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ミーナちゃんの冒険  作者: paiちゃん
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M-005 堤防を越えて


 20台の荷馬車が東に向かって進む。

 テーバイまでの馬車と違って車輪の横幅が広い。場所的に普通の車輪では地面に潜ってしまうそうだ。それに2千M(300km)程の行程だから到着までに10日も掛かる。荷車の2台には牛や御者達の食料と水ダルが積まれていた。

 馬車列を10人の遊牧民の戦士が護衛をしてくれている。リードさんには敵わないけど、屈強な姿態を革の上下に包んだ戦士はカルートに跨り槍を持っている。鞍にはモーニングスターが結んであったけど、あんな武器を使う相手ってどんな獣だろう。


 キャサンドラさんとは直ぐに仲良くなった。私よりも2つ年上で身長も高いけど、今ではキャシーさんと呼んでいる。キャシーさんも私をミーナちゃんと呼んでくれるから昔からの友達みたく感じてしまう。


 そんな私達4人は、荷馬車の列の真ん中辺りで毛布を畳んだ上に座りながら、リードさんの昔話を聞いている。

 リードさんは元山岳猟兵部隊の分隊長らしい。アクトラス山脈に分隊単位で展開して、峰を越えてくる魔物や敵兵を捜索していたそうだ。

 北の守護者としての山岳猟兵の名は、連合王国内に広くその噂が広まっている。山々を平地のように駆け抜け、ハンター殺しの異名を持つグライザムすら石の槍で倒すとまで言われている。

 一時期は種族の滅亡を危惧したほどだが、いまでは緩やかに人口が増えているそうだ。


 「俺達の危機を救ってくれたのがアキト殿だ。ひもじい思いをしながら冬を越すのは辛い。昔は子供がだいぶ亡くなったのだが、今では狩猟期で得た食料で飢える子供はいなくなった」


 「今でも狩猟期では1番だからな。お爺ちゃん達が帰ってきたら、果たしてどちらが上になるか楽しみだ」

 

 ヴォルテンさんにリードさんが顔を向けた。視線に気がついたヴォルテンさんに私の腰を指差す。


 「あれは俺達では狩れん」


 ぽつりとリードさんが呟く。

 

 「暴君の牙か……。未だ狩られた数は2体だけだったな」

 

 ヴォルテンさんの顔に浮かんだのは畏怖だった。私ではなく、お婆ちゃんのグルカを見ていたようだ。


 「それよりも、玉座の女王の隣を見たか?」


 「ボロボロの大ヨロイだ。それが何か?」


 「あの位置を良く見るのだったな。女王は王座に座っていなかった。あの席は妃の座だぞ。王座に、あのよろいが飾られていたのだ。だが、1つ不自然なよろいだ。左の手甲が付いていない」


 そう言われると……そうだったかな? 女王様が美人だったので周囲が良く見えなかったから、そこまでは気が付かなかった。でも、確かに女王様の隣には痛んだよろいがあったのは覚えている。


 「あの大よろいの左手の装具は、祖母の棺に納められています。初代テーバイ女王は左手の装具に抱かれて眠りについています」


 「では、あのよろいはアキト殿が着用したよろいだと?」


 「城門が破られ5千の兵士は王都に殺到してきたときに、あのよろいを着て孤軍奮闘したそうです。途中で脱いだ物を戦の後に回収して、貰い受けたと聞きました。アキト様が帰った後、今の席にあのように飾っているのです」

 

 テーバイ女王は生涯伴侶を持たなかったらしい。でも、アキトさんとの間には1人の娘をもうけている。カルートを駆る民族と、南の大陸から海を渡って建国したテーバイ王国を統合して広大な版図を持った大テーバイ王国を作ったのは、現オデット女王だ。

 伴侶を得て3人の子を得たというけれど、伴侶たる国王はおそれ多いとして未だに国王の座に座ることがないとキャシーさんが教えてくれた。

 ちょっと悲しくなる話だ。テーバイ女王は思い人の無事を祈りながら、ずっと待っていたに違いない。

 

 「でも、私はわくわくしてます。お婆様の思い人に会えるんですもの!」


 そう言って私達に笑顔を向けた。


 「オデット女王の予知夢では、我等はアキト殿達に合えることを示唆しているのか?」


 リードさんが重々しい声でキャシーさんに問いかけると、小さく頷いて答えてくれた。

 でも、それがいつの日かはわからない。これから出掛ける堤防を東に向かったその日のうちに会えるかも知れないし、数年後になるのかも……。

 

 1時間おきに馬車を停めて引き手の牛を休ませる。牛が曳くのに馬車という言葉にちょっととまどったけど、荒地を進むには馬より牛のほうが適しているらしい。別に急ぐわけではないし、重い荷車を曳くには6本足の牛のほうが都合がいいのだろう。

 1日で進む距離は200M(30km)程度。周りの風景はなだらかな岡がどこまでも続く荒地だ。雑草や潅木が所々に茂っている。

 北にはアクトラス山脈の峰々があると聞いたけれど、かすんだ地平線にその姿は見えなかった。

 夜は満天の星空だ。今は2つの月が出ない時期だから、星空がまじかに迫ってくる。

 ヴォリテンさん達は護衛の戦士達と焚火を囲んでパイプを楽しんでいるが、私達女性は早々と馬車の陰で横になる。


 そんな旅がいつまでも続くと思ったけど、車列の進む方向をみていたリードさんが旅の終わりを教えてくれた。


 「皆、見てみろ! 堤防が見えるぞ」


 私達は、荷馬車の積み荷によじ登って前を見た。そこには南北に連なる真っ直ぐな線のような形で人工の建造物があった。


 「ははは……、まだまだ距離があるぞ。高さは王都の城壁の2倍以上だ。横幅でさえ100D(30m)はあるからな」


 俺達の様子に、笑い声を上げながら御者を務める戦士が教えてくれた。


 「話には聞いていたが、あれがそうか」


 「大っきいです!」


 そんな声を上げる私に、キャシーさんが、笑みを浮かべながら、堤防を説明してくれた。


 なんでも、オデット様が遊牧民族の女王となる条件に、あれの建設を命じたらしい。

 その時の女王様の歳は12歳。前の女王であるラミア様は、王国の内政を助けたそうだ。

 それ以来、各部族から長老が戦士を工事にかり出しているそうだ。常に1500人を下回らないようにしているらしい。それから30年以上経過している。今では南の海近くまで工事が進んでいると教えてくれた。


 「各部族から人口構成に応じた戦士が工事に参加します。王都からは彼等の食料をこうして運んでいるのです」


 「いったい何を防ぐのだろうな?」


 「母様は、将来押し寄せる大きな災厄をあの堤防で防ぐと言っておりました」


 災厄? それって、災いの大きな奴なんだろうと思う。

 でも、将来ってどれぐらい先なんだろう? 1年後?それとも100年後?

 

 「災厄について母様はアキト様と話したそうです。それから数年後に堤防を越えて行ったと話してくれました」

 

 災厄を防ぐ為? それともその姿を確認する為……? いずれにせよ、アキトさんは災厄が何かを知っているということだろう。

 その災厄を防ぐ壁はあれ程の規模で作る必要があるのだと思うと不安にかられる。だって、私達はその防壁の向こうに進まなければならないのだ。

 

 私達が防壁に着いたのはそれから2日後の夕刻だった。確かに長城という言葉より堤防と言う意味が側に来てようやく理解できた。テーバイ王国側は斜面になっている。その反対側は切り立っているとキャシーさんが教えてくれた。


 そんな堤防の何箇所かに巨大な石作りの建造物があるそうで、その建物の真ん中には1辺が5m程の洞窟のような通路が東に延びている。頑丈な扉が幾重にも設えてあるようで、この門を突破するのは容易ではなさそうだ。

 建物の上部は大きな広場になっていると話してくれた。バリスタや大砲を並べてあるそうだ。


 そんな建物に私達は案内されて、1夜を過ごす。


 「この堤防の先は全くの未開の地です。一応、地図はありますが連合王国からもたらされた物を複写したものです」

 

 キャシーさんが腰のバッグから、丸めた地図をテーブルに広げた。

 私の持ってきた地図よりも縮尺が小さい。地図のグリッドサイズは、1辺が100M(15km)になっている。


 「バビロンからもたらされた物か。それなりに使えそうだな。位置は、リムお婆ちゃんに借りた通信機で分かるから迷子にはならないはずだ」

 「荒地だからな。履きなれたブーツに杖を持つのだぞ」


 リードさんが注意してくれる。明日からはずっと歩かねばならない。あまり長く歩いた事がないからちょっと心配だ。


 「出発する前、に皆さんに【アクセル】を掛けます。身体機能が2割増しますから、楽に歩けるはずです」

 

 そんな旅の始まりの再確認をしてベッドに入ると、直ぐに朝になってしまった。ぐっすりと眠れたのだろうか?

 

 井戸で顔を洗い、水筒の水を交換する。5G(グル:1Gは2ℓ)の水筒2つに水を入れ、半Gの水筒にも水を入れた。大きいのは魔法の袋に入れて、小さい方は腰のベルトに下げる。

 一緒に水筒の水を汲んでいたリードさんは10Gの水筒3つに水を汲んでいる。あれだけあれば10日以上持つんじゃないかな?


 あてがわれた部屋で朝食を4人で頂く。

 朝食と一種に運ばれた紙包みは昼食と夕食のお弁当らしい。それはリードさんが布袋に入れて背負いカゴに詰め込んだ。


 食事が終ると再度身支度を整えて、腰のバッグの上にマントを畳んでストラップで固定する。グルカもしっかり固定されているから抜け落ちることはない。

 ボルトケースを左に下げて、右には採取ナイフ。その隣に薬草ポーチがある事を手で叩いて確認する。革製の帽子は荒地では必需品だ。最後に愛用のクロスボウを背に担ぐと、杖を持った。

 皆はどうかな? と顔を上げたら、既に準備を終えて私を見ていたようだ。ちょっと顔を赤くしながら「準備完了です」と小さく呟く。


 建物から外に出て、びっくりした。

 そこにはずらりと建物を貫く洞窟のような通路に沿って、戦士達が並んでいたのだ。

 唖然としてたたずんでいると、カルートに跨った戦士が私達に近付いてくる。

 

 「必ず見つけてくれ。帰りを待ってるぞ!」

 「ああ、テーバイ女王も保証してくれた。何年になるか分からないけど、きっと戻ってくる。アキト爺ちゃんをつれてな!」


 ヴォルテンさんの言葉に戦士が槍を掲げると、全ての戦士がそれに倣う。

 槍の作り出したアーチをくぐりながら、私達は堤防の東側へと歩み出した。


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