第100話 王都でお祭り騒ぎ 後編
適度に続けてます。
相変わらず不定期です。
100話と言う節目でしたので、三部構成にしました。
作戦決行日、深夜二十七時。朝の活気もまだなく、夜のような喧騒はすでにない時間。作戦は始まった。俺はアルファ班の五人に同行する形になり、サポートにデルタとエコーが付く事になった。現王とその妻を攫うという事なので、戦力が多めに回って来た。
第一王女夫妻にはブラボーとフォックストロットが向かい、第三王女にはチャーリーとゴルフが向かい、ホテルとインディア、ジュリエットはそれぞれの班の遊撃に回るらしい。
何でも作戦は軍事系の知識が豊富な勇者が考えたらしい、いわゆる軍オタと言う事だ。
俺も少しだけ知識はあるが、ソコまで詳しい訳じゃないので、そう言うのは餅は餅屋と言う事で作戦会議に出て、話をよく聞くだけにした。説明は単純でわかりやすく、各班の隊長は地図を頭に叩き込まれたらしい。
アルファとか面倒だから、一班とかでも良いと思うんだけど、物凄く反対されたらしい。なんでも雰囲気が欲しいとか。
本当に大丈夫かよ、確かにコードネームは名前割れが心配だからあっても良いけど。部隊名までこだわらないでも良いと思うんだよな。
ちなみに部屋でジャンプしながら回ってた勇者が「プランBはなんですか?」って聞いたら「「「あ? ねぇよそんなもん」」」と素晴らしい回答が帰ってきてた。アレは未だに有名な台詞らしい。
そして町のあちこちに、なるべく黒い服を着た勇者が配置されており、何かあった場合即座に城に乗り込めるようになっているらしいが、本当に行き当たりばったりで困る。
第二王女が城にいないのは、近隣の権力が強い貴族様の所に嫁に行ったらしいので、後でソコも抑えるとの事だ。子供は女だけで、妾とかはいないらしい。男を産んで後を継がせる考えはなく、一番最初に生まれた子供から王位継承権が高いらしい。まぁどうでもいいけど。
だから嫁に行きたくない第三王女は召喚を繰り返し、婿探しをしてた訳か。迷惑な話だ。岩本君が自由に旅ができるようになったという事は……。好みではなかったという事だ。結構な好青年だと思うんだけどな……。
月明かりしかない王都を、布で顔を隠した五十人近い勇者が音も立てず移動する。この日の為に音のしない軽装を買いそろえ、武器も極力短い物を買い揃えたらしい。
途中建物と建物の間に、黒い鎧で体中武装だらけの勇者が、物凄くでかい鉄板のような、自分の身長より大きい両手剣を背中にしょっていたのを見かけたが、多分あの漫画が原因だと思うが、声を掛けられなかったのが残念だ。
目的地に着くと、宇賀神さんがドアの鍵を細長い棒のような、工具を数本取りだして、鍵穴に突っ込み、ゆっくりと工具を回し鍵を開けた。忍者ってすげぇな、ピッキングも出来るんかよ。
そう思ってたら、手で少し待てと合図をして家の中に入って行き、体感で一分もしない内に戻って来た、この間言っていた、最初の犠牲者と言う奴だろう。
その後全員が共同住宅の中に入り、宇賀神さんが床を剥がし階段を下りて行った。その後に皆が続き、作ったと言っていた少し広い空間で最終確認をする。
俺は腰のマチェットとバールを確認して、左手の盾がしっかりと腕に固定されている事を確認した。
宇賀神さんが小声で作戦開始と言うと、先頭を小走りで細い通路を走り出し、全員がそれに続く。
しばらくして上り階段が見えるが、宇賀神さんが一人で上がり、まず先に状況を確認し、平気だと言って皆を呼ぶ。
暖炉の火を懸念していたが、談話室は使用されていなかったらしく、冷え切った空気が当たりを包んでいた。
全員が揃うと、宇賀神さんがゆっくりとドアを開け、周りを確認してから五人一組がぞろぞろと談話室から出て行き、それぞれ左右に別れて音もなく走って行った。普段こんな事していなくても、身体能力が高ければ出来るんだなと思いつつ、俺もモンムススキー達の班に付いて行った。
ランプは点いているが、夜だから芯は短く廊下は薄暗くなっており、多少安心できた。モンムススキーは廊下の角で逐一止まって少しだけ顔を出し、先の廊下を確認してから迷いなく進み、少し大き目のドアの前まで来た。
ここの先が少し広い空間になっていて、大きなドアの前に必ず二人の近衛兵が交代で立っているらしい。
勇者の一人がゆっくりと音が鳴らないように少しだけドアを開け、合図をするとクロスボウを持った勇者二人が縦に並び、薄暗い広い部屋の近衛兵の兜ごと、頭を矢で打ち抜いた。
矢を放った瞬間に残りの三人が飛び出し見張りが倒れる前に抱きかかえ、プレートアーマーを着た兵士が音もなく床に寝かされた。正直勇者舐めてたわ。
そしてアルファが現王夫妻の部屋の両隣に、デルタとエコーが隣の近衛兵詰所の扉の両隣に付いた。
映画とかゲームで見た、突入部隊の様な形で壁に張り付き一人が、近衛兵のいる両開きドアを開けると素早く全員が部屋に入って行き、そのタイミングに合わせ王夫妻の扉も開け突入する。
隣が少し騒がしいが、王と王妃は目覚める事もなく一緒のベッドで寝ている。隣の詰所とつながっているドアがあるがそれが開く事はなく、勇者達はゆっくりと二人に近づいた。
そして寝ている所に麻袋をかぶせ、紐で強固に縛って動けなくし、担ぎ上げた時に詰所側のドアが開き、全員警戒するが仲間だと気がつき安堵する。
その間に俺以外の全員が、辺りを慎重に探り、スタンプや重要書類に使えそうな物を探し出し、時間がないのでそこらへんの宝石箱の様な小箱と一緒に持ち帰る事にした。
クロスボウで仕留めた近衛兵を詰所に放り込み、大理石の床を短い詠唱で水魔法を出して血だらけの床を綺麗にしてから、空の鎧をバランス良く王様達の部屋の前に立たせ、擬態させる。どうやっているかは知らないが……。
そして芋虫のようにもがいている王と、無抵抗な王妃を抱え、元来た道を戻るが、巡回がランダムな兵士達が廊下の先からやって来たので二人が廊下の角に立ち、曲がって来た所を兜と鎧の隙間に何をしたのかわからないが刃の部分が真っ赤になっているダガーを刺し込み、確実に仕留め、その辺に放置する訳にもいかず、鎧を着せたまま運ぶことになった。
しばらく担がれている兵士を見たが、血が一滴も零れ落ちてこない。刺した瞬間に傷口を焼き、血が零れ落ちないようにしたんだと思う。焼灼止血法と似たような物か。
そして俺達はそれ以上の遭遇はなく、薄暗い廊下を通りながら談話室に戻るが、大き目の武器と鎧をフルに着込んだ勇者が三人ほどいた。多分殿だろう。
そのフル装備の勇者が小声で、さっさと行けと暖炉の方を指差し、一緒に去ろうとしない所を見ると、まだ帰って来ていない班があるらしい。とりあえず俺達は俺達の仕事をする為に暖炉に向かい、死体と拘束された王達を担いで降りる事になった。
「俺達は二番目か」
モンムススキーが呟き、椅子の足や肘掛に手足を縛りつけられている、麻袋をかぶった一組の男女が見えた。
「頼む」
そう言ってすでに帰って来ていた勇者達に王達を渡すと、俺も殿になると言ってモンムススキーは一人だけ戻って行った。
二人を預かった勇者達は、同じように椅子に縛りつける。
そしてしばらくしたら、チャーリー達がほぼ下着の男女二人を連れて来た。コレで計画では最後の組か。そう思っていたらフル装備の勇者達も戻って来て上に戻って行った。
そうして上で待機していた会田さんと、少し遅れて宇賀神さんが城の方の通路から戻って来た。
「全員死なずに集まってくれて良かったです、良いですか? 今から麻袋を外しますので驚かないで下さいね」
そうこちらの世界の共通語で言うと、椅子の後ろにいた勇者達が一斉に麻袋を外して行く、そうしたら王族達は目を見開き驚いているが、俺も驚いた。
最後に連れて来られた男がアジア顔で、半分金髪の半分黒髪の軽そうな男だった。
「こいつが勇者ですか……。いまどきプリンみたいな頭の奴なんかいないだろうに、未練がましく金髪部分を残して置くなよ。黒髪の割合からしてこっちに来て一年経ってないですね?」
「だろうねぇ」
「こいつらなんで薄着なの? あぁ、やっぱり良い……。大体の事情は察した」
「うが! うごごぐが! おごげ!」
「まぁ良いさ、まず王様の口の布を外してあげて」
会田さんがそう言うと、後ろにいた勇者が口の布を外す。
「お主等、何をしているのかわかっているのか?」
睨みを利かせ、脅すように言って来る。
「えぇわかってますよ、十二分に」
「なら放せ、今なら処刑だけで済ませてやるぞ」
「おやおや、今自分がどの様な状況なのかわかってないらしい。流石王様ですね、この様な状況でも自分の方が上だと思っているんですか? そこまで愚かなんですか?」
「貴様等! 何が目的だ!」
「まぁ最初にある程度言いましょうか、まずは我々勇者を捨て駒扱いした経緯と、我々を元の世界に戻す方法があるのかです。なので召喚が可能そうな王族をこうして無理矢理集まっていただきました」
「何を馬鹿な事を……。私がそのような事を言うと思っているのか」
王は首を振りながら、本当に言っていないように振る舞う。
「証拠はあるんですよ、後ろにいる一人が城に忍び込んで偵察していたんです。季節が一巡する少し前からね。あんな堂々と話してたら天井からでも聞こえますよ」
「っ!」
「まぁ、とりあえずその二つでも喋って貰いましょうか」
「貴様等のような異世界人は、筋力が直ぐに上がり、魔法を直ぐに覚え、季節が一つ変わる頃には強さが騎士団長クラスになる。化け物の様な奴等は利用しない手など無いだろう、なにせ貴様等はいきなり見知らぬ地に飛ばされ、頼る者がいないと目の前の我々を頼るからな、その辺は楽だったぞ」
一人の勇者が王を殴りそうになるが、会田さんが片手を前に出し、それを制した。
「じゃぁ次だ、俺等は戻れるのか?」
「……儂の先々代、爺さんの頃にはあったらしいが、その魔法を使える者の一族が完全に途絶えてしまった。そもそも還す理由はほぼなかったからな」
その言葉の後に、場の空気が一気に凍り殺気が渦巻く。あーあ、言葉は択べよな。なんでこんなのが王なのかさっぱりわからないわ。
「わかりました、なら我々は元の世界に帰るのは諦めましょう」
そう言うと王は、少し安心したように息を漏らす。
「なので我々に実権を与えて頂きましょうか。我々召喚者を優遇する法律を作っても良いですね、散々我々を捨て駒にしてきたんです。それくらいは……ねぇ?」
「何を言っておる! そうすれば実力のある貴族共が黙ってないぞ!」
「なら我々が武力で抑え込むか、お前達を裏で操るしかないだろうな、取りあえずこの内容を直筆でサインとスタンプも押してもらおうか。ユージ、正式な書類とスタンプを」
そう言うと宇賀神さんが紙とペン、スタンプと蝋を持って来た。それにしても安直なコードネームだな、宇賀神のUとGか。俺達が適当に持って来たそれっぽい物はハズレかよ――
「誰がそんな内容の文を書くか! そんな事をしたらこの国がどうなるかわかった物ではない!」
「知ってます? こういう状況で条件を提示されて、断るとどんどん悪い方に転がる場合もあるんですよ? この書類も追加で……。それに、お前達より頭の良い勇者なんかいくらでもいるんだよ、俺が裏で動いたら五年で、皆から尊敬される王にしてやれるぞ?」
そう言って紙をもう一枚増やす。手元には見せつけるように紙が数枚残っている。
「利き腕はどちらですか? そちらの手だけ解放しますよ。誰かテーブル持って来てくれ」
そう言って右手を解放して、テーブルを持ってきたら、インク壷を会田さんに向かって投げつけた。本当にこんな短絡的な行動を取る奴が王なのかよ。
「ユージ、上でお湯を沸かして油も温めて来てくれ、熱々にな。それと道具も全部持って来てくれ、乱暴な事はしたくなかったんだけどな」
インクを滴らせながら会田さんは冷たく言い放ち、宇賀神さんが素早く行動に移す。
「いやいやいや、拷問は不味いでしょう。取りあえず外傷を残さず五体満足で心を折ってから城に返さないと」
「じゃあどんな方法があるんですか? 教えてくださいよスク水さん」
止めた俺にまで怒りを向けられた。
「とりあえず王より、王妃様を辱めた方が早いんじゃないんですか? もしくは実の娘とか、そうすれば王に嫌気がさし、父親から実権を奪い、我々に手を貸す可能性も高いんじゃないですか」
「もう少し具体的にお願いします」
「拷問とか性的苦痛な物とかは嫌いなんで……。さっきの襲撃の時に羽箒をくすねて来たんですよ、取りあえず下着姿か全裸にして、顔中からありとあらゆる体液をまき散らすくらい、くすぐってみては? 伴侶がだらしなく顔中から涙や涎や鼻水を垂らす醜い顔でも見せつけてやればいいんじゃないんですか? まぁ最悪下からも粗相する可能性もありますけど。まぁこのままならどのみち数時間で垂れ流しで恥ずかしい姿をさらす事になりますけどね。プライドの高い淑女なら耐えられない恥辱だと思いますよ、最終的には『親を殺して』と言って、第一王女が女王になる可能性も……」
「……良いでしょう、ではとりあえず女性陣の衣類を引き裂いて羽箒で色々攻めましょうか、性器への接触は禁止します」
そう言った瞬間、女性陣の顔が引きつり絶望に変わる。
「口の布も外してあげてください」
「パパ! お願いこの人達の言う事を聞いて!」
「あなた、お願いよこのままだと私達は辱めを受けるわ」
「殺してやる! こんな奴等が勇者だったなんて私は認めない! ジャスティスも縛られてないで助けてよ! 勇者なんでしょ!」
第三王女の言葉にその場にいた勇者全員が吹き出し、笑いをこらえるように肩を震わせている。かなり前に流行ったキラキラネームと言う奴か、それが今大人になってこの世界にいると……。こんな感じに育つのか……、よく見たら勇者全員がプリン頭を憐れむような目で見ている。
「その勇者の布も外してやってくれ」
そうして布が外れた。
「テメェら! ふざけんじゃねぇよ! 俺の何がわりぃんだよ! 殺すぞテメェら! レルスに手ぇ出してみろ! 絶対に殺してやんぞ!」
「大声で叫べば我々が怯むとでも? 誰か二人とも静かにさせてくれ、反響してうるさくて仕方がない」
そう言うと近くにいた勇者が椅子ごと腹を蹴り、倒れたところで顔面を思い切り踏みつけ、ジャスティスの意識を刈り取った。レルスが叫んでいるが、王族に手を出す訳にはいかないので、無理矢理布を口の中に突っ込み布で口をふさいだ。そして服を引き裂く準備に入る。
多分『正義』と書いて『じゃすてぃす』って読み仮名なんだろうな。まぁ良いや。
そう思いつつ、俺は既に半裸だったレルスと言われた第三王女を羽箒で臍の辺りや、首や胸部当たりをくすぐり始めると、塞がれた口からぐぐもった声を漏らし、白目を剥き出しビクビク痙攣し始め、涙と鼻水を流し始める。
口が塞がれて無ければ多分涎だったんだろうな。にしても酷い顔だな――
「止めろ! 止めてくれ! 子供達に手を出すな!」
「なら奥さんに手を出しましょうか」
「止めろ! 妻にも手を出すな!」
「子供にも手を出すな、妻にも手を出すな……随分勝手な王様ですね、書類一枚追加で。良いですか? さっきも言いましたが早く書かないと状況は悪くなる一方ですよ?」
そう言って、会田さんが冷たい目で王妃の寝間着をナイフで切り裂き、羽箒でくすぐっていく。
王妃は大声で笑い出し大粒の涙を流すが、それでも羽箒が止まらず、経験した事の無い笑いで顔が引きつり、涎を垂らしながら痙攣を起こし始める。
「これじゃしばらく休憩ですね」
そう言いながら第一王女の方を見ると、怯えた様に体を震わせた。
「いや、止めて、パパ、お願いよ、この人達の言う事を聞いて!」
そう言っているが、気にせずまたナイフで寝間着を切り裂き、失神するまで羽箒で攻められ続けられ、取りあえずは一巡した事になる。
その間、旦那が必死に何かを騒いでいたが、婿で召喚の事とかは何も知らないと思うので、嫁の痴態を見せつけ王に進言させる事にしたが、王は聞く耳を持たず頑なにこちらの条件を突っぱねている。
「さて、奥さんや娘達の痴態を見てもまだ同じような事が言えますか?」
「わしが屈すると思うか?」
「スク水さん、水を掛けて覚醒させて下さい、勇者を含めた全員です」
そう言われたので【水】を掛けて覚醒させるが、薄い布に水が掛かり、肌に布が張り付きうっすらと色々見えているが、気にせず四人とも覚醒させる。
「いやー、濡れて色々透けていますが、二巡目行きますか」
そう言うと三人が恥ずかしさで身を悶えさせ、うっすらと涙を浮かせるが関係無くくすぐり続ける。
二巡目には太ももや脇腹、足の裏が追加され、第一王女が粗相をして子供のように泣くが、その辺りで王様を睨み始め、全員が二巡目を終わらせた頃には妻や娘全員が王を睨んでいる。
「パパがさっさと従わないからよ!」
第一王女がそう言っている。いや、無差別に召喚してた妹を止めなかったお前もお前で最悪だからな?
そしてレルス担当の俺は、同じようにくすぐり、モガモガ呻きながら首を振って逃れようとするが無駄な行為だ。程良くくすぐっていたら、プリン勇者が行き成り縄を引きちぎり、俺に襲い掛かって来た。
「てめぇ! ぶっ殺してやる!」
勇者がそんな縄くらい、簡単に轢き千切れる事くらい予測済みなんだよな。
プリン頭は大降りで殴りかかって来たので、左手の盾の持ち手を強く握り、右手で左手首を思い切り握り、右手と左手を同時に押し出す様にして、大振りのパンチを避けながらカウンター気味にシールドバッシュを決め、プリン頭は倒れて動かなくなった。
だから目の前で堂々とくすぐってたんだよ、プリン頭が! テレフォンパンチなんか簡単に避けられるってわからないのか? もしかして召喚されてからずっと城の中で生活してたのか?
その後、首から下全部を埋めるようにして拘束した。
「モガー! モガガガガ!」
『いやー、ジャスティスー』って所かな。
「無詠唱……貴様! 魔族じゃな!」
「えぇ、ひょんな事から勇者達と知り合いになり、微力ながら力を貸す事になりました。魔族と人族は仲が良いと言う事を知らせる為らしいですよ。まぁ手を貸した本当の理由は、人族の教会の教育がクソ気に食わないからなんですけどね。魔族にも良い奴がいるのに、はなから悪と決めつける教育が気に入らないんですよ。俺の故郷じゃ、魔族とか人族とか関係なく生活してますよ? それこそ魔族と人族の仲が恋にまで発展していますし。いやー、無垢な子供達から魔族と言うだけで、石を投げられたのには心が痛みましたよ」
領地とか言うと、面倒だから故郷って事にしておこう。
「ふざけた事をぬかすな! 人族より劣る魔族が何を根拠に!」
「その人族至上主義的な考えが気に食わないんですよ。魔族のどこが人族より劣ってるんですか? 知能ですか? 自分の故郷は小さい村でしたが、きちんと教育を受け、文字の読み書きや計算も教わります。知り合いの貴族は立派に領地を運営し、綺麗な町作りをしてますよ。それとも戦力ですか? 人族はすべてにおいて平均的だと思いますが、魔族はその特性を生かした戦い方ができ、万能ではなく特化と考えれば良いのではないでしょうか? エルフ族は弓に優れ、水生系魔族は海戦に優れ、ハーピー族は偵察能力に優れ、獣人族は筋力や速さに優れています。自分の様に多少頭の良い者もいますけどね」
こめかみの辺りをトントンと叩きながら、少し挑発気味に言う。
「ぬう……」
「さて、こうしてくすぐりと言うお仕置きで済ませていますが、生殺与奪の権利はこちらにあるんですよ……、それを踏まえて良くお考えください? もしここにいる全員が死んだら、誰が王になるのかを……。ここにはいない第二王女様になりますね。姉が王になるから私はいいやと、王になる為の教育を受けていましたか? その婿になった男が、いきなり王女様の婿と言う事になり、王様気分で馬鹿な考えを起こす可能性もありますよ? いえ、こちらの貴族の派閥とかは全く知らないので、どうなるのかは全く想像できませんけどね」
「それだけは駄目だ!」
んー、どういう力関係があるのかはわからないが嫁に行かせて、多少言う事を聞かせてる感じなのだろうか?
「さて、レルスさん、容姿が醜い貴族の所に嫁に行きたくないから、好みの男が出てくるまで召喚を繰り返し、無駄に被害者を増やした事に関してですが……。なんでも魔法を抑制する魔法陣があるらしいじゃないですか……」
「……」
神情報だけど……。目が泳いでいるし、無言なので多分有るんだろう。
「まぁ続けますね、魔法を封じられ、この足元に転がってる勇者を殺した場合どうなるでしょうか? 『多少傷物でも平気だよ』って言ってくれる優しい貴族だと良いですね」
俺は優しく諭すように笑顔で言い、腰のマチェットを抜いて勇者の首元に当てる。
「モガー、モガガガモガ!」
「ジャスティスさんを殺されたくなかったら、君のお父さんを説得してもらえるかな? 今から口の布を外してあげるけど、騒いでも余計な事を話しても、首がその辺を転がると思ってね」
物凄く優しく言うと、ブンブンと必死に首を縦に振り、俺は会田さんを見て、首を縦に振ったので口の布を外してやった。
それからレルスは泣きながら必死に懇願し、父親を説得するが、王は一向に首を縦に振らなかった。
「娘に一生恨まれて下さい、それと食事に毒が混入しないと良いですね」
俺は魔法でプリン頭を掘り起こして、どこかに幽閉でもして下さいと小声でレルスに聞こえないように言い、勇者の一人にプリン頭を任せた。
レルスは鬼のような形相で王を睨んでいる。まぁ、あの場で日本人を殺せなかった俺もまだまだ甘いな。そう思いつつ残りは会田さんに任せようか。
そうして俺は、プリン頭が座っていた椅子に座り、俺のやり方を見て方針を変えたのか、次々に家族が王を敵にするように誘導していく。
「さて、家族全員が敵になった気分はどうですか? いっその事死んで、娘に王位を譲った方が良いんじゃないんですかね? 私が同じ立場なら耐えられないですよ、いやーすごいですね」
項垂れて涙目になっている王を更に挑発する。少し見学していたが、攻め方が俺よりえぐい。シミュレーションゲームをやっているし、教師だったから学もあるんだろうが、交渉材料が豊富過ぎる。何枚手札を持っているのかわからない。
「殺してくれ、娘や妻に殺されるよりマシだ」
「その言葉が聞きたかった!」
どこの闇医者だよ、まぁあいつは「それを聞きたかった」だけど。
「けどあんたには利用価値がある。とりあえずこの文章を書いてくれ、それから王を続けるか、王位を娘に譲り、娘に投獄される形を取って下さい。後日伺いますので」
相棒のあの人みたいな追い詰め方だな。
「そうそう、しっかりとサインをして。蝋にスタンプをしっかり押して、封蝋にもお願いしますね」
会田さんは、何を書かせたのかは知らないが物凄く笑顔だ。
「じゃあ予定通りそろそろ朝の鐘が鳴るから、鳴る前に全員にこの布切れ着せて、麻袋かぶって貰って城門前に放り出して来て。運が良ければ麻袋を取って貰えて君達だって気がついてもらえるから」
そう言うと勇者達が麻袋をかぶせはじめる。
「ジャスティスは! ジャスティスはどうなるの!」
そう騒ぎ出した。
「大丈夫です。殺していませんから、ただ我々の監視下に置いて幽閉させてもらいますので」
そう言った瞬間麻袋をかぶせられて、半裸になった女性達にボロ布を着せてまた縛り、誰かが上に運んでから馬車で運んで行った。
「いやーとりあえず一区切りついたねー」
「俺、いる意味あまりなかったですよね? 魔王の証も必要なかったですし」
「いやいや、何かあったら出してもらおうと思たけど、たまたま必要なかっただけだよ、教会関係者を説得する時には絶対出してもらうからさ」
「……帰っていいですか?」
「あー、うん、その……保険と言う事で、都合の良い様に使ってしまい申し訳ありませんでした」
「はい、次はかなり怒りますので――」
「動きがあったら、また手紙を店まで渡しに行きますので、ここまで転移してくれればありがたく思います。この建物には、誰かしら勇者を滞在させておきますので、話は通しておきます。誰かカームさんの荷物を全部取って来てくれ」
そう言うと宇賀神さんが急いで階段を上って行った。
「わかりました、ここを転移先としますので、荷物等は置かないようにして下さい」
「はい、今回はありがとうございました」
心なしか、会田さんの言葉使いが丁寧になっている。
「いえいえ、俺も馬鹿見たく優しいので、有る程度の事は許せますが。散々俺の事を利用して、俺に一切旨みがない場合は縁を切らせてもらいます」
「はは、できればこのまま友好な関係を続けたいよ」
「俺もですよ」
なんか少し気まずくなったので、階段を上り、元々いた家主が飲んでいたお茶を淹れて飲んで、時間を潰す事になった。
「うわ、なんか良い茶葉使ってやがる、これでも一応緊急用抜け道の出口って事か、それなりの給料もらってるんだな」
「そうですね、大抵王家の墓とかに繋がってて、墓守が管理人ってのを良く見ましたが、こんな場所だと逆に危ない気がしますよ」
「夜中だったから気がつかなかったと思うけど、一応正門から一番近い下級区のボロ共同住宅なんだよねここ。だからある意味危険は少ないんだよ、下級区に抜け道なんか用意するかい? ちなみに入居者がいないのになんでやっていけるんだろうって事で探りを入れたら当たりって訳さ」
そんな会話をしていたら、宇賀神さんが俺のリュックとスコップを持って来てくれたので帰る事にする。
「じゃあ、また何かあったら手紙で知らせるから」
「わかりました」
「たまに人魚に会いに行きますので」
「……程々に、逆半魚人が出ますので」
そう言ったら、上の前歯で下唇を噛んで露骨に嫌な顔をしている。本当に嫌だったんだな。
俺は転移魔法陣を起動して故郷に帰る事にした。
一瞬でベリルへ帰ると、丁度日の出だったので、静かに家の中に入り、少し起きるのが遅い嫁達や子供達に朝食を用意して、待つことにした。
物音に気がついたのか、スズランがメリケンサックを指にはめ、ラッテがナイフを持ってキッチンに急に現れた。
「あ、ただいま」
そう言ったら二人は、無言で走って来て抱き付いて来た。
スズランは力いっぱい抱きしめて来た。
「うわーん、生きてて良かったー」
ラッテは泣きながら抱き付いて来た。俺は二人の頭を撫でながら、話しかける。
「珍しく早起きだねスズラン」
「物音がしたからってラッテに起されて。泥棒かと思って、それで急いで武器を持って……」
スズランの目にも少し涙が浮かんでいる。
「あの時は話が急で悪かったよ」
「もう平気だよ、だってカーム君が帰って来てくれたんだから」
「はは、俺が死ぬと思ったのか? 仲間は魔王を倒す事が出来る勇者だぞ? それと怖いからナイフを置こうか」
さっきからナイフを握りっぱなしで、抱き付いて来るから気が気じゃない。
その後大声で目が醒めたのか、子供達も起き出して来て、俺に抱き付いて来た。
「お父さんお帰り」「パパお帰り」
あんな事があって心が少し荒んでいたが、そんな感情は吹き飛び、今の俺は幸せだと思う。




