第148話 なんか偉い奴が来た時の事 前編
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代表会議から数日後。
俺は今窓を全部開けて、作ってもらった床下の隠し場の板を【黒曜石のナイフ】を使って引っ剥がし、とある壷を引き出して、蓋を開けて腕をつっこんで、ヌプヌプとかき回している。
「よしよし、いい感じに漬かってるな」
俺は、小降りのトマトやゆで卵をぬか漬けにしている。
実は、榎本さんにぬか床を株分けしてもらい、この隠し場所は床下収納として機能している。作った職人や、説明してくれた若い職人が見たら泣くと思うが、場所的にぴったりなので仕方がない。冷暗所ではないが暗所だしな。
ぬか床は、ブラジルに移民した日本人がぬか床をどうしようか迷った結果、バナナを使った様な事を記憶しているので、追加の米ぬかを断り、試験的に若いバナナで代用してみたが、違和感なく食べられた。
こっちはこのまま、バナナでやっていこうと思っている。しかも微妙に文字を間違えて作った『木朱式会ネ土アクアヌリソ』にして作った偽の判子、しかも自分自身で掘った物をぬか床に入れてある。
釘とかを入れておくと、色が綺麗に漬かると聞いた事があるし、榎本さんも入れていたから、偽の判子で代用すると言う嫌がらせを、個人的にやってみた。
ぬか床を混ぜ終わらせ、浮かせた【水球】で手を洗って、窓から捨て、壷に蓋をして、丁寧に元に戻し、木の板の蓋をする。コレで完璧だ。床板に剥がした後も残るし、怪しい壷の中に乳酸発酵した妙に白っぽい泥っぽいの。その中に偽の判子、我ながら完璧な嫌がらせじゃないか!ぬか床を知らない奴が、手を突っ込めるかな……。クククッ。
今度は、パンと麦酒と塩でやってみるか。ヌチャヌチャのペーストになったら、どう見てもやばい物にしか見えないからな。
その後執務室の掃除をして、まだ誰も使う人がいない受付兼オフィスと応接室も掃除をする。
細かい砂埃が海岸から来るからな。
そして、家屋は人がいないと朽ちるのが速いという理由で、なぜか俺一人で番人として鎮座している。
王は玉座に?執務室のイスは玉座じゃありません。けど何か面倒な事があると、すぐに呼ばれるんだよなー。
「カーム、畑を拡張するのに、根っこだけ掘り起こして欲しいってさ」
ほらね。多分その辺に生えてた、フルールさんにでも頼んだんだろう。
「んじゃ、ズビャーっと堀起こすので、近づかないでくださいねー」
こんな感じでよく呼ばれる。万能雑務担当を名乗れるな。ってか魔王って本当副業か称号だよなー。最前線近くにいた、筋肉魔王は、魔王やってたけど。
「カームさん、石工のシャレットさん達が呼んでましたぜ」
「あー、石材枯渇問題の事で話し合いだったの忘れてた。体が二つ欲しい」
「おもしろい事言いますねー」
「有能な便利屋やってると、どこにでも呼ばれてつらい……。魔法に適正が強い人材が、魔族人族関係なく欲しい、位の低い貴族の子供に魔法教えてる魔法使いを、無理矢理雇いたい。貴族とかに恨まれてもいい……」
「はいはい、愚痴はそこまでにして、多目的家屋に行ってくださいよ」
「ういーっす……」
既に魔王扱いされてないっていうか、俺の言動に威厳がないのが原因だと思うけどな。
「すみません、急に雑務を頼まれまして」
遅れた事に謝罪して、席に着く。席に座ってるのは、石工をやっているシャレットさんと、その部下達数人だ。
「いえいえ、平気ですよ」
「石材枯渇問題でしたね」
「そうですね、このまま使い続けると、いずれ無くなると聞いたので、何か打開策が欲しいところです」
「重いものですからね、船で運ぶと費用がかかるので、島内でどうにかしたいんですけどねー」
「前に部下から聞いたんですが、あの場所の石材がなくなったら、露天掘りにして島内に回すか、主要の村に小規模の採石場……たぶん露天掘りになると思うんですが、それを作ると言っていたそうですね」
「そうですね、魔法でせり上げてもいいのですが、下が空洞になって、そこに地下水が溜まったり、いきなり崩れ落ちるのが怖いので、普通に掘っていくのが無難ですね。それでも問題は多いんですけどね」
「その問題ってなんっすか?」
「普通に掘っても地下水が湧くかもしれない、雨水が溜まるかもしれない、大規模化すると景観を損ねる。この三つがあげられます。他にも細々したのがあるんですけどね」
「うーん、問題ですね。露天掘りの絵は師匠に見せてもらった事はあるんですが、かなりの重労働って聞きました」
「そうなんですよね……、下に掘るから、上に運ぶ労力が……」
こんな調子で、どんどん話し合いが進んでいく。
「あ、レンガとかどうです? 材料があれば練って作れますし、石材の消費も押さえられる気がします。前に防壁修理とか日雇いでやってたので、作ろうと思えばできますが」
「レンガですか……確かに似たような物ですけど……俺達の仕事がなくなるんじゃねぇっすか?」
「工房に窯を作って、レンガ作りも仕事にしたらどうです? この島は、たぶん中央の山の噴火で出来た島ですから、風化して粘土になる石が多そうですし、白っぽい土の層もあるし、火山灰もあります。それを採掘して、練って乾かして焼く、割れたら砕いて、また混ぜて焼けばいいんですから、材料が循環します」
花崗岩とか、シラスとか、リサイクルとか言っても通じないだろうし、言葉を選ぶのに頭を使うな。あれ?花崗岩が風化して粘土が出来るんだよな?
「そうですね、レンガで出来た道とか家もいいかもしれませんね。町全体が赤い場所を絵で見たことがありますし、いいかもしれませんね」
「けど石工も忘れないように、時々加工とかしておいた方がいいかもしれませんね」
「はは、そうですね」
そんな感じで雑談を入れた会議が進み、レンガの生産体制を整えつつ、採掘場所の探索後、道の整備をする流れになった。
「山の近くを掘ったら駄目なんすか?」と、聞かれたが「山頂から溶けた石や鉱石がどろどろになってるのが見えてるのに、そんな場所の近くを掘ったら、蒸し焼きになりますよ」と言ったが、サウナとか岩盤浴作れるんじゃね?と思い、メモをしておいた。
「何をメモしてるんですか?」
「えーっとですね。さっきの蒸し焼きって言うので、思い出したんですが、サウナって言って、蒸し暑い場所に入って、汗をかいて、冷たい水の中に入る健康法とかがあるんですよ。なのでその辺りを一回掘ってみて、熱かったらそのサウナって奴に。あまり暖かくなかったら、布を敷いて寝転がって、腰とか痛めた人の保養施設でもって考えてますね。幸いにも山の近くは、風呂みたいに暖かい水が沸いてるので、それを見つけて温泉を作っても良いですね」
「あ、第二村にあった奴っすね」
「そうですね、皆の憩いの場として作ってもいいんですが、島の中央ですからね。第二第三村にある様な、集合住宅の様な広い家を建てて、泊りがけになりそうなので、本格的に馬が欲しいですね、馬車と道を作らないと、歩いて行くだけで重労働ですよ」
「うっへ、疲れてたり腰が痛いのに、あの山まで歩くんですか。いやっすねー」
「だから馬も欲しいんですけどね、運ぶ労力とか費用がですね。牛や豚や羊は無理矢理運びましたが、馬は、繊細でストレスをためやすいですからね」
「カームさんの魔法で運べばいいんじゃないんですか?」
「はみ出した部分が千切れて、無くなるかもしれないのにですか? まぁまだ実験してませんけどねー。物でやっても良いんですけど、多分運べても一頭しか運べませんよ?」
「そりゃ大変だ」
「最近人族との停戦に持ち込む事に成功したので、軍馬を魔族側の大陸に運ぶ能力と言うか、技術がある人族側の、輸送を請け負ってた船か業者を探してるんですけどね。軍馬だから多少ストレスにも強いですし、ニルスさんに相談したんですけど、なかなか連絡がないので難しいんでしょうね。馬はどこにでも需要がありますからね……」
「海だったら、水生魔族の方々が一生懸命引いてくれるんですけど、陸になるとやっぱり馬っすよね」
「まぁ、俺は馬に乗れないんで、馬車を作ってもらうしかないんですけどね」
「本当っすか!? 馬とかバンバン乗り回して、色々な場所を駆けまわてったイメージがあるんですけど」
「ははは、村に馬なんかあまりいませんでしたし、隣町まで半日歩けばついたので、馬の世話になる事はなかったですねー」
「うわー本当に意外だ」
話し合いが終わり、軽めに昼食を取り、書類整理をしようとしたら男性が慌てて、裏口近くの窓から顔を出しで慌てて口を開いた。
「また見た事のない、大きい船が近づいてきます!」
「またかよ! 最近多くね!? 一応この間みたいに、退避お願いします!」
俺は、クローゼットから装備一式を取り出して着込み、砂浜に走っていった。
「あれ、なんか雰囲気が、クラヴァッテ様の時と同じじゃね?」
湾内に止まった船は、なんかの紋章がついてる旗をなびかせてるし、防具をつけてない男共が、オールを漕ぎながら浜に近づいてくるが、なんか派手な女性と、地味な男性と、普通の女性が二人、大人しく座っている。客か?
「敵意はなさそうですね、しかもまた全員魔族っぽいですね」
「そうですねぇ……とりあえず待避解除って事で……」




