婚約破棄〜プロローグ〜
「アルマンド様。わたくしはこの扱いを認めないわ。この婚約はこれ以上続けることはできません。追って正式な文書を公爵家に届けましょう」
わたしの夢の中に何度も現れるのは、夜会の会場で、向き合う2人の男女だった。
華やかに飾りつけられた会場。
美しく装ってさざめき、ダンスを踊る人々。
そんな場に相応しくない、固い表情をして向き合う2人がいた。
1人は、驚くほど美しい容姿の青年だった。
整った顔立ちに、艶やかな金髪と印象的な金色の瞳。
見るからに仕立ての良い服を着込み、堂々と立っている。
青年と向き合っているのは、1人の少女。
ほっそりとした体を上品に包むのは、けして派手ではないが、上質な素材を使い、控えめな光沢を放つ青のドレスだった。
ドレスの襟や袖口、裾には金色の飾りが施されている。
まだ若い少女が、彼女をかばう者もなく、指先の震えを抑えながら必死で顔を上げている様子は、見ている者を居心地悪くさせた。
けして見栄えのしない少女ではない。
優しい顔立ち。
白、という珍しい髪色をしていたが、丁寧に巻かれた白い髪は美しく、何よりも印象的な、まるで空のような色をした瞳をしている。
会場の紳士は眉をひそめ、貴婦人は扇で口元を隠しながらも、金髪の青年の後ろで可愛らしく寄り添う、豊かなストロベリーブロンド髪の少女に視線をやる。
しかし、白い髪をした少女の精一杯の言葉にも、アルマンドは片方の眉を上げただけだった。
「私を逃したら、あなたは一生誰とも結婚できないだろう。それにあなたから婚約破棄をするなら、公爵家は相応の慰謝料を求める!」
白い髪の少女が気力を絞って、何かを言おうとしているのを感じる。
しかし、夢はいつも、ここで終わるのだ。
周囲はぼやけ、暗くなっていき、少女はいつもの屋根裏部屋で、目覚める。