ども、お久しぶりです
暗くなってきたのでその後解散をした。
家に帰ってからお風呂の中で今日1日あったことを思い返してみた。時雨パパ(四季さんという名前らしい)は僕のお父さんのことをほんの少しだけ話してくれた。
「父さんの名前を教えてもらうの忘れてた」
なんとも情けない話だが、今になってから夜眠れなくなるのではないかと思えるくらい気になり始めた。それと同時に三音にあったギターのことを思い出した。
あの傷だらけのギターに触った時、すごい情報の奔流が起こった。僕に似ている人が同じギターを抱えていて僕に似ている声で歌っていて……なにからなにまで僕に似ていたあの人は一体誰なのだろう。
だけど、なにより僕とは壊滅的に違うところがあった。瞳に宿る輝きが全然似ていなかった。似るもなにも、全くの別種だった。存在するものと存在しえないのを比較するのと同じくらいの無意味さだった。
あの人には核融合によって爛々《らんらん》と燦々《さんさん》と光や熱を放つ、真夏の太陽が両眼に充填されているのに、僕は。
お風呂から上がり体の水気をきってからギターをケースから取り出した。
当然クラシックの方である。
お母さんが元々、というより現在進行形でそうなのだが、弦楽器の天才である。どう天才なのかというと音を奏でるために作られた楽器ならなんでも何十年間も練習してきたような熟練者のような技術を発揮出来る、というものだ。もはやチートである。
オーケストラなどの楽団はもちろんのこと。現在は国外で活動しているため家に帰ってくることはない。
「顔を会わせなくて済んでラッキーなんだけどね」
絶賛一人暮らし……独り暮らしを満喫しながらも学校に通うようにしている。中学生になったらなにかがかわれる、そんなことを思っていたけれど皆無だった。強い言うのであれば子供料金ではなくなった、それぐらいである。
「おまえは相変わらずきれいだな」
僕のギター、ヨーロッパから取り寄せた数百万円するギターらしい。名前はまだない。それにしても母さん、どれだけお金もちなのですか……
そっと愛でるように撫でてみるけど『声』はきこえない。
親指をそっと動かす。
♪~
僕は小さい頃からこの音を聴きながら育ってきた。
僕は小さい頃からこの音以外を聞いた憶えがない。
学校に登校したとしても午後には家に帰り練習。
暇さえあれば練習。時間さえあれば練習。
ずっと僕と一緒に過ごしてきたギター。僕のギター。
でも。
僕はダメだった。お母さんと同じにはなれなかった。