第101話 年越祭が数年前から少し変わった時の事
適度に続けたいです。
相変わらず不定期です。
俺が子供の頃は、年越祭は学校に入学するまでは家族と家で過し、少し贅沢な食事をして過ごし、学校に通い始めるようになってからは、村の集会場で大騒ぎをしたが、俺が魔王になる前から少しだけ事情が変わった。
村人が増え、村が豊かになったので、思春期の子供達に気を使わなくて良いんじゃないか? となり、子供が小さくても盛大に年越祭をやるようになった。
集会場も増えたし、酒場も増設したし、醸造蔵と言う広い場所も出来、空家も入村者が増えて来たので、少し多めにも作ってあるので、色々と配慮しなくても良くなったからだそうだ、だから子持ち同士で集まり、家族同士での集まりで盛大に過ごそう。
子供が大きくなったら、大人は大人、子供は子供に別れて、騒げば良いと言う事で、今は村中のほとんどの村民がいくつかある、近くの集会場に集まり盛大に年越を祝っている。もちろんご近所さんの付き合いも兼ねているけどね。
ちなみに例の空家は、ずっと空家になっているので、多分今後もずっと空家なんだろう。
「子供達から聞いたぜ? 人族の王都に乗り込んだらしいな」
いきなりヴルストが言い、酒を噴き出しそうになるが、なんとか耐えた。
俺は左右の嫁達を見るが、スズランは相変わらず表情をあまり出さずに肉を食べてる、だがラッテが少し視線を逸らした。
「ラッテさん……貴女ですかぁー?」
俺はムニムニと頬を優しく両側を摘まむ。
「違うもーん、ミエル君達も言ってたもーん!」
そして、収穫祭の時みたいに、子供同士で集まっている席を見るが、楽しそうにお喋りをしているので、水を注す事は止めて置いた。
「で、何して来たんだよ」
「祭りに参加して来た、詳しくは聞かないでくれ」
俺はテーブルに突っ伏し、多分村中に噂が広まっているだろうと思い、変な声を出しながら少しふて腐れていたら、スズランに骨付き肉を口に突っ込まれ、モゴモゴと咀嚼し、強制的に黙らされる。これは気遣いだと思いたい。
そして、口の中の物がなくなってから突っ伏したまま切り出す。
「実際どのくらい知ってる人がいるんだ? ヴルストが知ってるって事は結構知ってるだろ?」
「まぁ……な」
子供達の相手を良くしている、村中の付き合いが多いヴルストが言葉を濁すという事は、ほぼ知っていると言う事だよな。詳細は知らないみたいだから、このまま誤魔化し続けよう。
「まぁ良いさ、俺は竜族の人達も来てるし、ちょっと挨拶周りして来るから楽しんでてくれ」
そう言って、村長と知らない男や校長達のいる席に向かう。
「どうも、お久しぶりです、あれからどうですか?」
「ええ、故郷でも酒作りがかなり盛んになり、麓の村や町からも買い付けが来るくらいです」
「ほっほっほ、わしが故郷に帰る時には、いつも町や村に寄って宣伝しているからのう」
「うむ、我々女共の働き口が増え、強い酒を求め男達もより一層仕事に精を出すようになった。カーム殿には感謝だ。それにしてもあれだけ渋っていた子供も作り、なんだかんだ言って嫁も二人いるしな」
「なんでもドワーフが来るような事を聞いてますので、大き目の醸造施設を作り、蔵も新しく建てるんですよ」
前に研修に来た女性三人組が答えてくれる。雇用を生み出し、利益も出ているし、施設や蔵も増やすなら竜族的には万々歳だろうな。
「そうそう、この村では校長と呼ばれているらしいですが、校長に面白い酒の飲み方を教えていただきありがとうございます。火の噴けない種族が喜び、子供達が火を吹く練習をするのに重宝しています」
「……ははは、そうですか」
乾いた笑いしかでねぇ。
「うむ、火をつけたまま酒を飲むとか考え付かぬからな。利用しない手はないと思ってな」
んー、未だにドラゴンとかがどうやって火を吹くのかわからないが、体内で生成した可燃性ガスを思い切り吹き出し、着火させてるのだろうか? まぁどうでも良い、だって知りようがないしな。ってか子供の教育材料に使われるのか、と言っても何歳から火を吹く練習するのかわからないけどな。
「カーム君ちょっと良いかな?」
どうでも良い事を考えてたら、村長から声がかかった。
「えぇ、何でしょうか?」
「わしの息子だ、そろそろ村長を継がせようと思ってな」
そう言って、隣に座っていた見知らぬ男性を紹介された。
「初めまして、この村をこのように発展させていただきありがとうございます。最初は、帰り道を間違えたのかと不安になるくらい家も畑も増え、戸惑っていましたが、村の中央付近に来て、やっと見覚えのある建物とかが見えたので安心していました。まだまだ若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします」
そう言って両手を握られ、ブンブン振られる。
「よろしくお願いします。俺も生活が楽になれば良いかな? と思って始めた事ですし、村にも活気があった方が良いので、そう言う風に動いただけですよ」
「我々の村でも似たような事が起こっている。出稼ぎに出て行った者達が噂を聞きつけ戻ってきたら、皆同じような反応をするからな。私の夫も仲の良かった友が戻って来てくれて、散々酒を飲んで戻って来て、その夜はこちらが根を上げるくらい激しくてな、久しぶりに惚れ直したぞ」
「はは、それは良い事ですね」
竜族はたくましいな、酒の席じゃなかったら、あまり聞きたくない話題だけどな。しかも両隣の女性が、私の夫もよとか言っている、まぁ良い事をしたと思おう。
「しかも、この村から魔王になれる者まで出るとは思ってもいませんでした。領地がこの辺りではないのが残念ですが」
「そうだな、あの時の軟弱だと思った男が魔王になったのだ、聞いた時は驚いたぞ!」
「自分も嫌々ですよ。いきなり家に現れ、魔王城に連れてかれて、いざ行ってみれば拒否権はなかったんですから」
そう言いながら酒を豪快に飲みつつ、俺の背中をバンバン叩いて来る。正直痛すぎるので止めて欲しい。
「んじゃ他にも連れて来たドワーフとか人族にも挨拶に行くんで、失礼しますね」
「我々の村や故郷を発展させてくれたカーム君に乾杯じゃ!」
「「「「乾杯!」」」」
そんな音頭を取られ、カップに残っていた蒸留酒を一気に飲み干し、次のテーブルに向かう。
「おう。カームか、酒が美味い村の祭りは楽しいな!」
そう言って、ヴァンさんが俺の持っていたカップになみなみと酒を注がれた。
「零れる! 零れますから!」
「何を言っている、杯から零れるくらい注がないと、注いだうちに入らんわ!」
豪快過ぎるわ!
「ほれ、乾杯だ」
そう言って、なみなみと注がれたカップをぶつけて来る。
「「乾杯」」
そう言ってヴァンさんは豪快にカップに並々と有る蒸留酒を飲み干した。
「ッカァー、やっぱり強い酒は良いねぇ」
「しかもタダで飲めればなお良いって奴ですか?」
「わかってるじゃねぇか」
そう言って肩をバンバン叩かれる。
「そうそう、大体手順を覚えたからそろそろ故郷に戻ろうと思ってる。そうしてあの装置と手順を教え、酒の種類も教え、石炭も山で取れるが、薪代がかさむから一応木炭作りの手順も教え、二個くらい故郷に蒸留器を作ったらまたこの村に戻って来るからな。そうしたらお前の言っていた島に連れて行け」
「わかりました、そうしたら町まで一緒に銅の買い付けに行きましょう、どのくらいの量の銅で出来るのかわからないんですよ」
「おうよ、多分暑くなり始める頃には戻って来れるからな、楽しみにしておけよ」
「ありがとうございます、そしてお願いします」
「おいおい、礼を言うのは俺の方だ」
がはは! と大口で笑いながら肩の辺りを叩いて来る。正直竜族のお姉さんの方が痛かったけど、痛いのには変わりないので止めて欲しい。
今度は元海賊の、船の細かい修理をしていた船大工と言うか船修理の人族達の所に向かう。
「お疲れ様です、家作りの方はどうですか?」
「あ、お疲れ様です。最近は俺達四人だけで家を建てさせられる事も多くなりましたし、木材加工や、簡単な絵図面も全員描けるようになりました。親方の話しでは『季節が二回廻る頃には全員部下を付けられるくらいになるんだけどな』って言ってくれましたですので、もう少し経験を積んだら、島で家も建てられそうです」
「あの時は無茶を言って申し訳ありませんでした」
「いえいえ、我々を生かしてくれた挙句、職も与えてくれ、しかも自立までさせていただけるんですからお礼を言いたいくらいです、むしろ言わせてください、ありがとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
そう言われ、四人全員から少しづつ酒を注がれ、蒸留酒が入っているカップとは別に、カップいっぱいの麦酒が注がれ、再度乾杯をして島の話になる。
あれから職人を呼び、魔王城建設予定地に新しい家が建ち、勇者が住み付き、島の特産物が売れ始め、ご近所の魔族とも仲良くやっていると。
「おー、俺達がいない間にそんなに発展してるとか、カームさんのやる事はすごいですね」
「ホントすげぇや」
「俺達も頑張らないとな」
「だなー」
「こいつ、村にいる女性と仲良くなって、今良い感じなんすよ! もしかしたら島に戻る時に、腹が大きくなってる女性と一緒に連れて言って下さいとか言うかもしれねぇっすよ」
そんな会話に付き合いつつ、一人が仲間の事を曝露する。
「おい、止めてくれよ」
「おー良い事ですね、本当良い事です。魔族と人族の壁が低くなることは本当に良い事です。楽しみにしてますよ」
俺はニコニコと空にした麦酒のカップを置き、ある意味本命のテーブルに向かう事にする。
「一緒に飲ませてもらうよ」
そう言って両親や義父母達の席に座る。心臓がバクバク言っているが、話しておかないといけない事だから覚悟を決める。
「ヴルストから聞いたんだけど、俺の噂は多分父さん達の耳にも入っていると思うんだけど」
「あぁ、入ってる」
「おう、説明しろや」
父さんとイチイさんが少し睨むように言って来る。
事の経緯をすべて話す事にした。
島に勇者が来て戦闘になった事、訳を話して和解した事、似たような仲間を連れて来てもらった事、勇者の考えを聞いてどうしても俺の存在が必要だった事を。
「心配かけないようにと思って、黙っててすみませんでした」
「そうか、その勇者って奴は、根は優しい奴が多いんだな」
「そして、本当はお前のように争いが嫌いだから、これ以上勇者が召喚されないように動こうとしている……と」
「えぇ」
「あら、そう聞くと、なかなか勇者も良い人族のように思えるけど、どうなんだろうね」
「わからないわねー、けど息子が無事戻って来たって事は、大量にいた勇者達の中に、一人でも魔族を傷付けようと思ってたって子がいないんでしょう? 随分と噂と違うのね」
「傷付けられたのは、王都に行く途中の村で、子供達に石を投げられただけだよ、子供達にも、魔族は悪いって教えをしているのが、一番心に傷ついたよ。後は全部勇者がかばってくれた。それと、酒の席でこんな事を言うのも悪いんだけど、戦争を起こしてるのは、領地を増やしたいと思っている醜い考えの貴族と、金儲けしか考えていない権力を持った貴族と、人族の方が偉いって思ってる人族の教会のお偉いさんだけだよ。島に一番近い港町なんか魔族と人族は比較的仲が良いし、教会の人も優しかったよ。もちろん俺の与えられた島も皆仲が良いし、最近じゃ魔族と人族が恋仲になってるし、この村でも一人いるでしょ?」
「まぁ、そうだが」
「お、おう、確かにいるな」
「あー、あの優しい子ね」
「最初は人族を怖がってたけど、人族の男が何度も優しく声を掛けて、心を開いたって話じゃない、何かの物語みたいで素敵じゃない。ね、あなた」
「あぁ、そうだな」
「だから心配しないでほしいんだ」
「あまり心配はしていないが、無茶だけはするなよ」
父さんがくぎを刺してきた。
「わかってるよ、けど後何回かは行くと思うけど、その時はスズラン達に絶対報告はするよ、何も言わないでいなくなるような事はしない」
「あたりめぇだ! スズランを泣かせるような事があったら、世界の果てにいても殴りに行くって言っただろうが!」
そんな事も言われたな、義父さんは覚えてたんだな。
「スズランちゃんもそうだが、ラッテさんも泣かせるような事はするなよ。しかも子供達もいるんだ。無茶だけはするなよ」
「そうだ、ヘイルに勝ってるし、魔王にもなってるけど無茶はすんなよ」
「わかってますよ、俺が痛いのと怖いのが駄目なのを知ってるでしょう? 魔王になってもそれは変わってません。なので安心して下さい」
「あらあら、カーム君も言うようになったわね」
「本当、なんでこんな子が魔王になっちゃったのかしら。けどスズランちゃんやラッテさんには相変わらず尻に敷かれてるみたいだけどね」
「母さん、止めてくれよ、ってか誰に聞いたんだよ」
「「孫達に」」
母さん達が声を揃えて言う。
「はぁ、まぁ、確かにそうですけどね。けど仲良くさせてもらってますし、感謝もしています。ただ子供達に色々教えて、俺に特訓の成果を見せる為に、帰って来る度に稽古につき合わされるのには勘弁してほしいよ。最近どんどん強く、姉弟の連携も上手くなってるし……」
「けど卑怯な手を使ってでも勝っているんでしょう? 昔みたいに」
「……言い訳はしませんが、俺は嫁達とは違って、生きる為にはどんな卑怯な手を使ってでも生き伸びろと教えてますので、卑怯な手を使って毎回稽古してます。正直に言えばリリーは不意打ちを警戒するようになり、攻撃にフェイントが増え、ミエルは弱い魔法の手数を増やし、俺を抑え込もうとしてきます。正直いつか傷付けちゃうんじゃないかと……それが心配でして」
「俺なんか、お前の腕を落とす覚悟で手合せしただろう、それくらいで良いんだぞ?」
「リリーは女の子だし、ミエルはラッテの血の方が濃いのか、優しい男の子に育ってるし、そんな事俺にはできないよ」
最初の報告が終わり、後は近状を報告するような形になり、話題がなくなり、そろそろ戻るよと言って皆のテーブルに戻ると、すでに出来上がっていた。
「この間の泥だらけの草だらけのカームを見てね、僕もやってみようかなって思ってやったらミールに服を汚した事ですごく怒られた」
「僕もトリャープカに怒られたよ」
「狩りで視覚と嗅覚を騙して、獲物に近づけるって物凄い良い事なのに」
「本当だよ……」
「何言ってるのよ、そんな事しなくても十分な弓の腕を持ってるくせに」
「そうです。息と気配を殺し、素早い動きで獲物に近づき短剣で仕留められるのに何を言ってるんですか」
「それでも楽な方が良いじゃないかー」
「そうだよー、気配を殺すのにだって物凄く神経使って疲れるんだよー」
二人は酔っているのか、普段の口調とは少し違い、さっきの俺みたいに机に突っ伏し、愚痴をこぼしている。
「全身緑色か茶色の、それ専用の服を町で買ってこいよ」
「カームだってこの間逃げた時は普段着だったでしょ」
「そーだよ、なんであんなに必死で逃げたのか不思議なくらいだよ」
「説明できない、お願いだからそれ以上は聞かないでほしい。ただただあの時は逃げるのに精一杯だったと思ってほしい」
そう言って、俺もシンケンとシュペックと一緒に机に突っ伏しふて腐れる事にした。




