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ミーナちゃんの冒険  作者: paiちゃん
30/35

M-030 爆裂球が足りなくなりそう


 相手の弱点さえ突けばどんな相手でも対応できる。それがおばあちゃんが言いたかったことらしい。

 でも、あのバリアントモドキに弱点なんてあるんだろうか?


「動きが鈍いのが弱点ではあるが、攻撃は鈍くはないぞ。まるで鞭のように絡めとっていたからな」

「おおよそ15D(4.5m)が攻撃範囲と考えられます。回廊の横幅が12D(3.6m)ほどですから、攻撃を回避して通り過ぎることは困難でしょう」

「火攻めにも強そうだな。ミーナの投げた爆裂球もあの殻で防がれたようだ」


 外からでは無理でも、体の中からではどうだろう? だけど開いているのは先端だけなんだよね。


「あの先端に投げ込んでみるか? 触手の届かぬ20D(6m)ほどの距離なら、2D(60cm)ほどの穴に投げ入れるのはそれほど無理な話ではないぞ」

「何回か試してみるのもおもしろそうね。っ!」


 キャシーさんの最後の言葉は驚きの言葉に近かった。私達も思わず顔を見合わせる。

 地下からの振動がまた大きくなって伝わってきたのだ。


「終わったかと思ったが、今度のはかなりの大きさだ。やはり俺達に近づいている気がする」

「なら、始めようぜ!」


 素早く荷物を片付けると、ヴォルテンさんが爆裂球を2個取り出して階段を上っていく。慌ててキャシーさんが光球をヴォルテンさんの前に移動させた。もう一つ、ゆらゆらと私達の上に光球が浮かんでいるのは、私が移動することになるのだろう。階段を上りながら光球を少し後ろに移動して私達の後を追わせる。


「1Dぐらい移動したようだ。やはり移動速度は極端に悪い魔物だな」

「だが、軍を阻止するなら十分に役立つ代物だ。さて、始めるか。最初はヴォルテンに譲ろう」

 殻付きのバリアントモドキは回廊の左壁に張り付いてるから、回廊の右側からできるだけ近寄って爆裂球を投げるのは、右効きなら比較的容易ということになるんだろう。殻の先端が2D(60cm)ほど開いて鋭い歯が着いた口をパクパクしているようなことをヴォルテンさんが言ってた。

 作戦通りに、ヴォルテンさんが右の壁伝いに魔物に近づいていく。

 20D(6m)ほどに近づいたところで、右手で持った爆裂球の紐を口に咥えて右腕で引っ張ると、頷きながら数を3つ数えたところで、魔物に投げつけた。


 こちらに駆けてきたんだけど、その後ろで爆裂球が鈍い音を立てて炸裂した。

 右の壁に触手の一部が千切れて張り付いている。やはり体内なら、それなりの効果があるようだ。


「やったか?」

「いや、さらに面倒になったかもしれんな」

 案山子を絡めとった時よりも数を増して魔物の上部から触手が現れた。数も問題だけど、その長さも20Dを超えているように思える。

「案外怒らせただけかもな。だが、何発も続ければなんとかなるかもしれん」


 再び、ヴォルテンさんが壁伝いに近寄って爆裂球を投げた。

 炸裂と同時に反対側の壁に緑色の体液と触手が飛び散る。なんとなく吐き気がしてしまうのは私だけなんだろうか。

 さらに爆裂球を投げ込み、出てくる触手を次々と引き千切るのだが、触手は後から後から先端からで来るようだ。


「切りがない。そこで一端終わりにしとくんだな」

「とんでもない魔物だぞ。このまま20個も使えばさすがに後が続かんだろうけど、俺達の爆裂球も有限だからな」


 思わず、魔法の袋の中の爆裂球を数えてしまった。

 この変な建物にたどり着くのに、バリアントの群れを避けようとしてだいぶ使ってしまった。

 前部使ったら、戻れなくなってしまう。やはり次の方法を考えなくちゃならない。


「頭部も急所かもしれないけど、バリアントに似ているなら、やはりコアを破壊しないと無理かもしれないわ」

「だが、コアはバリアントのほぼ中心だ。あの殻を破ればなんとかなるかもしれんが……」


 爆裂球の炸裂でも傷さえつかない殻だったからね。殻が破れればリードさんが力ずくで槍を刺し通すこともできるに違いない。

 

「爆裂球を口ではなく、もっと奥で炸裂させたらどうかしら?」

「押し込むってことか? それは止めた方が良いぞ。あの触手だ。絡めたられてしまうのが目に見えている」

「いいえ、ミーアのクロスボウを使うのよ。あのクロスボウはかなり特殊なのよ。ミーアが引いているけど、あの仕掛けが無ければヴォルテンだって引くことは無理だわ」


 キャシーさんの話を聞いて、3人が私に視線を移した。

 そういえば、おばあちゃんのクロスボウを持って来たんだっけ。あれってそんなに威力があるんだろうか?


「金属ヨロイを突き通すと聞いたことがあるな。……爆裂球付きのボルトを持たされていたはずだ。今度はミーアがやってみろ。先端の口を狙って放ってくれ。俺達は万が一の時に備えている」

 

 リードさんの言葉に頷いて、魔法の袋から爆裂球付きのボルトを取り出そうとした時だ。

 グラグラと建物自体が大きく揺らいだ。パラパラと小石が回廊の天井から降ってくる。


「何だ! 今までとは訳が違うぞ」

「近づいてるのかしら? 最初はカップのお茶に波紋が立つぐらいだったのに」


 早く逃げなくては……。3本のボルトを引き抜いてボルトケースに移すと、背負ったクロスボウを下ろして弦を引き絞る。カチリとトリガーに引っ掛かる音がしたところで、先ほどのヴォルテンさんを真似して右壁に背中を着けながら魔物に近づいていく。

 20D(6m)ほどの距離になったとき、ボルトを取り出してクロスボウにセットする。先端にTけられた爆裂球の紐をクロスボウのアブミに巻き付けた。

 

 慎重に狙いを付ける。小さな望遠鏡のような照準器のT字型のターゲットマークに、魔物の開閉を繰り返す口を捉える。

 口をパクパクとさせて入るんだけど、タイミングが取りずらいな。

 トリガーに指を掛けて、タイミングを計っていた時だ。カチリと小さな音がしたかと思うと、魔物の口が開かれたまま触手が手前に移動した。

 すかさずトリガーを絞ると、ボルトは狙いたがわずぽっかりと開いた口の中に飛び込んでいった。


 ズン! というくぐもった音とともに魔物の体が震える。

 ボルトを飲み込んで閉じていた口が大きく開いて緑色の体液が噴き出してきた。

 後ろに下がって様子を見る。ヴォルテンさん達も槍を構えて魔物を見ている。


「やったのか?」

「分からん。だが、触手は項垂れたままだ。少し様子を見た方が良いだろうな」


 少し下がったところで様子を見ることにしたのだが、足元から伝わってくる振動が、前から比べて頻度が増したようにも思える。


「下はどんな戦をしてるんだろうな。こんなに振動が続くんだからまだ倒すことができないようだが」

「想像だにできない魔物に違いない。だがアキト殿に倒せなければ我等では倒すこともできんだろう。逃げることすら不可能かもしれん」


 最初に振動に気付いてからだいぶ時間が経っている。早めにここを通って上に向かわないと……。

 

「ミーナ。もう1度やってくれないか? それで、変化がなければ脇を通っても問題はあるまい」

 リードさんに小さく頷いて、壁を背に移動を始めた時だった。

 ガシャン! と大きな音を立てて魔物が壁からはがれて床に転がった。衝撃で殻が壊れたんだろうか、魔物の下の方から碧色の体液が回廊に広がっていく。


「そこからでいい。頭にもう1本打ち込んでくれ!」

 言われるままに、魔物の頭に狙いを付ける。ちょうど私達の方向に頭部が向いているし、さっきはパクパクと開閉していた口が、ぽっかりと開いているから都合が良い。

25D(7.5m)ほどの距離から、爆裂球付きのボルトを打ち込んで素早く皆のところに戻ったけど、炸裂音がしただけで、魔物に変化は見られなかった。


「通れそうね」

「ああ、早めに階段を探すぞ。この階にこの魔物だけとは限らんからな」


 魔物の横を通りすぎる時はちょっと怖かったけど、急いで通り過ぎた。

 建物のどの辺りに私達がいるのか、まるで分らないけど、階段を上るたびに出口に近づいていることは確かだと思う。


 私達が食事をとったのは、ようやく上に上る階段を見付けてからだった。

 あれから2体の殻付きバリアントを倒したから、爆裂球付きのボルトの手持ちが心もとなくなってきた。残りは10本もないだろう。

「最初は爆裂球を使わずに【メル】を使っても良さそうね」

 そんな言葉をキャシーさんが呟いてからは、出てこなくなってしまった。最初から【メル】を使うべきだったのかもしれないな。


「爆裂球付きのボルトがあれば対処し易い魔物ということだったんだろうな。やはり、上階に向かうにつれて弱い魔物ということになりそうだ」

「だが、ミーナがクロスボウと爆裂球付きのボルトを持っていたから良かったものの、無ければ【メル】を多用することになっただろう。強いという相手ではないが厄介な相手だったことは間違いない」


 弱点を効果的に攻めるには、どうしたら良いかということなんだろう。今までは教えられた通りに獣を狩っていたような気がする。

 だけど、本当のハンターは初めて出会った獲物を前にしても、その弱点を考えて対処する技能を持っているのかもしれない。ハンターが1人では行動せずにパーティを組んで行動するのも、仲間とそんな情報を提供しあって判断するために違いない。

 でも、こんな状況でそれが分かることになってもね。今は出会う相手の弱点と倒し方を、きちんと教えてくれる人が欲しいな。



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