第96話 牛を買った時の事
適度に続けたいです。
相変わらず不定期です。
サブタイトル詐欺です。
20150722に1000万PV達成しました、これも皆様のおかげです、ありがとうございます。
アクアマリンで馬鹿の手先がクマに襲われてから七日ほど経った。朝にはコランダムに着き、各自好きな店で朝食を取らせ、しばらくしてから荷卸しを部下に任せた。私は、早速コーヒーを買いたがっているナマズヒゲ商人がいる宿屋に向かい、物品は倉庫に搬入中と言う事を伝え、ついでにアルバンが亡くなった事も伝えた。
その時の顔は少し驚いていたが、特に動揺は見せなかった。
「詳しくは部下のお二人からお聞きください。では、私は倉庫の方でお待ちしておりますので、馬車を回してください」
部下に頼んでも良かったが、死んだ事を言った時の反応は 一応直に見ておいて、カームさんに報告しても良いと思ったからだ。
それから、少しして馬車が倉庫前に着いたので、コーヒーを乗せ、残った部下二人が自分達の荷物を詰め込んでいる。
そして金銭の話になる。
「改めて確認しますね。先方が売りたがっている値段に、島への往復代に必要経費。この辺りに誤差はほぼありませんでした。しいて言うなら復路の食事代が一名分必要なくなったと言う事ですが、こちらは一日三食分を六日で計十八食分だけ引かせていただきます……それとアルバンさんのご冥福をお祈りします」
あまり知らない奴だが、一応祈りの形だけは整えて置く。そして提示した金額を受け取り、そこから十八食分の金額を返し、私はお決まりの台詞を言う。
「また何か有りましたら我が商会を御利用下さい」
そう言って頭を下げ、ナマズヒゲは馬車に乗り門の方へ走って行った。
「やれやれ、アイツもどこかのお偉いさんに言われてついでに三人を同行させただけだったか。まぁ、コーヒー豆たった百袋でこの儲けとは……本当に美味しいですね、カームさんには感謝しなければ」
□
俺の前には島民全員が集まっている。
「そろそろ商人のニルスさんが港に戻って居る頃です、コレで多少纏まったお金が島に入りますので、コランダムから来て頂いた職人の方々に給金を払ったあと、残ったお金で念願の牛を買おうと思っています。もちろん繁殖できるように雄と雌の番です。ですが元奴隷だった皆さんにはまだ給料を払う余裕もなければ、島でお金を使う場所もありませんので、しばらくは我慢して下さい」
「それは構いませんけど……」
代表として一人が返事をする。
「それだけでは不満も高まりますので、他の必要な物も買おうと思っています。皆さん何が欲しいですか? 給金の代わりに物品で払います」
「「酒ぇ!!!」」
数名の男が即答した。
速いな、速すぎて少しびっくりしたぞ。
「そろそろ麦が収穫できますので、備蓄を少し多く残して、残りは酒に出来るように別けておきましょう。なので酒は前程は多くはないですが買ってきます。他には?」
そう言うと周りがざわつき始め、色々意見が飛び交う。そして最終的には最重要な物をメモの上の方に書き、必要の無い物は下の方に書いた。
「ってな訳でお金が余ったら、このメモの上の方から買う事にします」
「異議なしっす」
元気な男が皆を代表して同意した。むしろ、酒は糖分があれば酒になるから、多少は椰子の実から作っているけど、たまには島にない酒も飲みたいんだろうな。
「船長、少し質問が」
「なんでしょうか?」
「前は専門の業者を頼んで、家畜を運んで貰いましたが、出費を抑えたいので、家畜の件をどうにかしてほしいんですけど、どうにかなりませんかね?」
「……一応羊を積んでいる船は多少ありますけど、大型の家畜となると扱いも難しくなりますし、ストレスが増えると乳を出し難くなるのではなかったんでしたっけ?」
「あ……」
「カーム、子供産む前の乳出さねぇ牛連れて来て、こっちでのんびりさせれば良いんだよ。多少の事は気にすんな、俺が港に行ってやる」
榎本さんがそう言ってくれたので甘えさせてもらおう、あとは船の問題だな。
「大量の飼料と、排泄物の処理。大丈夫ですかね? 船長」
俺は船長の方を向きながら、首を傾ける。
「……え、えぇ。甲板に繋いで藁を敷き、染み込ませて速攻で洗い流せば多分……。島に戻ってきて、カームさんが魔法で掃除を手伝ってくれるなら」
「それは大丈夫です。それと小舟に大人十人乗せて、ロープで下ろせます?」
「は? はぁ、一応できますが」
「牛の重さは大体大人十人分だから、搬入、搬出は平気ですね」
「え゛!?」
「いやーさすがは腕っぷしが強い船乗りだ、お願いしますね」
俺は超笑顔で船長の肩を叩き、部下の一人が、カームさんえげつねぇっすとか言っていたが、なるべくかかる金は少ない方が良いからな。
本当は、前に勇者を運んで来た船長に頼んで、胃に負荷を掛ける程度の嫌がらせをしたかったんだけど、諦めよう。
主にテーブルの対面に座らせて、お茶を出してニコニコしながらお茶を飲みつつ近況を話し合うだけなんだけどね。悪いと思っているなら多分胃に来るだろうな。
「では、準備が整ったら出航して下さい、そしたらコランダムに向かい、色々購入しておきますので、着いたら荷を乗せるだけで良いようにしておきます。ですのでのんびり準備して出向して下さい。では、今日も気をつけて仕事しましょう。むしろコーヒーがないので、今日は少し多めにコーヒーの収穫に行ってもらいましょうか」
そう言っていつもより多くコーヒーの収穫に向かわせ、その日の夕方に俺はコランダムに転移し、ニルスさんの所に向かった。
「どうもー」
いつものように倉庫に入って、近くにいる作業員に声をかけ。今日の朝に戻って来て、昼にはコーヒーを頼んだ商人が町を出て行ったと聞いたので、ニルスさんの所に向かう。話では骨休め中らしい。
俺はドアをノックし、返事があったので中に入る事にした。
「お疲れ様です、この間はありがとうございました。今日辺りには戻ってると思ったので伺わせていただきました」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。おかげでコーヒーだけでかなり儲かりましたよ」
ニルスさんは疲れた顔をしているが、無理矢理笑顔を作ってくれた。
「本当にお疲れだと思いますが集金に来ました。そしてそのお金で買い付けに」
「ははは……、転移魔法を教えて欲しいくらい便利ですね。少し愚痴が漏れましたがお許しを」
船での移動はかなり精神的に疲れるからな。帰って来て早々俺が訪ねて来たらこうなるか。別に初対面でもないし、気にするような愚痴でもないので聞き流そう。
そう思っていると、ニルスさんは書類と売上を持って来てテーブルに乗せた。
「こちらが今回取引した商人から頂いたお金です。書類を見てもらえればわかりますが、必要経費に手間賃を上乗せした額がこちらになり、一袋の値段がこちらになります。そしてカームさんが提示した一袋の値段がこちらなので、差額がこちらになり、儲けの一割上乗せと言う事でしたので、最終的な百袋の売り上げはこちらになります」
んー、それでも儲けが出ているんだろうな。書類の数字を見てすごい笑顔になっている。
「そうですね、一割ですから計算も楽ですね。まぁ、物凄い笑顔なのでかなり儲けているみたいですが、どのくらい吹っ掛けたのかは聞かないようにします。こちらは売れれば良いので。今後もよろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ」
「それでこれが今回買おうと思っている物です、この町から呼んだ職人に払う給金を抜いた額から、このメモの物を用意してほしいんですよ」
そう言ってメモをニルスさんに渡す。
「牛ですか、また専用の業者を呼んで運ぶのですか?」
「いえ、今回は少しでもお金が惜しいのでこちらで運びます。大型の家畜を運ぶ知識は低いですが、なんとか運びます。業者は任せますよ、この前勇者も一緒に運んで来た船を指定できないのが残念ですが」
「何を考えているかわかりませんが、すごい悪い笑顔ですね」
「この間の復讐として、ご苦労様ですと言いながら、笑顔でお茶を出そうと思っていただけですよ、それだけです。なにも悪い事をしていない船長や船員に手を出す事なんかしませんよ。ただ笑顔で大人の対応をするだけです。あと勇者と何があったかの世間話とかですね。勇者の勘違いで襲われたけど和解して、偶然町に行く予定があったから送り届けたんですけどね。とか」
「はは、それは胃が痛くなりますね」
「ささやかな復讐ですよ」
そしてメモを見ながらある程度の交渉に入り、メモの下の方は容赦なく切り捨てる事にした。
「あ、忘れてました。私にコーヒーを頼んで来た商人ですが、アルバンが死んだことを言っても、特に動揺する様子はありませんでしたね。本当になにも知らされずに同行させられただけみたいです」
「そうですか、別にどうでもいいです。あまりにも多いならこの町の店に織田さんを連れて来て、そこで学ばせるだけですよ」
その後は雑談になり、本当に少しコーヒーの味が変わったとか、島で作った良い香りのする石鹸を持って帰られたとかの話題になり、石鹸に食いつかれた。
「その石鹸の話を少し詳しくお願いします」
ニルスさんの目が獲物を狩る肉食獣のように鋭くなり、声も少し低くなる。
「こっちにないんですか?」
「有るには有りますが、カームさんの島のように秘匿され、技術が外に出ません、しかも個人で作ってるので一人勝ち状態です」
「なら高いですよ、出来上がった物を売っても良いですが、まだ人手が足りませんし、島内需要分しか作っていません。本格的に作るとなると、こっちの空家を借りて、人を雇って細々と生産するしかないですね」
「私がやりましょう。売り上げの五分でどうでしょう?」
即、ビジネスの話に持って来るな。さすが商人って所か。
「需要は高いんですよね? 一割」
「上流階級に需要が高すぎです、正直高級品ですよ。精油を作るのにも手間もかかります。八分」
「精油をわけてもらえるなら、それでも良いですよ。それと島が発展した場合。こっちでも作って売りますよ? それでよければですが。季節が五巡くらいすれば島に人が増えますかね?」
「むう……」
ニルスさんは本気で悩んでいる。
「冗談です、お金にはそこまで固執はしませんが、今後色々便宜を図ってくれれば五分でも構いません」
「貴方って人は……本当叱りたくなるくらい甘いですね。折角面白そうな駆け引きが出来ると思ったんですけど」
「面倒事は避けたいので。本当は故郷でのんびり暮らしていたかったんですよ、それなのにいきなり魔王になっちゃいまして……」
俺は、眉間を押さえながら、ため息を吐きながら首を振る。
「ってな訳で、説明は後日。物を見てからと言う事でいいですかね?」
眉間を押さえるのを止め、いつもの様に続ける。
「それでお願いします、その時に正式な書類を。それとなるべく早めに品物は用意しておきます」
そう言って今日は別れ、島に戻った
◇
船長達が試験的にハーピー族を見張りとして一人だけ話し合って連れてコランダムに向かったので、五日後には榎本さんを連れて行くと言う約束をして、五日後の夕方にコランダムに向かった。
「あ、船がありましたね、行きましょう」
「おう、悪い牛なら速攻で下ろすからな」
「わかってますよ、榎本さんの方が詳しいんですから、全部任せます」
そう言って船に向かい、みんなに挨拶をする。
「お疲れ様です、ハーピー族はどうでしたか?」
「えぇ、見張りとしては優秀ですが、本当に見張りだけですね。帆先が全く見えない位置から、海路を通る商船を見つけてくれたので、海賊だった場合の対処は早く済みそうです」
「なら、空から物を落として、相手の船に痛手を負わせられるような物を、織田さんと考えますか」
「それと、ニルスさんの職員の立会いの下、頼まれた物は搬入済みですので、この書類を持ってお金を払いに行くだけです」
船長は、懐から紙を取り出し、俺に渡してくる。
「おう、そんな事より牛だ牛! はやく見せろ」
「あぁ、そうでしたね。こちらですエノモトさん」
そう言って船長は、船尾に繋いである牛へ榎本さんを案内した。
「んー、まぁ若いから期待は出来るな、可もなく不可もなくだな。それが二組。上々だ。んじゃ俺はこいつ等の面倒を見れば良いんだろ。帰ったら温泉連れて行けよな」
「わかりました、それと海沿いの温泉の家と、疎水作りを、なるべく早めにって話ですよね」
「わかってるじゃねぇか。それで大満足だよ」
そう言って、牛に話しかけたり、撫でたりして落ち着かせている。
「助かりました、ここに来て『この牛じゃ駄目だ!』とか言われたら……」
船長は胸を撫で下ろし、安堵している。
「乗せるのに苦労したんですか?」
「えぇ、物凄く」
「申し訳ありませんでした、ではよろしくお願いします」
「ンモーッ!」
牛の鳴き声で、微妙な空気が甲板に漂い、俺は逃げるようにニルスさんの所に向かった。
「お疲れ様でーす」
このやり取りはもう当たり前の様になっているので周りの職人も気軽に声を掛けてくる。
「俺、この間初めてココアって奴を飲んだんですけど、ありゃ美味いっすね、土産として買って帰ったら子供が喜んでくれましたよ」
「それは良かったです」
「嫁には『砂糖が!』とか言われちゃいましたけどね」
「はは、入れないと苦いですからね、んじゃ失礼します」
そう言ってニルスさんの待つ部屋に向かった。
「では、早速で申し訳ありませんが仕事の話をしましょう」
なんかすごい気迫だ。しかも書類は既に用意してあり、サインをするだけになっていた。それだけ金になるって事だよな。五分じゃ安すぎたか?
「これが物になります、ミントにラベンダー、カモミールです。バラは島にないので、バラの香油は作れませんでしたが、基本ある程度は出来ると思います」
ニスルさんは、ほう、と呟きながら香りを嗅いでいる。
「使ってみても?」
「えぇ、構いませんよ」
そう言うと、職員に声をかけ、裏手の井戸で男共や、秘書らしき女性全員で手を洗っている。
「おー、いい匂いだな」
「汚れも普通の石鹸と同じでよく落ちるな」
「こいつはスースーしていい感じだ」
そんな声が色々な所から聞こえてくる。
「ニルスさん、でもコレって高級品ですよね? どうしたんですか?」
「そこにいるカームさんの手作りだ。作り方を聞いて、新しい事業を立ち上げるつもりだ」
ニルスさんがそう言うと、全員めんどくさそうな眼を向けて来る。そんな目で俺を見ないでくれよ。
そして、もう一度中に案内され、一応人払いを済ませてから説明を開始する。
「簡単ですよ、一度作った石鹸を削って、よい香りのする草花のお茶を濃いめに煎れて、削った石鹸にお茶にしたのと同じポプリを軽く挽いて、精油と挽いたポプリを石鹸に入れて混ぜて、蜂蜜を入れて混ぜ、お茶を少しずつ入れて耳たぶくらいの柔らかさになったら、型に入れて日陰で乾燥させます。
詳しいレシピではありませんが、大体のレシピです。必要ないなら燃やしてください。それと確実な配合ではありませんので、日夜研究して下さいね」
「わかりました、ではこちらにサインを」
一応信頼はしているけど、契約書系はしっかりと数回読んでからサインする。
「はい、確かに」
「成功するといいですね」
「独占してる人に刺されなければいいのですが……」
「いままで刺されそうになった事は?」
「昔に少々ありました」
「……じゃぁ自分は失礼します。お気を付けて」
俺は、深く聞く事はしなかった。ニルスさん、若い頃は少し無茶してたんだなぁ……。
「ははは、死なない事を祈っててください」
「なら護衛を増やして下さいよ、俺の島に最初に来た冒険者はどうしたんですか?」
「あれは、偶然コランダムに行きたいと言う事なので、格安で雇っただけです」
「あぁ……。なら気をつけて下さいね」
「わかってますよ、そちらも頑張ってくださいね、何か有ればマスターに手紙を渡しておきますので」
「わかりました、では失礼します」
そう言って俺は島に戻った。コレでバターやチーズが作れるな。
カームが嫌い=作者が嫌いです。
なるべくならこういうやり取りはしたくは無いですね。あまりにも内容が薄かったので肉付けした結果がこれです。
サブタイトル詐欺なので牛が殆ど出てきませんでした。




