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ミーナちゃんの冒険  作者: paiちゃん
22/35

M-022 南の荒地で光るもの


 何度か短い休憩を取って、ヴォルテンさんが目標に決めた2つの岩にたどり着いた。

 森に近いせいか、周辺には短い背丈の灌木が生えている。

 ラッピナやラビーなら姿を隠せそうだけど、野犬やガトルでは無理だろう。私とヴォルテンさんは岩の上に乗ると次の目標を探すことになった。


 気の流れを感じると、その流れの行先を感じる。目を閉じて心を研ぎすませば、私に絡みつく気の流れまで感じることができる。

 まるでアクトラス山脈から流れてくる、気の大河の中にいるようだ。


「どうだい?」

「もう少し待ってください……」


 ジッと目を閉じた私を心配するように、ヴォルテンさんが声を掛けてくれた。

 でも、私にとっては最悪の瞬間だった。

 丁度、流れの先を捉えようとしていた矢先だったから。


 改めて、流れを探る。

 森から立ち上がる気の流れがアクトラス山脈からの流れに合流すると、たくさんの渦や噴流になっている。まるで流れの速い河原を見るようにも思える。

 それだけ生物活動が活発なんだろうな。

 さらに気の流れをゆっくりと探ると……、あった!

 目をゆっくりと開いて、方向を確認する。


「こっちの方角です。それほど遠いようには思えないんですが」

「方角は185だな。少し西に寄ったのかも知れない。あの方向となると、あれが目印になりそうだな」

 

 ヴォルテンさんは、目印をきちんと決めて歩くのが好きなのかな? 今度の目印は枝ぶりの変わった灌木だった。

 明日は、あの目印を目指して歩くことになるんだろうけど、私達の旅も終わりに近づいているのだろうか?


 私の身長程の岩から飛び降りると、すでに昼食の準備が出来ていた。

 もしゃもしゃと炙ったパンをスープと一緒に食べる。だいぶ歩いたからお腹が減っているみたい。


「それで、次は?」

「森を掠めるように少し南に向かうことになる。だが、ちょっと問題もありそうだぞ」

「ここに来て、問題も無いだろう。で、何がいたんだ?」

「姿は見えないが、タグの巣穴近くを通ることになる」


 ヴォルテンさんの言葉を聞いて、2人の表情が強張った。

 聞いたことが無い名前だけど、かなり凶暴な獣なんだろう。私も今度は頑張らないといけないのかもしれないな。


「出来れば空き家であってほしいわ」

「斥候がいるはずだ。見えなかったか?」

「出掛ける前にもう一度望遠鏡で確認してみる。肉眼では何も見えなかったんだが……」


 そういえば、私もおばあちゃんの望遠鏡を持ってたんだ。周辺ばかり見てたから、使う機会が無かったんだよね。

 

「あのう……、タグってそんなに凶暴なんですか?」

「ミーアは知らないのか! なら教えてやろう。タグは大きなアリだ。俺よりも少し小さく、ヴォルテンよりは大きいだろう。武器は大きな顎だな。2本の短剣と思えば良い」

「1体ならば私でも【メル】で倒せるわ。タグの恐ろしいのは、群れることなのよ」


 そんな昆虫がいたなんて……。

 私の狩場には精々野犬ぐらいだから、知らないのは無理もないんだろう。

 

「向かって来たら【メルト】で突破口を開くこともできるし、【カチート】で一時的に避難することもできるわ」

「とはいっても、出てこないことを祈るだけだな。確か、縄張りは10M(1.5km)ほどあるらしいぞ」


 出来るだけ争わないということなんだろうな。どれぐらいの数がいるか分からなければそうなるだろう。

 食事が終わると、今度はリードさんまでもが岩に上って南を眺めている。

 私達は食器を片付けて、2人が降りてくるの待った。


「やはり斥候は見えんな。放棄した巣穴かも知れんが少し東に迂回した方が良さそうだ」

 リードさんの言葉にヴォルテンさんが頷くと傍らの槍を手にする。

 旅の初めには杖のように使っていたんだけど、今は身近な穂先を付けている。やはり杖では威力不足ということなんだろうか。


 何度か休憩を取って、目標物である灌木にたどり着いた。

 今日は、ここで野営になるんだろうが、その前に先を見てみようと灌木の枝によじ登って南を見た。


 遠くに何かが光っている。

 バッグから急いで望遠鏡を取り出すと、光っている方向にレンズを向けた。

 あれが目的地なんだろうか?

 はやる心でヴォルテンさんに教えると、直ぐに私の隣によじ登って来た。


「あれか……。変わってるな。明らかに自然にできたものではなさそうだ」

「気のながれが、あの光っている場所に向かっています」

「どうやら、見つけたみたいだ」


 私の頭をポンポンと叩いて笑顔を見せてくれる。

 もう、子供じゃないんだから……。そう思っても嬉しくなってしまう。


 私達が枝から降りると、直ぐにカチートの障壁が辺りを包む。

 この中なら安全だ。焚き火を作り簡単な夕食を終えると、明日の話が始まった。


「おもしろいものをミーアが見つけた。南の荒地で何かが光っている。どうやら俺達が向かうのはそこらしい」

「それより、磁石がまた狂いだした。通信機も使えんだろう」


 ヴォルテンさんが魔法の袋から通信機を取り出して操作していたけど、直ぐに首を振る。使えないってことなんだろう。となれば、あの光っている場所にこそアキトさんがいるのだろうか?


「でも、私にはアキトさんが調べている災厄がいまだにわかりません」

「私達に何も教えないということは、今すぐというわけではないんだと思うの。お母さんの予知夢は確実に起きるけど、それがいつ起きるかは分からないそうよ。

 遠い未来の備えているのかも知れないわ。その時に手遅れにならないためにね」


 キャシーさんの言葉を聞いてそんなものかな? と思ってしまう。もしも、直ぐに起きることであれば、サーシャおばあちゃん達が全力で対処してくれたに違いない。

 でも、アキトさん達は王族達にだけ目的を告げて出掛けている。将来は間違いなく訪れるであろう災厄を少しでも小さくするためだったに違いない。


 いつの間にか、私はガトルの毛皮に包まれて眠ったようだ。

 気が付いたら目の前に焚き火があり、焚き火越しにアテーナイ様が私を見て微笑んでいた。


『どうやら気が付いたようじゃな。婿殿の目的はミーナが考えた通りじゃ。少しは手伝ってやりたかったが、婿殿達が出掛ける前に我は鬼籍に入っておったからのう』

「でも、まだ災厄の正体が分かりません!」

『それを連合王国が知るのはずっと後の事じゃろう。その情景を予知夢で見たオーロラは、あの堤防を作っておる。あの堤防があれば災厄は連合王国にまで及ばぬであろうが、影響は無視できぬであろうな』


 洪水だって防げるような大きな堤防だ。

 神官様が話してくれた伝説の大雨が降るんだろうか? だとしたら、片方だけなのもおかしな話だ。

 まさか! タグの巨大な群れなのだろうか? ヴォルテンさんが話してくれたタグが何万匹も西を目指したなら……。


『そこまで洞察するか。それに近いものじゃ。だが、それなら婿殿達が旅立つ原因としてはおかしくはないか?』

「それに起因することがあるということでしょうか? もしかしたら、もしもアキト様達が何もしなければ、洪水を止めることができなくなる恐れが出てくると……」


 アテーナイ様は笑顔を私に向けると、カップにお茶を注いで私に勧めてくれた。

 自らは焚き火で火を点けたパイプを美味しそうに楽しんでいる。


『それはもうすぐに分かるであろう。一見無駄にも思える行為ではあるが、ミズキの考えは我には及びも付かんからのう……』


 ハッとして、飛び起きた。

 どうやら私だけがまだ寝ていたらしい。皆が微笑みながら私を見ている。

 

「どうやら起きたな。ぐっすり寝ていたから起こさなかったんだけど、直ぐに食べられるか?」

 ヴォルテンさんの言葉に頷くと、直ぐに朝食が始まった。

 明確な目的地が分かったからか、皆の表情が明るいのがわかる。でも、アテーナイ様は、あの場所にアキト様がいるとは言わなかった。

 まだまだ旅は続くんだろうか?


「すると、アキト殿の目的は災厄を軽減するためだということか?」

「災厄は洪水のようなもので、タグの群れにも似ているということね。それならあれを堤防と呼ぶわけも理解できるわ。どう見ても長城としか見えないんだもの」

「だが、そうなるとアキト殿の旅には終わりがないともいえる。どこまでやれば軽減できるかが分からないんじゃないか!」


 すでに30年以上の年月をそのために費やしているのだ。

 ミーアおばあちゃんは、もう十分だとアキトさんに伝えたかったのかもしれない。

 アテーナイ様もサーシャおばあちゃんもリムおばあちゃんだって帰って来てほしかったに違いないだろう。

 だけど、自分達の為に旅立ったことを知っているから、行動に移せなかったに違いない。自分達に出来ること、亀兵隊の練度を上げて将来の災厄に備えようと頑張ったのだろう。

 だけど、もう十分に備えることができたということなんだろうな。でなければ、ミーアおばあちゃんが私にアキト様を探すようには言わなかったはずだ。


「さて、出掛けようか。今度ははっきりした目標物があるから迷うことはないぞ。物騒な奴がいれば迂回すれば良い。それでも目標は動かないからな」

「ハンターは依頼があった時と襲われそうになったとき以外は、相手を倒さぬものだ。ヴォルテンも少しは大人になったか?」


 リードさんの言葉に、ヴォルテンさんが文句を言ってるけど、そういうところがまだ子供だと自分では思っていないのかな?

 キャシーさんと顔を見合わせて思わず笑ってしまった。


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