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「と、まぁ、こんな経緯よ」
ビョウブは閉じた扇子を手のひらに当てて調子を取りながら、ヨキに昔話を読み聞かせるように話した。
「随分とあっけらかんと喋るんだな。ビョウブもそのうちのひとりなんだろ?」
ビョウブは扇子で口を隠して笑った。
「まぁ、そうなんだけど、今では他人の感覚のような、自分じゃないような」
ビョウブは今では悪意を失い、ネコ族の国を支配する気を失くしていた。そういった感情の変化はケージも同じだった。
「悪意に侵されると精神も侵されているってことか」
「そうね、でもヨキちゃんに言ったことは本当よ」
「言ったこと?」
「悪意が消滅することを望んでいるってこと。悪が滅んでゆく未来を思い描いたら、なんだかとても興奮したの」
「『悪』か……」
「何?」
「『悪意』と『悪』は違うと思うんだ」
「あら、随分と哲学的な話をするのね」
「悪意は誰にでもあると思うんだ。『魔が差す』って言うだろ? だからこそ人は悪意に侵された。
でも『悪』はさ、自分の行為を『悪意』と思っていないんだよ」
「自分が真っ当だと思っているから?」
「そう」
ヨキは自分の手を眺めた。
「その最初の亜人ってのは、ビョウブは知らないのか?」
ビョウブは首を振った。
「残念ながら知らないわ。もしかしたら知っていたけど忘れてしまったのかも」
「そっか」
いずれその亜人と対峙せねばならない。そのことをヨキは想像した。
「その亜人は生まれながらの『悪』かもしれない。そんな生粋の『悪』と出会ったら、僕の力は通用するんだろうか?」
ビョウブにはヨキが弱気になっているように感じた。そんなヨキをビョウブは励ました。
「大丈夫よ、きっと。
この世界は元々平和だった。ということは、人は皆、生まれながらに善意しか持っていなかったということ。
全員から悪意を取り除いていって、もしまだ悪意がある者がいれば、それが諸悪の根元である、最初の悪意を持った『悪』、ということになるわよね?」
ヨキは考えながらも納得して首肯した。
「そのひとりを見つけたら、みんなで叱ればいいのよ。おいたしちゃダメ! って」
ビョウブの表現にヨキは表情を和らげた。
「そんなので分かってくれたら苦労しないよ」
「そう? でもそれくらいのおしおきしか出来ないわ。善意の者は誰もその人物を『殺したい』なんて思わないんだから」




