く途中や、基地内で女性を買っていたらしいじゃないですか」
「あ、あぁ……」
うん買っていたな。尻尾が千切れるくらい振ってたの覚えてるぞ。
「まあ、殺しをする非日常だから、それは仕方がないとしましょう。ですが、私に子を生んでほしいなら次の収穫祭まで、私に誠意を見せてください。知っているんですよ? 貴方の島での女性関係を」
ほー、知らなかった。面白い事になってきたな。
「あ、いや……」
「この間戸籍調査をした時に、噂話程度の物も聞いてますので……。最近セレナイトのスラムから入島して来た同族の女性と数回、種族が別な女性と数回関係を持ったらしいじゃないですか」
興信所か探偵みたいじゃないかよ……、やべえ、なんかすごく怖い!これ以上聞いちゃ駄目な予感がする。
「まあ、スラムで体を売っていた女性という事ですので、ある意味後腐れは無いと思いますし、まだこの島にそういう施設が無いのである意味仕方がないと思いますが、私は貞操概念の薄い男性は嫌いです。ですので、次の収穫祭までそういう事はせずに、一人で処理して下さい」
あちゃー、すげぇ冷たい目で言い放ってる場面が安易に想像できる。
「わかりました! その約束を守ったら生んでくれるんですね!」
「いえ、それから御付き合いして、私がこの男の子供を生みたいと思えるまでは駄目です」
うっへ、なかなか厳しい。
「少しはカームさんを見習って下さい。あの方は、故郷に仲の良い女性がいるから、買っても尻尾しか撫でなかったと聞いています。私もそのくらいなら寛容出来ますが、行為に及んでいるのでは寛容出来ません」
なんでその話が出てくるの!?どの程度その話知ってるの?最悪かなりり広まってるんじゃねぇの?あ゛ーやっぱり聞かなければ良かったー。
「う……、わかった。とりあえず信用させて、振り向かせればいいんだな?」
「えぇ、容姿やある程度の性格は嫌いではないので、その癖だけ直してもらえれば、次の次の年越祭辺りに、雰囲気にのまれて応じてしまうかもしれません、私も女性ですので。って事でこの話しは終わりです。私はこの書類をカームさんに渡してから、自宅に帰らせていただきます」
やっべ!こっち来る!イ、イス!イスに座ってダラダラしないと!
俺は足音を立てずに、急いで椅子に座り机に突っ伏し、細筆を持って、書き損じた書類の裏に、訳の分からない幾何学模様を急いで描き始め「あ゛ー」とか声を上げる。
そしてドアがノックされ「失礼します」という声と共にルッシュさんが入って来た。
「今日の昼までは休みでしたので、あまり書類はありませんが、なるべく早くご確認お願いします」
俺は姿勢を正し「はい、お疲れ様です。では今日も上がりましょうか」
そう言って席を立ち、戸締りをしてから自宅に帰った。
多分ばれてない事を祈ろう。まぁ、しばらくキースには優しくしてやろう。
カームは誰にでも「お疲れ様」と言います。「ご苦労様」は多分使いません。




