第一話 感じたい
文化祭の有志発表で、あなたが演奏するって知った。
訪れた演奏会で奏でられたのはどれも、みんなが知ってるようなポップな曲。
いつもの詩みたいな彼の選曲とは違った。
でも、同じ彼の音。
楽しそう。
彼の音に釣られて、わたしの心臓も同じように踊りを始める。
きっと、星の下みたいな演奏会になると思ってたけど、案外賑やかで楽しい。
これも彼の一部なんだな。
どうしてこんなに、愛しく思えるんだろう。
そんなに話をしたこともないし、会話にそっと聞き耳を立てるくらい。
でも、こうやってあなたが全部を曝け出して表現して、わたしはその全部に浸って。
こうしていると、なんだかとっても近く思える。
肌の全部、毛穴の一つ一つまであなたの『楽しい』を受け取って。
わたしも、楽しい。嬉しい。
ずっと来たかった演奏会。
こそこそせずに、真正面からあなたの音を受け取れる。
わたしが一度は離れた音楽に、また触れたいと思わせてくれたあなた。
「――歌います! 『音楽室の君へ』!」
彼は突然そう言うと、わたしが目をぱちくりさせている間に本当に歌いだした。
でも、ピアノと違って不恰好。
とっても音痴だった。
それでも一生懸命歌っていて、わたしも思わず笑っちゃったけど、気付いた。
アレンジがあった。
途中に挟まれた短い詩曲。
曲名は知らないけど、彼がよく弾いてる曲。
隠れて聴いてたのに、彼はわたしのこと気付いてたんだ。
「『話していいかな』」
そう思ってたの?
……いいよ。話そうよ。話してみたい。
「『友達になろう』」
背中を押された。
いつも隠れて聴いてるだけだけど、本当はもっと近付きたい。友達になりたい。
いつものあなただけじゃ知りえない、もっと深いところを知ってみたい。
拍手を贈る。
盛大な拍手。ずっと贈りたかった今までの分も込めて、わたしは手を叩いた。
お辞儀をして、去っていった彼に会うために、わたしは舞台裏へと駆ける。
「っ話しにきた!」
「……っもう⁉︎」
彼は少し驚いた顔をしてた。
でも、今じゃないと多分だめだった。時間が経ったら、踏み出すのをやめちゃう気がしたから。
「ピアノ、素敵だった! 歌も」
「歌はそうでもないでしょ。酷い仕上がりだったよ?」
「ううん。それでも。わたし、嬉しかったよ」
「……そっか。……直接言うのは恥ずかしくてこんな形にしたんだけど、伝わってよかった」
「うん。ちゃんとわかった」
よかった、ちゃんと話せてる。
少しの緊張でドキドキしていた心臓が、また早くなった。ここでこのまま別れたら、多分彼とは離れたまんま。
言うのを少し躊躇った。でも、せっかく距離を縮めるチャンスなんだ。彼だって、きっと勇気を出して舞台に上がったはず。だったら、わたしも……。
「文化祭、一緒に回る⁉︎」
「え、いいの?」
「っうん」
知りたい。話したい。仲良くなりたい。
「わかった、じゃあ一緒に回ろ」
「っありがとう」