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ミーナちゃんの冒険  作者: paiちゃん
10/35

M-010 サルの後は毛玉?


 リードさんとヴォルテンさんが岩の陰から低い姿勢でサル達の様子をうかがっている。私とキャシーさんはそんな2人の後ろで合図を待っている。


 「まだ俺達には気付いていないみたいだな。上手く行けば戦わずに済みそうだ」

 「2M(300m)を過ぎてる。だいじょうぶとは思うが……」


 サルの気配が私に伝わる。岩が邪魔をしている筈なのに、近付いてくるのが見えるようだ。

 私達に近付いているように思えたが微妙に方向がずれてきた。どうやら、北西に向かって移動しているように思える。


 「まずいな、俺達の歩いてきた場所を横切るぞ」

 

 ヴォルテンさんが小さく呟いた時、サルの移動が停止した。

 

 「見つけたようだ。周囲を見渡している。足跡を辿れば直ぐにバレるぞ」

 「殺るしかなさそうだ。俺とボルテンが戦士を相手にする。キャシー、援護を頼むぞ。ミーナは後ろの魔道師だ!」


 私は、両手で抱えたクロスボウを持って10D(3m)ほど北に移動する。キャシーさんは背中に差し込んだ魔道師の杖を引き抜いて右手に持っている。

 今朝、歩き始める前に【アクセル】をキャシーさんが全員に掛けてくれたから、少しは私も役に立てるだろう。


 低い姿勢でサルをじっと見据える。距離は1M(150m)にも満たない。私のクロスボウの必中距離は150D(45m)ぐらいだ。もう少し近付くのを待ってるしかない。

 

 「まだ、頭を上げるなよ。……もう少しだ」


 小さな草叢が私を隠してくれているようだ。

 

 「いまだ!」


 リードさんの声と同時に頭を上げて素早く後ろの魔道師の腹に狙いを付けて、クロスボウのトリガーを引く。ヒュン! と小さく弦が鳴り、後ろの魔道師の腹に深々とボルトが突き立った。

 急いでクロスボウの先端のアブミに片足を入れて弦を引き絞ると次ぎのボルトをセットする。

 

 戦士に狙いを定めようとすると、1人の戦士に火炎弾の炎が包み込んだ時だった。もう片方の戦士に急いでボルトを打ち込むと、リードさんが槍を深く腹を覆った仮面に突き刺した。

 

 「【メル】!」

 

 キャシーさんが小さな頭が逃げ出したところに火炎弾を放つ。私も、ヴォルテンさんが討取った戦士の肩から逃げ出す頭に【メル】をぶつける。


 「終ったか。魔道師の頭に逃げられてしまったな。だが、森の中をどこまで逃げられるかはわかったものじゃない。宿主を失った寄生種はひ弱だからな」

 「すみません。忘れてました」


 「次ぎはちゃんと出来るでしょう。なら、それでいいわ」


 キャシーさんの言葉が胸に滲みる。

 そんな私に、2本のボルトをヴォルテンさんが渡してくれた。

 貴重品だからね。ちゃんと回収してくれたんだ。次ぎは自分で回収しよう。


 「やはり、槍が一番だな。グルカではこうはいかない」

 「長剣が良いな。1本背負っておくか?」


 ヴォルテンさん達は袋から長剣を取り出して背中に背負っている。

 ベルトにはグルカが差してあり、槍を持っているから相手によって使い分けを考えてるみたいだ。

 

 「先を急ぐぞ。ここは奴等に知られた。群れで来られると不味いからな」

 

 リードさんが先に進み、私達は後に続く。殿はヴォルテンさんだ。

 たまに岩が転がっている場所は少し遠回りに岩を避けて進む。【アクセル】で身体機能は上昇している筈なんだけど、足場が小石混じりの斜面だから結構疲れてしまう。


 2時間程歩いたところでゆっくりと休む。

 サルと戦闘した場所からは30M(4.5km)は離れたに違いない。

 疲れた表情の私を見て、「後3時間で今日の行軍は終わりだ」とリードさんが言ってくれた。

 

 休憩が終ると、また歩き始める。

 荒地を東に進んでいた時よりは、周囲に変化があるから少しは気も紛れる。

 右手の斜面の下に見える森は、3M(450m)ほど離れているだけだ。獣の気配が見え隠れしている。

 左手の斜面の上はアクトラス山脈の裾野になる。山麓の森は大きいけれど20M(3km)以上離れているから少しは安心できる。

 やはり、右手の森に注意を集中していれば問題ないと思う。


 今夜の宿は2本の潅木の傍だ。

 周囲を注意深く確認したところでキャシーさんが【カチート】で防壁を作る。

 ヴォルテンさんが作った焚き火にポットを乗せて、先ずはお茶を飲む。

 日がだいぶ傾いてきた。あの夕日の向こうに私の故郷があるんだと思うと、だいぶ遠くに来た事が現実味を増してくる。

 

 「サルも数匹なら何とかなりそうだな」

 「あいつ等は群れるのか?」


 「ああ、長老の話しに寄ると魔物を率いる事もあるらしい」


 私とキャシーさんは思わず顔を見合ってしまった。

 もう少し多くても何とかなったかもしれないけど、魔物が一緒だとしたら私達では対処できないかも知れない。


 「爆裂球は効果的だと聞いたぞ!」

 「ああ、そうだな。これを渡しておこう。我等一族に伝わる爆裂球の使い方だ」


 リードさんが3個の爆裂球をヴォルテンさんに渡したが、その爆裂球は表面に鎖が巻いてあった。ずれないようにウミウシの体液で固めてある。


 「かなり重いな」

 「鎖の分だけ重くなっているから注意しろよ。半径20D(6m)の敵を倒せる。40D(12m)以上投げるか、投げた後は直ぐに身を隠せ」


 かなり危ない使い方だと思う。

 私も魔法の袋に50個近く持ってきたけど、使い方に工夫しなければならないようだ。


 食事を終えると、皆で横になる。【カチート】の中ならサル程度であれば恐れる事は無い。

 

 次ぎの日。朝食後のお茶を飲みながら魔法の袋から端末を取り出してヴォルテンさんが現在地を調べている。

 コンパスを使って、アクトラス山脈の峯との方向も確認しているようだ。


 「少し、北に進まねばならないようだ。なだらかだが斜面には違いない。休息の頻度を上げて進めばそれ程疲れることはないと思う」

 「斜面はどうしても楽な方に進むものだ。知らず知らずに南に下がってたのかも知れんな」


 【アクセル】をキャシーさんが全員に掛けたところで、【カチート】を解除する。

 また、いつものように行軍が始まった。

 心なし、アクトラス山脈に向かって進んでいるように思える。

 

 何回か休息を取って進んでいた時だ。右手方向にふと違和感を覚え、小型の双眼鏡を手に、山手方向を確認する。

 双眼鏡の視野に飛び込んできたのは、丸い物体だった。

 私達のほうに近付いているのだろう。視野の中で段々と大きくなっている。


 「リードさん。毛皮の球体が近付いてます!」

 

 私の声に、リードさんが歩みを止める。

 ヴォルテンさんが駆け寄ると、2人で相手を確認し始めた。


 「確かにこっちに向かってるな。だが、あれは何なんだ?」

 「足は無いぞ。転がってくるんだ。大きさは、直径4D(1.2m)はあるんじゃないか?」


 毛皮のように見えるけど、獣ではないようだ。だとしたら、魔物って事になるんだけど……。


 「東方見聞録に記述がありますよ。「ケサラン」という生物だそうです。ヤマヒルの変異種という事ですから、攻撃的です」


 あの毛皮の球体の中から、先端に鋭い歯を持った口の付いている触手を伸ばして、相手の体液を吸い取るらしい。

 あの速度では、逃げても何れ接触する事になるだろう。


 「ヴォルテン、槍を使うぞ。2人は【メル】を放ってくれ。触手の長さはどれぐらいだ?」

 「体の直径の2倍と書かれています」


 「やはり槍になるか。できれば【メル】2発で死んで欲しいな」

 「焼くのが1番と書かれています」


 やはり【メル】を何発か当てれば良いようだ。

 

 「【メル】なら俺も使えるぞ!」

 

 ヴォルテンさんが呟いた。ケサランは2M(300m)近くまで来ている。【メル】の飛距離は100D(30m)ぐらいだから、もっと近付くの待たなければならない。

 槍を突き出したリードさんの後ろで私達はケサランの近付くの待った。


 「「「【メル】!」」」


 3つの火炎弾がケサランに向かって飛んでいき、体表面で弾けた。

 毛皮の焼ける匂いを、離れていても感じる事が出来る。ケサランはその場で悶えるように全身を震わせていた。ウネウネと触手が伸びるが、キャシーさんの更なる火炎弾攻撃で触手は力なく崩れ落ちた。


 「意外と簡単に倒せるわね」

 「ああ、そうだな。だが、ケサランを【メル】で攻撃すると、奴らが嗅ぎつけるようだ」


 リードさんが北を指差した。そこには大きなガトルが数頭こちらをジッと見ている。


 「いいか、ゆっくりと離れるぞ。ヴォルテン後ろは頼んだぞ!」

 「分かった。前も油断はできない。気を付けろよ」


 私達はゆっくりと東を目指して進む。

 後ろはヴォルテンさんが見てくれるから、私達は左右を監視すればいい。

 山手の上で、私達を見ていたガトル達は、ゆっくりとケサランに近付いて行った。あれを食べるのだろうか?


 「森からも来たぞ。まだガトルには気付いていないな。奴らが獲物欲しさに戦っている間に少しでも先に進もうぜ」

 「何が来たんだ?」


 「ディラーのようだ。トカゲのでかい奴だよ。1匹だが、たぶんガトルといい勝負になりそうだ」

 

 やはり、この辺りは危険が1杯という事だろうか?

 2M(300m)ほど、その場を離れると、今度は足早に歩き始めた。長居すれば私達も巻き込まれそうだ。

 10M(1.5km)ほど離れてほっと一息着くことができた。


 「あのディラーも変わってるな。サーミストの東にある大森林地帯にいる奴よりは大きいぞ」

 「大きいだけじゃないかもしれんな。だが森から来たんだ。この下に広がる森にはどんな奴がいるか分かったものじゃない」


 東方見聞録の変わった生物達の絵がおもしろくて、私もミーアお婆ちゃんと一緒に見た事がある。確か、リムお婆ちゃんが渡してくれた荷物の中にもあったはずだ。今夜ゆっくり眺めてみよう。連合王国の版図に近い場所に生息する生物の特徴が分かるかも知れない。

 

 その夜。食事が終り、皆でお茶を飲んでいる時。

 リードさん達はパイプを咥えて槍の穂先を研いでいる。

 キャシーさんは、バッグから魔法の袋を取り出して何かを探している。

 私は、東方見聞録を取り出して、本を開いた……。


 「……しばらくじゃのう……」


 焚き火の反対側に腰を下ろして私に笑みをを向けているのは、アテーナイ様だ。


 「あのう……」

 「さて、訓練を始めようかの。じゃが、その前に少し魔法を教えておかねばなるまい」


 アテーナイ様は、私の方に手を伸ばして、「【メル】!」と呟いた。

 手のひらの上に1D(30cm)位の火炎弾が浮かんだ。不思議な事に、この状態で火炎弾の熱さを感じる事は無い。火炎弾を飛ばしてから、炎の球体が熱を帯びるように思える。


 「婿殿に教えてもらったのじゃが、ミーナの練習には丁度良さそうじゃ。良いか、このように火炎弾の形を変えることを覚えるがよい」


 アテーナイ様の手のひらに乗った球形の炎が少しずつ小さくなっていく。その変化とともに炎の色が変化してきた。

 

 「おもしろいじゃろう。これを練習するのじゃ。【メル】は低級魔法じゃが、工夫次第で大型獣にも十分に通用する」


 いつしか、握り拳ほどに火炎弾の大きさが縮小していた。表面の色は赤から白に変化している。

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