第155話 色々突っ込まれた時の事
そろそろ収穫の準備を本格的に始めようと言う頃、畑の様子を見てたら、近くにあった赤い花が変化して、話しかけてきた。
「セレナイトの方に行ってる船長が、寄付をしている孤児院の子供達が、島で働きたいって言って来て、連れて来て良いかって聞いてるんだけど。どうする?」
「ん、んー? 来る者拒まずって伝えて」
「はーい」
「コーンフラワー孤児院から、ついに自主的に入島者が出たか。寄付金と、たまに顔を出しに行っているイセリアさんのおかげだな」
とりあえず空き家はあるし、食糧の備蓄も十分、収穫が近いから、道具類の整備と、倉庫の古い物を前に出す作業もしないとな。
ってか古米じゃないけど、去年の麦が多少余るようになってきたから、蒸留所を増築して、もう一機増やした方がいいのかな?
そう考えてたら、ルッシュさんが「寄付金とは、使用用途不明の謎の出資でしょうか?」と、執務室に入ってきて突っ込んできた。んー嗅ぎ付けられてたか。
「えぇ、まぁ雑費として処理してください」
「それはかまいませんが、そう言うのは言ってくれると助かるのですが……」
お盆で、麦茶を持ってきてくれたので、パーラーさんに頼まれて持ってきたんだろう。ってか本人何やってんのよ?
「……すみませんでした」
「なら、この三十日に一回、お酒の備蓄が減っているのも説明して下さい」
俺は、いたずらのばれた子供のような顔になり、素直に全部言うことにした。
「そうですか……一応防衛費でいいんですかね?」
書類を取りに一度戻って、また執務室に戻ってきて、色々書き込んでいる。
「わかりません、関わりたくない程度に強すぎる事は確かですが、酒が絡まないと、守ってくれなさそうですし」
ジャスティス君の時の事を話して、ルッシュさんの出方を待つ。
「酒に関する施設のみの防衛と言うことでしたら、用心棒としての給金としては多少高いですが、かなり強いのにそれだけで雇えてるという風に見れば安すぎると思います。話を聞く限り、人族の名高い冒険者や、勇者を屠ってきた猛者なんですよね? ランク10の冒険者を三十日護衛に付けて移動となれば、値段としては破格なので問題ないと思います。という事で、この定期的に備蓄が減ってるお酒は防衛費と言うことにしておきます」
「助かります」
うん、わかってた。なんかきびきびしてるし、いずればれるってわかってたけど、こんなに早くばれるとは思わなかったし、ものすごく堅い。
絶対スーツ着て、お洒落眼鏡とか似合いそうだもん。
はぁ、とりあえず、もう一機増やすのは相談だな。
「えぇっと、ルッシュさん?」
「なんですか?」
「倉庫に余ってる小麦と、今回採れる小麦の量を考えると、前回の収穫祭の時期より畑が大きくなってるから、更に余るのは簡単に想像できますよね?」
「えぇ、確かに小麦の在庫はまだありますね、畑の件はまだ来たばかりですのでよくわかりませんが……。何か相談があるみたいですね?」
んー、もういきなりズバッて言った方がいいのかもしれない。どう考えても説得に入ってるような言い方だしな。今度からそうしよう。
「えぇ、小麦を古くさせるのもアレなので、蒸留所を一機増やそうと思っていたんですよね」
「そうですか、少々お待ち下さい」
そう言って、帳簿を見ながら算盤を弾き、荒い紙に何かを書いている。
「私が島に来る前の銅の値段と、買ってきた銅の量を考え、お酒の生産量が単純計算で二倍になるとして、どこかで支援者を見つけて支援してくれれば、季節が三回巡れば元が取れますね。売り上げをすべてその方に渡す場合ですが……。一つ目を作った時は、カームさんが出したんですよね? もし可能であれば、多少島に儲けが入るように返済案を考えますが? カームさんが出してくれるならですが」
うん、俺の場合売り上げから、なぁなぁで返してもらってたけど、ルッシュさんに任せると細かく出してくる。相談って事で話したのに、どうして作る事前提で話してくるんだろう。変に優秀すぎる。
「まぁ、古くなった小麦の有効利用がこれくらいしか思い浮かばないから、こういう相談したけど、他に何かあるかな?」
ルッシュさんは、少しだけ右上を見てから口を開いた。
「お酒にして売った方が、今のところ換算率がいいのでそれで良いと思います。小麦の島内需要は満たしてますし……。近所の港のスラムや孤児院、人族の教会に寄付をして、カームさんの知名度を上げるのも良いですが、そう言う場所は物より、自由に何か買えるお金の方がうれしがると思います。飢饉の噂も流れてませんし」
なんか色々怖くなってきたな。優秀すぎでしょう?絶対どこにでも行けたはずだって、なんでこんな凄い方がうちに来たんだ?てっきり少しかじった程度の商人の三男か三女くらいが来ると思ってたのに。
逆に考えよう、完璧すぎて嫌われて戻ってきた……と。それなら納得いく。たぶん馴れてきたら、小言を俺に言うに違いない。ルッシュさん、恐ろしい子!
あ、思い出した。クラヴァッテの屋敷で、酒を都合した貴族。鉱山持ってて、なんか色々上手く事が進んだ事言ってたな。場所はどの辺なんだろう。輸送コストを考えると近場の方が安いんだろうか……。
「ちょっと良いですか? 横の繋がりが出来ればいいかな? と思ってクラヴァッテ様と交渉してた、ちょっと大きめの鉱山持ってて、かなり凛々しい感じの、犬の獣人族の貴族様の名前わかります? 雑談して、顔しか売らないで自己紹介しないですませちゃったんですけど」
「……なぜそのような場で名前を聞かなかったんです? さすがにそれだけの情報ではわかりません。フルールさんを介して名前をお聞きすればいいんじゃないんですか?」
すげぇ冷たい目で見られた。少しだけ、クラヴァッテの気持ちが分かった気がする。
他の商人の名前も怪しいんだよな。買い付けに来て「あの時の夜会の」とか言われれば「あー、あの時は……」で会話をつなげるんだけど、大抵は、セレナイトのオルソさんに卸してるからな。島まで直接買い付けに来るのは少ないんだよなー。
「ってな訳で、名前はザウム様、セレナイトから領地まで結構遠いから、たぶん親しくなって多少鉱石類が安くなっても、輸送費で多少割高になりそうですね。頼るならまたの機会ですかね」
「あー、あの方でしたか……。近くの港町に、口を利いてくれる方がいればいいのですが」
「セレナイトの零細商人をかき集めて、寄り合いを作らせたから、そこに仕事を回してみましょう。とりあえず見積もりですかね」
「ミツモリ……とは?」
「んー早く言えば、もし仕事を頼んだ場合、この程度の金額でできますよって感じです。一のお店では銀貨五枚、二のお店では銀貨四枚と大銅貨八枚。どっちから買います?」
「二の店?」
「そんな感じです。まぁ、義理や付き合いで一の店から買う事もあるかもしれませんし、二の店の質が少しだけ悪いかもしれません。それはつきあいが長くなればわかってくるので、時と場合でどっちから買うかを決めればいいんですよ。早く欲しい場合は、少し高くても直ぐに買える店に頼みますし」
「……確かに」
「まぁ、そこにつきあいとか、大量に買うからって交渉が入るので、大体の目安ですよね。では、セレナイトから試しに取ってみましょうか」
「そうですね、他と比較できませんので。むしろ、それの名前がミツモリだとは思いませんでした」
単語自体が知らなかっただけで、そういう行為自体は確かにあった気がする。
「んじゃ、ヴァンさんに拡張計画とかさせてみるか……どこにどう作れば、一番効率が良いかわかりそうだし」
「あの方は、お酒作りが仕事なのか、鍛冶が仕事なのかわかりません」
「鍛冶士が本職で、酒作りが趣味なんじゃないんですかね? 下手すれば、鍛冶が趣味なのかもしれません」
「……否定できないのが残念です」
「難しい仕事だけ、鍛冶を手伝うのかもしれませんよ? あまり鍛冶場にいるのを見たことがないので。さてと、色々動きますかー」
「その前にこの書類に判子を下さい」
「あ、はい……」
んー、ある程度ルッシュさんの裁量でやってくれてもいいんだけどなー。
んー、オリーブオイルの生成所の拡張願い?んなもん、織田さんの判断でやってもいいのに。あの人は変に堅いからなー。
書類に判子を押した後は酒造所に行って、ヴァンさんに去年の麦があまり気味で、今年は畑を増やしたから、更に麦が増える事を伝え、蒸留機を一つ増やすつもりでいるので、新しく施設ごと建てるか、増築するか、手狭になるけどここに増やすかを、話し合ってもらうように伝える。
それから第三村に行って、トローさんに孤児院からの入島者がいるからこっちに回す事を伝えた。人数聞き忘れたけど、まだまだ人数的には対応できるし、なんとかなるだろう。
俺はセレナイトの城壁外に転移して、通行料を払ってから中に入り、オルソさんの商店に向かった。
向かう時に嫌でも港が見えるので、うちの船を探したが、既に出航したようで、見当たらなかった。なのでそのままオルソさんの店に向かう。
はじめて入った時に比べ、物の移動が頻繁に行われてるのか、床がかなり綺麗だし、職員も増えたのか、大声で指示を出している。
「お疲れ様でーす」
「おう、直接来るのは久しぶりじゃねぇか」
「そうっすねー。あの頃に比べ、かなり忙しそうじゃないですか」
「おかげさまでな。取りあえず、他の儲かってない店も加入させろとか言ってきて、色々弟がやってくれてるから助かる。色々注文が入って、取りあえず色々な店に注文して、皆でお手て繋いで今のところ仲良くやらせてもらってる。おかげで裏通りの店にも活気が戻って、みんな喜んでるぜ。仲間の話だと、スラムのごろつきも雇って、なんだかんだ言って働いてるし、治安も良くなってるんじゃねぇんか?」
「良い事だらけですね。ってわけで、いきなり仕事の話で悪いんですが、この書類に書いてある量の銅が欲しいと思ってるんですよね。ですので、オルソさんが仕切ってる組合で買った場合、どの程度の値段になるのか教えてもらいたいんですが、やり方は任せます。一つの店で全部頼むか、量が多いから、数件の店から同じ量を買って仕事をまわすか。今回は、とりあえず正式に注文する前に品定めをして、質が悪すぎなければそこに発注しますので、口利きお願いします。複数から均等に取る場合は、一応全部の店を周りますので、伝えておいて下さい、品質が悪い場合は弾きますので」
「お、おう。わかった。大口の仕事は助かる」
入札とかさせても良いけど、混乱しそうだし、喧嘩とかになりそうだから、上手く回ってるから、変に口を出さない様にしよう。
「それと、釘一万本お願いします」
「おう、まかせろ! この間の件で、この辺の鍛冶屋のやる気も上がってるからな、この間のより品質は良いと思うぜ?」
「はは、それは何よりです」
「それとだな、少し酒の方を多めに融通してくれねぇか? なんか妙に買っていく奴が増えてな。聞いた話だと、酒好きの貴族が贔屓にしてるらしくて、その噂が広まってるらしいんだよ。この辺で取り扱ってるのは俺の店だけだから、少し在庫を置いておきたいんだよな。それと、妙にお前の名前を出して買っていく奴がいるんだよ」
絶対にあの時のアフガンハウンドみたいな貴族と、夜会にいた商人だよな……。
「あ、わかりました。少し多めに入れるように言っておきます」
「助かる。在庫が無いとこっちの信用が落ちるし、裏に貴族が付いてると、何かと怖いからな」
「ははは、申し訳ない」
「何謝ってんだよ」
俺は謝った理由を話し、貴族や商人の事も説明して、多分そのせいで、酒の発注が増えてる事と、酒を造る施設の為に銅を買う事を伝えた。
「ばっかじゃねぇの? なんでお前そんなに偉いんだよ! ってか、アクアマリンの魔王ってお前かよ!」
「いやー、こんな魔王ですみません」
にやけつつ、頭を掻きながら軽く頭を下げて、謝罪する。絶対謝罪に見えないけど。
「まぁ、今までが今までだから、今更態度を変えるとかはねぇけどよ」
「まぁ、それが一番俺の胃に優しいですね」
「そんな事でいちいち胃とか痛めてんのかよ、心が弱いな」
「オルソさんみたいに図太いと、嬉しいんですけどね」
「褒め言葉として受け取っておくわ。んじゃとりあえず銅と釘の件は任せろ。んじゃ仕事に戻るわ」
「よろしくお願いします」
その後は、孤児院に向かい、セルピさんに挨拶に行こうと思ったら、妹のオピスさんが出てきた。
「あれ? セルピさんはどうしました?」
「姉さん? 子供達と一緒に船で島に向かったよ? なんでも、一回自分の目で見てくるって言っててね。話はイセリアから聞いてるけど、やっぱり見たいんじゃないのかい?」
「……そうっすか」
「そうだね。まぁ、直ぐに帰ってくるんじゃないかい? 最近島に買い付けに来てる船とか多いんだろう? それに乗って戻ってくるって言ってたよ」
「なら、来たら直接お話しますね。いやーコーンフラワーの子達が来るって話が、とある方法で届いたので、挨拶に来たんですけどね」
「へー、便利だね。まぁ、アレだ。お茶でも飲んで行きなよ」
そう言ってお茶を出され、軽く世間話をした。責任者いなくて平気なのかと思ったら、一番年上の子が母親役で、皆の面倒を見たり、指揮を取ったりするらしい。しかもオピスさんが仕事が終わったら、普通に孤児院にいるらしいから、特に問題は無いみたいだ。
んー本当に平気なのかな?まぁ、何かあったらトローさんに報告して、裏で俺も動こう。
そして、帰り際に、笑顔で手を振ったら、今度は笑顔で手を振り返してくれた。
ありがとうイセリアさん!貴女のおかげで、子供達は俺を怖がらなくなりました。




