第二話 知りたい
「いつからピアノをやってるの?」
「覚えてないなぁ。多分小学生くらいから」
「なんで始めたの?」
「鍵盤いじってると楽しくて」
「本当にピアノが好きなんだね」
「うん、好き」
そう笑う彼の顔はとても無邪気だ。
いつも遠目で見てる顔が横にあると、少し違和感がある。
「君は何か楽器とかやってるの?」
「えっと……中学生の時クラリネットをやってたけど、やめちゃったなぁ」
「まだ吹ける?」
「ううん、もう無理だよ」
「そっかぁ……」
笑って答えたわたしに、彼はどこか寂しそうな顔をする。聴きたかったのかな。
でも、前に昔を思い出して吹いてみたけど、上手くいかなかった。初心者みたいになっちゃって。……一応数年は吹いてたのにな。
「歌は? 歌える?」
「うん、できるよ」
「じゃあよかった。今度聴かせて」
「今じゃなくて?」
「今でもいいなら」
彼は期待した顔でわたしを覗き込む。少し恥ずかしくて、小さく咳払いをした後にお気に入りの曲を歌った。
「いい曲だよね」
「知ってるの?」
「うん。僕も好き」
それから、一緒にご飯を食べたりしながら色々お話をした。
好きな曲のこと、ジャンル、ハマってるもの、好きな食べ物、彼の選曲の理由……。
「えっ。朝のピアノ、ずっとわたしに弾いてたの?」
「うん。……っもちろん、自分の好きな曲で、弾くのが楽しかったからでもあるけど」
上ずった声で身振り手振り言い訳をする彼に少し笑う。
「それにしても、どうしてわたしが聴いてるのがわかったの?」
「ピアノの譜面立てがあるでしょ? あれに反射して見えてたんだよ」
「えっ! いつから?」
「本当に初めの方から」
思わず顔を隠した。
気分がよくなって口ずさんでたのも、リズムに乗ってたのも、全部見られてたってこと……?
「嬉しかったよ、お客さんの表情が見えて」
「わたしは恥ずかしいよ」
抗議したけど、軽く「ごめん」ですまされた。
それから彼はわたしを見つめて、ゆっくり一言。
「また、いつもみたいに音楽室に来てくれる?」
「うん、もちろん」