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ミーナちゃんの冒険  作者: paiちゃん
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M-008 勘を超えるなにか

 歩けども歩けども、同じよう風景が続いている。

 それでも、遠くに見えるアクトラス山脈の峯々の輪郭が、1日ごとに明確になってきた。

 

 「大きな森だな。あれからずっと続いているぞ」

 「森と言うより、密林に近い。あまり接近するのは感心できないな」


 ヴォルテンさんとリードさんの会話だけが、小さく私達に届く。

 私とキャシーさんは疲れが溜まっているせいで、日中の口数は少ない。話をするのは夕食後のお茶の一時ぐらいだ。

 テーバイの堤防から歩き出してから20日は経っているような気がする。

 1日ゆっくりと休みたい気もするけど、いつ終るか分からない旅である以上、先に進むしかないようだ。


 「ヴォルテン、オアシスが見えるぞ!」

 「本当か? あれか、確かにオアシスだな」


 先を歩く2人の会話に私達は顔を見合わせた。こんな荒地にオアシスがあるなんて!

 10分ほど歩くと、私達の目にもオアシスが見えてきた。

 大きな泉とそれを囲むような潅木の林がオアシスの正体だ。


 「武器を取れ。何がいるか分からないぞ」


 リードさんが槍の穂先のカバーを外して私達に告げた。

 ヴォルテンさんも同じように杖代わりの槍の穂先のカバーを外した。私は背中のクロスボウを両手に持って、ケースからボルトを1本取り出す。キャシーさんはベルトに深く差し込んだ魔道師の杖を少し引き抜いて、いつでも取り出せるようにしている。


 オアシスに近付くにつれ、私のうなじの毛が逆立つような感触が強くなる。


 「リードさん、やはり何かいますよ!」

 「お前もか! 俺もさっきから、嫌な予感がしてならない」


 「いるって事だな。だとしたら、何だ?」

 「分からん。だが、不用意に近付かず、見通しがいい場所から近付く方が無難だな」


 潅木の林を避けて、大きく荒地の方に迂回しながら進んでいく。ヴォルテンさんとリードさんが前方に注意を集中している。私達は周囲と後ろを監視しながら2人の後を歩く。


 「いたぞ! あれだな」

 「スラバなのか?」


 スラバは双頭の大蛇だ。少なくとも青のレベルが欲しいと言われている。複眼を持った方の牙には強い毒がある。

 それに、スラバの頭は斬り落としても再び生えてくるのだ。魔物のような身体機能だが、魔物ではない。


 「あれはシバレイスです。双頭ではありませんが、動きは素早いそうです」


 キャシーさんが大蛇を見て教えてくれた。

 

 「毒はありませんが、遊牧民が知らずに泉に近付いて命を落とす事があると聞いた事があります」

 「なら、狩る方が良いだろうな。ミーナ、クロスボウで頭を射抜け。それを合図に俺とヴォルテンで強襲する」


 リードさんの言葉に頷くと、クロスボウの弦を引き絞りボルトをセットする。お婆ちゃんの形見のクロスボウは滑車が付いているのが特徴だ。かなりキツイ弦らしいのだが簡単に引く事ができる。


 荒地の僅かな起伏を利用して少しずつシバレイスに近付いていく。

 私の胴位の太さがあるし、全長は30D(9m)を超えているんじゃないかな。頭だって、水汲みに使うオケぐらいの大きさがある。あれなら外す事は無いだろう。


 100D(30m)ほどの場所まで近付くと、膝撃ちの姿勢でクロスボウを構える。後を振り返るとヴォルテンさんが槍を持って私を見ていた。準備は出来てるみたい。


 バシュ!

 甲高い弦の音がして、シバレイスの頭にボルトが深く突き刺さった。

 私の左右から、ヴォルテンさんとリードさんがシバレイスに向かって疾走する。

 走る力を利用してシバレイスの胴体に槍を突き刺すと素早く後ろに下がって剣を抜いた。

 2手に分かれてシバレイスの隙をうかがっているようだ。

 私の前に突然キャシーさんが現れると、シバレイスに【メル】を放つ。

 火炎弾がシバレイスの頭に当って炎が頭を包んだ時、ヴォルテンさん達が素早く駆け寄って胴体と首に剣を振るった。


 ドサリ!

 シバレイスの頭が落ちる。

 胴体はバタバタと痙攣しているが、直ぐにそれは収まった。

 ヴォルテンさんの剣は私と同じグルカだけど、凄い切れ味だ。私のグルカはお婆ちゃんの形見だけど、やはりあんなに斬れるのだろうか?


 「終ったぞ。ミーナ、どうだ、まだ危険を感じるか?」

 「さっき感じた不安はありません。だいじょうぶです」


 私の言葉聞いてキャシーさんはホッとした表情を見せた。

 リードさんがシバレイスを解体している。直ぐ傍ではヴォルテンさんが穴を掘っていた。たぶん肉を取り去った残りを埋めるのだろう。

 彫り終ると雑木林に向かっていく。たぶん焚き木を取るのだろう。

 

 「さて、今夜はここに野宿だ。幸いも泉の水量が豊富だから、水筒に水を汲めるぞ。今夜はゆっくりとお茶が楽しめるな」

 

 私達にそんな事を言いながら、ヴォルテンさんが抱えてきた焚き木の枝にシバレイスの肉を刺して、焚き火の傍に並べた。

 キャシーさんがポットに水を入れると焚き火の傍に置く。

 そんな所に、焚き木の束を抱えてヴォルテンさんが戻ってくる。

 いつもより大きな焚き火だ。

 そんな焚き火の傍に短幕用の布を敷き、その上に毛皮敷いて私達は腰を下ろす。キャシーさんが作った【カチート】が私達の回りに障壁を作っているから、この中でなら安心して夜を迎えられる。


 「そら、焼けたぞ!」


 リードさんが配ってくれたシバレイスの肉は、カルキュルのような鳥に近い味がした。塩味だけの焼肉だが、焼き立てはやはり美味しい。

 ヴォルテンさんが袋からシダムの実を1個ずつ渡してくれた。酸味が強い果実は、肉に良く合う。


 「ヴォルテン、まだまだ先なのか?」

 「まだ半分も来ていない。だが、後数日で山裾に入りそうだな」


 ヴォルテンさんは地図に、このオアシスの位置を落としていた。

 次に利用する事も考えてるんだろうな。

 それが終ると、パイプを2人で咥えている。先が長いからセーブしているみたいで、ちょっと気の毒になる。私達はそんな2人を眺めながらのんびりとお茶を飲んだ。


 お茶を終えると、汲んでおいた泉の水で小麦粉をこねてパンを作る。

 パン種がないから平べったいパンになるけど、ちゃんと焼いて魔法の袋に入れておけば10日は持つ。

 焚き火からヴォルテンさん達をどかして、キャシーさんと鍋の裏を使ってパンを焼いた。

 

 次ぎの日、朝食を終えると水筒の水を全て交換すると私達は再び歩き出す。

 だいぶアクトラス山脈の山が近くなったように思える。

 

 たまに森の奥で何かが私達を見ているようだ。

 私達を襲わなければそれでいい。そのために森から離れた場所を歩いているのだから。

 荒地では、ラッピナに似た小さな獣をたまに見かける。ラッピナとは頭の両側の角の大きさが違うんだけど、キャシーさんもその名前は知らないようだ。

 その獣を狙ってガトルの群れが姿を現す事もある。数頭群れなら特に問題はない。襲ってきてもリードさん達が瞬殺してしまうだろう。私だってあの有名なグルカを持っているんだから、1頭ぐらいは何とかなると思う。


 数日が過ぎると、荒地に緑が混じり始める。

 どうやら山裾に入って来たらしく、少し登り坂になってきたようにも思える。

 小さな流れが見えたとき、私達は少し長めの休息を取る事にした。

 平らな場所を探して潅木から焚き木を取ると直ぐに焚き火を始める。私の背丈ほどある岩が2つ重なったような場所に長めの棒を切り出してきて天幕を張った。

 4人でたっぷりと集めた焚き木は3日は持つんじゃないかな。

 ヴォルテンさんは、ここで2日は休むと言ってくれたのを聞いて、私とキャシーさんはほっとした表情を交わした。

 既に足が棒のようだ。今日の歩くのだって、杖を頼りに前に進んでいたようなものだ。


 「よく頑張ったね。明日から2日間のんびりと休むから、ゆっくりと休んで疲れを取ってくれ」

 

 天幕の中に直ぐに横になってしまった私達は、そんな言葉に返事をする元気もない。

 外ではリードさんが焚き火に鍋を掛けて夕食の準備をしているようだ。

 携帯食料ならば、乾燥野菜と干し肉を煮込めば簡単にスープが作れる。たぶんそれを作ろうとしてるんじゃないかな。

 ヴォルテンさんは槍を片手にパイプを咥えている。

 危険な獣がいる感触はないけど、用心をしているんだろうな。


 美味しそうな匂いで目が覚めた。

 いつの間にか寝てしまったらしい。天幕を出ると既にキャシーさんも起きて焚き火の傍に座っていた。

 きまり悪い思いで焚き火の傍に座ると、リードさんがスープと焼き固めたビスケットのようなパンを渡してくれた。


 「悪いが先に頂いた。ゆっくりと食べてくれ」

 「頂きます」


 そう呟いて遅い夕食を頂く。 

 先割れスプーンでスープの具をすくうと、大きくて柔らかい肉の塊があった。どうやら、シバレイスのようだ。ちょっと焦げた肉はスープに良く合う。

 あっという間に平らげると、キャシーさんがお茶のカップを渡してくれた。


 「ここでどうやら三分の二というところだ。これからは斜面を歩く事になりそうだ。休めば体力も戻るだろう。これからがきつくなりそうだからな」

 「山裾には疎らに林がある。そんな場所に潜む獣もいるだろうから、用心にこした事はない。次に歩く時は殿をヴォルテンが務める。俺の後をミーナ、その次がキャシーだ」


 いつ獣が飛び出しても対応出来る体形で進むという訳なんだろうけど、私が2番手でだいじょうぶなんだろうか? ちょっと心配になってきた。


 「ミーナの勘が頼りだ。期待してるぞ!」

 

 そんな事を言ったので、私は俯いてしまった。


 「だいじょうぶよ。ミーナちゃんはお婆ちゃんの血を受継いでいるのでしょう」


 キャシーさんが私を慰めるように言ってくれたけど、自覚がないから頷く事もできなかった。

 

 そんな時だ。突然焚き火の炎が揺れたような気がした。

 風が吹いているのだろうか? そう思った瞬間、風が私には見える事に気が付いた。

 風が見えるなんて……。

 私は立ち上がって周囲を見渡す。

 不思議だ。近くの雑草は全く揺れていない。焚き火の炎も揺れてはいないけれど、私にはアクトラス山脈から緩やかに下りてくる風が見える。いや、感じる事が出来る。

 その風は焚き火を囲む3人に絡みついて複雑に乱れているけど、同じように荒地の先で揺らめくように乱れがある場所があった。

 ひょっとして、これがお婆ちゃんの言う気の流れと言うものだろうか?


 『私にはぼんやりとしか分からなかった。でも、兄様にはその流れを見ることができると言っていたわ。その間隔を磨くとまるで目で見るようにその乱れの原因を掴めるらしいの。アテーナイ様は「婿殿には頭の後ろにも目があるようじゃ」とも言っていた。その究極は、隠れた敵さえも見ることが出来るらしいわ。私達ネコ族の勘もそんな流れを感覚的に捉えられるからかも知れないわね』


 たしか、そんな話だった気がする。

 だとしたら、私の限界近い体力の酷使と、何時獣が襲ってくるか分からないという精神状態が、私の勘を引き上げてくれたという事なのかも知れない。

 ネコ族の勘を上回る能力を私が持ったという事なのだろうか?


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