第109話 娘にお風呂を拒否された時の事
適度に続けてます
相変わらず不定期です。
あれから三日後の夕方、入島して来た村民の様子を見に行くと、思っていた以上に働いており、油も樽に溜めていた。特に注意するような事も無かったので、今度水分に混ざった油を取りだす為に、水を蒸発させて石鹸を作る作業でも教えるか。
「お疲れ様です、特に不備はないですか?」
「あ、おはようございますカームさん。そうですねー、やっぱり魔族の方への偏見が少しだけ見られますが、多少会話をしている所を見ると時間を掛ければ平気だと思いますよ」
いつもの様にニコニコと、笑顔で返答してくれる野草さん。この人は他の団体に交じっても、特に問題を起こさないし、仲良くなれるからこういう人族の教育にはもってこいだと思う。
「入浴や食事は?」
「それも問題ないですね。皆仲良くしていますし、取りあえずは神父さんが皆を引っ張っていると言う感じでしょうか?」
「それなら構いません。取りあえず取引材料と言う事で、贔屓にしている商人に油の取り扱いもしているか聞いてきますので、瓶で一本程貰いますね」
「はーい、確認なんですけど、油は日陰で良いんですよね?」
「そうですね。油は日の光に弱いですし、直ぐにダメになってしまうので本当なら布を巻いた瓶で売りたいんですけど、もし搬送するならどうしても樽の方が楽になっちゃうんですよね」
そんな会話をしながら俺は油を瓶に移し、閉店後のコーヒー店に向かい、ニルスさんの所へ向かう事にした。
相変わらず都合良くいるニルスさんに感謝だな。
「こんばんわー、新商品の売り込みに来ましたー」
「またカームさんですか……。えぇ、もう貴方絡みでは驚かないようにしました。で、今度は何ですか?」
そんな事を言いながら、ニルスさんは頭を押さえている。
「そうですね、取りあえず油と、この間お土産で持って来た強い酒が、暑さがやわらいだ頃に造れるようになるかもしれないので、それの告知です。酒も扱ってますよね? 果実酒も買った事有りますし」
「そうですね、酒も扱ってはいますね。最近は酒を買ってくれないので寂しいですよ」
「まぁ、島内で作れるようになりましたからね。あんなの糖化させて発酵させればいいだけですよ」
本当はきっちり管理しないといけないけど、酒を村で造ってた男に感謝だな。
「で、油と言う事ですが。どのような感じに?」
そう切り出されたので、布にくるんである瓶をテーブルに置き、話を続ける。
「植物の実から絞り出した物です、島に自生しているので収穫して絞っています。獣脂やバターと違うので、常温で固形化しないのが利点ですかね? ただ太陽の光に当てると痛みやすいのが難点ですかね?」
「バターも獣脂も似た様な物でしょう」
「ですね」
「で、こちらはどの程度で取引したいんでしょうか?」
ニルスさんの目がいきなり鋭くなる。
「油ってまだまだ高いので、市場価格の物はどのくらいで仕入れて、どのくらい上乗せしているのかわからないんですよね、なのでそちらで決めてください。って言うと物凄く怒られそうなので、市場価格の七割で下ろしますよ」
「またそんな事言って……知らないなら聞いて下さい、ある程度見知った仲なんですから」
そう言いながらため息をついている。
「七割は冗談です。俺は商人じゃありませんからね、その辺はニルスさんの常識に任せます、こちらとしては物が売れて、島民を養えれば問題ないんですからね」
「まったく……。油の今の相場はこのくらいです」
そう言いながら書類棚から書類を取り出し、見せて来る。
「じゃあこれの一割りほど高く卸しましょう。植物油ですので料理はもちろん、石鹸や化粧品の原材料にも使えますし不純物は多少有りますが獣脂よりは香りが良いので需要は高いはずです。ですので市場に出ている油と差別化して売るのもありでしょうね」
俺用に保管してる細筆も持って来てくれたので、それにサインする。
「ありがとうございます、ではコーヒーやチョコと一緒に取りに来るか、何かを届けに行く時にでも一緒に船に乗せますよ」
「そうですね、私が急に送れって言う訳がないじゃないですか」
「お世話になってるので、今直ぐと言われれば転移で運びますよ?」
「いやいや、結構ですよ。ですが、ないとも言い切れないのでその時はお願いします」
「では、何か有ればコーヒー店のマスターに連絡を」
そんな良い雰囲気で多少雑談が入り、手土産としてオリーブオイルを置いてから故郷のベリルへと帰った。
コーヒー店にもフルールさんの鉢植えも必要か? カモフラージュに色々なハーブや花もあった方が良いな、その方向で動くか。日当たりの良い窓際に置けば弱る事もないだろう。
「ただいまー」
「あ、お父さんお帰りー。お風呂湧いてるよー」
「おーそうか。一緒に入るかい?」
まだ寝間着ではなかったので、一応声を掛けてみる。
「ん、ううん。今日は良いよ」
「そうか、なら先に入らせてもらうね」
そうか、とうとうこの日が来てしまったか……。世の中のお父さんはこんな感じなんだろうか……。
そう思いながら、居間にいる嫁達に一声かけて、台所にオリーブオイルを置いて、一人寂しく風呂に入り、夕食の準備をしていたスズランに声をかけ、揚げ物を獣脂からオリーブオイルに変えてもらい。いつもと違うから揚げを楽しんだ。
そして夜が深まり、子供抜き家族会議が始まる。
「今日、リリーに一緒にお風呂を入るのを拒否されました。これは仕方のない事なので、諦めてはいますが、何か体の変化があれば教えて欲しい。そう、大体三十日に一回ある、女の子の日について」
「んー、前にも話し合ったけどさー、男親がそう言う事聞くのはどうかと思うよ?」
スズランは静かに、頷きもせずお茶を飲んでいる。
「まぁ、それはわかってる。けどそれに対して、気を使う事が出来る。知らなければそれなりの対応をしているかもしれない」
「んー」
ラッテは物凄く体を捻りながら唸っている。
「じゃあ例をあげよう。例えば女の子の日で体調が悪いとする。なのに久しぶりに戻って来た俺に稽古をせがんで来たとしよう。そして何も知らない俺がいつも通り相手にして、稽古中に注意力散漫になって怪我をさせたらどうする?」
「んーそれもそうだけどさ」
「まぁ、ある程度察して手を抜く事も出来るし、気を使う事も出来るけど、事実として知りたい」
「ある。カームが学校で子供達に色々教えて、島に戻ってから二日後に初めてがあった」
「ちょっとスズランちゃん!?」
ラッテは少し動揺しているが、既に諦めたのか少しため息を吐いてお茶を飲み始める。
「わかった、ありがとう」
俺はそう言って、話を切り上げ、二人には先に寝てていいよと言い、棚から蒸留酒を取りだし飲み始める。
もう五歳か、二人とも成長したもんだな。そう思いつつしんみりとしながら、今まで有った事を思い出しなら、ゆっくりと飲み、俺も寝る事にする。
◇
翌日、子供達を学校に送り出し、友達と遊ぶ約束しない様にと言って置く。種蒔きに関する話し合いがあると聞いたので顔を出し、元村長の話を聞きながら特に問題ない事を確認すると、実家の部屋に行き空き瓶を持って自宅に帰る。
そして、ラッテや子供達が帰って来たので、家族全員で食事を食べてから子供達に個人的に魔法を教える。
多少雰囲気の違う俺に、少しだけ真剣さが伝わったのか大人しくしていた。
「前々から知りたがっていたこの黒いナイフについてだ、前にも知り合いに教えたけど、二人はまだ幼い。少し丁寧に説明するぞ」
そう言って、空き瓶と【黒曜石】の塊を出して丁寧に説明する。
「ってな訳で、この黒いナイフは実は属性的に言うと土属性だ」
「ガラスって石だったの?」
「全然想像できなかった、イメージしても出てこないはずだよ」
「そうだな、その辺りは知識がないと無理だな。砂の中にあるガラスの成分が熱で溶けて固まったのがガラスだからな。この黒曜石って奴はソレの代表みたいな物だ。だからその辺のガラスよりは硬いが、鉄よりは脆い。ただ切れ味だけは割れたガラスと似たような物だから保証はする。ただ、コレで武器を受けるのだけは止めろ。それだけだ」
そう説明すると、テーブルに置いてある黒曜石のナイフをリリーは真剣に見ている。
「お父さん、私に投げナイフのコツを教えて欲しいの!」
「練習しかないな。父さんもリリーくらいの頃に、散々森で色々な物を投げてた。まずは石だな。十歩離れた所から投げる。それで当たるようになってきたら、二十歩、三十歩と距離を延ばす。そしたら今度はまた十歩の所からナイフを投げるの繰り返しだ。こればかりは口で説明できない。ナイフを回転させて投げるなら歩数によって回転させる速度を体に覚えさせる。回転させないで刺せる方法もあるが、そっちもそっちで技術がいる。だから練習しろとしか父さんは言えない」
そう言うとリリーは黙ってしまった。
「まぁ、俺も村の道具屋でナイフを買って練習したから、リリーも練習すれば良い。後で買いにいこうか」
「うん!」
随分素直に育ってくれたなー、こう子供の成長とか見てると心が和むよな。
「さてミエル、魔法が得意なミエルには浮遊とまではいかないが、魔法で射出する方法も教えよう、リリーだけにナイフ投げのコツ教えたら不公平だからね」
そう言いながら笑顔で、自分の頭上に持ち手のない【菱型の苦無】みたいな物を浮遊させる。
「普通の火球とか水球とかと変わらないさ、それをさっきのナイフに変えただけ」
「けど、それって形が違うよ?」
「刺さりやすく先細りにして抵抗をなくす感じだな」
そう言いつつ、ここから見える竈用の薪を見つめ射出する。コン! と良い音が鳴り、子供達は少し驚いている。
「まぁ、こんなもんだ。今まで使ってなかっただけで色々あるぞ。これは肉体派のリリーには少し難しいかな? だからミエルにはこれがプレゼントだね、十分ヒントになっただろう? これもおまけね」
そう言いながら【黒曜石のショートソード】をイメージして作った物を浮遊させた状態で頭上で振り回し、開いている窓から放り投げた。
前に棒を投げて、鶏小屋の柵に当てたらスズランに物凄く怒られたので放り投げるだけだ。
「魔法で作った武器を空中に浮遊させて振る。これも練習しかないね。魔力は筋肉と同じで、使えば使う程身につくから、魔力切れを起さない程度に練習して置くように。前に言っていたリリーが助けに来るまで持ちこたえるって言うならお姉ちゃんと一緒にミエルは盾を買いに行こう」
「うん!」
「ってな訳で太陽が一個分傾くだけで説明は終わらせたけど、何か聞きたい事はあるかな?」
そう言うとリリーが物凄い勢いで質問して来た。
「他には何が出せるの!」
そこまで必死にならなくても良いと思うんだけどな。
「まぁ、武器の形がイメージできたらなんでも出せるよ。前は脅しでハルバード出したし。ナイフだけじゃ心許ないから、手斧で重さを確保して深く刺さるようにしてた時もある。だからどれが有利とかは一概には言えないね。けどさっきも言った通り、打ちあったら消えるから注意だね」
そう言いながらコランダムで一回だけ使った【黒曜石のハルバード】を、テーブルの上に出した。
「振り回して威嚇するならこれくらいでも十分だね、けど父さんは機能美を重視したいから、こういうのは使わないけどね。どうする? このまま稽古をする? それともこの土魔法の練習?」
「「魔法!」」
「はい、じゃぁもう少し魔法の稽古だね」
そう言って子供達に黒曜石のナイフ以外の作り方を教えるが、ミエルよりリリーの方が先に出来たのには驚いた。武器に関しては魔法でもリリーの方が強いみたいだ。
「武器の形をした魔法ならイメージしやすいのかもね、さっき父さんがやったみたいに思い切り投げるイメージをすれば、火で出来た槍とかでもきっと上手く行くはずだ」
そして少ししたら、ミエルも黒曜石のナイフを作れたので、そのまま投げるように飛ばしてみろと言ったら、さっき俺が刺した薪の近くに命中させた。
「二人とも凄いな、さすが俺達の子供だ」
正直に言えば、手で投げた方が早かった気がするが、笑顔で褒めた。後は練習するだけだな。
『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、 ほめてやらねば、人は動かじ』とか有名すぎるし。
その後は三人で道具屋に行き、少し大振りのナイフと鉄製の小丸盾を二人に買い与え「今まで通り訓練する様に」と優しく言って家に帰った。
今度、訓練をせがんで来たらどう対処するか、今からかなり悩む俺だった。
リリーの気持ち的なSSを書こうと思いましたが、作者は男なので止めておきました。




