第120話 勇者が逃げた時の事
適度に続けてます
相変わらず不定期です
矛盾が出ない様に119話の文章を多少変えました。
俺は今、会田さんに呼ばれ、王都の地下室に来ている。あれから一日も経って無い。
「カームさんすみません、奴等を取り逃がしました!」
「はぁ? どういうことです? 色々対策したんでしょう?」
いきなりそんな事を言われれば、誰だって似た様な反応をすると思う。
「地下牢の、更に下の階に有った拷問室に隠し通路が有ったらしく、王にレルスがジャスティスと逃げた事を言ったら、口伝のみで伝えられてて、自分自身もその隠し通路を使った事も、確認した事も無かったらしく、存在すら忘れてて『あそこか!』と……俺に言われて思い出したらしいんです。普段から拷問室を使わないし、行かないらしいので。今の所、その地下道と繋がってる先に、勇者と城の兵の混成部隊を付けて向かわせてますが、初動が遅れたのは痛手です、本当に申し訳ありません」
「んー、忘れてた王が悪い、そういう事にしておきましょう。明日、島で対帆船用の防衛訓練を始める事にしました。そちらももう動いてると思いますが近隣の港の監視と警備をお願いします」
「申し訳ありません」
会田さんは深々と頭を下げている。
「仕方ないですよ、アレとアレが合わさったらアレですし」
「……そうですね、確かに拍車がかると言いますし」
「水と油は混ざりませんが、熱した油に水を入ると物凄く大きな火柱が上がりますからね。どちらが熱した油かは考えたくも無いですが。で、俺は知りませんが、ジャスティスと王女に具体的にどういう対策してました?」
「勇者の方は、全体的にステータスが低かったので、かなりぶ厚い鉄の拘束具で暴れない様にしてました。女王の方は、一時的に奴隷化させて魔法使用禁止にして、ある程度自由にさせてましたが、どこから入手したのか、かなり希少な魔法兵器というか、魔力を込めるだけで魔法が発動できる魔石を使い、見張りを丸焼きにして、二人で逃げて行きました」
「魔法は使えないが、魔力は込められると……」
「えぇ、城内に有った物はこちらで管理して厳重に保管してたんですが、城内で勤務してる誰かが、外からどうにかして持ち込んで渡したんでしょうね」
「そうなると、管理するのは本当に難しいでしょうね、良く映画で有りましたが、女性にはもう一つのポケットが有るだろうって奴」
「本当ですよ、女性兵も動員して、スカートの中も調べさせてますが、さすがに女性同士でも下着の中までは調べませんし、全員の出入りを細かくチェックするのは、この時代では多少難しいですし。出入り口を一つにして監視カメラやゲートを設置したいくらいですよ」
会田さんは、大きくため息をつき、眉間を押さえている。
「二人とも殺しておくべきでした……」
呪詛めいた言葉を呟く様に、小さな声で漏らした。
「対策としては、今の世界では特に問題無はかったみたいですし、起こっちゃった事は仕方ありません。では自分は島に戻って、こちらにも来る確率が高い事を伝えますので」
聞かなかった事にして、話題を変えて帰る旨を伝えた。
「お願いします。こちらも捜索に全力で当たりますので」
「そちらもお気を付けください」
□
時間は少し戻り、王家の墓の有る地下道の出口に二人は到着していた。
「おー、梯子じゃん、錆びてっけど。コレが出口か?」
「そうじゃないかしら? とりあえず墓地には墓守がいるし、最低限の物資は保管してあるって話よ」
「んじゃそいつに言えば、ある程度はどうにかなるって話か、いいねぇ。このまま逃げられるんじゃね?」
「そうね、きっと上手く行くはずよ、私が王女だって言えば皆ひれ伏すわよ」
そんな会話をした後、俺はタイマツをレルスに預け、触るのも嫌なくらい錆びた梯子を上って、蓋を開けようとする。
「んだよ、蓋超重いんだけどー、マジだりぃわ」
「お墓に偽装した出口だと思うから、ある程度は重いんじゃないかしら? 私じゃ絶対無理だから頑張ってね」
「おう、任せとけよ。女に力仕事はさせられねぇからな」
「さすがジャスティスね、優しー」
「へへ、当たり前じゃねぇか。んー! あ゛ーっ! 開いたぜ、先に出て一応安全確認すっからしばらくそこにいろ」
俺は辺りを見回すが、いかにも海外の墓って感じだ、映画とかゲームでしかでしか見た事ねえけどな。
森の中の一部がかなり切り開かれてて、無駄にデカい。そして小屋が有るだけか。墓なのに人でもいるんか? 墓守って墓に住んで守ってんのかよ。
「おーい、外は小屋が一つあるだけでとりあえず安全だ。とりあえず上がってこいよ」
そう言いつつ、身を乗り出して手を貸す、俺って超紳士じゃね?
「おい、あの小屋なんだ? 安全なんか?」
「あれは王家の墓地を代々守ってる、墓守の住んでる小屋よ」
「墓守? 何すんのそいつ? 墓を守ってんの? 超ウケんだけど」
「管理人みたいな物よ。一応小屋に偽装してあるらしいわ」
「んだよ、偽装って」
「さぁ? 聞いた話では、緊急時にここに来るかもしれないから、武器防具の類はある程度揃ってるって聞いたわね」
「おー良いじゃん良いじゃん。冒険みたいじゃねぇか。俺は召喚されてから城からあんまり出てねからな」
「私がさせませんでしたからね」
レルスはフフンッとした顔をしてるが。正直暇だったからな、買い物くらい自由にさせろよなー。
まぁ、有る意味美味しい生活が出来たから良いんだけどよ。夜とかあんな美人とヤれるなんて最高じゃねぇか。しかも初物だったし、おまけにメイドともヤれたしな。さすが城に住んでるお姫様だ。
「まぁ、こんな状況だ。さっさと貰うもん貰って逃げようぜ」
「そうね」
そう言うと、レルスはドアについてる輪っかをガンガンと叩き付け、
「開けなさい! 第三王女のレルスよ」
お姫様とは思えねぇよな、なんか漫画とかゲームだと淑女ってあんな感じじゃねぇだろ。
そんな事を思っていたら、やたら背の高い男が出て来て、レルスが胸のペンダントと指輪を見せると、膝を地面につけ深く頭を下げてやがる、マジウケんだけど。
そのまま小屋の中に入れてもらうと、他にも男が一人と女が二人いて、こっちをジロジロ見てきやがる。胸糞わりぃ奴等だ。だけど直ぐにレルスの方に行き、さっきの男と同じようなポーズで頭下げてるけど、あんな奴等が頭下げるとかマジすげぇぞ?
「ここに有る装備を少し都合しなさい、二人分でいいわ、けど最高の物を用意しなさい。私は軽装で良いけどこっちはある程度重装で」
「わかりました」
そう言うと男達は、奥のドアを開けて、床の一部を外して石を剥き出しにさせた。そこにレルスが手を当てて、光ったと思ったら、石が横に動いて階段が現れた。マジパねぇんだけど。レルスってマジすげぇ女なのか?
言われるままに階段を下りると、広い地下室に棚があり、そこに剣やナイフや防具一式が置いてあった。
「近衛兵の着てるのと同じじゃねぇの? コレ」
「魔法処理がしてあります、希少な魔石も多いですが、ある意味緊急事態ですので使わせてもらいましょう。貴方達! ジャスティスの為に合う鎧を用意してあげて、そしたらわからない様に木箱にでも詰めて、ぼろい馬車にでも乗っけて偽装しなさい」
「「仰せのままに」」
男達はそう言うと、俺を囲み、ジロジロと見てると手前の方の棚に案内された。
「この辺りがサイズ的に合いますので、好きな物をお選びください」
「お、おう」
鎧って言ってもなぁ、どうせ重いんだ……軽いな。
「そちらはミスリル鋼で出来ていますので、見た目以上に軽いです、それと籠手はこちらをお使いください、甲に有る窪みに魔石をはめて魔法が簡単に撃てるようになります」
「俺、魔法撃てねぇんだけど、どうすんだよ?」
「レルス様のお供は、勇者様とお見受けします。体内に魔力は有ると思いますので、手に力を籠める様な感じで念じれば、発動できるようになっております」
「私が助けた時に持ってた奴と同じね、その辺はしたがってちょうだい」
「お、おう」
マジでやべぇな、なんでこんな事になってんだよ、ってかすべてはあのスクミズとか言われてたふざけた魔王と勇者じゃねぇかよ。勇者は沢山いるからマジで無理だろ? ならその魔王を探しながら旅して、奴等を見返してやれば良いんじゃね? 俺ってマジ頭良くね?
「おい、魔法は火の出る派手な奴だ! 有るか?」
「もちろんございます」
「なら両手に付けろ」
「かしこまりました、では鎧を付けてみて、問題が無ければ偽装を開始します」
「なるべく早くね、それとお供に二人欲しいわ、そうすれば男二女二のパーティーに偽装できるわ。ここにも直ぐに追手が来ると思うから、墓守の夫婦と言う事で通しなさい」
「わかりました」
そんなやり取りを見てると、レルスは棚に有ったナイフを使い、結んでいた髪を根元からバッサリと切った。すると、なんか中途半端な皮の鎧と布切れをもって奥の部屋に向かうと、
「ドレスじゃ直ぐにばれるし、髪の長さでも怪しまれるわ、ジャスティスは髪を短くして、布でも頭に巻いて偽装しなさい、多少は誤魔化せるわ」
はは、マジ? 後には引けねぇじゃん。ってかなんでこんなのがお姫様やってんだよ。
俺は言われた通り、棚に有ったナイフを使い、髪を掴んである程度の長さに切るが、マジいてぇ。切れ味悪くて引きちぎってる感じが強いぜ。あんな大量に切って痛く無かったのか? マジ萎えるわ。
髪を切って、頭にタオルを巻いて、その辺の奴等が着てる服の上から半端な感じの皮鎧を付けられて、腰にかなり短い剣を付けられた。
「お? それらしく見えんジャーン、まぁ最初の冒険ならこんなもんだよな」
「見た目は皮鎧ですが、そちらにも魔法処理がされており、見た目以上に斬撃や魔法を凌いでくれますし、その剣はミスリル鋼ですので外に有った木くらいならば容易く切れます」
「マジかよ! テンションバリ上がりなんだけど」
そんなやり取りをしてたら奥から、皮のズボンに俺と同じような半端な皮鎧と、腰にナイフを二本装備したレルスが出て来た。別人に見えてマジで可愛いと思っちまった。
「似合うじゃん」
「ありがとう、準備は出来てるわね? さっさとここから逃げるわよ」
そう言って大股で歩く姿は、マジでお姫様に見えねぇな。
階段を上がって、また石に手を振れると勝手に石が動いて階段が見えなくなり、外に出ると、どこに在ったか知らねぇが、本当にぼろい馬車に荷物が載せてあって、家の中にいた奴等が、いつの間にか俺達と似た様な格好になっていた。
「行きましょう。私達に協力的で、勇者達に財産をあまり奪われていない貴族の屋敷に行くわよ」
「おいおい、俺が閉じ込められてる間に何が有ったんだよ」
「馬車の上で話すわ、取り合えず乗って」
親指で馬車の荷台を指差す姿は、どう見てもお姫様じゃ無くなってるな。口調も変わってるし。このままの姿で一発ヤりてぇな。
まぁ、今は逃げるのが先か。俺より強い勇者なんか相手にしてられねぇよ。
俺が荷台に乗ると、「出してちょうだい」とか言って、馬車が進んだ。結構揺れんな、サスとかねぇのかよ。
□
それから数時間後、墓地の小屋でドアノッカーが激しく叩かれていた。
「ここが城の地下から繋がってる事はわかってる、開けねぇと蹴破んぞー」
「は、はい。なんでしょうか?」
「ここに第三王女と勇者が来てると思うんだけど、取りあえず勝手に調べんぞー」
「あ、ちょっと……」
俺はひ弱そうな男を押し退け、家の中に入る。そうすると心配そうな表情でこちらを伺う女が一人。夫婦か?
「まぁ良い、一応調べろ、国王から責任は取るって言われてんだ」
「了解」
俺の一言で、狭い家に連れて来た兵士五人が家探しを始め、残りの十人は他の場所を調べている。
狭い家で、特に探せるような場所は無いが、一応家探しさせる。
「床も怪しいから持ってる槍で、音とか調べろよ。あー言って無かったけどさ、なんでこんな事するのかって言うと、第三王女が拘束して幽閉してた問題児の勇者と一緒に逃げ出したんだわ、その時に見張りの兵士二人を焼き殺してんのよ。だから放っておくと何するかわからないから、探しに来たんだけど。知ってる事が有ったら今の内に話せよ?」
「いえ、私達は何も知りません」
「そうか、けどこっちも仕事なんだわ。許してくれよ」
会田さんの命令だけど、嫌な役を任されたもんだ……。あんな目で見られたら心が痛むだろうが。
「床の一部が外せるようになっていて、そこから王家の紋章が刻まれた石が出てきました!」
「お、そうか。とりあえず見せてみろ」
隣の部屋の机が有った場所と思われる下の床が外され、城の中でよく見かける紋章が出てきた。
「これは?」
「王家の魔力に反応して開くと言われてる場所です。代々受け継がれてる墓守の私達や両親や祖父母も、一度も開かれた所を見た事が無かったそうです。本当なんです、レルス様も勇者様も来ておりません」
「ほー」
俺は隣にいた兵士から槍を借りて、その紋章の所を石突で叩くが、音が反響せず、物凄くぶ厚い石だと判断して、直ぐに叩くのを止めた。
「まぁ、今の所は信じとくわ」
「お話中失礼します! 外の納屋に木箱が有ったと思われる痕跡を巧みに隠した後が。馬小屋では数頭ほど消えた痕跡が在りました」
「ほう」
「それと、隠し通路の出口と思われる、偽装された墓を退かした所、放置されて消えたと思われる松明を発見しました」
「ほー、取りあえず偽装だと思うけど、この夫婦っぽい男女を連れて城まで戻るぞ」
「了解」
「あ、忘れてた。数人残って、抜け道から来る奴等が揃ったら戻って来てくれ」
□
「ってな訳で、逃げられてたわ。どうすんだい?」
「とりあえず港の有る村から街までの監視強化と、表向きは俺達に友好的な腹黒貴族の屋敷の監視を、それとカームさんに報告ですね。正直胃が痛い。あれって怒らせると結構ヤバイと思われる系なので、報告は早い方が良いでしょう」
「あんたも、怒らせると暴力に訴えないでじわじわ来るから結構怖いけどな。んじゃそう手配しとくわ」
「お願いします」
軽口を叩かれながら、俺は、フルールさんの鉢植えに共同住宅の地下に来てもらう様に喋りかけた。
本当国盗りってめんどくさいわー。いっそ集団で滅ぼした方が楽だった気がするわー。あーもー。
おまけSSに100の質問ラッテ編を上げました。
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