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第125話 島に乗り込まれた時の事 後編

三部構成の後編になります。


 同日の夜、ジャスティスを交替で見張りつつ、砂が乾いたら、【水球】で砂を湿らせる作業をしていた。

 俺はキースに毒を吐かれながらも、ミスリル製の硬い兜をハンマーで、首の骨が折れ無い程度に無言で殴り、何度も気絶させていた。

「おい、もう夜だぞ、いつまで殴り続けてんだよ!」

「迎えが来るまでだ。こいつは俺を殺そうとした、だから気絶させてる」

「他にも方法が有るだろうよ。お前はそんな奴じゃ無かっただろ? 何がお前をそこまで変えた?」

「何度も言うが、俺は死ぬのが怖い、それだけだ。それにこいつは勇者だ、気絶してる時に掘り起こして、拘束する前に暴れられたら? そもそも拘束できる物がねぇよ、こいつは城の地下牢で、分厚い鉄製の拘束具を付けられてたんだぞ? 根性が糞ねじ曲がってる奴だぞ? 俺にはこれ以外の安全な方法は思い浮かばない」

「お前殺されそうになると性格変わるよな。それにしてもよ……少しひでぇんじゃねぇか?」

「おれが殴り続けるから別に寝ても良いぞ」

「いや、まぁ……あ、おっさん達はどうなんだよ?」

「確かにやり過ぎだとは思うが、言われてみればそれ以外思い浮かばないな」

「あぁ」

「こっちの女性には優しくするべきだと思う」

「そうだね、女性には優しくするべきだね。けどこいつは何人も殺してるから、取りあえずこのままですね、どんな手を使って来るかわりませんから。その辺に落ちてる尖った枝とか、石とか使ってきそうなんで」

「お、おう」

 狐耳のおっさんだけ反応が返ってきた、この人女性大好きだからな。仕方ない。


 そしてしばらくしてジャスティスが覚醒したのか、泣きが入ったので少しだけ話を聞いてやることにした。

「止めてくれ、悪かったって。もう抵抗しないし、言う事聞くから止めてくれよ」

「あぁわかった、取りあえず大人しくしてればこれ以上何かするのは止めて置く」

 そう言って目の前にハンマーを投げ捨て、いつでも拾える事をさりげなく知らせておく。

「あー、コイツとだけ話しをしたいから、キースとおっさん達は席を外してくれないか?」

「構わんが、その女はどうする」

「耳に粘土詰めて、麻布で顔を覆う」

「なら平気だな、引き上げるぞお前等」

 相変わらず猫耳のオッサンは、深く突っ込んでこないな。助かるけど。

「おい、かなり大切(・・)な話がある、さっきはああ言ったが、横にいるレルス(・・・)王女にも聞かせられないのは事実だ、良いな?」

 片手に粘土をイメージして、王女に向かうが、相変わらず睨んで来るだけだ。まぁ、慣れたから気にしないけどな。

 王女も抵抗しなくなってきたから手間が省けて助かる。


「まぁ、ジャスティス君、少し話しをしようか」

 日本語で優しく話しかけ、目の前に胡坐をかく。

「おまえ、日本語!?」

「その辺は後で話すよ。で、会田さんから聞いたけど、君が対峙した勇者と、兵士だけど、誰一人として死んでないのは何でだ?」

「知るかよ、運が良かっただけじゃねぇのか?」

「そうか、なんだかんだ言って、殺せなかったんじゃないのか? 他の勇者と同じ日本人なんだろ? なんだかんだ粋がってても、その一線は超えられなかった、違うかい?」

「違うね、俺は殺すつもりでいた」

「港町で、他の三人が平気で港で働いてる船乗りや、商人の部下達を切り付けたり、焼き殺してるのに、君だけは剣を抜かなかったそうじゃないか」

「抜く必要無かっただけだ」

「ふーん、まぁいいさ。いろんな性格になるまでには色々な過程が有るけど、聞くつもりは無いし、興味も無いよ。けどさ、話を聞く限り、もう地球に戻れないって話でしょ? 少しは心を開いてもいいんじゃないのかい? 数少ない地球人、日本人か? 最近は黒髪が多いって聞いたから、アジア系もいるかもしれないけどね」

「何が言いてぇんだよ」

「多分不良やってたんだろ? いつまでもつっぱてないで少し落ち着いたらどうだ?」

「うっせぇよ、てめぇには関係ねぇだろ!」

「まぁね、()にはあまり関係無いな。けど他の勇者はどうだ? 数少ない仲間だろ?」

 そう言うと、黙り込んでしまった。

「なんで日本語を話せるかについてだ、日本人には隠すつもりはないが、俺は転生者だ、つまり記憶を持ってこの世界に生まれ変わった」

「そんな事あんのかよ、マジうけんだけど」

「召喚だって、そんな事あんのかよマジうけんだけど、だろ。なら何でも質問して見ろ、十五年くらい前までの事なら何でも答えてやる」

「○県の県庁所在地だ」

「ま、待て、ちょっと待て、地理は苦手なんだ、自分の住んでた所の近辺なら言えるんだけど、遠いと気にしないからな。ちょっと待ってろ……○県だろ? ってかお前○県出身かよ!」

 その後見事に間違え、地域密着型の問題を出されまくり、なんどかポロロッカと答えたくなった。

 あんまり興味無い県の県庁所在地とか知らねぇよ!

「すまん、もう少し有名なの頼む」

 その後は変な目で見られながら「日本の首都は」とか言われ「東京」と答えた時は小声だった。

「まぁ良いさ、少しだけ信じてやる」

「助かる」

「お前、漫画とか読んでたか?」

「まぁな、十五年前までだけど」

 それから、超メジャーな漫画の話題をして、少しだけ打ち解ける事に成功した。


「お前の事は信じることにした、お前はダチだ」

「あぁ、それで良いさ」

「他の奴には黙ってろよ」

 そう言うと、ぽつぽつとさっきした質問を返してくれた。

 不良をしてて喧嘩慣れはしてたけど、この世界に来て初めての戦闘で人を殺せなかった事、怪我をさせる程度までやるつもりだったが、思った以上に剣が切れて、切った奴が思いっきり血が出てぐったりしてて驚いた事、全員生きててほっとしてる事を話してくれた。

「この世界やべえよ、なんであんな簡単に人を殺せんだよ、目の前で魔法使いにでっかい氷が突き刺さった時は吐きそうになったし、レルスが丸焦げにした人の臭いが忘れられねぇんだよ!」

 バイザーが下がってて、顔は見えないけど、泣き声だから泣いてるんだろうな。

「君が顔面を掴んで燃やした兵士は手加減したと……だから軽い火傷と前髪と眉毛が無くなっただけで済んだんだな。会田さんも言ってたけど。故意に手を抜いてる可能性も有るって本当だったんだな」

「あぁ、そうだよ手加減してそれっぽく見せたさ! 笑えよ! 所詮度胸もねぇクズだよ!」

「何も恥ずかしい事じゃ無いさ、俺も中々殺せないし、やっと殺した時は泣きそうになって吐きそうにもなった。そしてめちゃくちゃ後悔する。さっきまでいた知り合いには『甘すぎる』とか言われるけどね。根っこはまだまだ、平和に過ごしてた頃の日本人してたい気持ちが抜けて無い。長い物には巻かれろって感じで生きて来たけど、こっちの世界では、殺しだけは中々出来ないね」

「おい、さっき十五年前って言ったよな、お前いくつだよ」

「享年三十歳、こっちで十五年」

「……ため口ですんませんでした」

「気にしてないよ、俺は誰にでも丁寧に話すからね。もちろん俺に対してはそのままでも構わない」

「助かるっす、苦手なんっすよ、丁寧に話すのって」

「ジャスティス君さ、会田さん達に判決を任せて、罪を償ったらこの島で更生してみない? こんな事有ったから向こうには居づらいし、他の勇者も旅に出させる訳にもいかないだろうし、知ってる奴の監視下に有った方が良いだろ? 今の調子じゃ多分平気だろ」

「けどレルスが……」

「あー、かなり殺してるらしいからね。王族がその辺の市民を気分次第で惨殺ってどうなんだろうね、詳しくないからわからないな。とりあえずは向こうに任せるしかないね」

「……そうっすね」

「メシ。食うかい?」

「レルスが食って無いんでいいっす」

「そうか、なんだかんだ言って好きなんだね。一応体裁を整えるのに、このまま埋めておくけど平気かい?」

「うっす」

 声が元に戻ってるから多分平気だろう。

「あ、俺が転生者ってこの子には内緒ね」

 その後は、王女の布を外して、耳の粘土を取ってから天幕の下の椅子で、二人を監視してたけど、特に騒がしくなる事は無かった。

 まぁ、何かを話してるのはなんとなく聞こえるけど、内容まではわからない。騒がしくしてないからいいか。



 翌日の朝に、二人に暖かい麦茶を与えてから朝食を王女の方に無理矢理食べさせ。キースとおっさん達と交替で見張り、昼に北川さんと櫛野さんが乗った船が到着した。

「おう、すまねぇな、追いつけると思ったけど無理だったわ、あの時戻ってればよかったんだけどな」

「気にして無いです。んじゃ引き渡しますね」

「まってろ、準備すっから」

「多分一人分で平気です。ジャスティス君は説得に成功して友達になりましたから」

「ほう、何が有ったか知んねぇけど、信じて良いんだな?」

「えぇ、なんなら聞いて下さい」

「おい、どうなんだ?」

「カームと約束したから暴れねぇよ、俺はお前等の言う事を聞くんじゃねぇからな。カームの言う事聞くんだからな!」

「面白い事になってんな、何したんだ?」

「心を折ってからの会話、その後説得による和解」

「あそこに立てかかってるでけぇハンマーと関係あんのか?」

「まぁ、かなり。んじゃ掘り起こしますからねー」

 そう言って魔法で周りの砂を退かし、先にジャスティスを解放し、鎧を脱ぐのを手伝ってやった。

「迷惑かけてすんませんでした」

 そうしたら丁寧に頭を下げて北川さんと櫛野さんに謝罪した。まぁ、なにか昨日の夜に心境の変化でも有ったんだろうな。

 そしたら二人がこっちを見てニヤニヤしてたけど、気にしないでおいた。

「あ、コレは王女が持ってた方の魔石です、これは櫛野さんに渡しておきますね」

「ん」

 そう言って、しっかりと胸の辺りに袋を縛りつけている。

 それを見届けてから、王女の方の砂を退かし、引っ張り上げると、血は止まってたみたいで良かった。死なれちゃ困るからな。

「で、なんでこうなってんだ?」

 ジャスティスが王女を抱き上げ、砂浜に寝かせ、隣にしっかりと付いて上げている。

「腕の良い弓使いによる狙撃、そのまま埋めるとなんかヤバそうだから処置してから埋めました」

「絶対恨まれるぞ?」

「もう恨まれてる結果がコレですけど?」

「その結果が肩と膝か、エゲつねぇな」

「狙えと言った俺も俺だけど、まさか本当に当てられるとは思わなかった。その結果が矢姫です」

「矢鴨みたいに言うなよ」

「まぁ、この状態で拘束するか、寝かせてはこびこむかは任せます」

「んー」

 そう言って北川さんはジャスティスの方を見て、

「寝かせたまま運びこめ! それと見張りは一人で良いから、このジャスティスって男は王女の隣の部屋に押し込んどけ」

 船員に指示を出し、王女に付き添うジャスティスと櫛野さんを見ていた。

「本当に変わったな。あいつ」

「えぇ、何が有ったかは言えませんけど、多分平気でしょう。とりあえず原因は、今まで他の勇者と関って無かっただけですよ」

「そっか。ならしゃぁねぇな。俺達も早く帰らねぇといけないんだけどよ、船足を稼ぐのに、食糧片道分しか乗せてねえんだよ」

「はいはい、食糧の積み込みですね。船長と話しをするので連れてきてください」

「助かる。後で礼でもするわ」

「期待しないで待ってます」

 その後はいつも通り、商品を乗せる時の様に慣れた手つきでさっさと荷積みを終わらせ、さっさと帰って行った。



それから一ヶ月後、俺は会田さんに呼ばれ、また地下室に来ている。この間の喧騒は無く、テーブルとかも綺麗に片付けられていたが、小さなテーブルと椅子が四脚だけ有った。

「お疲れ様です」

「お疲れ様です。呼んだって事は、こっちに着いたって事ですよね? かなり遅かったんじゃないんですか?」

「えぇ、島での事と道中の事を、カームさんを呼ぶ前に事前に本人と北川さんに聞いて、しばらく様子を見ていましたので」

「そうですか、それでどうなんです?」

「とりあえず二人とも地下牢ですが、ジャスティス君の方は物凄く大人しいですし王女の方も付き物が落ちた感じですね。何が有ったのか教えてくれませんか?」

「言えません。約束ですので」

「わかりました、そう言うなら聞きません」

 簡単に挨拶を終わらせて席に着き、出されたお茶を飲みながら二人のこれからの事を聞いた。

「で、二人はどうするんです?」

「ジャスティス君の方は報告の通り、誰も死んでませんし、怪我をさせた方々に謝罪は済んでますので、後は軽い罰を与える程度ですね。王女の方ですが。こちらの法律で裁く事も出来ませんし、城内で厳しい監視下のなかで幽閉でしょうね、亡くなった方の家族には、金銭が支払われる予定です。目立つ場所で、家族による石打ちが妥当だと思ってたんですが、どうしても無理でした」

「そうですか。王族貴族って色々面倒ですからね」

「えぇ、表向きは、国王が国の舵を取ってる事になってますからね。我々も表では強く出れないんですよ」

「ソレがあったから平気で殺してたんですかね?」

「どうでしょうね、その辺は本人に聞くしかないですね」

「墓守二人がいたでしょう、そっちは?」

「一応王族に関ってて、絶対な忠誠心から爵位も高く、位を剥奪程度が妥当でした」

「そうですか。なんか少し悔しいですね……」

「そうですね……」

 少しの沈黙を挟み、会田さんが口を開いた。

「そう言えば、昨日付けでジャスティス君の投獄が終わったんですが、牢屋から出ようとしないんですよね、隣が王女だからでしょうか?」

「なんだかんだ言って王女の事が好きなんですよ、向かいに牢が有るならそっちに移すか、見張り付きで多少の接触も良いとは思いますけどね」

「……そうですか。考えておきます。今回は本当に申し訳ありませんでした」

「いえいえ、結果的に死んでないので問題無いです、んじゃコレで失礼します。ジャスティス君には多少王女に関する事なら、温情は有っても良いかもしれませんよ。なんだかんだで、根っ子は良い子ですから」

「わかりました、しばらく様子を見て考えます」

 そしてこの騒動はとりあえず終結した。

相変わらず甘い作者です。

年末年始は気が向いた時しか文字を打たないので、かなり次は遅れます。

勇者の名前は管理がしやすいように、あいうえお順なんですが、櫛野と久我で「く」がダブったので、久我の方を「剣崎」に変えます。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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