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第146話 事務所兼執務室が出来た時の事

145話にも書きましたが、144話の魔王と貴族の関係の部分の台詞を修正しました。

145話の林檎ですが、砂糖水に浸しても茶色くならない事を教えて頂いたので、多少変更しました。

 子供達に弁当を作ってから、一ヶ月が過ぎた。そろそろ島では本格的に暑くなるという頃、酒造小屋の隣に交易品を扱う為の、石作りの事務所が出来上がった。大量に人員を割いたのか、思っていた以上に早くでき上がり、俺は皆に感謝をして中に入る。

 広いホールに真ん中で区切る様に受付がある、将来的に対応人数が増える事を想定して、少しだけ口を出した。あとは、商談の為の応接室があると便利そうと思い、これも入口から入って右手側に作ってもらった。

 そして、受付の奥に何か作ってるなー、倉庫かな?と思いつつ、あまり口を出さないで、好きに作らせていた。上が何か口を出すと、予定が大幅にずれるからだ。

 けど、それが間違いだった。

「あの……この広い応接間と、何の為に存在してるかわからない、執務室なんですけど……。応接間は、まぁ、どこぞのお偉いさんが来ても良いように、広くても問題はありません。けどこの執務室は、てっきり職員の倉庫になるんだと思ってたんですけど……」

「あーそれっすか? あんな狭い自宅の、薄暗い中で書類書きをしてると、気が滅入るだろうって事で、皆で考案したんですよ! 窓を沢山つけて明るい執務室、風通しも良いし、そこの裏口から出入りすれば、正面から入らなくてもいいんですよ! オダさんと相談して、本棚とか、鍵のついてる書類を入れる引き出しとかが入ってる、引き戸式の棚! 無骨な物が好きって聞いてたんで、全部家具職人のバートさんに頼みました」

 若い人族の職人が説明してくれたが、頭が痛くなる。新しい発想は、常に若者から。けど、これはどうよ?石作りなのに床の一部が板張り、逃げて下さいと言わんばかりの裏口。

 そして、この時代に似合わない受付のレイアウト。どこのお洒落なオフィスだよ。全体的に明るく、色々なところにフルールさんの鉢植えや、部屋の角にはパルマさんの鉢植え。

 応接間も俺の執務室も同じような感じで、いかにも『南国』な感じが前面に出ている。織田さんめ!応接室に、派手な調度品がないだけマシだけど。

 けど、こういう場所は明るく、島の良いところを前面に出さないと不味いか。とりあえず、俺が気にすることじゃなかったな。

「いや、執務室に裏口付けちゃ駄目でしょう。こっそり逃げますよ?」

「どうせ転移魔法が使えるんだから、同じっすよ!」

「そうっすね……」

 島民の、俺に対する認識は大体わかった。

「いや、根本的な所から間違えてる。俺以外が業務を引き継いだらどうするんですか……」

「裏口を作らない様に拡張工事して、そっちがその人の執務室になって、ずっとここがカームさんの執務室に。ほら、カームさん多忙ですから! どこにでもすぐに行けるっすよ!」

 そう言って、裏口のドアを開けたり閉めたりしている。

 頭いてぇ……苦笑いしか出ねぇわ。

「ありがとうございます。その裏口は、有効利用させてもらいます」

「あざっす!」

 褒めてねぇよ。


 俺は自分の家から書類とかを持ち出し、もちろん裏口を使って運び入れる。

「あ、カームさん、ここの床板なんですけど、薄い鋼材使えば簡単に剥がれるので、大切な物を入れて下さいね」

 そう言って、薄い(ノミ)みたいな物を使って、木材を引っぺがす。

 大きさ的に三十センチメートル真角くらいか?入れるとしたら判子とかか?、判子押すのに、いちいち引っ剥がしてたら面倒だな。裏帳簿?俺にそんな器用な真似は出来ないから。偽物の判子とでたらめな帳簿でも作って、大切に保管しておくか。裏口がある執務室の警備とか防犯って、ザルの一言で済むし。ってか薄暗い方が落ち着くんだけどなー。気分転換する時は、窓閉め切って蝋燭で作業するか。

 そして、イスと机だけど、豪華ではないが材質的に堅く、しっかりとしたイスに、変に柔らかい茶色い布張りのクッション。うん、イスは悪くない。で、この布の中は何んだろう?前世で言う、低反発っぽい。

 イスは良かった。けど、テーブルが悪い。なんで長方形じゃなくて、座るところがくぼんでて、角が一切無い楕円形なんだ?しかも、妙に引き出しが多いし。

 とりあえず、どこに何を入れるかを確かめるために、引き出しを開けて、閉めたら、他の場所が少しだけ開いた。

 え、何?桐箪笥みたいに、きっちり作ってあるの?織田さん、どこまで口を出したんだ?

 救いと言えば、無駄な装飾が一切無く、確かに俺好みだ。けどここまで来たらさ、長方形の板で、無骨に仕上げてほしかった。

 左手側に書類入れ、正面にインク壷と羽ペンと、絵画用の細い筆。封蝋用の赤い蝋と蝋燭。右手側には、俺には不要の高級品のガラスのコップと水差し、フルールさんの鉢植え。

 なにこれ、機能的すぎ……。仕事して下さいってオーラがバンバン出てて、逆にやる気なくなるわ。座って、判子押してるだけで良いかな?

 クラヴァッテに頼んだ数字とかに強い奴、早く来てくれ!俺の精神がもたない。ってかしばらく、あの広い受付に一人にしちゃうのか、やばいな。あ、役場にしちゃえば良いんじゃね?無駄に広いんだから、右手側の応接室付近を、商人用の受付にして、それ以外を役場として機能させよう。なら明るくて、南国風オフィスでも問題無いか。織田さんはここまで考えてたのかもしれない。

 あ、仕事増える。また人を雇わないと……。



 数日後、応接室に、商品の見本を置いたり、カップや茶菓子やミントのプランターを置いたり、考えられることはしておく。その後は、執務室のイスに座り、思いついたことを、置いてあった紙にメモを取りつつ、さっさとイスに癖を付けようとしていたら、テーブルの上のフルールさんが変化した。

「港に、今まで見た事のない、大きな船が向かって来てるから、念のため来て欲しい。って言ってるよ」

「あ、はい。今から向かうって言っておいて下さい」

 ムカつくことに、連絡手段も完璧じゃないか。机の上に植物。一見素晴らしいけど、内線みたいなもんだしな。

 んー、家まで装備を取りに行くのが面倒くさい。クローゼットでも作ってもらうか。第一村まで遠いからな。転移しておこう。家で書類整理してたら、こんな事無かったのに。


 とりあえず、フル装備で砂浜に転移すると、報告通りのなんか無駄に装飾が豪華で、大きな船が停泊準備を始めてた。

「なんか無駄に豪華ですね……」

「そうですね」

「あ、大きさは違いますが、勇者が乗り込んできた時の船に、なんか似てますね」

「あー、確かに」

 そんな会話をしていたら、小舟というのには少し大きく、兵士っぽいのがたくさん乗って、こちらに向かってきた。

「一般人は退避! 最悪の事態に備えろ! フルールさんを使って、第一村に通達後、様子を見つつ、第二第三村にも通達だ! キースやおっさん達も遅れても良いから、港に来るように通達! 非番の船乗りも出せ!」

「はい!」

 隣にいた男が、一番近いフルールさんの方へ走り、伝達をしているみたいだが、船がどんどんこちらに向かってくる。

 向かってくるが、帯剣はしているが敵意らしい物がまるで無い。しばらく、地面にスコップを突き刺し様子を見ていると、見た事のある犬耳が前に出てきた。クラヴァッテだった。

「速報! 相手に敵意なし、繰り返す、敵意なし!」

 まったく、貴族のお出かけって、ややこしいな!


「やぁあ、久しいな」

「お久しぶりです、クラヴァッテ様」

 周りに部下っぽいのがいるので、丁寧に接しておく。

「と言っても、前回会った時から、あまり時間は立っていないがな」

「事前に連絡をいただければ、このような警戒はしなかったんですが。今日は、どのようなご用件で?」

「ん。前に頼まれてた、人材についてだ」

「見つかったんですか!?」

「ある程度絞りこんだが、先方に失礼の無いように、自ら視察だ。というのは建前で、色々外回りの用事が溜まったから、出歩いてるだけだ、そして息抜きに来た」

 いや、魔族側の近所の港から、最速で五日なのに、気安く寄るとかできねぇかえら。いったい何が目的なんだ?

「そうですか、立ち話もなんですので、あちらへどうぞ」

 そう言って、最近出来たばかりの、事務所の応接間に案内する。


「おーカーム、とりあえず敵意はないって聞いたが、途中まで来たから、来たぞー」

 あぁ、来なくて良いのに。

「やぁキース君、久しいな」

「…………クラヴァッテ……様?」

「疑問系なのが気になるが、間違えなかった事を感謝する」

「あ……俺、作業に戻るから」

 そう言って、即背中を向けたが、

「つもる話しもある、同行してくれないか?」

「いや、俺には特にありませんので!」

「私にはある。おまえ達、その天幕の下で好きに休憩していろ! 興味のある者は、見学をしても良いが昼までに戻ってこい。解散! では、案内してもらおうか。もちろんキース君もついてくるんだ」

「あ、はい」

「誰かー、この方達に、飲み物とお茶菓子をお出ししてー」

「気を使わなくていいんだぞ?」

「噂話も、長い目で見れば、コレに繋がりますので」

 そう言って、親指と人差し指で輪っかを作り、少しにやけてみせる。

「確かに」


 そして、調度品がほとんど無い応接間に案内する。

「ふむ、物が少ないのもある意味斬新だな。それと、もういつも通りで良いぞ」

「いやー最近出来たばかりなんで、何も無いんですよ」

 相手が良いと言ったから、普段通りにさせてもらおう。

「そうか、綺麗な花と、南国の木があるじゃないか。まぁ、この花はフルールさんか」

「そうですね、まぁ、それくらいしかないですけど。あ、秘書とかメイドがいないんで、お茶は俺が淹れるしかないんですよ。茶菓子も交易品のチョコレートくらいですね」

 折角だから、飲み物もコーヒーにするか、そうすると、火鉢か七輪的な物がほしいな。俺が毎回熱湯を出すわけにもいかないしな。

「そうか。教育するか、雇うしかないだろうな」

「今通ってきた広いところが、事務所兼役場になる予定ですので、一人くらいいても問題ないとは思いますけどね」

 そう言いながら、トルコ式は無理なので、布を使ってドリップ式で三人分のコーヒーを淹れてテーブルに置き、チョコレートの箱を開ける。

「どうぞ」

「まぁ、そのうち色々な理由で調度品も増えるし、場合によっては必要な道具も増えるだろう」

 クラヴァッテはチョコレートがあるから、砂糖を入れずにコーヒーを飲んでいるが、俺は砂糖をいつも通り入れる。

「甘い物があるのに、甘くするのか! 考えられんな……」

「甘いは正義ですよ」

「そうか、それでキース君。君()私のラブレターをことごとく無視してくれたな」

「あ、いや……金が溜まったから、故郷にいただけですよ。ははは……」

「目を反らして言うものじゃないぞ。まぁ、好き好んであんな所にいく奴はあまりいないけどな。腕利きを探す苦労が増えただけだ、気にするな」

「気にするなって言われてもなぁ」

「気にしなければいい。さて、本題だ。カーム君の言っていた人材だが、先ほど少し話した通り、数名に絞ってある。この規模の建物なら先方に失礼はない。帳簿を見せろとは言わないが、ある程度物流の流れで、規模は把握してるつもりだ。セレナイトにも、変な組織を作らせたらしいじゃないか」

 え、貴族怖い。どこまで知ってるの?

「しかも衛生的で、島民への配慮も、その辺の村とは比べものにならないくらいある。だから、かなり名高い商人の子供でも問題はないだろう、専用の家を用意しておいてくれ」

「わかりました。といっても、余分に数件空きが出るように作ってあるので、いつ来ていただいても問題ないですね」

「そうか、それなら話しは早い。次だ、美味いコレがあるって聞いたんだが」

 そう言って、右手でカップを持つようにしながらクイクイと口元で動かしている。

「……酒っすか?」

「それ以外に何があると言うんだ? あの時、酒のレシピを渡したらしいじゃないか。この間話を詰めに行ったら、自慢気に語られたぞ」

「いや、昼前……俺達お話中……」

「視察だけだ、話し合いではない。もう視察は済んだ。さっさと僕にもその酒を飲ませろ、それに一杯や二杯でどうにかなると思ってるのか?」

 会いに行く度に、嫁さんの目を盗んで飲んでたからな、かなり好きなんだろう。

「あーそうっすか。んじゃ問題ねぇすね……。キースは昼には飲まない主義だったな、どうする」

「お前が、何を出すかにもよる」

「モヒート」

「そのくらいなら平気だ」

「あいよー」

 そう言って、グラスを用意して、ミントのプランターから適度にミントを千切り、グラスの中に入れて、軽く潰してから砂糖と商品説明用のラムを注いで【氷】と【水】を出して、最後にミントを浮かせる。本当、コレ作ってると、炭酸水が欲しくなるな。

「どうぞ、飲みやすく清涼感のある、冷たいお酒です。観光用の宿もやるつもりですので、そこで出す予定なんですよ」

「ほう、ではいただこう……。んー……これは暑いこの場所にはぴったりだな。で、何で宿なんだ?」

「この島は陸から離れてます。景色も綺麗ですし、波の音も心地よいですので、仕事を忘れたり仕事から逃げたかったりしたい人向けの、宿を考えてるんですよ」

「ほー、そんな事言うと、僕が頻繁に来るぞ?」

「そう言う方向けの宿の提供なので、高めですよ? サービスは徹底させますし、使用人室も作りますので、いつもと違う環境でふだんと変わらない生活も出来ます。もちろん、普通の商人や船乗りや観光客用も作りますけどね」

 ロイヤルホテル的なサービスと、ものすごく綺麗な海の上に建ってる、ネットでしか見た事のないあんな感じの宿だ。

「おい、そんな事もかんがえてるのか。本当に人手が足りねぇぞ。教育とかどうすんだよ」

「出来る人材を雇い、そこで働きたい奴を教育させる。一定基準以上じゃないと働かせられないようにして、ギルドみたいにランクを作る。目の前にいる貴族様をもてなすなら、最高ランクじゃないと働けない、普通の商人や船乗りなら、最低ランクでも問題ない、そんな感じだ。もちろん多少高いお金を払って、貴族向けの宿に泊まることも出来て、気分だけ味わうのもいい」

 高い旅館か、ホテルに泊まる感じで考えている。

「ふむ、確かにサービスが悪い宿もあるからな。だから最低基準を越えないと駄目な訳か。その考えはいいと思うぞ。おかわり」

 こっちは転生者だ、前世の日本のサービス精神くらい覚えてるわ。しかもさらっと、自然にお代わりを要求してきたな。

 ウェルカムドリンクで薄目に作ったし。問題ないか。

「今度は濃い目でな」

 はは、薄く作ったのばれてら。あと絶対視察はおまけだわ……。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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