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ビョウブは血まみれになった口を歪ませた。
カナは怒りを露にビョウブに叫んだ。
「なにをしたの!」
カナは涙で声を震わせ、ビョウブを睨んだ。
「やっぱりあなたは何か企んでたんだ! そんな体になってもヨキを!」
「やめろ、カナ」
耳元で声がした。振り返ると、衰弱していたはずのヨキが起き上がろうとしていた。
訳が分からずカナは困惑した。
ヨキの顔は元のように血色が良くなっている。
何が起こったか分からないまま、けれどヨキが無事であることを確信した束の間、カナはヨキへ抱きついた。
「うわーん、ヨキ!」
ヨキは照れながらもカナを抱きしめ返した。
「僕は大丈夫だ」
カナは体を離してヨキに尋ねた。
「何が起こったの?」
ヨキは倒れているビョウブに目を向けた。
「まずはあいつを治してくれるか?」
「えっ?」
「あいつが僕を治してくれたんだ」
カナは訳が分からなかったが、ヨキの言うことに素直に従った。
体に刺さった大剣は既に消えており、ビョウブは地面に倒れている。
カナはヒールをかけた。ビョウブの体が緑色に包まれ、背中の傷が癒えてゆく。
ビョウブは体をゆっくりと起こした。
体にはまだ紫のオーラがある。
ビョウブはヨキへと目を向けた。
「……先に悪意を取り除いたほうが良かったのではないですか?」
ヨキはビョウブと相対して笑った。
「ちょっと試したかったのかな。土壇場で裏切るかどうか」
ビョウブもまた笑った。
「用心深いですね。命の恩人に対して」
「自分で回復魔法を使うことは出来ないのか?」
ヨキはビョウブに尋ねた。
ビョウブは癒えた傷口部を擦った。
「この状態では残念ながら」
カナがそうであったように、悪意に侵されている場合は攻撃魔法だけ、善意の際は回復魔法だけしか使えないようだ。
ヨキはそんなおどけたビョウブの体に触れた。
「ありがとう……」
ヨキはそうビョウブに呟いた。
ビョウブの体から紫のオーラが祓われ、ビョウブは微笑みを浮かべながらその場に倒れ込んだ。




