この恋心は、飛び立てなかった
失恋、してしまった。
いや、正確に言うとまだしてない。だって告白すらしていないのだから。けど、この恋は散ってしまったのだ。
ある日、僕はその人に声をかけられて、恋に落ちてしまった。
「定期、落とされましたよ」
一目惚れならぬ、一聴き惚れだった。
「あ、すみません⋯⋯ありがとうございます」
僕は中高一貫校の中等部に通っているのだが、拾ってくれたのは高等部の先輩だった。腰までの長い髪の毛を耳にかけながらしゃがんで、僕の定期を拾ってくれた。
先輩は、高等部生徒会の元生徒会長でとても美人だった。写真で見たことはあったけど、実物の生徒会長はもっと綺麗な方だった。
このときの僕はまだ恋なんて自覚してなくて、ただただ綺麗な先輩と喋れてラッキーだったくらいにしか思ってなかった。
見た目も成績も下の上、良くて中の下にいる僕が話せたなんてと思ってたくらいだった。そんな僕が先輩と話せたのがよくなかったのかもしれない。
僕も一応中等部の生徒会に入ってはいるが、書記という誰でもできるような立場にいる。先輩はどこでその情報を仕入れたのかわからないけど、僕が書記ってことを知ったみたいだった。
「飛鳥は書記なのよね? 中等部の生徒会は今どんな感じかしら?」
「えっと⋯⋯そうですね、ぼちぼちって感じです。あ! でも、巴川先輩が敷いてくれた地盤があったのでとても捗ってます」
先輩である巴川 友梨先輩は、定期を拾ってくれた事件以降こうして、僕のもとに来てくれるようになった。ほかの生徒に見られるから恥ずかしいのだが、先輩が好意的に思ってくれてるらしく断ることもできなかった。
「ふふふ、それはよかったわ⋯⋯でも、飛鳥と仲良くなったのに明日で卒業なんて悲しいわ」
「あの、先輩。名前呼びやっぱりやめません? 僕、注目されまくってますし」
「あら⋯⋯嫌だったかしら?」
全力で否定する僕を見てまた笑う先輩。クラスで2人っきりというわけではないが、やっぱり先輩は美人だしこんな至近距離で見て会話するなんて緊張してしまう。
先輩と話をしていると、あっという間に6時になり中等部の下校時間になってしまう。
「じゃあね、飛鳥」
「は、はいっ!!」
颯爽とカバンを持って去っていく姿を見て、かっこいい⋯⋯となりつつも自分も帰らねばと思う。
季節外れの寒い雨が降っている中、傘を差して駅まで向かう。学校は駅からちょっと離れていて、歩いて15分のところにある。周りには同じ制服をきた仲間が何人かいた。
「⋯⋯あー先輩好きだなぁ」
何も考えずに口から出ていた。周りをキョロキョロ見て誰かいなかったか確認する。幸いにも点滅しかけた青信号を待っていたおかげで、周りには誰もいなかった。
けど、心臓はバクバクいって止まらない。僕が、先輩を好きかもしれないと気づいてしまったのだ。僕は今中学1年生の13歳。でも先輩はこれから大学生になる18歳だ。去年まで小学生だった僕に対して、恋愛感情があるわけがない。そう思っても、好きだと気づいてしまった心は止まってくれない。
先輩が僕のことを気にかけてくれるのは、先輩が元生徒会長で僕が生徒会に入ってるから。そう思っても名前呼びされてたり、ちょっと特別扱いされてる感じがしてどうしても可能性をちょっとでも考えてしまう。でも僕は先輩と付き合うことは絶対にない。
そう思うと涙が出てきた。傘を差してるのに僕の頬には水が何度も伝っていた。このままじゃ電車には乗れないと思い、トイレで声と悲しみを押し殺す。こんな恋したのなんか初めてだった。
30分もトイレを占拠してしまった。そう思いながらトイレから出て、水道についている鏡を見る。そこには、どう見てもさっきまで泣いていたであろう顔の自分がいた。
世間からの反応なんてどうでもいい。そう思いながら電車に乗り、家へと帰るのだった。家に帰ったときも、母親に遅いと言われかけたが僕の顔を見て察したんだろう。何も言わずにただ、お風呂沸いてるよとだけ言ってくれた。
その後のことはもう覚えてない。気づいたら寝て起きて朝になって登校していた。
『藤ヶ丘女子中学高等学校 卒業式』
そう書かれたパネルの前で、先輩たちは写真を撮っていた。
「僕が男だったら⋯⋯なんか変わったのかな」
そうため息をついてしまったが、先輩の晴れ舞台くらいかわいい自分を見てもらいたい。そう思って、笑顔をキープして先輩に挨拶しに行くのだった。




