序
新作『あおてん』、始まります。
お楽しみ頂けますように。
(注)このお話には、超有名古典『源氏物語』及びその登場人物に対するdis描写が散見されますが、あくまでも主人公の主観によるもので、批判の意図はございません。
……本当ですよ! ないからね!?
* * *
……燭台の灯が、チラチラと心もとなく揺れる。
もういい加減慣れ親しんだ光景のはずなのに、これほど焔が不安を煽るのは――、今目の前にいる、〝この物語〟の〝主人公〟のせい、だろうか。
「……顔を、見せてはくれないか」
互いに薄い夜着だけを身につけた部屋の中、御簾と几帳で区切られた逃げ場のない狭い空間で、たった一人傍にいるひとに請われたら。……最後の砦の〝扇〟さえ、外すしかなく。
(覚悟を、決めろということね)
「……はい」
ご尊顔を拝すご無礼を――、そう続けようとした言葉は、伸びてきた熱い腕に、いとも容易く遮られた。
「あぁ――! やはり、やはり貴女だ!」
一瞬で抱き寄せられ、頬をまだ柔らかな掌が撫でてくる。
至近距離で見つめ合った瞳には、紛れもない歓喜と……勘違いでなければ、執着に近い熱情が、見え隠れしていて。
齢十二にして将来が約束された美貌と、本能で女性の扱い方を心得ているとしか思えない仕草に、嫌でも目の前の人物が〝誰〟なのか、理解せざるを得ない。
……そして、この時点で既に、〝物語〟が根底から変わってしまっていることにも。
「葵――!!」
純粋すぎていっそ怖くなるほどの喜悦に満ちた〝彼〟を前に、〝彼女〟はただ、心中で天を仰ぐ。
(盛大に、やらかした~~~!!)
――これは、誰もが知っている超有名古典文学『源氏物語』……っぽい世界に『葵の上』らしきキャラクターとして転生した現代アラサーオタク女性が、どうにかこうにか生き残りをかけて足掻く、壮大なラブスペクタクルロマン(と書いて行き当たりばったりのグダグダと読む)物語である――
なお、主人公が転生者である都合上、現代用語もネットスラングもバンバン出てくる平安時代感のない残念仕様ですので、真っ当な時代小説をお求めの方は、ここでそっとページを閉じ、このお話のことは綺麗さっぱり忘れ去りましょう。
……良いですね?
――では、続きをどうぞ。