冷蔵庫に何を入れますか?
六月。
予定が合わず、ようやく開催された新人歓迎会。
新人と課長のスケジュールが、まるでわざとやっているのかと思うほど合わない。
課長は「こちらに合わせられないのか」なんて昭和を当たり前のように押し付けてくる。でも令和なんだよ、今は。
上に合わせろなんて言ったら、こっちがパワハラ認定される時代だ。
パワハラは幹事の仕事の範囲外だろ。
まぁでも、これで晴れてグループ内最年少を脱却できる。
次の飲み会からは新人が幹事だ。
ありがたいので、多少のストレスは我慢しよう。
タバコを吸って戻ると、伊藤先輩が急に言った。
「で、お前は何入れんの?」
「え、何っすか?」
「冷蔵庫だよ」
隣では、新人の前に座ったお局様が「えっ、当たってる〜!」とはしゃいでいる。
どうやら、新人ちゃんは“冷蔵庫に何を入れるか”で性格診断みたいな占いをしてるらしい。
「2、3日は電車に注意です。できれば避けたほうがいいかも。車か自転車通勤がベストですね」
そんなことを、新人ちゃんは真剣な表情で言っている。
「お前も占ってもらえよ。けっこう当たるぞ。田中なんてさ――」
田中先輩は、アダルトグッズの隠し場所を母親にバレていて、なくなったと思っていたアダルト本は、
《カバーを掛けられて、リビングの本棚にある》
と占いで出たらしい。
みんなで囃し立てて、母親に電話で本のことを質問させたそうだ。
「で、どうだったんですか?」
伊藤先輩は楽しそうに言った。
「あいうえお順で並んでるらしいぜ」
爆笑の中で、新人ちゃんがこちらを見た。
「じゃあ……あなたは、冷蔵庫に何を入れますか?」
一瞬迷って、口にしたのは「水」。
「ふむふむ、水、ですね……」
彼女は目を閉じて、何かを感じ取るように静かになった。
まわりはにやにやしながら、こちらを見ている。
正直、田中先輩以上のネタなんて出ないし、期待されるのがうざいし、困る。
「冷蔵庫の奥に、ずっと忘れていた“何か”がありますね。
それはきっと、あなたがもう一度向き合わなきゃいけないもの。
取り出したら……きっと、変わりますよ」
「え、何が?」
「ふふ。そこからは、あなた次第です」
結局そのあと、課長が熱燗を頼み始めて、幹事の俺が注文に奔走したり、2次会兼課長の過去の武勇伝を拝聴する会を経て、解散となった。
占いの話が流れてくれて、俺的には助かった。
伊藤先輩なんかあのままだと、冷蔵庫の中を見に行くとか言い出しかねないからな。
家への帰路、夏前の夜風がちょっとだけ冷たく感じた。
その夜、帰宅して冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫の奥には、濁ったさとみの目がこちらを見つめている。
……ああ、面倒だ。
占いなんて当てちゃいけないと思う。
次の飲み会の幹事も俺か、本当に面倒だ。
2日前からさとみでいっぱいで、水ぐらいしかもう入らないのです。