第142話 なんか頼まれた時の事 前編
長くなったので別けます。
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俺は故郷に戻り、麦畑の周りの草刈りや、村の雑務を終わらせ、スズランの作ってくれた肉料理を、みんなで食べ終えて、稽古稽古と言われるまでのんびりしていた。
そしたら、フルールさんがいきなり変化した。
「カーム、なんかあの偉い貴族から、直接私に話しかけて来てね、なんか急ぎらしいわよ」
「わかった、今すぐ行くと伝えてくれ」
席を立ち、銀貨を一枚ポケットに突っ込んでから、外に出て転移をしようとしたら。
「なんかさー、随分と珍しいんじゃない? また厄介事じゃないのー?」
ラッテが、面白く無さそうに言ってきた。最前線基地に徴収された事を覚えているんだろう。
「その時は断って来るわー。アレのせいで、最前線基地に徴収されたし」
「貴族って偉いの?」
「姉さん、一応授業でやったでしょう? この村だって、一応貴族様の領地で、秋に麦とかお酒とか、税として持って行ってるって、先生言ってたでしょ」
「強くないと、偉いとは認めないわ!」
娘が脳筋になって来てる。これは少し不味いな。それと、姉さんって言ったな。学年が変わって、少し、何かしらの変化があったのか?
「まぁ、行って来るよ」
「気を付けて。最悪殴って帰って来てもいい」
「そうだね、そんな貴族なら殴っても良いわね。お父さんなら、殴っても逃げ切れるよ」
確実に母親の血を引いてるわ。
急ぎらしいが、上級区前の門番の前に転移し、相変わらず驚かれたが、なんか慣れたみたいだ。新人にも「この方は、たまに目の前に現れるから」と、教育してるし、適応力が高いな。
そして、門の前まで案内され、そこからは、ゴッつい犬耳の門番さんに、家の門まで案内される。
そこからはいつも通り、犬耳のメイドさんが現れ、応接間に案内され、お茶が出される。
「では、少々お待ち下さい」
うん、いつも通りの対応だ。
そして、カップのお茶を、半分くらい飲んだら、特に慌てた様子もなく、入室してきた。
「やぁ、久しいな」
「どうも、お久しぶりです」
「早速で悪いが、用件に入らせてもらう」
座って、一息だけついたら、いきなり用件か。今まで、多少の雑談はあったのに。
「三日後に、僕の屋敷で夜会がある。そこで、どうしてもベリル酒が欲しい。主な理由だが、懇意にしてる、とあるデカい商会の頭目が、この町の宿屋に宿泊した時に出された酒が、ベリル村のベリル酒だったらしい。ものすごく気に入ったらしく、僕に手に入らないかと、夜会前にわざわざ相談してきたんだ。多分だが、僕に何かしらコネが無いか? って意味が含まれてると思う。そして、上手く手に入れる事が出来たら、商談を多少は考えてやるって意味だろうな。そしてカーム君は、ベリル村の出身で、僕とも多少縁が有る。だから、急で悪いが、私用で呼ばせてもらった」
「……そうですか。直接フルールさんに話したみたいなので、最前線基地がらみの、面倒な戦闘系だと思ってたんですが、それくらいなら問題ないです」
「そうか、頼めるのは君しかいないから、正直助かった。これで、貸しが出来て、多少有利に動くことができる」
「そうですか。なら俺には借りって事ですね」
クラヴァッテは、ものすごく嫌そうな顔をして、カップのお茶を飲み干した時に、都合良くカートを押した犬耳メイドが入ってきて、クラヴァッテにお茶を出し、俺のもカップごと交換してくれた。
「……そうだな。借りは極力作りたくないタイプでね、さっさと返したい。何か、酒を融通してくれる条件を言ってくれ。それでチャラだ」
上限を言ってないのを良い事に、足下を見て無理を言うと、縁を切られる可能性もあるな。個人的な感だけど。
「なら……。前々から、文字と数字に強い人が欲しいって言ってたじゃないですか? だれか良い人を紹介して下さい。いい加減島の帳簿をつけて、売り上げ計算するのに、俺の手か体が色々足りないので」
「ふむ、確かに言ってたな。そんなので良いのか?」
「今のところ、島民を多めに増やしてますが、主に下級層やスラム出身の労働者なので、数字を任せるのには、かなり不安なんですよ。なので誰かいい人材をですね……」
「人脈には人脈で来たか……、いいだろう。独立したがってる奴を探して、見つかったら連絡を入れる。それと、酒の値段を教えてくれ」
「村の酒作りには関わってないので、聞いてきます」
「そうか、こちらは酒さえ手に入れば問題ない。多少高くても。今後動きやすくなるから、間に合えさえすれば……な」
「そうですか、酒蔵に備蓄があるので、問題ないと思います。どのくらい有れば問題ないですかね?」
「大樽で一つ有れば、文句は言わないだろう。なにせ、季節が数回巡った物は品薄だからな」
「まぁ、そうですね。ベリル村は、数回年を巡らせた物から売ってますからね。若い酒はのみたい奴が、村で飲んでますよ」
「では、その様な感じで頼む。口頭での約束ですまないが、お互い信用すると言うことで」
「わかりました、三日後の夜までですね」
俺は確認をとってから、村に帰った。
「ただいまー」
「どうだったのー?」
「んー、要約すると、俺の今後の為にベリル酒を売ってくれ」
「それなら良かったじゃん、横の繋がりで貴族様がいるって、かなり便利だねー」
「便利って言うのはどうかと思うけど、いい繋がりだよね」
「でー、カーム君の事だから、またいい子ぶってたんじゃないのー?」
「んー、見返りはきっちり要求してきたから、いいんじゃない? 酒代も、もらえるし」
そう言って、どんなやりとりがあったか、詳しく話た。
「ふーん。校長が、もう一機増やすような事言い出すぞー」
「村人もね……、まぁ決めるのは村長だし。俺は、理由を話して、売ってもらうだけだし」
「カーム君も投げっぱなしだねー、まぁ、倒れられるよりは良いけど」
「カームは。後で楽をする為に先に苦労するから」
今まで、お茶をゆっくり飲んでいたスズランが口を開いた。こういう話には、興味が無く、いつもお茶を飲んでるのに。
「まぁ……ね? まぁ、ちょいと話付けてくるわ」
「気をつけて」「いってらっしゃーい」
「って訳でさ、季節が一回以上廻った物を見繕ってほしい。今後の付き合いを考えるなら、三回くらいが良いな」
「おう」
ヴルストと会話をしながら、酒蔵の奥の方に歩いていく。
「この辺が、三回廻った物だな」
「助かる。売値はいくらだ?」
そんな会話をしながら大樽と小樽を売ってもらい。荷車を借りて、家まで運ぶ。あとは村長にとある物を書いてもらう事にする。
「そんちょー! そんちょー!」
さて、どっちが先に来るかな。村の中をブラブラしようじゃないか。
村の中心部に、店がポツポツあるところをぶらつき、時間を潰すが、なんか知らない住人が増えている。多分移住者なんだろうけど、村の中心からどんどん広がる様に、無造作に家や畑が増えてるから、もう少し区画整備をだな……。まぁ、俺がやる事じゃねぇな。
けど、もう少し店をばらけさせた方が、良いかもしれないな。
「呼びましたか!」
現村長の方が早かった。
「えぇ、実はですね。テフロイトにいる、あの辺を収めてる貴族と繋がりがあるんですが、懇意にしてる少し大きな商会の頭目がベリル酒を欲しがってるらしいんですよ。ですので、今後も顧客として大口になる可能性がありますので、販売許可書みたいなのがあれば、作ってほしんですが」
「んー、難しいですねー。村の方針で、一つの商会に売れる数を絞ってるんですよ。そろそろもう一器増やすつもりなんですけど、鋼材を買い付けるのに、今色々な商人と話し合いをしてるところなんです」
「そうですか、もしアレなら、多少その商人と話はしてみますね、どこで何が繋がってるかわかりませんし、鋼材も安く済むかもしれません」
「……そうですね、お願いします。少し遠い町ですが、そこの貴族様が懇意にしてるなら大きい商会でしょうね」
「でしょうね……。まぁ、取りあえず優先的には売れないという事で、先ほど買った酒も、村でも希少品って事で、誤魔化しておきます」
「お願いします」
うむ、無理だったか。なら俺が少しだけ出しゃばるか。俺は、転移魔法で島に戻り、酒蔵に急ぐ。
「あ、皆さんには申し訳ないんですが、ちょいと俺の権限でラムを大樽で一つ預かります。もしかしたら、横のつながりが増えるので」
「おいおい、カームよ。そいつは構わねぇけどな、樽作り職人を増やす算段もしてくれよ。ちょっと手が足りねぇぞ?」
「……そうですね、セレナイトの方々を、ゼロから教育しますか……。 職人引っ張って来るよりは、人件費やすいですけど、ものになるまで時間がかかりますよ?」
「んー、まぁ、その辺は追々だな。とりあえず、金だけは貰ってこいよ」
「最悪俺のポケットから出しますよ、んじゃちょっと手紙と書類書いてきます」
「おいおい、酒を売るのに、書類がいるのか?」
「定期的に購入して頂く為に、購入価格より、多少安くする為の簡単な書類ですかね。相手は大きい商会です、なので相手の出方で、売値から多少の値引きをします。まぁ、下げても五分ですね、厘単位まで行くかもしれませんが。まぁ、簡単な説明書的な書類なので、特になにかを契約って訳じゃないですけどね」
「そういうのは頭が痛くなるから任せるわ」
「もとより期待してませんよ。まぁ、趣味で俺のわがまま聞いてくれてるだけで、十分助かってますよ」
そして俺は家で、手紙と書類を書く。
内容は、もし定期的に買うなら、割引を確約する契約書をお持ちいたします。ってな感じだ。もちろん書類の割り引く数字の所は、空白にしてある。この辺は詰めていく予定だ。
まぁ、相手が物凄くやり手なら、逃げるけどな。
◇
翌日、荷物が重いので、上級区の門番をすっ飛ばし、ごっつい犬耳の門番の脇に、転移した。
「あ、どうも」
「貴様! どこから現れた!」
「あ? あー転移魔法で。荷物が物凄く重いので、申し訳ないんですが、上級区入口の門番はすっ飛ばしました。重くて自分だけじゃ運べないし、運ばせるのも可哀想なので」
「……そうか。とりあえずその言葉は信用はするし、何回も見かけてるが、お前を個人的に危険人物に引き上げた」
「……まぁ、転移魔法使えるって事は、暗殺も安易ですからね。その考えは正しいと思います」
暗殺という言葉に反応したのか、門番が殺気立ち、剣に手を掛けている。忠誠心は高いな。
「俺は丸腰です、今まで散々クラヴァッテ様に会いに来てるんですよ? 勘弁して下さいよ……、あー、もう良いです。何を言っても言い訳にしか聞こえない気がします。で、通して頂けますか? 無理なら、頼まれてた酒をここに置いて帰りますが」
「……いや、そうすると俺がお叱りを受ける事になる。だが、報告はさせて貰う」
「そうですね、それが貴方の仕事でですし、それが正しいと思います」
お互い正論を言うが、かなり気まずいな。
「まぁいい、荷物は下働きに運ばせる。不本意だが、入り口まで案内する」
「お願いします」
まぁ、やっちゃった事は仕方ない。反省しておこう。
前回と同じ手順で応接室に案内されるが、いつもより長く待たされる事になった。護衛でも引き連れて入ってくるか?
まぁ、お茶は出てるから平気だろう。そんな事を思っていたら、ドアがノックされ、クラヴァッテと、いつもの犬耳のメイドが、カートに水差しを乗せてやってきた。
「すまん、待たせた。それと、門番の事は気にするな」
イスに座る前から、歩きながらの謝罪と門番との一悶着の事を一言で終わらせた。長々と言われるより良いけどね。
「いえいえ、俺が悪いんですが、そう言うなら気にしません。任務に忠実な門番ってすばらしいですね。俺の知ってる門番は、軽すぎで」
まぁ、俺の知ってる軽い門番は、あいつしかいないけどな。
「あいつは頭が固すぎだ、頭かち割ってプリンでも混ぜれば多少マシになる」
これ、笑うところか?この世界のセンスは良くわからん。
「そして荷物を確認した、なんで大樽が二つ有るのかが気になるが、教えて欲しい」
「一つは、季節が三回巡った、故郷の麦で作ったベリル酒。もう一つが、俺が開拓してる島の、サトウキビで作ったベリル酒。白いままでもおいしいですが、季節を巡らせても美味いので、樽で保管してます、樽に刻印がついてたでしょう? そして、小樽が夜会用のベリル酒、こいつは、俺の独断で持ってきたおまけです、これで顧客が増えればうれしいので、振る舞って下さい」
「そうか、助かる。売り渡した物を、夜会で披露してくれと言えんからな」
「あと、書類ではないですが、覚え書き程度のメモと、その商人への手紙です」
胸ポケットから紙を取り出し、手渡すと、軽く目を通している。
「ふむ、来た商人に、独占されないように、一人に売る数を決めているのか。それは品質を守るためか?」
「わかりませんが、昔からお人よしが多い村ですし、そういうのが嫌いなんじゃないんですか? あと、仕切ってるのが竜族なので、妥協はしてないんじゃないんですかね? 季節を廻らせた方が美味しいので」
「そうか、まぁカームのことだから、別物だと思って、味見の為に小樽から持って来てきたんだ。前にも言ったが、多少酒が入ってた方が、筆の進みも良いからな」
そう言って、メイドから水差しを受け取り、酒樽から持ってきたであろうと思われる、小さな小瓶をポケットから取り出し、二つのグラスに注いで、片方を俺の方に出してきた。
「おまけじゃなかったら、どうするつもりだったんですか?」
「大樽から抜き取って、戻す。なぁに、すこしだからわからんさ。そして、間に合わせてくれて、感謝する」
貴族に酒を注がれるって、どのくらいすごい事なのかよくわからん。とりあえず飲んでおこう。そして、クラヴァッテの頭の中が、結構残念だって事がわかったわ。少しならわからんって、たしかにその小瓶程度なら誤差の範囲だと思うけどさ。
「あ、氷いります?」
指先に【丸氷】を出し聞いてみる。
「そういう飲み方もあるのか、いただこう」
「水を入れずに氷を入れて、飲む時間によって、濃さが変わります」
「ほう」
「注いでもらったので、もう出来ませんが、氷、水、酒の順で入れると、酒が水の上に浮き、ストレート、氷割、水割りが楽しめますよ。最後の酒は、ものすごくゆっくり入れるのがコツです」
「ほう……」
そう説明したら、グラスに入っていた酒を一気に呷り、またポケットから酒を取り出し、水を入れてから、ゆっくりと注いでいる。本当はバースプーンとか使えばいいんだけど、無いからな。
「おお! 本当だ。不思議だ」
比重とか言っても、たぶん通じないだろうな。
「ところでカーム君。この手紙なんだが、封蝋がされてないから、文字が偶然目に入ってしまったんだが……、書類が有るなら、夜会に出席しないか? その手の業界人も多く来る。直接渡した方が良いだろう」
何を言ってるんだ、コイツは。俺は魔王ってなだけで、畑が全然違うぞ?
「書類は有りますが、服が無いですよ……。ほぼそういうのとは無縁でしたし、堅苦しいのは苦手でして……」
「書類が有るならでたまえ、服はそれでも構わん。私の友人と言う事にすればいい」
「……最前線基地がらみは、命が絡みますし、しかも書類や手紙だったから断ってましたけど……。こう、面と向かって言われて、断るのは失礼ですかね?」
「本人にそれを聞くか?」
その時点で、ものすごく失礼だぞ。と言わんばかりの笑顔だ。
相変わらずこういう時の笑顔は、ものすごく、悪ガキっぽい笑顔になるなー。
「はいはい、わかりましたよ。変な目で見られるのは慣れてるので、そちらが恥をかく覚悟があるなら、ぜひ出させて下さい」
「この手の世界には、庶民を馬鹿にする奴が多いからな。その時は、私の友人を馬鹿にするのか? と言ってやるさ。今招待状を書くから待ってろ。招待客の態度によっては、切る奴を考えるきっかけに出来る。世の中には、地位や名誉が無くても、偉い奴がいるって事をわからせる事が出来るしな。後で、馬鹿にした奴らの名簿を送るから、それを使ってカーム君も取引を巧く運べ。今は島の代表みたいな者なんだろ?」
「確かに代表ですけど……まぁ、なかなか面白い趣向ですね……」
応接間に、悪ガキが悪戯を成功させたような、笑顔が二つ出来上がった。




