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マッチングアプリで出会ったイキリ陰キャ弁護士を、三年後に好きになってしまった話

マッチングアプリで出会ったイキリ陰キャ弁護士を、三年後に好きになってしまった話

作者: 絵夢
掲載日:2026/03/18

最初に会ったとき、私は思った。


(あー、マジで嫌いなタイプだわ)


声は小さいのに、

妙に自信ありげな話し方。


理屈っぽくて、

自分は分かってる側の人間です、みたいな空気。


正直、恋愛対象どころか

できれば同じテーブルにも座りたくない。


それでも私は、その男と三年間会い続けた。



理由は簡単だ。


ご飯が美味しかったし、

顔もそれほど悪くなかったから。


そしてプレゼントも、

毎回ちゃんと用意されていたからだ。

「いや、なんていうかさ。経験上なんだけど」


カフェの向かいで、野元(34)が言う。


「女の子って、話してるとだいたい分かるんだよ。

あ、今これ本音じゃないな、とか」


指先でシルバーリングをいじりながら、

少し得意げに続ける。


遥香(23)は、その様子を見ながら思った。


(あー……)


(マジで嫌いなタイプだわ)


声は小さいくせに、

妙に自信がある言い方。


理屈っぽくて、

自分の考えを語るのが好きそうな人。


正直、会話も全然面白くない。


それでも、

二回目の食事には行った。


理由は単純だった。


店が、やたら良かったからだ。


最初の店は、落ち着いたフレンチだった。

次は予約の取りにくいイタリアン。


デザートの皿が運ばれてくる頃には、

私が好きなブランドの紙袋がテーブルに置かれていた。


「仕事でさ、こういう店は知っておいた方がいいんだよ」


野元はそう言っていたけれど、

遥香は別のことを考えていた。


(まぁ、食事は美味しいし)


(プレゼントもくれるし)


(このくらいなら付き合ってもいいか)


帰り道、

もらった小さなアクセサリーを

さりげなく写真に撮る。


ストーリーに上げると、

友達からすぐ反応が来た。


「え、誰と行ってんの」


「いいとこじゃん」


遥香は、スマホを見ながら少しだけ笑った。


自己肯定感が満たされていく。


野元と食事に行く理由はそれだけだった。



◾️



「遥香ちゃん、それ普通に損してるよ」


野元はワインを飲みながら言う。


「その男さ、明らかに都合よく扱ってるじゃん」


「俺だったら普通に距離置くけどね」


「そうですよねー」


遥香は適当に相槌を打つ。


本命の彼氏の愚痴を話すと、

野元はいつもこんな感じだった。


理屈っぽいアドバイス。


正直、半分も聞いていない。


でも別に問題はなかった。


食事は美味しいし、

私がお願いしたプレゼントもちゃんと用意してある。



多少話が面倒でも、

我慢できないほどではない。


そんな夜が、


三か月に一度か、

二か月に一度ある程度。



気づけば三年近く続いていた。


◾️


遥香は26歳になった。


本命だった彼氏は、

浮気していた。


問い詰めたら、

あっさり振られた。


少し前から、

SNSの景色も変わり始めている。


友達の投稿が、

結婚式の写真になり、


しばらくすると、

赤ちゃんの写真になっていく。


休日にスマホを開くと、

タイムラインは子供だらけだった。


(……なんか)


(みんな、そっち行くんだ)



そんなとき、ふと思った。


野元とは、三年続いている。


食事も、プレゼントも、

ずっと同じペースだった。


途中で金がなくなった様子もない。


むしろ、

年々店のレベルは上がっている。


(……この人)


(本当に稼いでるんだ)


◾️


ある冬の夜。


彼女から野元に連絡した。


野元は、相変わらずたった。



「愚痴でもなんでも聞くよ。壁当て役にはなれるから」


(少し丸くなってる?)


(前まで変な理屈で論破しようとしてくるだけだったのに)


「君から連絡してきてくれるの珍しいね」


「自分ではどうしようもく整理がつけれない事が起きたから、俺に頼ってきたんじゃないの」



言い方はやっぱり気になる、

でも

全部正直に話してみよう…


(それでこの人が離れたなら仕方がない……)


「……えっと、」


ふと手元を見る。


お茶が湯気を立てている。


頼んだ覚えはない。


彼は何でもない顔で言う。


「人間さ、体冷えると余計メンタル落ちるから」


「温かいの飲んどいた方がいい」


遥香が少し驚いた顔をすると、

野元は視線を外したまま付け加えた。


「……さっき手、震えてたし」


「多分寒いんだろうなって思っただけ」



理由はそれっぽい。


でも遥香は思った。


(……あ)


この人、


三年前から

ずっとこうだ。


理屈っぽくて、

ちょっとダサくて、


正直、

最初は本当に嫌いだった。


でも。


私のことを

ちゃんと見てくれていたんだと思う。



◾️



帰り道。


タクシーの前、


「じゃ、またね」


野元はいつものように手を振り帰ろうとする。


遥香は、思わず袖を引いた。


「ねえ、野元さん」


振り向いた彼の顔が、

少し驚いている。


「……なに?」



一歩近づく。


「野元さんさ」


「私の話、聞いてもまた会ってくれるの?」


野元が言う。

「当たり前だろ」

「俺が君と会わなくなる理由が見当たらない」


遥香は俯きながら、

「……結構酷いことしてる自覚はあったんだけど……」


「今から言う事、嘘じゃないから」

少し上目遣いになりながら言う。


「私ね」


「野元さんと一緒に居たい」



「え、」


野元は固まった。


いつもなら止まらない言葉が、

何も出てこない。


視線が泳いで、

顔が赤くなって、


そして小さく言った。


「……本当に?」


「やっと俺の良さに気づいた?」


少し間があって、


彼は照れくさそうに咳払いした。


「いや、その……一応聞くけどさ」


「それって、正式な交際の申し込みってことでいい?」


遥香は笑った。


「弁護士ってそういうとこ確認するんだ」


野元は少しだけ肩をすくめる。


「職業病」


「口約束でも、後で『そんなつもりじゃなかった』って言われると…」「ブッ、プッ」



不意に、タクシーのクラクションが鳴る。


ドアを開けたまま待たせていた、

タクシーの運転手か痺れを切らしている。


遥香が野元の袖を

強く引き寄せた。


「阿佐ヶ谷まで」



◾️



遥香は思った。


この人は、多分これからもずっと、


理屈っぽくて、

ちょっと面倒で、


でも、


こうやって

変なところで真面目な人なんだろう。


どうなるかは、まだ分からない。


でも。


三年間、

打算で続けたこの関係を


今度はちゃんと

向き合って続けてみようと思った。


お読み頂きありがとうございます!

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