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ミラクル・ミラー

作者: 久乃☆

鏡がしゃべったら何を話すのだろうと考えました。

~私という私~


 私、という私は鏡です。

 英語で言うなら、ミラーでしょうか。

 ちなみに、あまり綺麗ではありません。なぜなら、この家の人間は誰も私を磨かないからです。


 私がこの家に来て、かれこれ5年が過ぎようとしていますが、年に一度磨かれるかどうかという程度です。

 

 私の性別ですか?

 鏡に性別があるとすれば……男に〇をつけましょうか。さらに、イケメンでイケボです。

 イケボがなんなのか知っていますか?

 イケナイ・ボーヤの略です……嘘です。

 ここは、笑うところですが、笑ってもらえましたか?


 真面目にお答えいたしましょう。

 イケてるボイス。つまり、いい声だということです。

 知ってる? 

そうですか、知っていたのですね。

 私は最近知りました。残念です。


 ところで、鏡と一口に言ってもいろいろあります。

 手鏡、姿見、三面鏡などなど。

 さて、私はどれでしょうか?

 誰も答えてはくれませんね。

 

寂しいです。


私は、洗面台についている鏡です。

お風呂の隣の脱衣場に置かれている洗面台です。

そのために、お風呂上がりの、本来なら見ることのないような裸体を見せていただいております。


変態ではありません。


見たくもない裸体も多いのですから、我慢するのも結構大変なのです。


~モリモリ長女~


 この家の長女は、大学2年生です。

 高校3年の時は、受験のためにとても大変でした。

 なにが大変だったかというと、八つ当たりです。


 根っから勉強が嫌いなのでしょう。


 大学に入ってからは、遊ぶことに終始しているように思います。

 今も私に向かって、必死に顔にペンキを塗っています。

 いえ、ファンデーションでした。

 

 若くて綺麗な肌をしているのに、厚化粧です。

 化粧などしなくても、十分だと思うのは私だけでしょうか?

 しかし、ひどすぎでしょう。笑ったらヒビが入ると思うのですが……。


 最近の若い子の化粧は“盛る”らしいです。

 この子も、毎日“盛って”います。

 盛りすぎて、目だかまつ毛だかわかりません。

 あれで、視界がはっきりしているというのが信じられません。


 髪の毛も、夜になるとスポンジの団子をたくさんつけます。

 かなり必死です。

 どんなに頑張ったところで、人間は中身だと思うのですが。


 違いますか?


~ママとオバサンの狭間~


 お母さんが来ました。

 娘が長いことかけて化粧しているので、様子を見に来たのでしょう。

 ついでに自分も髪をとかすようです。

 

 かなり大雑把です。

 これでは、鏡など必要ないでしょう。


 お母さん。

 あなたこそ、化粧をすべきですよ。

 醜すぎます。


 今のままでは、完璧オバサンです。

 それも、醜悪街道まっしぐらです。

 “ママ”と呼ばれているのですから、もう少しなんとかして欲しいです。

 

 だから、言ったのです。

 見たくもないものでも、見なくてはならいのだと。


~長男バクハツファッション~


 1時間以上かけて、娘が化け終わりました。

 いつも思うのですが、頭の悪い子ほど頑張って自分を偽ろうとするものだと……。


 世界中の女性を敵に回しましたか?

 失言です。

 申し訳ありません。


 長男が来ました。

 朝は忙しいですね、代わる代わる入ってきます。


 長男は、今年高校を卒業しました。

 仕事はしていないらしいです。

 本人が言うには、フリーターもれっきとした社会人だということです。


 ところで、フリーターってなんでしょうか?

 好きな時間に起きて、家にいるときはダラダラして、好きなときに遊びに行く人のことでしょうか?


 はい?

 はい、イヤミです。

 

 長男は、毎朝3時間かけてバクハツ頭を作ります。

 娘が1時間。

 息子が3時間です。

 お母さんは10秒です。早すぎです。


 長男は、頭を作るために出かける3時間15分前に起きてきます。

 この15分で着替えて、歯を磨きます。

 磨く……というと、聞こえはいいですが。

 あれは、なでているだけなのではないかと思うのです。

 内緒です。


 長男の服装ですが、テカテカのビニールジャンバーを来ています。

 本人は、皮だと言っていますが、どうみてもビニールです。

 しかも、チャラチャラと鎖をぶら下げています。

 うるさいです。


 中は骸骨の絵のTシャツです。


 家にいるときは、ヨレヨレの半纏なのですが、出かけるときは骸骨になります。

 そんなに骸骨が好きなら、骸骨の着ぐるみを着ればいいのに……。

 

 おっと、本音が出てしまいました。


~静かな末っ子~


 長男と長女が嵐のように出かけると、家中が静かになります。

 いつもなら、長男が出かけるのは夕方からなのですが、今日は朝から出かけましたね。

 どうせ、遊びに行ったのでしょう。

 どうしてわかるか?

 バイトなら、あんなに楽しそうにバクハツ頭をつくりませんから。


 長女も出かけました。

 あの盛り具合を見ると、今日はデートなのでしょう。

 あれで、彼氏の顔が見えるのかどうか……疑問ですが。


 末っ子の悟志君が来ましたね。


 おはよう。悟志君。


 もちろん、返事はありません。

 返事が来たら、逆に怖いですが。


 なぜ、末っ子だけ名前で呼ぶんだと思われるでしょう。

 

 好きだからです。

 この物静かな坊やが。


 悟志君は、高校1年生です。

 去年受験に失敗して、滑り止めの高校に入りました。

 親は授業料が高いと嘆いていましたが、悟志君は気にしていないようです。

 当たり前ですね、子供ですから。


 普通悟志君くらいの年頃なら、必死のバクハツ長男のように色気を出すのでしょうが、悟志くんはありません。

 不思議なほど、静かです。


 学校へ行くときも、普通に顔を洗って、普通に髪をとかします。

 ただ、いつも静か過ぎて、いるのかいないのか分からないのが、困ったところです。

 多分、バクハツ長男とモリモリ長女の勢いに負けているだけなのでしょうけど。


 悟志君、今日は日曜日ですが、どこかへ出かけるのですか?


 答えはありませんね。

 当たり前です。

 鏡の私の声が聞こえるハズはありません。


~お父さんの努力~


 お父さんが来ました。


 お父さんは毎晩決まって、ここでブラシを頭にぶつけています。

 痛いのが好きなのでしょうか?

 毛生え薬を頭にふりかけて、血が出るのではないかと思うほど、ボコボコと叩いています。

 あれで生えるのでしょうか?

 

 無理だと思うのですが。


 日曜日ですが、お父さんはお出かけのようです。

 どうやら、お母さんと一緒の外出らしいです。

 さっきから、お母さんが騒いでいるのです。


『お父さん! 靴下がびっこよ! ちゃんと同じ靴下を履いてくださいな!』

『お父さん! ハンカチ出したって言いましたよ。なんで聞いてないんですか!』


 言葉の最後が敬語なのですが、とても敬っているようには聞こえませんね。

 どう聞いても、命令しているのはお母さんの方に聞こえます。

 お父さんは、『あ』『うん』だけですが、ちゃんと会話が成り立っているのが不思議です。


 夫婦揃って外出なんて珍しいですが、あれで結構仲良しなようです。

 

 行ってらっしゃい。

 気をつけて。

 たまには、私を磨いてくださいね。


 聞こえるはずはないけど、言ってみました。


~もうひとつの家族~


 これで、この家の家族は全部……。


 忘れていました。

 小さな体で、大きな態度の猫がいました。

 いつも家人がいなくなると私のもとへ来て、じっと自分の姿を見ている猫です。

 その目は、うっとりと私を見ています。

 つまり、私に映る自分を見ているのです。


 変な猫です。


 この猫は、女性のようです。

 人間も猫も同じなのでしょうか。

 私に映る自分にうっとりするところを見ると、長女と変わりません。


 特に夏は私のそばにいます。

 洗面台の中で、丸くなって寝ています。

 濡れると思うのですが、気にならないようです。

 どうやら、ここが涼しいようです。


 あ、行ってしまいました。

 今日の自分に満足して、暖かい場所へ行ったのかもしれません。

 いいですね、足があるって。


 さて、これで家族全部の紹介が終わりました。

 いかがでしたか?

 

 では、終わりにしましょうか……。


 え?

 つまらない?

 なにがですか?

 もっと、びっくりするようなアクシデントを期待していましたか?

 そんなもの、あるはずないじゃないですか。

 普通の家族ですよ。


 そんなに、びっくりするようなことが多発したら、寿命が縮まります。


 おや? 悟志君どうしましか?


 そうか、今日はあなた一人でお留守番なのですね。

 私が来た頃は、いつもママについて一緒に出かけていたのに、お留守番をかって出るような年齢になったのですね。


 え?

 着替えるのですか?

 お風呂は湧いていませんよ。

 ここで脱いだら寒いです。

 止めましょう。

 風邪をひきますよ。


 あぁ、どんどん脱いでますね。

 いくら好きな悟志君でも、あなたの裸体には興味がありません。

 かといって、長女の裸体も興味がないのですが。

 悟志くんと似たり寄ったりの体ですから。

 特に胸が。

 

 あ、笑いましたね。

 良かった、笑ってもらえて。

 

 と言ってる間に、裸族になってしまいましたね。

 ほら、鳥肌が立っていますよ。性格がチキンの上に、肌までチキンでは取るところがありませんよ。


 あ! そんなことをして!

 

 取り乱してしまいました……。

 さすがに、びっくりしたものですから、すいません。


 何に驚いたかと?

 聞かれますか?

 聞きたいですか?


 これは悟志君のプライバシーなのですが……。


~悟志くんの秘密~


 裸族になった悟志君ですが、今度は洋服を身に付け始めたのです。

 当たり前のようですが、結構ショッキングです。


 なにせ……つけているものが。


 ブ……ブラ……ジャー……。


 それ、長女のですよね。

 知られたら怒られますよ。

 あの目で。

 睨まれても、わからないくらいにまつ毛だらけの、あの目で。


 背中に手がまわらないから、前でホックを止めて背中に回すとは、高等技術ですね。

 それで満足ですか?

 胸を反らして、私に写して見てますが……。


 やはり、気に入らないのですね。

 胸にタオルを詰めています。

 それが本物なら、かなり豊満ですが。


 満足なようです。

 その笑顔。

 今ままで見たことのない笑顔ですよ。


 ストッキングですか。

 ゲイが細かいですね。

 おや? 手が止まりましたが、どうしました?


 剃るんですか?

 いいんですか? 剃ると濃くなりますよ。

 長女も年中剃っていますが、おかげで濃くなったと嘆いていますよ。

 剃るんですね。

 

あ~ぁ、剃っちゃいましたね~。

 まぁ、男子ですから。

濃くなったところで、ワイルドだろ~ で済むでしょうけど。

 

 これで、満足してストッキングが履けるのですね。

 

 ワンピースですね。

 それ、長女がお出かけ用に買った洋服じゃないですか。

 この間の合コンで、着ていきましたね。

 ママには内緒で合コンへ行ったのを、私の前で喋ってました。

 もちろん独り言ですが。

 彼女は、誰かに聞いて欲しいと私にしゃべるのですよ。

 

 面白いので、聞いてあげますけどね。


 今度は化粧ですか。

 毎日、長女がしている化粧を、隠れて見ていたせいか、上手ですね。

 それも、ナチュラル化粧だから、長女よりもずっと綺麗です。


 男にしておくのがもったいないです。


 髪の毛が男のままだから、チグハグですね。

 あ、ちゃんと用意してあるのですか。

 それも、長女のカツラですね。

 カツラって言わないのですか? ウィッグと言ってましたね。


 似合いますね。


『鏡さん。ボクはきれい?』


 もちろんです!

 とても綺麗ですよ。


 私が魔法の鏡だったら、モリモリ長女よりもずっと綺麗だと、はっきりと言って上げるのですが。

 私は普通の鏡です。

 とても残念です。


『ボクが女装の趣味があるなんて、パパやママが知ったら腰を抜かしてしまうよね』


 ここまでやっておいて、いまさら何を言っているのですか?

 汚い女装ならともかく、悟志君の女装はキレイなのです。

 胸を張りましょう。


『でも、これがボクなんだと思うんだよ。女装している時のボクって、本当に楽しいんだ』


 良かったですね。

 楽しいと思えるのですから、いいじゃないですか。

 今までも、女装していたのでしょうか?

 私は始めて見たのですが……。


 ということは、悟志君の部屋の鏡の前で女装していたのですね。

 羨ましい鏡ですね。

 こんなに綺麗な悟志君を見ていたなんて。


『でも、こんなこと知ったら、友達なくなるよね』


 友達がいたことの方がびっくりです。


『でもね。やっぱりボクって綺麗だよね。おねえちゃんよりもイケてると思うんだ!』


 はい、確かにその通りです。


『外にでたいなぁ。女装して外に出たら、きっと誰も分からないと思うんだ』


 止めましょう!

 それは、世間的に止めておいたほうがいいでしょう。


『できないよね』


 その通りです。


『こんなんじゃ、ただの変人だよね』


 イエイエ、これでお金を稼げれば立派な職業人です。

 ただの変人ではありませんよ。


『ボクはどうしたらいいんだろう』


 そんなに女装が趣味なら、突き進むだけです!

 鏡ながら、応援します!


『……いいや、今は。誰もいない今は、ボクは女の子なんだ!』


 そこに落ち着きましたか、残念ですね。

 悟志君、どこへ行くのですか?

 居間でゲームですか?

 ゲームするなら、女装しなくてもいいと思うのですが。


 まぁ、最後にちょっとびっくりするようなアクシデントがありましたが、極々普通の家族です。


 さて、そろそろ私の話は終わりにしましょうか。

 あなたの家の鏡も、あなたの秘密を知ってるかもしれませんよ。


 ご用心ください……。



いかがでしたか?

あなたの家の鏡も、家族の秘密を知っているかもしれませんね・・・・www

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