出会い
彼女は今にも心のダムが決壊して溢れそうになっていた。きっと、色々なものがせきとめられていたのだろう。この小さな体にはいくつもの感情がよどんでいて、うずまいていて、まざりあっていて、せめぎあっていて、ぼうちょうしていて、あふれそうでいて、はちきれそうでいて、それでいて我慢していた。
そんな危うい状態で均衡がとれていたのだろう。今、僕がもし彼女の背中を押すとしたら一生崩れ落ちたものになるか、ずっと笑っていられるかのどちらかだろう。
「っつう!」
彼女は後ろを向き、走りだそうとする。ここで別れたら、もう二度と会えない気がした。いや、その通りだろう。絶対に今までの彼女に会うことは出来ない。会ったとしても、もうとりかえしのつかない状態だろう。
そんなの、絶対に、嫌だ!!!!
「待て!!」
僕は何時の間にか、彼女の手を握っていた。細い手は力を加えると簡単に折れてしまいそうで、少し冷えていて、震えていた。
「いいの!!時雨は、時雨は一人でも大丈夫だから!!離して!!」
「離さないよ」
「いいから離してよ!!もういいの!!どうでもいいんだから!!」
「そう言うなよ」
「離せーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「大丈夫だよ」
僕は、そっと、彼女を……時雨を抱き寄せた。